芽むしり仔撃ち(新潮文庫)

空爆の激しくなった都市から、谷間の村へ、感化院の少年15人が疎開してきた。その村では、動物たちの間に疫病が蔓延していて……
昭和三十三年六月に発表された、大江健三郎初の長編小説である。 ”僕”の一人称で語られる。太…

本が好き! 1級
書評数:563 件
得票数:14096 票
読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。

空爆の激しくなった都市から、谷間の村へ、感化院の少年15人が疎開してきた。その村では、動物たちの間に疫病が蔓延していて……
昭和三十三年六月に発表された、大江健三郎初の長編小説である。 ”僕”の一人称で語られる。太…

まったく色彩のない世界にくらすというのは、どのような感じだろう? 脳神経科医のサックス博士は、子どものころから疑問に感じていた。
先天性全色盲は、非常に珍しい。三万人か四万に一人しか発生しない病気である。 その珍しい先天性全色盲…

映画監督の伊丹十三が「墜落死」したのは、1997年のことだった。享年64歳。大江健三郎の夫人は伊丹十三の妹で彼とは親友でもあった。「取り替え子」は2000年に発表された、伊丹十三を追悼する小説である。
作家の古義人のもとには、50巻ものカセットテープがある。 妻の兄でもある親友の吾良から送られたもの…

ベトナム戦争の最中に生まれ、戦争が終わってからボートピープルとなって、祖国を離れた作者の自伝的小説。記憶の断片をつないだような、こういう書き方もあるのかと新鮮だったが……
道を歩いているとき、乗り物で移動しているとき、ふっと、記憶の断片が頭に浮かんでくることがある。遠いむ…

明治26年5月25日。大阪府南東部の金剛山麓で、凄惨な殺人事件が起きた。世にいう「河内十人斬り」。 主犯の城戸熊太郎の、わだかまる思いが、河内弁で泥の川のように流れだす……
安政四年に城戸熊太郎が生まれたときから書き起こされている。 田畑を所有する中農の家に生まれ、両親に…

巻末のあとがきによると、この小説が発表されたとき、ほとんどの批評家から嫌悪されたという。わたしも好きだとは、とてもいえない。きらい。でも、おもしろかった、すごく。
1958年、作者23歳のときに書かれた作品である。 主人公の南靖男は、東大仏文科の学生、二十三…

この世にないもの、あります。
<クラフト・エヴィング商會>は、東京の片隅の、引き出しの奥のような、路地が入り組んだところにあります…

ある日森の中で、12歳の少年アントワーヌは、6歳の男の子レミを殺した……
ボーヴァル村は、森に囲まれた小さな村だった。 村中の人が知り合いの、閉鎖的な共同体。 1999年…

著者は、高齢になってから「源氏物語」のおもしろさに嵌った現役の医師。作中の人物が病むと、つい診察したくなってしまう。「源氏物語」を原文で読み続ける医師のエッセイ集です。
図書館で「源氏物語」関連本コーナーをながめていて、みつけた本です。 刊行されたのは2010年、著者…

高校二年のオーちゃんは、警察官の忠叔父さんと、ディケンズの小説『骨董屋』を、原文で読んでいくことになりました。読む進むうちに、現実世界で異様な事件に巻き込まれて……
作者自身の家族をモデルに書かれた小説です。 主人公は、小説家Oの次男オーちゃん。オーちゃんは、物語…

はじめから終わりまで”死”と”死体”の本だった。
著者のケイトリン・ドーティはハワイで生まれた。 彼女が”死”にとりつかれたのは、8歳のときだっ…

収められている24の短編は、どれも深刻な話なのに、ユーモアの薄い皮に包まれていて、まるで作者の魔法にかけられたように、引き込まれて読んだ。
まず作者ルシア・ベルリンの略歴を読んだ。 1936年にアラスカで生まれる。幼少期は北米の町を転々と…

気象の専門知識があると、あの源氏物語をこんなふうに読めるんですね。
著者の石井和子さんは、お天気キャスターを長く勤め、第二回の気象予報士試験に合格された方。予報士キャス…

三島由紀夫が死の直前に編んだ自薦短編集。貴種流離、倒錯した性、肉体的嗜虐、異類の孤独…… 複雑な読後感を残す作品が九篇。
『軽王子と衣通姫』(昭和22年) 「古事記」にある軽王子と軽大郎女を基にした貴種流離譚。 皇…

還暦過ぎた女三人。今日も元気だ、ごはんがおいしい。人生は、まだまだ続くよ。
総菜屋「ここ家」。そこで働く三人の女性。 オーナーの江子、従業員の麻津子、郁子。三人とも、だいたい…

芥川竜之介、185通の手紙
芥川竜之介が書いて、誰かに送った185通の手紙が収録されている。 青春時代から晩年まで。 生涯に…

コロナ禍に生まれたサスペンス小説。 ダブリン市のある集合住宅の一室で、若者の死体が発見される。死体は、すさまじい腐臭を放っていた……
本邦初訳の新潮文庫オリジナル作品だという。 ダブリン市の中央から少し離れたところ。あるしゃれた…

今年の共通テスト国語現代文小説では、梅崎春生「飢えの季節」が出題されていた。わたしは受験生でも予備校の先生でもないけれど、全文が読みたくて図書館で検索、ヒットしたのがこの短編集だった。
1941年から1967年までに発表された、16名の作家の東京を背景にした作品が収められている。 …

本屋さんでタイトルを見たときは、帝国主義の戦争の話かと思った。本の帯を見ると「ウェルベック、惨殺⁉」と書いてあった。えっ、作者が殺される? これはおもしろそうと思い、本を手に取りレジに向かった。
主人公のジェドは、天才的な芸術家。孤独な生い立ちをした。 幼いころに母親が自死、建築家の父親は…

書斎に寝そべる猫が、とつぜんしゃべり出し、幻覚なのか、幻聴なのか、夢なのか、よくわからない世界に、”わたし”は引きずり込まれていく……
主人公の”わたし”は、50代の作家。 20歳そこそこでデビューして、恵まれた作家人生を歩んできた。…