この物語に出会ったのは、小学4年生の時。
もう10年程前になります。
それまで本を読んでは登場人物の声や姿を想像して楽しんでいた私ですが、モモを読んでびっくり。どうやっても、モモの顔が浮かばなかったのです。
思えば今まで読んできた本に出てくる人たちは、どこかそれまで出会ったことのある人に似ている部分があって。だから容易に想像できたのでしょう。
しかしモモは、初めて出会う種類の人間でした。
とある劇場の廃墟に住み着いた女の子、モモ。
どこからやってきたのかもわからない。だけど次第に町の人々にとって無くてはならない存在になっていく。モモには特別な力があったから。
それは、「話を聞く」ということ。
モモはみんなの話をじっと聞くだけ。それだけなのに、なