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星落秋風五丈原
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表紙絵の男がなんだかチャールズ・ブロンソンみたい 映画では美男ゲイリー・クーパーが演じてます
 「これまで西部劇というジャンルがなかった小説界に初登場したのが本作」と解説にある。そういわれれば「なるほどな」と思う所が何か所もある。

 まず初登場シーン。判事に会うため、列車でワイオミング州メディシン・ボウにやってきた僕は、誰がやっても縄をかけられなかった子馬に、“ある男”があっさりと縄をかけたのを目撃した。うっとりしている間もなく僕は、荷物が紛失したのを知らされる。油断すれば危ない西部の洗礼を受けたわけだ。

 尚も待ち人来たらずの僕は、“ある男”が、晴れ着を来たヒューイの兄さんに孫ほどの年齢の女性との結婚をする件で、散々からかっているのをはからずも聞く羽目になる。二人の会話で男が口が達者なことを知った僕は、暴れん坊の子馬に縄をかけた彼こそが、判事がよこした迎えの人間だとわかる。彼こそがタイトルロール=ヴァージニアンだ。

 誰もやらなかったことを、さも簡単そうにやってのける初登場シーン、軽口を叩きつつも、決して相手から嫌われてはいない人柄、一見何も考えてなさそうに見えて衝突を避けて邪魔者を排除するやり方など、確かに西部劇のヒーローとしてヴァージニアンは理想的だ。
おれはあんたの家の人に、一言注意しときてえなあ こんなにあんたを一人旅させないように、その前に人生ってものを、もっと勉強させるように、ってなあ

と西部の荒くれ者からはまるっきりがきんちょ扱いの僕とは異なり、
ヴァージニアンは宿敵トランパスが「くそったれ」と言うと
おれをそんな風に呼びたけりゃあ、にっこり笑えよ!When you call me that,smile!

というと、表情は穏やかながら
ぼくの耳には、どこかで死の鐘が鳴ったように聞こえた。沈黙が稲妻のようにこの大きな部屋に降りかかった。部屋の中の男たちは全員、電磁波に打たれたようにこの緊迫に気づかされた。

いざという時に凄みを出せる。緩急の使い分けを知っている大人の男だ(でも20代!)。

 好きになった東部出身の女教師を心から愛しつつも、ヴァージニアンの出自や身分を知った家族の反対を受け、苦しむ彼女の大叔母に宛てて
愛していると言って困らせることは正しいやり方で愛したことにはならないから、お前の命を救ってくれたこの人のために、むしろ身を引かなければいけないぞ。そう自分に言い聞かせてみると、その後自分はどういう人生を送ったらいいか全然分からなくなったので、どこかへ出て行って一生懸命働いたらいいのじゃないかと思って、この人にあきらめるつもりだ、って言ったんです。

と作為的でなく、女心を蕩けさせるような言葉が自然に書けるジェントルマン。この後も親友ながらも道を分かった男との決別、宿命の相手との対決など西部劇のお約束が続く。ここから西部劇の裾野が広がり、今も進化しつつあるのだと思えば、どのエピソードもなかなかに意義深い。

2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
    • ゲイリー・クーパー版ヴァージニアン
    • TVムービー版ヴァージニアン ビル・プルマンがヴァージニアン
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2323 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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