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星落秋風五丈原
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アーサー王大好き母親に名付けられた子供達と ラストに号泣するミス・マープルがツボ
 莫大な資産を有する投資信託会社社長レックス=フォーテスキューが亡くなった。茶には毒が入っていた。そして彼の若き妻も殺され、メイドは鼻を洗濯ばさみで挟まれた絞殺体で発見される。メイドの雇い主だったミス・マープルが現れ、捜査にあたるニール警部の前で、
ポケットに ライ麦を つめて歌うは 街の歌
と歌う。犯人は遺産目当てか、それとも歌に準えて、何かを訴えようとしているのか?

 ミス・マープルもの第六作。クリスティ作品に数多く登場する、マザーグースの童謡に沿った見立て殺人。ランスロット、パーシヴァル、ジェニファ(ギネヴィア)、エレイヌ(エレイン)と、アーサー王物語に依る名前が登場人物につけられており、ランスロットはやはりモテモテでパーシヴァルはいい人だが面白みのない人物設定とこちらも伝説を引きずっている。

 前妻の、それも適齢期&既婚の子供が3人もいる所へ、若い人妻を入れたのだから、長く仕えた使用人も含めて、館がぎすぎすした人間関係になるのは必定。事件をきっかけに次々に明らかになる彼等の秘密。何もわかっておらず、頑固で偏屈な前時代人と見せかけつつ実は全てを見通していた女性がクリスティ作品には数多く登場するが、本作では一族の長老であるラムズボトム夫人がこのキャラクターだ。真相に薄々気づきながらも情ゆえに手を下せなかった彼女はあなたみたいに正直一途の方もあっていいのです。と“まれびと”マープルに、その役目を委ねる。こういう、優しさと正義感を前面に(素直に)出さない(出せない)キャラクターがいい。

 いつもの「穏やかな老婦人」とは異なり、珍しく声を震わせて犯人を罵倒するマープルが印象的だ。手違いで手元に届くのが遅れた「ある物」の遅過ぎた登場に、ぼろぼろと涙をこぼすマープルが、それでも最後に勝利の笑みを浮かべる。しかし彼女の喜びって本当に古生物学者が前生紀動物の骨格を組み立てるのに成功したときのあの喜びと同じなのか?というか、それってどんな喜び?

クリスティ作品
黄色いアイリス
ヘラクレスの冒険
教会で死んだ男
クリスマス・プディングの冒険
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2327 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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