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川上弘美さんの翻訳は、間違いなく意訳でしょう。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!免許皆伝
伊勢物語
古典は、中学高校の授業では作品名、作者、成立時代を習うことが中心で、内容を学んだとしてもさわりまでです。本気で学ぼうとしたら大学などで掘り下げる必要があります。時間に限りがある以上、仕方のないことです。名前だけは覚えていた伊勢物語、こうして読むことができて幸せです。とはいえ現代語訳ですし、川上弘美さんという馴染みのある作家さんの翻訳だからこそ手に取ったわけで、内容を把握できたかというと、この一冊は入口にすぎないと分かった状況ですが。

一読では、想像以上にそっけなく感じる物語でした。意外でした。川上弘美さんの意訳が入っている部分はいくつも感じ、結構勝負しているのも分かりましたが、それでも行間が現代の小説と比べものにならないくらい広く、詩に近いほどです。形式的には歌物語という当時の新ジャンルです。つまり短歌の基礎知識がないと、この物語を理解するのはかなりハードルが高いのです。国語の授業経験で、短歌の掛け合わせや、裏の意味があることは知っています。でも、実物の短歌を読んで解釈してみてと言われても、それは無理。本著は解説的な翻訳ではないので、何かありそうだと分かるところで精一杯でした。それを理解し、暗に匂わせながら歌で返すことが、当時の奥ゆかしき知性遊びだったのでしょう。

伊勢物語は、新ジャンルの斬新さがあります。男がいたという短い文から始まり、数行ほど状況をつなぐ文章がきて、短歌で締めるという構成です。ここまで文章をそぎおとした物語は、読んだことがありません。詩に近いというのは、こういう部分です。不思議さに包まれます。

解題によると、古今和歌集よりも少し早い時期に、在原業平が原型を書き、その後百年以上にわたって複数の人々によって章段が追加されたり書き直されたりしていまの形に落ち着いたそうです。源氏物語の原型と評される章段もあり、日本の物語文学の最初の一冊は伊勢物語であると言える部分があるようです。

読んだ感想ですが、これは小説ではないです。じゃあ物語かと聞かれると微妙です。短歌のための掌篇集で、散文パートは短歌へのつなぎなんですね。源氏物語の冗長性の高い文章とは真逆の、究極の行間物語でした。まあ、伊勢物語と源氏物語は、当時の高位の人たちの恋愛ものという点で一致してはいますが。

短歌の知識のなさを痛感しました。贈歌で恋歌を送ると、返歌が来たり来なかったりします。返歌を詠んで、相手の教養を読み解くことで、恋や契りにつながるのですが、いかんせんこちらは贈歌のよさが分からないし、返歌のしきたりも分からなければ、韻や暗喩なども分かりません。意訳部分で、原文を読んでもそこにたどりつかないものもあり、深みの淵すら見えません。ですので、川上さんによるすっきり翻訳を読み、どうにかあらすじだけを追いかけることしかできないのです。なんとも情けないですが。

百人一首で有名な短歌も収録されています。せめてそんな楽しみぐらいは庶民でも味わえますが、文章は読めても理解度は惨敗ですね。残念ながら。でも、星は四つ。
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  • 掲載日:2026/04/26
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