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三太郎さん
三太郎
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もしも彼女らの目の前に「泳ぐな!危険」の立て札があったら・・・彼女らの人生は違っていたのかな?
久しぶりに江國香織の短編集を読みました。この短編集はいつか記憶からこぼれおちるとしてもの少し前に書かれたものらしい。『いつか・・・』は都内の私立の女子高に通う少女らが主人公の短編集でしたが、こちらの『泳ぐのに・・・』の方は年齢も境遇もばらばらの10人の女性が主人公の短編集です。

どの短編もおよそ20ページくらいの長さなのですが、「十日間の死」だけは30ページを超える長さで、『いつか・・・』に出てくる少女らと同年齢の<めぐみ>が主人公です。

彼女は5歳から14歳まで両親とフランスのランスで暮らし、帰国して東京の女子高に入ったようなのですが、周囲になじめず、勉強もできずに1年で退学してしまいます。仕方なく親はフランスの寄宿制の学校に留学させますが、ここでも居場所が見つけられず、16歳の夏に、ボストン育ちでボルドーのシャトーの農園主の娘婿になっていたマークに出会い恋をするというお話です。

この短編はめぐみの一人称で語られるのですが、文章がしっかりしているのに(江國さんが書いているのだから当然ですが)語彙は子供じみていて、しかもこの少女は16歳にもなって自分のことを考えられないおバカらしい。マークと別れたあと、ボルドーの高級ホテルに10日間泊まってルームサービスを頼みながら泣き暮らします。すべて父親のクレジットカードが頼りなのですが。年齢のわりに幼稚で自分の足元を見ようとしない少女を江國さんは上手に描いていると思いました。

まったくテイストの異なる話もあります。「犬小屋」では主人公の女性の夫が犬を飼おうと言い出し、DIYで犬小屋を建てるのですが、夫は犬を飼わずに自分が犬小屋の中で暮らし始めるというお話です。江國さんにしては珍しい味の話です。

「動物園」では主人公に子供ができると、夫は子供が怖いといって、別にアパートを借りて別居生活を始めます。でも休日には子供と三人で動物園に行くのです。結婚したまま別居生活を続ける夫婦の話は『いつか・・・』の中にもでてきたような。

「りんご追分」の主人公は高校を卒業してからもう10年間も働かない男と同棲している、スナック勤めの女性です。店が閉じた後、帰宅の途中で明け方の公園を通りかかると、誰かがトランペットで美空ひばりのりんご追分を吹いているのです。彼女はそのトランペットの音に心臓を掴まれてしまいます。是非YouTubeでもよいのでりんご追分を聴きながら読んでみてください。

この短編集で一番好きなのは「サマーブランケット」かな。主人公は40代の女性で、両親が他界し、不倫関係にあった元上司とも別れて、親の遺産を元手に海辺の家で犬とともに暮らす鬱病を患う元お嬢様です。そこで彼女は男女二人の大学生と親しくなります。江國さんらしからぬ(?)ちょっと甘酸っぱい風味の小説です。

誰が読んでもどれか一編はお気に入りが見つかるでしょう。
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三太郎
三太郎 さん本が好き!1級(書評数:830 件)

1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。

長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。

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