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DBさん
DB
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舞踏会のワンシーンの話
芥川の短編集だが、この巻は初めて読む話ばかりだった。
大正八年に書かれた小説を主に集めているそうだが、この年に芥川は転職と結婚という転機を迎えている。
そのためかどうか、わりと明るい話が多かったような気がします。

中でも「路上」は学生時代のモラトリアムを描き出した作品だった。
主人公はどこか覇気がなく、周囲から一歩引いた存在でありたいという雰囲気の青年だ。
その学友たちとの出来事を生々しく描いているのだが、残念ながら途中で筆を折ったようである。
完成してなくても登場人物の存在感が圧倒的だった。

表題作になっている「舞踏会」では、初めての舞踏会に出て胸を弾ませている少女が回想となって登場する。
ドレス姿を誇らしげに、音楽に乗ってリズムを踏んでいく。
人形のような少女と、彼女とその一時を共有したフランス人の将校の姿が目に浮かびます。
生を花火に重ね合わせた将校は、日本の文化を小説にした有名な作家となった。
それさえも知らず、ただその一夜の思い出を老年になっても鮮やかに浮かび合わせる婦人。
短いがゆえにダイナミックな作品で面白かった。

同じく表題作の「蜜柑」は、わずか5ページの作品だ。
汽車に乗る主人公の前に座っているのは、いかにも田舎者といった風体の娘だ。
彼女がなぜかトンネルに入る直前に窓を開けてしまい、当然のように煤が車内に入ってくる。
だが主人公が文句を言おうとした瞬間に踏切のところに三人の男の子が並んで立っていたのが目に入った。
何かを叫ぶ男の子たちに蜜柑を投げる娘の姿に、どこかへ奉公へ出る姉を見送りに来た弟たちだと気づきます。
その出来事の前と後の主人公の娘に対する心証の変化も面白いが、汽車に蜜柑という舞台もまたよかった。

あと「魔術」も印象に残る。
魔術の大家である友人に弟子入りしようとした青年の話です。
その友人は、欲を捨てなければ魔術を学ぶことはできないと言う。
欲は捨てると言った主人公だが、一瞬のうちに見た幻影の中で賭け事の勝負になり。
自らの欲深さに気づいて弟子入りを諦める話だった。

竜も登場します。
その名の通り「竜」というタイトルですが、赤い天狗鼻の法師が池のほとりに「三月三日この池より竜昇らんずるなり」と高札をたてる。
実は口から出まかせの法螺話だったのですが、あっという間に噂が奈良の町中に広がります。
噂に尾ひれがつき、三月三日には池は群衆で埋め尽くされるほどになってしまいます。
その結果がどうなったかは読んでのお楽しみ。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2030 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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