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宮沢俊義ら「東大学派」に牛耳られた「戦後憲法学」の終焉 「多様な憲法学」、自衛隊合憲説から改憲論へ

「戦後憲法学」の群像
本日(2026・5・3)は憲法記念日だそうで……。ということで、鈴木敦氏・出口雄一氏編の『「戦後憲法学」の群像』(弘文堂)を昨日読了しました。

安保法制などが話題になった時、その法律は憲法違反だと見る憲法学者が圧倒的多数でした。自衛隊違憲説を唱える方も多々いたかと。日本の憲法学者というのは、イマイチだなと当時思ったものです。でも、まともというか、押し付け憲法故の憲法9条を現実的に解釈して自衛隊合憲説を唱える憲法学者や政治学者もそこそこいます。

私も一応、法学部出身で憲法は学部の講義で学びました。ただ、大学生だったのはもう半世紀弱昔のことです。本書の編者の鈴木さんは1981年生まれ、出口さんは1972年生まれ。そのほかに6人の執筆者がいますが、廣田直美氏は1956年生まれで、私より年上になりますが、それ以外の方々は、1975年~1985年生まれの間に生まれた方々です。ですので、お名前を見てもピンときませんが、それは私の勉強不足故のこと。ご容赦ください?
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「群像」とはいえ、左派系が多い憲法学者たち。この本の筆者たちが、そういう面々だったら、「まともな憲法学者」のことには触れていないのではないかと不安に思いつつ本書を手にしましたが、そんなことはありませんでした。

私が学んだ橋本公亘先生もちゃんと出てきました。大学在学中の時、橋本さんはちょうど本書『「戦後憲法学」の群像』でも指摘されているように自衛隊違憲説を改め「9条変遷論」から「自衛隊合憲説」に転進しました。1980年に刊行された『日本国憲法』(有斐閣)で、その見解を表明し、違憲説を展開していた旧版を絶版にしました。その解釈変更の理由等々を講義で直接うかがい、共感したものです。そのあたりの橋本先生の転進に関して、本書『「戦後憲法学」の群像』でも客観的に綴られています。

そのため、当時、大学構内に、左派系学生グループ(民青だったかな?)が「右折禁止の会」という名で「橋本教授よ、自衛隊合憲説を捨てろ」といった趣旨の立て看板を出していたのを記憶しています。余計なお世話です。「学問の自由」をないがしろにしかねない「圧迫」行為と思いました。
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一方、橋本先生と対比される形で、小林直樹さんの「自衛隊・違憲合法論」も本書『「戦後憲法学」の群像』で紹介されています。岩波新書『憲法第九条』でその考えを展開されていました。リアルタイムで一読した記憶があります。社会党の石橋政嗣委員長がこの考えに飛びついて異口同音に「自衛隊違憲合法論」を唱えるようになりましたが、当時の社会党左派や極左的な社会党支持者たちは、ソ連が平和勢力だと誤認し「非武装中立」がベストと思っていましたから、「自衛隊・違法合憲」論も右転落と思われていたようです。

橋本先生は、後日、この小林直樹さんへの反論を書いています。

『わが旧著「憲法」を絶版にした理由 石橋・小林流「自衛隊違憲合法論」を斬る』という論文(「諸君!」1984年12月号)を発表し、社会党や小林直樹氏の憲法論などを論破していました。42年前のことです。
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橋本先生と同じく中央大学の憲法の教授だった長尾一紘さんは、本書『「戦後憲法学」の群像』には登場されていないようですが、私の記憶では橋本さんと同じく「転進」をした方でした。とはいえ、半世紀近く昔のことですから間違っているかもしれませんが、大学の講義で、長尾先生が、ライシャワー路線を批判するものですから、それはきっとまともな考えに違いないと思い、講談社現代新書から出ていたライシャワーの『日本近代の新しい見方』を読んで、ふむふむ、こちらのほうが、進歩的文化人の歴史観よりまともだと感得した記憶かあります。

