拾得さん
レビュアー:
▼
「1冊の『本』が新刊書店の店頭に並ぶまでには、(中略)目に見えない多くの人が『本』には関わっています。」(永江朗、イントロダクション、4頁)
最盛期の半分、総売上げ1兆円を切ったということが、これまた売上げの落ちている新聞紙上を賑わしているのが出版産業だそうです。「本についての本」は意外に多いのですが、今から約20年前に本書が刊行された時期は、構造不況業種とささやかれつつも、まだまだのんびりしていたのかもしれません。序文でも一応、「よく『読書ばなれ』なんて言います。」という一文からはじまっています。
「あたらしい教科書」というシリーズ名に違わず、「本」を支える産業全体について幅広く目配りした1冊になっています。特に、本をつくるというと「編集」者ばかりが注目されがちですが、本書では「デザイン」(2章)、「印刷と製本」(3章)、「流通と書店」(4章)と出版産業全体をバランスよくとりあげています。のんびりしていたということは、出版産業全体がまだまだしっかりしていたということもできるのでしょう。
本書の構成で特徴的なのは、編集と切り離してデザインを独立させていることかもしれません。読者としては区別がつきにくいところですが、雑誌編集におけるアート・ディレクター(AD)の役割について、多少はわかった気になりました。デザインの範囲は装幀ばかりではないようです。編集の部分も、「コミックの作り方」という項目立てがある一方で、「ふろくの作り方」という項目もあります。ふろくをつくるのも編集の役割なのですね。
紙面は見開き2頁1項目で構成され、出版産業用語解説集にもなっており、読みやすい分量で拾い読みもできるものになっています。また、オールカラーで、目を惹く写真やイラストを見開きで必ず1点は入れています。さらに必要な用語には脚注がついており、本文を補足します。
たとえば「プロモーション」という項目(108~109頁)には「差し陳列」という脚注がついていますが、「美しい本棚」の写真が掲載されているといった具合に、丁寧である一方、見る楽しみも随所に設けてあります。「専門誌の作り方」という項目(34~35頁)では「月刊おりがみ」の表紙が冒頭を飾り、2折でつくられるサンタクロースの折り紙の写真が脚注「神髄」に掲載されています。
ところで、2025年の『読売新聞』夕刊の連載小説は「函」と題され、「書籍を入れる函」をつくってきた町工場3代目が主人公でした。大卒後はS社(どう見ても新潮社)に勤めていたという設定で、出版業界の移り変わりの概説とともに、業界批評ともなっている趣きがある小説でした。作者は実際に新潮社出身とのことでした。
最近、1980年代の新潮社の文芸書単行本を入手しましたが、定価2000円で実に立派な貼り箱でした。ホッチキスは使ったガチャ箱ではありません。今ではほとんどみかけませんが、こんな函をつくっていた工場だったのでしょう。ある時期までは「函」も本の重要な構成要素であったわけですが、残念ながら本書には函は取り上げられていません。
本書のもうひとつの特徴は、それぞれの分野の仕事内容と同時に象徴的な事物や人物も項目として立てて紹介していることです。「編集の仕事」があれば「菊池寛」「花森安治」「植草甚一」、「書体」「装幀」があれば「堀内誠一」「杉浦康平」といった具合です。紙の本から電子書籍へというより、電子デバイスでモノを読む世界において、こうした名物編集者やデザイナーが活躍していた時代は急速に過去のものになってしまったかもしれません。
私自身、さほど雑誌の世界に親しんできたわけではないのですが、たまに雑誌全盛期のモノを眺める機会があると、その迫力と密度に圧倒されます。「堀内誠一」という名前は最近おぼえたくらいです。なお、本書では「リトルマガジン」という項目(42~43頁)もありますが(写真は雑誌『話の特集』)、現在はより小さな読者を対象とした「ZINE」が出てきますので、実はここに新たな花森安治や堀内誠一がいるのかもしれません。
なお、この20年の出版産業の変化の中で注目すべきは、「印刷と製本」(3章)、「流通と書店」(4章)という部分かもしれません。「流通と書店」がキーであることは本書の関係者も意識してはいたのでしょう、編集に次いで頁を割いています。ただ、本書でも十分に予見できなかったところかもしれません。
デジタル化は印刷の仕様をだいぶ変えたように聞きます(が、よくわからない)。オンデマンド印刷ということばも聞くようになって久しいですが、本書ではまだ取り上げられていませんでした。書店の減少というか消滅が新聞紙上の話題となることも多いです。本書では「ブックオフ」「ヴィレッジヴァンガード」という項目もありますが、両者とも店舗数を減らしてきているのが現在です。
「倉庫」や「返品」が取り上げられているのには驚きました。また、取次ぎである「日販・トーハン」は取り上げられていますが、配送までは手が回っていません。このあたり、他の業種と同じく人手不足が指摘されているようです。
刊行されてからだいぶ経ってからの紹介となってしまいましたが、本が読まれなくなる・なくなっていく、ということは、こうした仕事・業種を含めてなくなるということを、あらためて感じさせられます。ちなみに「函」という小説も、3代目が工場を閉めるところで物語がおわります。
「あたらしい教科書」というシリーズ名に違わず、「本」を支える産業全体について幅広く目配りした1冊になっています。特に、本をつくるというと「編集」者ばかりが注目されがちですが、本書では「デザイン」(2章)、「印刷と製本」(3章)、「流通と書店」(4章)と出版産業全体をバランスよくとりあげています。のんびりしていたということは、出版産業全体がまだまだしっかりしていたということもできるのでしょう。
