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ゆうちゃん
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星新一のユーモアミステリの長編作。男女二組の騙し合い・丁々発止のやりとりが楽しめるが、ショートショートと違い、良くも悪くも昭和という時代性を感じさせる作品である。
本書は星新一の最初の長編小説とのこと。以前、「ブランコの向こうで」という長編を読んだが、あれは長編というよりは、同じ主人公を使った連作短編のような体裁だった。本書は、ユーモアミステリの本格長編小説である。

主な登場人物は、ビックリ箱の企画・デザインを仕事とし、時折「犯罪批評」のコラムを書くことを趣味とする黒田一郎、彫刻家志望だったが、それでは食べて行けないと化粧品の訪問販売を始めたばかりの副島須美子、名家の生まれで金持ちの夫に先立たれ、今では独り暮らしの未亡人である松平佐枝子、同じく有力な家に生まれながら、戦後すぐ妻に逃げられ、その後、神社の神主として生計を立てている牧野邦高の四人である。黒田と副島は30代前半、佐枝子と牧野は40代後半と言ったところ。
佐枝子には婆やが、牧野には身の回りの世話をし、植木職人でもある吉蔵が同居している。四人は東京タワーの近くに住み、小説冒頭ではお互いを知らない。やがて四人は黒田の行きつけのドイツ料理店「メルヘン」に出入りすることになる。そこの店主でドイツ人のフリッツもこの話に一枚噛むことになる。
話は今でいう在宅勤務をしている黒田のところに副島が化粧品を売り込みに来たところから始まる。黒田は副島を退屈しのぎの良い話し相手、と思いドイツ料理店メルヘンに連れて行った。そこで、黒田は趣味の「犯罪批評」のコラムに対して寄せられた投書を取り出して副島に読ませた。ファン・レターだと思って読ませたら、黒田の批評はワンパターンだと批判している。面白くない黒田は実際にちょっとした犯罪をしてみようと副島を誘った。黒田の家を訪問する前に、副島は化粧品を届けるために松平と言う家に寄ったが、そこで仏像を5体も置いてあったと話した。彼女は彫刻に関しては目利きであり、中の一体がなかなかのものだと言う。黒田はそれを盗み出す計画を立ててまんまと成功する。佐枝子はその仏像を故買屋から買っており、予てから盗品ではないかと考え、盗難届を出すのをためらっている。
牧野の神社には毎朝、フリッツが犬を連れて散歩に来て、律儀に参拝までする。フリッツは牧野の投書好きを知っており、先日、牧野の筆跡の手紙を読んで怒っていた客がいると話した。それはファン・レターと取り違えた黒田のことだった。仏像を盗まれた佐枝子は近所にある牧野の神社に参拝に来た。困った顔の彼女をみて牧野が相談に乗ろうと言い出す。そこから、黒田と副島、佐枝子と牧野の駆け引きが始まる。

佐枝子の家から盗まれた仏像は果たして盗品なのか、そして本物なのか偽物なのか、副島が彫刻の腕を活かして作った仏像のレプリカは果たしてどれほど価値があるのか、その他にも黒田が仏像を盗んだ時に持ち込んだテレビ、佐枝子が掴まされた倒産した会社の株式、四人でやりとりする20万円のお金は結果的に誰のものなのか?と話は複雑になってゆく。
もしこの小説でやりとりしたことを図解して精算しようとなれば、かなり奇怪なことになるのは確か。その点でこの小説はとても成功している。さすが星新一で、読者を煙にまく事には長けている。ただ残念ながらショートショートと違って長編小説という性質からか、古びた小説になってしまっていることは確か。例えば
「服装のきちんとしている女性は、決して痴漢に襲われないのと同じことだろうな」(82頁)。

という文章がある。これは牧野がきちんとした神社と言うものは静かな雰囲気を醸し出すものだと言う言葉にひっかけているものだが、今では通用しない女性観である(現代なら校正で絶対に削られる)。また佐枝子は戦前の名家で、土地などを没収され戦後すぐはかなり困窮した、という設定である。それを指して斜陽族などと言う言葉も出ているが、この言葉は僕が若い頃に読んだ時、つまり昭和の末期でも既に時代遅れと言える。
一方で、黒田の仕事は「在宅勤務」と言う言葉こそ使わないが、これを昭和中期に先取りしている。そもそも四人はろくに仕事もせずに暮らして行ける身分であり、話自信は東京タワーに象徴される高度経済成長を背景としている。著者の意図したものではないが、本書は古びてしまっているものの、懐かしい感じの小説でもある。平成生まれの読者はどう受け取るのだろうか。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1735 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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