そのあと、長尾さんは外国人参政権付与にも賛成していました。ところが、『日本国憲法 全訂第4版』 (世界思想社)では、保守派に転向。外国人参政権付与に反対し、天皇制度にしても、日本は君主国家、天皇は元首であると見なすようになりました。皇位継承は男系主義であり、女系天皇の導入はこの伝統に反するがゆえに「違憲である」とまで認定していました。
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一方、『憲法守って国滅ぶ 私たちの憲法をなぜ改正してはいけないのか』(ベストセラーズ)や渡部昇一氏との対談本『そろそろ憲法を変えてみようか』(致知出版社)、平沢勝栄氏との対談本『憲法、危篤!』 (KKベストセラーズ)などを書いていた小林節(慶應大学教授)さんは、本書『「戦後憲法学」の群像』でも言及されていますが、橋本さんや長尾さんとは逆のコースを辿り、世間一般的には改憲派から護憲派に変わったような印象を受ける人が少なくないと思われます。
まぁ、「思想は発展します」から、20代、30代のころと還暦前後のころとは180度転進・転換しても、おかしくはないでしょうね。人それぞれ? 

それにしても……。
小林節氏の『タカ派改憲論者はなぜ自説を変えたのか 護憲的改憲論という立場』(皓星社)を以前読みました。

20年以上前の「タカ派改憲論者」の時代の論文から始まり、最後には井沢元彦氏からもサンダーバードに対する理解力が乏しいという視点から論難された典型的な左派憲法学者の水島朝穂氏と意気投合するかのような対談で終っています。

ここに収録されている論文を読むと、やはりいささか「矛盾」めいたものを感じないでもないですね。とはいえ、私も「護憲的改憲論者」ですから、まだ許容範囲かなと思わないでもありませんでした。

とはいえ、小林さんも冒頭で「今にして思えば『赤面の至り』のようないわば『右翼・軍国主義者』そのものの主張を本気で展開していた若き日の自分がおりました」「私は学者であり」「日々考え、悩みながら変化することは当然で、それは成長なのですが、意外にそれを『変節』と呼ぶ人が多いことに驚かされます」と述懐しています。

民主党から自民党に移った(これも一種の「転進」「転向」?」)長島昭久氏(代議士)は、小林さんの教え子だったそうです。憲法、自衛隊をめぐって師弟対談などをすると面白いかもしれませんね。
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私が学生時代のころは、自衛隊合憲説や右派的な改憲論を主張する憲法・政治学者は圧倒的に少数派でした。

そんな数少ない学者の著作を求めて古本屋などを廻ったりもしたものです。

本書『「戦後憲法学」の群像』でも言及されている大石義雄・佐々木惣一さん(京大)、林修三さん、田上穣治さんや大西邦敏さんなど、懐かしいお名前も出てきますが、そういう方々の本もよく読んだものです。当時は、新進気鋭だった憲法・政治学者として手にしていたのが西修さん、百地章さんや小林昭三さんなど。尾吹善人さんなども。

小林直樹さんや宮沢俊義さんや長谷川正安さんや樋口陽一さんや長谷部恭男さんなど、左派系学者の本も、岩波新書レベルから若干の専門書なども一読したりもしました。

樋口陽一氏(聞き手・蜷川恒正氏)の『戦後憲法史と並走して 学問・大学・環海住還』(岩波書店)、宮沢俊義氏の『憲法講話』(岩波新書)や『憲法読本上下』 (憲法問題研究会編・岩波新書)や小林直樹氏の『憲法第九条』 (岩波新書)や長谷川正安氏の『日本の憲法』(岩波新書)や長谷部恭男氏の『憲法の良識 「国のかたち」を壊さない仕組み』 (朝日新書)など。

「スターリン憲法」がナイスだなんて書いていた憲法学者もどこかにいたかのような?

護憲派・改憲派双方の見解を読んで、個人的には中道右派系の学者(橋本さん・西さん等々)のほうに私は軍配をあげていました。2026年5月1日付け産経に百地章氏の正論エッセイ(「自衛隊明記」で実質的な「軍隊」を)が掲載されていましたが、最少限度の9条改正案を提案していました。軍国主義復活の恐れもないレベルの改正案です。衆参の良識ある議員ならこの案で賛成できるのではないかと思われますが……。

篠田英朗氏の『憲法学の病』 (新潮新書)は大変面白い本でした。憲法9条を金科玉条に考える護憲学者を小気味よく論破しています。東大法学部を頂点とする「ガラパゴス憲法学」の病理を、平和構築を専門とする国際政治学者が徹底批判した本でした。
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以下、学生時代から今日に至るまでの憲法関連書の購読リストを挙げると以下の通りです(左派系学者は省きます)。

