災厄の馬





描写は極めて曖昧で主観的、またどこか詩的ですらある。全てがまるで曇りガラス越しのように語られ、読み手はぼんやりとした像しか掴むことができない、どこか夢のような──あるいは悪夢のような──物語。
森は美しく、暗く、深い しかし、私には守るべき約束がある 眠りにつくまえに歩くべき長い道のりも…

本が好き! 1級
書評数:594 件
得票数:10322 票
「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp





描写は極めて曖昧で主観的、またどこか詩的ですらある。全てがまるで曇りガラス越しのように語られ、読み手はぼんやりとした像しか掴むことができない、どこか夢のような──あるいは悪夢のような──物語。
森は美しく、暗く、深い しかし、私には守るべき約束がある 眠りにつくまえに歩くべき長い道のりも…




恐ろしい物語は恐ろしく、哀しい物語は哀しく、美しい物語は美しく……と、各篇ごとにトーンを自在に変化させる、いわば万能の筆力をデュ・モーリアが持っていたことが判明するはずだ。(「解説」より)
『鳥──デュ・モーリア傑作選』は、ダフネ・デュ・モーリアによる短篇集『The Birds and O…





描き方が非常に繊細で、注意深く読まないと何が語られているのか分からない。まさに「空気を読む」ように読まなければならないのがジャクスン作品であり、本書に収録されたジャクスンの魂を宿す作品もまた同じだ。
魔女と呼ばれた作家、シャーリイ・ジャクスン。この『穏やかな死者たち シャーリイ・ジャクスン・トリビュ…



初めてオコンネル作品を読んで感じたこと:とにかく読みにくい。ただクライマックスは悪くない。
『氷の天使』はキャロル・オコンネルの処女作にして〈キャシー・マロリー〉シリーズの第1作、そして私が初…




本書は呼吸の失われた技術と科学へと分け入る科学的冒険だ。これから探っていく技術の大半は数百年前、ときには数千年前から存在していた。(イントロダクションより)
少し前から私の前に呼吸についての話がよく現れるようになっていた。そんな折り、ジェームズ・ネスターの『…





大学の学部レベルの代数学の中の群論と環論の基礎的な部分を、群論約50ページ、環論約50ページの本文わずか100ページで学べるという画期的な本。
代数学は幾何学、解析学と並んで、現代数学の重要な分野の1つだ。そのため数多くの数学書が出されている。…





あなたが仮にひどい持続痛(慢性痛)に悩まされ、いろいろな病院や治療院に行ったもののよくなっていない、ということがあるなら、これ以上、治療や施術にカネと時間を費やす前に本書を読むことをオススメする。
医療において「痛み」というのは重要なファクターだ。痛みの強弱や、それがどのくらいの期間続いているのか…




三津田作品はどれも謎解きミステリと謎解かぬホラーの中間地点に位置しているが、特にこの『そこに無い家に呼ばれる』は、ミステリとホラーの両刀遣いによる超絶技巧が堪能できる希有な1冊。
作家、三津田信三と編集者、三間坂秋蔵(みまさか しゅうぞう)による〈幽霊屋敷〉シリーズ第3弾。この〈…





世の効果的なマーケティング手法は全て、何らかの形でカルト・マーケティングである。
世の中には驚く程多くのマーケティングに関する本があって、しかも日々新しい本が出続けている。その中には…



人口の半分から闘争心を奪い、従順な奴隷にするにはどうすればいいか。おまえは奉仕するために生まれてきたのだと教えこむ。繰り返し教えれば、やがてそれを唯一の真実として生きるようになる。(p.309)
宇宙から襲来するという謎の敵、混沌(フンドゥン)の攻撃を受け、版図を奪われている人類は、その混沌の亡…



あまりこういう切り口で『約束のネバーランド』を語る人はいないかもしれないが、『約ネバ』を一言で言い表すとすれば、まさに「貪欲」という言葉以外にはない。
エマ、ノーマン、レイの3人は「ママ」と呼ばれて慕われるイザベラの下、血縁関係のない多くの兄弟姉妹たち…



京極夏彦の〈百鬼夜行シリーズ〉17年ぶりの書き下ろし長篇。これはまさに京極による「反ミステリ小説」にして「政治小説」である。
小劇団の座付き作家、久住 加壽夫(くずみ かずお)は投宿している日光のホテルのメイドから「人を殺した…




この手の古い因習や祭礼が物語の重要なピースとなる「伝奇小説」、「伝奇ミステリ」は数多く書かれているが、清水の『奇譚蒐集録』が他と異なるのは、シリーズ全体を貫く“悪”として薩摩が設定されていることだ。
帝大講師の南辺田廣章(みなべだ こうしょう)が、12年に一度の「鉄輪(かなわ)のお役」のため、書生の…




「劉(りゅう)さん、しばらく観察して、あなたのことはよく分かりました。あなたは永遠にわたしたちに加わりはしない。何も信じていないからです」(p.259)
陸秋槎(りく しゅうさ)はこれまで 『元年春之祭(がんねんはるのまつり)』 、 『雪が白いとき、かつ…




これから語るのは、わたしがかけられた呪い(ギフト)にまつわる話だ。(「死にたがりの王子と人魚姫」より)
編者である井上雅彦が毎回テーマを決めて、名だたる怪談、奇譚、ホラーの書き手に執筆を依頼した、書き下ろ…




〈十月の国〉は「丘を越えてすぐのところ、森の彼方にある。月明かりのもとでしか行けず、暗闇のなかでは見過ごしてしまう。その国に季節はひとつしかなく、つねに秋なのである」。(「訳者あとがき」より)
どこかで誰かが書いていた。「人間には2種類ある。ブラッドベリを読んだ人と読んでいない人。そしてブラッ…




怪異譚の類いは一切を明らかにしないままの“ぶん投げエンド”が普通だが、三津田はその話を謎解きしてしまう。だが、三津田作品はどれほど謎解きしても、その物語の不思議さ、不可解さは決して消えることがない。
G・K・チェスタートンの〈ブラウン神父〉シリーズの中の1篇「折れた剣」には、有名なこんなやり取りがあ…



本書が、ちくま学芸文庫で復刊された時、近所の本屋で平積みになっていたのが数日で全部捌けてしまうのを見た。こんな本が飛ぶように売れるとは、怖ろしい世の中になったもんだ。
ドクトル・クーガこと久賀道郎の『ガロアの夢』は、1960年(何と、私が生まれる前だ!)に久賀が東大教…




ヴィトゲンシュタインとハイデガーは「同じ地点への違うルートを示した2人」と言えるのかもしれない。
ある理由(その理由はレビューとは関係ないので、ここでは述べない)からヴィトゲンシュタイン(長いので以…




トーマス・ベルンハルトの『石灰工場』が新訳版で登場。まるでミニマル・ミュージックのように繰り返される言葉による語りには、ある種の魔術的効果とも言える何かがある。
高校の時だったか大学の時だったか、私はトーマス・ベルンハルトの『石灰工場』を一度、ハヤカワ・リテラチ…