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語り手たちの呼ぶ名は

ハリケーンの季節
 メキシコの田舎町で、住人から“魔女”とよばれ畏怖されていた人物が他殺体となって発見された。“魔女”は町の女たちの相談役であり、薬草を調合して生活の便宜を図ることで生計を立てていた。誰がなぜ“魔女”を殺したのか。“魔女”とは何者だったのか。事件と関わった四人の語り手がそれぞれの立場から魔女を物語る。

 メキシコの新鋭作家の作品だ。本書は国際ブッカー賞の候補作に挙げられた。
 四人の関係者が自分自身について、“魔女”と彼らの暮らす共同体について語るにつれ、事件の輪郭が徐々にはっきりしていく。彼らの語りは事件を解説するために整理された単線的なものではなく、しばしば個人的な逸話へと脱線し、後戻りしては同じ情景が違った角度から繰り返し語り直される。話者が変わるごとに、一人の語りからはとりこぼされた、陰になっていた細部にスポットライトが当てなおされる。異なる現実を映した別の水脈へと言葉が伸びていく。
 現実の証言者と同じく、一度で全てをあますことなく語り尽くすことのできる語り手がいるわけもない。その記憶には意図せざる脱落があり、未整理な要領の悪さがあり、目に入ったものへの一方的な思い込みがある。言い落されていた細部が足され、描写が充実することでかえって語り手たちの言葉の恣意性が浮き彫りになってもいく。

 狂騒的で鮮烈なエピソードが幾重にも織り合わされ、性差別と抑圧、蔓延するマチズモと苛烈な暴力が、煮え立つ地獄の釜のような混沌とした語りよって炙り出される。訳者によると、著者はインタビューでマルケスの『族長の秋』に影響を受けたと語っているという。さもありなん、という風な多声的な語りに複雑な構成だが、マルケス同様いかにも実験的な小説といった印象はなく、読み進めるうち特異な書法にも慣れ、このようにしか語りようのない小説内の異様な現実に惹き込まれていく。
 虐げられた者たちの叫びを描いた、力強い佳作だ。
  • 掲載日:2026/04/13
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