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ぽんきち
レビュアー:
人の集まるところに感染あり。その歴史をたどり、共生への道を探る。
人が文明を得て栄えていくにつれ、多種多様な感染症が大小の感染を繰り返してきた。
農耕文化が発達して定住が進めば、そこに感染症は入り込む。
環境に踏み込み、あるいは環境を変化させれば、新たな感染症が広まるきっかけとなる。

何度も流行を繰り返してきたペスト、スペインの侵攻に際して南アメリカにもたらされた天然痘や麻疹、西アフリカに派遣された宣教師を襲ったマラリア。
人が新しい地に移動すれば病原体もともに移動し、(敵対的であれ友好的であれ)地域間の交通が増せば、その土地に以前は見られなかった感染症が現れる。

感染症の病原体は得てして、宿主のシステムを利用するフリーライダーである。宿主を滅ぼそうとしているというよりは、自らの増殖のために、宿主のものを「拝借」する。都合がよければ、そこで増え、また次の宿主へと移動していく。
それが時として、宿主には不快であったり、不都合をもたらしたりする。
人のいるところ、感染症がまったくなくなることはおそらくなく、人と人との交流が重要である文明社会には、ある意味、感染症はつきものである。

感染症の一因であるウイルスの場合、往々にして動物を宿主としていたものが変異して大きな流行をもたらす。
元々は動物を宿主としていたウイルスがヒトに蔓延するまでにはいくつかの適応段階を経ると考えられる。最初は動物からヒトへの偶発的な感染の段階で、ヒトからヒトに移ることはない。次の段階ではヒト間の感染がおこるが、効率が低く、流行は長続きしない。さらにヒトへの適応が進むと、定期的な流行を引き起こすようになる。さらにはヒトの中でしか存在できないようになり、最終的にはヒトからも消えていく。
現存するウイルスはこうした適応段階のどこかにあり、つまりはウイルス自身も変わり続けている。

こうした話に加えて、開発によってもたらされたオンコセルカ症、結核がハンセン病を抑制した可能性といったトピックなども興味深い。

感染症の歴史を見ていくと、流行する疾患も時代によって移り変わり、流行の大きさにも波があることが見えてくる。生活環境や気候条件、衛生状態、さまざまなものによって影響を受ける。
好むと好まざるとにかかわらず、古くから感染症と文明は切っても切れない間柄にあった。
時には大流行で多数の犠牲をもたらすこともあるが、病原体も宿主がいなければ途絶えてしまうわけで、宿主に非常に大きな打撃を与えることは、長い目で見れば病原体にとっても好ましいことではない。「そこそこ」のところに落ち着くのが彼らにとってもよいはずである。そうして宿主の中に残っていく病原体は宿主の環境適応性によい影響を与える可能性もあるという。
環境は移り変わるものである。ある1つの環境にあまりにも適応しすぎてしまえば、環境が変わったときに対処ができなくなる。ある程度の振れ幅を許容できることが種の存続のカギとなるのかもしれない。
一方で、病原体を根絶してしまえば、その病原体と闘うために有利であった遺伝子等もやがてはなくしてしまうだろう。
つまりはすべての病原体を根絶やしにすることを目指すよりも、「共生」していく道を探るべきではないかというのが著者の主張である。

だが、共生にはコストがかかる。
著者は言う。
共生とは、理想的な適応ではなく、決して心地よいとはいえない妥協の産物なのかもしれない

感染症には致死性のものも少なくない。共生にいたるまでに失われる命もある。
目の前の感染症と闘いながら、クリアカットには解決しない、感染症とともに生きる道を探っていかねばならないのだろうか。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1828 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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