舞姫





エリスは、赤ん坊の白い襁褓を顔に押し当て、狂い泣いた。
森鷗外は、1884年6月から1888年9月まで、衛生学を学ぶためにドイツへ留学している。 「舞姫」…

本が好き! 1級
書評数:563 件
得票数:14096 票
読書は、登山のようなものだと思っています。読み終わるまでが上り、考えて感想や書評を書き終えるまでが下り。頂上からどんな景色が見られるか、ワクワクしながら読書という登山を楽しんでいます。





エリスは、赤ん坊の白い襁褓を顔に押し当て、狂い泣いた。
森鷗外は、1884年6月から1888年9月まで、衛生学を学ぶためにドイツへ留学している。 「舞姫」…




この物語は、じっさいの事件をもとにしたフィクションである。ある新聞記事から、小説は始まる。『有名科学者、性的虐待の容疑』。逮捕されたのは、著名な免疫学者。告訴したのは、43人もいる養子の一人だった。
ノートン・ペリーナ博士(71)は、1974年にセレナ症候群という病気を発見した功績で、ノーベル医学賞…

母の『涙の谷』に打ちのめされて、父はふわりと立ち上がって家を出る。
両親と子供三人の五人家族。そのうちの父の語りで記されている。 子供より親が大事、と思いたい …





落ちて、転んで、また落ちて……恐い、痛い、恥ずかしい!
夏目漱石は、1900年9月から1902年12月まで、イギリスに留学している。 留学中に神経を病み、…





少女のついた邪悪な嘘は、一人の若者とその恋人の人生を破壊した。
作家志望の夢見る少女ブライオニー。 その事件が起きたのは、彼女が13歳の夏だった。 広い屋敷…

マスク、マスク、マスク……変わりませんね、百年前もいまも。
表紙に「スペイン風邪をめぐる小説集」と書かれています。 スペイン風邪が流行したのは、第一次世界…

そのとき船医は、若者の手に膿をもった水泡が、無数にできていることに気がついた。
下田沖にペリーの率いる黒船が停泊していた時の話である。 二人の日本人の若者が、黒船に身を投げる…

男は、左手で女の首を抱え、自分の右手を短刀を持つ女の右手に添えた……
法律家の友人から、作者が聞いた話である。 友人は、色街として名高い島原へ、心中の検分に出かけて…





むかしから、京には自殺する人が多かったという。作者の説によると、自殺の方法としてもっとも好まれるのが、”身投げ”であるらしい……
自殺についての長い前置きの後、物語が始まる。 明治のころの、ある老婆の話である。 老婆といっ…





ゆっくり大きくなれ、太く長く生きろーー森を歩くと、老木たちの慈愛にあふれた声がきこえてくるかもしれません。
書店で平積みにされていた本。 『樹木たちの知られざる生活』。樹木たちの、生活? 生活なんて人間く…

中国の湖南には、反骨精神にあふれ、負けん気が強く情熱的な人が多い。中国のめぼしい革命家は湖南生まれである、と作者はいう。この小説とは何の関係もないが、あの毛沢東も湖南の生まれである。
大正十五年(1926年)に発表された作品。 作者が、中国湖南へ旅行したときの体験を、モチーフにして…





内田百閒は、1889年に生まれ1971年に没した。明治に生まれた人が、80年以上も生きたのだから、長寿といっていい。百閒先生は、多くの人を、人生という列車の窓から見送り、追悼する文を書いた。
長生きすると、悲しいことも多い。同じころに生まれた人や、後から生まれた人に、先立たれてしまうこと。 …

不自由のない暮らし。やさしい夫。 しあわせだけど、孤独。 しあわせだけど、憂鬱……
昭和二年に発表された作品。 たね子さんは、都市中流家庭の主婦です。 役人か、大きな会社の…

大日本帝国終焉の日。ひとにぎりの帝国軍人が、一億玉砕、徹底抗戦を叫んで蹶起した。
ポツダム宣言受諾から終戦の玉音放送まで。 当事者への取材を重ねて書かれた、著者渾身の歴史ノンフィク…





狂うしか逃げ場のなかった女の人生。怪奇小説として書かれているが、作者の深い同情と共感が読み取れる。
大正十年(1921)、大阪毎日新聞夕刊に連載された作品。作者29歳。芥川は、この年の3月から4か月間…





”私”は、アーケードで生まれ、アーケードで育った。お父さんが、アーケードの大家さんだったから。そこは、おそらく世界一小さいアーケード。
”私”が16歳のころ、町の半分を焼く大火事があり、 映画館にいたお父さんは、焼け死んでしまった。 …

1927年(昭和2年)に発表された作品である。この年の7月24日に芥川龍之介は自死している。享年35歳。
この小説には副題がついている。——或いは、「続海のほとり」—— 舞台は、神奈川県江ノ島に近…





鼠ぐらいしか上り降りできないといわれる、細く急な坂道、鼠坂。その坂の上に、立派な屋敷が建った。戦争のとき、満州でおおもうけした深渕という人の邸だという。
戦争というのは、日露戦争(1904-1905)のことだろう。 日本とロシアが、満州と朝鮮半島の権益…





岩手県の遠野郷の怪異な話を集めて一冊にしたもの。いまふうに軽い言い方をすれば、「ほんとうにあった恐い話」集。
ニホンオオカミが絶滅したとかしないとか、友人と話しているときに、ふと「遠野物語」にオオカミの話があっ…




原題は「杏の実」。「オリンポスの果実」に改題させたのは、太宰治だったという。 作者は、師・太宰治の死の一年後、太宰の墓前で自殺した。36歳だった。
杏——甘くて酸っぱい初恋の味。噛むと、かたい種に歯があたる。 物語は、”秋ちゃん”に向けた手記…