連休にはいわゆる独立系書店、古書店をいくつか巡った。そこで引力のある一冊を買うのが慣い。詩人長田弘は知っていたが読んだことはない。タイトルと表紙のカッコ良さも相俟って、何か読み込めそうなものを感じて手に取った。
孤独、という実感を持ったことのない人はいないと思う。家族といても、ざわめく街にいても、会社にいても孤独はある。寂しくも、時にはしんどくもあるが、これが孤独、という手触りはけっこう好きだったりする。そして、この本に語られているように、愉しむ孤独ももちろんある。まさに書店巡りしている時、目当てのカフェに入るときも楽しい孤独。
収録されている80篇ほどの中の初編「言葉の樹」は心の余白に「樹」という字を書いて、自分だけの大きな樹、その影、光、ひるがえる葉群らを想像する、というもの。思わず想像の翼が広がる。自分にとっての大樹は、あの神社の、大イチョウだな、などと思い出す。
「街は窓でできている。窓のない街はない。街とよばれるのは、窓のある風景なのだ」という文にもハッとさせられた。ふむ、なるほど。
著者は当時のソ連、ポーランド、とりわけアメリカと世界各地を旅している。カフェやバーの話も盛り込まれる。もちろん、そこで感じる何かも。とりわけ、ポーランド・クラクフの、当時で百年を超える歴史を持ったカヴィアルニア・ヤマ・ミリーカ(ほんのちょっとした隠れ穴)の篇は印象的だ。アイルランド、スペインと、小説や詩ををもとに想像での楽しみ方も、なんか良き孤独。読みながら微笑んでしまう。
さらに豊富な読書からの引用も多い。「キャッツ」著者エリオット、シェイクスピア「真夏の夜の夢」、小山内薫のベルリンの街の物語集「東京の消印」、アガサ・クリスティー、レイモンド・チャンドラーと猫の話、ジョン・チーヴァー、ほか彩り深いバラエティに富んだ楽しめる随筆が続く。
音楽は、前半はクラシックがいくつか。チェンバロ奏者ランドフスカ夫人、ユンディ・メニューイン。ビゼーの一曲きりの交響曲など。
後半はアメリカにどっぷり浸る。加えてジャズとボブ・ディランに対する思い入れを滔々と語る。著者の時代感が伝わってくるようだ。
自分独自の好みの世界は、確かに孤独の1つかも知れない。「孤独のグルメ」もなんとなく分かる笑。日々愉しむ孤独を、また味わいたくなる。
考察が興味深いものもあり、気がそそられる、豊穣な短いエッセイたちの本。オトナな気分に、ちょっとなれたかな。
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