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hackerさん
hacker
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このところ続けてレビューを書いている、ポケミス版ウールリッチ=アイリッシュの短編集の一冊です。本書は日本独自編纂です。
ポケミス版ウールリッチ=アイリッシュの短編集は、今まで日本独自編纂の『妄執の影』『睡眠口座』『ギロチン』『私が死んだ夜』と、本国で刊行された短編集『悪夢』『今夜の私は危険よ』の計6冊のレビューを書いていて、日本独自編纂の本書は7冊目になります。

収録作を簡単に紹介します。

・『札束恐怖症』(1962年)★★★

屋台店の売上金をかっぱらったとして、その場から逃げ出したアルという前科者が逮捕されます。ところが、盗んだと見られる120ドル(少ない!)は持っていません。無実を主張するアルの親戚の医者のジョーは、アルの犯行ではないことを証明するために、アルは札に触れると、アレルギーを起こすことを法廷で証明しようとするのでした。

ほとんど冗談のような話を生真面目に語るのがかえっておかしい、ユーモア・ミステリーの一種ですが、盗んだ金の隠し場所がちょっと面白いです。

・『もう探偵はごめん』(1937年)★★

親友トムと同居している「私」は、トムと婚約したマーシャの祝賀パーティに一緒に出掛けるのですが、その場でマーシャの妹が、トムが贈ったらしい薔薇のトゲを指に刺した後で死んでしまいます。この事件の背景は...というところですが、薔薇のトゲでの殺人という設定と、その後の展開がちょっと乱暴すぎますね。

・『バスで帰ろう』(1941年)★★★

成功を夢見て田舎から都会に出てきたものの都会に翻弄される若い男女へのシンパシー、無実の罪と解決までの時間が切られた設定から生まれるサスペンス、うまい小道具の使い方という、典型的なウールリッチ=アイリッシュ節の作品です。作者として特に優れた作品というわけではありませんが、安定した出来ばえです。

・『歌う帽子』(1939年)★★★

エレベータボーイをしているマーティンは、立ち寄った簡易食堂で、間違えて隣の客の帽子を被って店を出ます。すぐに気づいて、店に戻ったマーティンですが、間違えた相手はすでにいなくなっていました。店に、相手が戻ったら、連絡できるように、自分の住所を残していきます。ところが、自分のアパートに戻ったマーティンが何気なく帽子を調べると、帽子の内側の縁に20ドル札が20枚も折りたたんで入っていました。マーティンは、新聞に載っていた偽札のことを思い出し、警察に届けようとしますが、その時既にドアの前には屈強な二人の男が立っていたのでした。

これも、作者お得意の、平凡な庶民が突然犯罪に巻き込まれる話です。

・『お前の葬式だ』(1937年)★★★

若い女が食料品などの日用品の買い物をしている場面から始まり、彼女のことを尾行するでもなく尾行している二人の男が現れ、ついに女が買い物袋を投げ捨てて、走って逃げ出し、ある建物の前で姿をくらまします。この出だしが吸引力があって、ウールリッチ=アイリッシュらしい見せ場になっています。実は、女はFBIのお尋ね者の妻で、建物を包囲され、逃げ場がなくなった男に投降しようと言うのですが、男には、そこから脱出する秘策があったのでした。

男の秘策自体に意外性はないのですが、男が脱出の際に感じる恐怖が、いかにもウールリッチ=アイリッシュらしいです。

・『モンテズマの月』(1942年)★★★

メキシコ・シティーから遠く離れた地に、音信不通になった夫を探しに、白人の妻が生まれたばかりの赤ん坊を連れてやって来ます。領事館に届けられていた住所だけが頼りに、ようやく人里離れた家に着いてみると、そこに夫はおらず、メキシコ人の老婆と若い女と、さらに自分の赤ん坊と同じ金髪碧眼の赤ん坊の葬儀が用意されていました。

モンテズマとはアステカ帝国最後の王の名前です。作者としては、珍しい、純粋な幻想小説です。


・『黒いリズム』(1935年)★★

ブードゥー教の呪いとジャズというテーマの、一応取ってつけたような「科学的」説明はありますが、これも作者としては珍しい怪奇小説です。ただし、書かれた時代もあるでしょうが、黒人への差別表現が気になる作品です。


ということで、この中からベストを挙げるなら、全編を覆う不気味な雰囲気をかって『モンテズマの月』になります。ただ、短編集全体としての出来は、さほど高いものではありませんでした。
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2281 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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