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〈人名〉シリーズの1作にして、トマス・H・クック版スパイ・スリラーとも言うべき実験的な佳作。

ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密
※ブクレコに2014年9月8日に投稿したレビューに加筆修正したもの。

トマス・H・クックには4作の〈記憶〉シリーズと呼ばれるものがあるが、実際には『死の記憶』以外の『○○の記憶』というタイトルは、当時の版元だった文藝春秋が原題を無視して日本語版に勝手につけたタイトルなので、実際には〈記憶〉シリーズなどというものは存在しない。

しかしクックは、2009年から『キャサリン・カーの終わりなき旅(The Fate of Katherine Carr)』に始まる、タイトルに人名の入った作品を4作(『サンドリーヌ裁判(Sandrine's Case)』も含めると5作)発表している。そしてこの『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密(The Crime of Julian Wells)』は、その〈人名〉シリーズの1冊。

突然自殺を遂げた作家、ジュリアン・ウェルズの謎を追う、親友で文芸評論家のフィリップ・アンダーズの前に現れる、グロテスクに歪んだ世界。そして最後に明らかになる、ジュリアンの犯した罪(The Crime of Julian Wells)とは?

いかにもクックらしい、静謐な語り口の中に漂う異様な「来たるべきものの予感」がたまらない。まさに傑作──なのだが、去年邦訳された『キャサリン・カー〜』がそうだったように、特に文春文庫時代のクック作品のコテコテのファンには、この作品の価値は理解されないだろうな、という気がする。

まだ『The Quest for Anna Klein』が邦訳されていないこともあり、クックが〈人名〉シリーズで何をしようとしたのか私の中ではまだ答が出ていないが、1つには自らの作風を広げるべく、さまざまな実験をしていたのではないだろうか。

なお、この『ジュリアン・ウェルズ~』には序章と終章にある「仕掛け」がなされていて、それが物語にかすかな希望を醸し出している。
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  • 掲載日:2017/05/04
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