西修氏『憲法一代記  世界195か国の憲法を研究した私の履歴書』(育鵬社)、『吾輩は後期高齢者の日本国憲法である』(産経新聞出版)、『防衛法』(自由国民社)、『国の防衛と法 防衛法要論』(学陽書房)『自衛権―奪われざる国民の生存権』(学陽書房)、『日本国憲法成立過程の研究』(成文社)、『日本国憲法を考える』(文春新書)、『憲法改正の論点』(文春新書)

八木秀次氏『日本国憲法とは何か』(PHP新書)
田上穣治氏『日本国憲法原論』(青林書院新社)
尾吹善人氏『憲法学者の空手チョップ』『憲法学者の大あくび』(東京法経学院出版)、『寝ても覚めても憲法学者』(フォラオ企画)、 『憲法徒然草』(三嶺書房)。

兵頭二十八氏『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』 (草思社)
林修三氏『憲法の話』(第一法規出版)

中川剛氏『憲法を読む』(講談社現代新書)、『日本国憲法への質問状』(PHP研究所)、勝田吉太郎氏『平和憲法を疑う』 (講談社)
菅野喜八郎氏&小針司氏『憲法思想研究回想』 (信山社)

入江通雅氏『最新国際関係概説』 (嵯峨野書院)
小山常実氏『「日本国憲法」無効論』 (草思社)。

高柳賢三氏『天皇・憲法第九条』 (有紀書房)
長尾一紘氏『世界一非常識な日本国憲法』 (扶桑社新書)、 『日本国憲法 全訂第4版』 (世界思想社)
竹花光範氏『憲法改正の法理と手続』『現代の憲法問題と改正論』(成文堂)
小林昭三氏『私の「憲法」イメージ』『私の「憲法」透視』『日本国憲法の条件』(成文堂)

奥原唯弘氏『憲法と政治・社会』『憲法の具体的展開』(啓正社)
百地章氏『憲法の常識 常識の憲法』(文春新書)、『日本国憲法 八つの欠陥』 (扶桑社新書)
大石義雄氏『日本国憲法概論』(青林書院新社)
井手成三氏『困った憲法困った解釈』 (時事通信社)
篠田英朗氏『憲法学の病』 (新潮新書) 、『ほんとうの憲法 戦後日本憲法学批判』 (ちくま新書)

竹花光範氏『憲法改正の法理と手続』『現代の憲法問題と改正論』(成文堂)
井上達夫『憲法の涙 リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(毎日新聞出版)
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余談ですが、本書『「戦後憲法学」の群像』を読んで面白く感じた方は、未読でしたら、菅野喜八郎氏&小針司氏の『憲法思想研究回想』 (信山社)も読まれるといいと思います。

進歩的憲法学者を論破していて痛快なりといった記憶が残っています。アマゾンのレビューにこんなものがありました。
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RR-nonosan
5つ星のうち5.0 ものすごく面白い。
2018年1月1日に日本でレビュー済み

『国権の限界問題』その他で名高いケルゼニアン故菅野喜八郎先生が,小嶋和司門下の異才・防衛法制の専門家小針司先生を相手に対談形式で研究生活を回顧した書物です。
菅野先生が宮澤俊義学説(八月革命説,科学と実践の峻別論)理解を巡って樋口陽一さんを完膚なきまでに論破し,しかも,日頃もっともらしくリベラル顔している樋口さんがけっこう卑怯で知的に廉直でないことを暴露したのは80年代から90年代のことでしたが,知る人は知っているそのあたりの経緯のみならず,他方で,他人の批判の仕方が下品かつ激越でいただけなかった小林直樹さんが,実はなかなか廉直な人であったことなど,へえーってなエピソード満載でとにかく面白い。
尾吹先生との友情とか,小嶋先生を送った経緯などは涙ものですし,佐々木惣一先生の評価なんかもそうなんだーってなものでして。誰にでもお奨めというものでもないのですが,上記の固有名詞に関心のある人はどうかご一読を。
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私もそんな読後感を抱いたことを覚えています。「憲法」「憲法9条」「押し付け」「廃憲論」などを考える上で、上記の本は、それぞれ知的な刺激を与えてくれることと思います。

では、ごきげんよう。
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  • 掲載日:2026/05/03
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