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ぽんきち
レビュアー:
辺境の村の深い深い森に分け入る
現代ポーランドの代表的小説家、オルガ・トカルチュクの長編第4作。
長編とはいうが、物語は100を超える短い断章からなり、それぞれがゆるくつながりあって構成される。
著者自身を思わせる「わたし」、近所に住む何某氏、飲んだくれのマレク・マレク、不思議な夢を見る銀行員、性同一障害を抱える修道士と、中心に据えられる人物もさまざまである。描かれるものは日常生活の一コマであったり、料理のレシピであったり、古代の聖女の伝説であったり、過去の悲惨な体験であったり、こちらも多種多様だ。

舞台は辺境の街。国境辺くに位置し、古い歴史を持つが、取り立てて目立つところもない街である。
だがそこには確かに、積み重ねられた出来事が潜む。いわば土地の記憶とでもいうようなものが眠っている。
緑濃い森の中のように、密やかに、静かに、幾分の湿り気を持って。
物語のあちらこちらに顔を出すキノコのように、深く地中に菌糸を張り巡らせ、思わぬところに顔を出す。
ノスタルジックで温かい。けれどもどこかに絶望も潜む。人と人とは結局は真にわかりあうことがないものだから。そして生きていることはいつか死ぬことだから。キノコの毒がそれを思い出させる。

著者は詩人の眼を持つ。何気ない日常に、古い教会に、月の光に、著者の視線は深く降り注ぎ、今まで見たこともないような、それでいてずっと知っていたかのような世界を拓く。
読者は著者に導かれ、森に分け入る。豊かな旅である。毒キノコにご用心あれ。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1825 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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