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※ネタバレ注意!

輪廻説を読み手がどう理解しているかによって、評価が分かれそうな作品

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
  • 向日葵の咲かない夏
  • by
  • 出版社:新潮社
向日葵の咲かない夏
※本作はミステリーゆえネタバレを踏まずに読むことをお勧めします。しかしこちらの書評にはネタバレを多く含むため、未読の方はご注意ください※






 たびたびXの読書界隈で話題になる本作を、ようやく手に取ってみた。私が事前に知っていた情報は「主人公が小学生」「亡くなった主人公の同級生が蜘蛛になって主人公の前に現れる」「最後に大どんでん返しがある」「後味が最悪、しかしまた読みたくなる」の四点だ。

 最初の二つは(作品に登場するという意味で)客観的な事実だが、後半二つは私の主観としてはあまり腹落ちしなかった。ただし、本作全体を読んでどう感じたかという部分に関して、私は★評価をつけることができない。というのも、本書を傑作と考える方と、腑に落ちないと考える人(私は後者だ)を分ける明確なポイントがあり、それは各自の人生観に関わってくる問題なのでその差によって本書に評価を付けるのはナンセンスだと感じてしまったのだ。

 その「明確なポイント」というのが、キャッチコピーに書いた「輪廻説を読み手がどう理解しているか」という部分だ。

 そこそこ序盤で、亡くなった主人公の同級生(S君)が蜘蛛になって主人公の前に現れる。この時点で、少なくとも主人公・ミチオにとっては
①亡くなった人間が姿を変えて自分の前に現れること
②その人間が生前の記憶を有していること
 が当然のこととして受け入れている。しかし、私はこの考えがどうも腑に落ちず、以降本作はミステリーではなくファンタジー要素の強い幻想小説として読むことになってしまった。

 腑に落ちなかったのは、私があり得るかもしれない、と考えている「輪廻説」が
1、亡くなった人間は、生前の業に合わせてあらゆる生き物に生まれ変わる
2、生まれ変わった人間に、生前の記憶はない(※ただし、デジャヴなどで断片的に記憶が作用することがある)
 という2点を条件にしているからだ。特に大事なのは2で、「過去の人生の記憶を持っていることなどがあったら、生きにくくて仕方がないし極論、人生やり直しができてしまう。そこまで世界は人間に都合よくできていない」というのが私の考えだ。

 私はこうした考えを持っているため、本書で描かれている②の状況が「ありえそうなこと」として受け入れられなかったのだ。

 しかし、中にはミチオと同じく「輪廻説」を①②の解釈で捉えている方もいるだろう。また、彼ほど極端ではなくても「亡くなったあの人が、現代に生まれ変わってどこかで元気にやっているかもしれない」という希望を抱いて生きている方もいるだろう。そういう方にとっては、蜘蛛のS君、トカゲのミカ、カマドウマのお爺さん、三毛猫のトコお婆さん、白い百合のスミダさんという存在が「ありえること」として受け入れられるのかもしれない。
 「ありえること」と受け入れられる方にとっては、ミチオは「霊感が強い男の子で、それゆえに他者と感覚がズレてしまったのだ」という解釈ができるだろう。となると、ミチオに対して同情の余地が生まれ、多感な小学生の時期に本来見えるはずのないものが見え、会話ができてしまうためにおかしくなってしまったという風に考えられそうだ。

 あるいはミチオの苗字「摩耶(※釈迦の生みの親)」から、ミチオ自身に死者を転生させる力があり、一連の輪廻転生は全てミチオ自身が引き起こしている、と連想することも可能だ。この場合、私は「摩耶」は母方の苗字で、母親もミチオと同じ能力を持っているのではないかと考える。ただの人形を自分の娘だと信じており、汚部屋を片付けることを嫌がる彼女も、あきらかにほかの人と見えている世界が違うので。


 以上が本書で描かれる輪廻の在りようを「ありえそうなこと」として受け入れた場合に考えられそうな解釈だ。しかし、私は「ありえないこと」と捉えた。その結果、
・ミチオは元々妄想癖、虚言癖があった
・ミチオは、自分にとって都合のいい物語の中に閉じこもっていないと頭がおかしくなってしまうと信じ込んでいる

 と考えざるを得なくなり、本書に描かれていることすべてがミチオの妄想ということになってしまうのだ。この立場をとった場合、本書はミステリーでも何でもなく
「妄想の激しい少年が考えた、“ぼくが考えたさいきょうの世界観”をただ読まされているだけの幻想小説」
 となる。正直なところ、こちらの解釈で通読した場合、本書を傑作と称えることは難しい。歪んだ倫理観をもつ、妄想癖の激しい少年の異常な言動が読んでいて痛々しいばかりだ。

 というわけで、おそらく本書を評価している方の解釈と、私の解釈が根本的に違うのだろうなと思い、評価を付けられなかった次第だ。

(書評執筆日:2025年8月24日)
  • 掲載日:2026/04/14
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