本書の構成で特徴的なのは、編集と切り離してデザインを独立させていることかもしれません。読者としては区別がつきにくいところですが、雑誌編集におけるアート・ディレクター(AD)の役割について、多少はわかった気になりました。デザインの範囲は装幀ばかりではないようです。編集の部分も、「コミックの作り方」という項目立てがある一方で、「ふろくの作り方」という項目もあります。ふろくをつくるのも編集の役割なのですね。
紙面は見開き2頁1項目で構成され、出版産業用語解説集にもなっており、読みやすい分量で拾い読みもできるものになっています。また、オールカラーで、目を惹く写真やイラストを見開きで必ず1点は入れています。さらに必要な用語には脚注がついており、本文を補足します。
たとえば「プロモーション」という項目(108~109頁)には「差し陳列」という脚注がついていますが、「美しい本棚」の写真が掲載されているといった具合に、丁寧である一方、見る楽しみも随所に設けてあります。「専門誌の作り方」という項目(34~35頁)では「月刊おりがみ」の表紙が冒頭を飾り、2折でつくられるサンタクロースの折り紙の写真が脚注「神髄」に掲載されています。
ところで、2025年の『読売新聞』夕刊の連載小説は「函」と題され、「書籍を入れる函」をつくってきた町工場3代目が主人公でした。大卒後はS社(どう見ても新潮社)に勤めていたという設定で、出版業界の移り変わりの概説とともに、業界批評ともなっている趣きがある小説でした。作者は実際に新潮社出身とのことでした。
最近、1980年代の新潮社の文芸書単行本を入手しましたが、定価2000円で実に立派な貼り箱でした。ホッチキスは使ったガチャ箱ではありません。今ではほとんどみかけませんが、こんな函をつくっていた工場だったのでしょう。ある時期までは「函」も本の重要な構成要素であったわけですが、残念ながら本書には函は取り上げられていません。
本書のもうひとつの特徴は、それぞれの分野の仕事内容と同時に象徴的な事物や人物も項目として立てて紹介していることです。「編集の仕事」があれば「菊池寛」「花森安治」「植草甚一」、「書体」「装幀」があれば「堀内誠一」「杉浦康平」といった具合です。紙の本から電子書籍へというより、電子デバイスでモノを読む世界において、こうした名物編集者やデザイナーが活躍していた時代は急速に過去のものになってしまったかもしれません。
私自身、さほど雑誌の世界に親しんできたわけではないのですが、たまに雑誌全盛期のモノを眺める機会があると、その迫力と密度に圧倒されます。「堀内誠一」という名前は最近おぼえたくらいです。なお、本書では「リトルマガジン」という項目(42~43頁)もありますが(写真は雑誌『話の特集』)、現在はより小さな読者を対象とした「ZINE」が出てきますので、実はここに新たな花森安治や堀内誠一がいるのかもしれません。
なお、この20年の出版産業の変化の中で注目すべきは、「印刷と製本」(3章)、「流通と書店」(4章)という部分かもしれません。「流通と書店」がキーであることは本書の関係者も意識してはいたのでしょう、編集に次いで頁を割いています。ただ、本書でも十分に予見できなかったところかもしれません。
デジタル化は印刷の仕様をだいぶ変えたように聞きます(が、よくわからない)。オンデマンド印刷ということばも聞くようになって久しいですが、本書ではまだ取り上げられていませんでした。書店の減少というか消滅が新聞紙上の話題となることも多いです。本書では「ブックオフ」「ヴィレッジヴァンガード」という項目もありますが、両者とも店舗数を減らしてきているのが現在です。
「倉庫」や「返品」が取り上げられているのには驚きました。また、取次ぎである「日販・トーハン」は取り上げられていますが、配送までは手が回っていません。このあたり、他の業種と同じく人手不足が指摘されているようです。
刊行されてからだいぶ経ってからの紹介となってしまいましたが、本が読まれなくなる・なくなっていく、ということは、こうした仕事・業種を含めてなくなるということを、あらためて感じさせられます。ちなみに「函」という小説も、3代目が工場を閉めるところで物語がおわります。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
学生時代は書評誌に関わってました。今世紀に入り、当初はBK1(現在honto)、その後、TRCブックポータルでレビューを掲載してました。同サイト閉鎖から、こちらに投稿するようになりました。
ニックネームは書評用のものでずっと使ってます。
サイトの高・多機能ぶりに対応できておらず、書き・読み程度ですが、私の文章がきっかけとなって、本そのものを手にとってもらえれば、うれしいという気持ちは変わりません。 特定分野に偏らないよう、できるだけ多様な書を少しずつでも紹介していければと考えています。
プロフィール画像は大昔にバイト先で書いてもらったものです。
- この書評の得票合計:
- 3票
| 参考になる: | 3票 |
|
|---|
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:プチグラパブリッシング
- ページ数:0
- ISBN:9784903267180
- 発売日:2006年02月01日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。
『本 (あたらしい教科書 2)』のカテゴリ
- ・文学・小説 > ノンフィクション
- ・政治・経済・社会・ビジネス > 社会
- ・政治・経済・社会・ビジネス > メディア
- ・政治・経済・社会・ビジネス > ビジネス





















