書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ソネアキラ
レビュアー:
集合住宅今昔―気分は渡辺篤史?
『集合住宅物語』上田実著を読む。というより見る。図版が素晴らしい。
写真は鬼海弘雄 だし。

ふだん、お店でも開いていない限り、建物の内部に入ることはできない。
外観は写真に収めたり、肉眼で見ることはできるけど。
同潤会アパートにはじまり、知ってるところ、知らないところが、
写真と文章で紹介されている。

この本では、戦前篇と戦後篇に大別されているが、
考えてみれば、集合住宅とはモダンな鉄筋コンクリートのアパートだけじゃない。
棟割長屋も、下宿屋も、看板建築や店舗併用住宅(こう書くと難しいが、
下が飲み屋などのお店、上が住まい)も、集合住宅だ。

作者が住民の意見を反映させた光が丘団地よりも
高度経済成長時代に一気にこしらえた、
無骨なまでの機能美の高島平団地を評価しているのが、
意外だった。

多分、大友克洋の『童夢』の舞台になったであろう高島平は
本文にも出てくるが、かつては自殺の名所だった。

いつぞや美輪明宏がTVでバウハウスの無機的な直線的デザインでは、
人間は精神に変調を来たしてしまうといっていたっけ。
フンデルトバッサーも徹底的に直線を排除した住居をデザインしていたけど、
通底するものがあるんだろうね。

八王子の都市公団総合研究所技術センターに行くと、
同潤会代官山アパートや公団住宅蓮根団地、公団住宅晴海高層アパートの住戸が
移築復元されていて、日本の近代的な集合住宅の流れがわかるそうだ。
確認したら、閉館していた。
(集合住宅歴史館は、令和5年春(予定)、北区赤羽台にて(仮称)情報発信施設として新しく生まれ変わります。移転計画に伴い、集合住宅歴史館(八王子市)を令和4年3月31日をもちまして閉館いたします)

特筆すべきは、1958年に完成した「都市型の」公団住宅晴海高層アパートと
「郊外住宅としての」阿佐ヶ谷テラスハウス、双方を設計した前川國男である。
ル・コルビジェの薫陶を受けた彼は、
ある意味対照的な集合住宅をあつらえてしまった。

どちらがいいか。これは好みもあるし、ライフスタイルもあるだろう。
写真を見る限りでは、バックヤードを備えたようなイギリス住居風の後者を選択するが。

「江戸東京たてもの園」に前川國男の自邸がある。
住み心地がよさそう。
それと世田谷区役所。さすがに老朽化して建て替えられるとか。

最後に作者は、町名や地形などを踏まえ、
それぞれがきめ細やかにつくられた同潤会アパートと
現在の大がかりな都市開発を比較して、釘を刺している。

個人的には、早く、薄汚れて、
周囲にあやしげな、ウサン臭げな飲み屋街が自然発生すればいいなと。
『ブレードランナー』みたいに。

この本にも紹介されている代官山ヒルサイドテラスは、
地下にあったステンドグラスの工房に遊びに行ったことがある。
デザイン会社で同僚の友人がそこに勤務していた。
地下とはいえ光がたっぷりと入り込む工房は、気持ちよかった。
すっかり日が暮れて代官山駅に向かう途中に、まだ代官山アパートがあった。
闇の中にブリティッシュ・トラディショナルのブティックの灯りが
いい感じでこぼれていた。
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ソネアキラ
ソネアキラ さん本が好き!1級(書評数:2186 件)

女子柔道選手ではありません。開店休業状態のフリーランスコピーライター。暴飲、暴食、暴読の非暴力主義者。東京ヤクルトスワローズファン。こちらでもささやかに囁いています。

twitter.com/sonenkofu

詩や小説らしきものはこちら。

https://note.mu/sonenkofu

読んで楽しい:2票
参考になる:22票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. noel2021-10-26 14:19

    ブレードランナーはよかったな。フィリップ・K・ディックでしたっけ?

  2. ソネアキラ2021-10-26 15:39

    正解です!!

  3. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『集合住宅物語』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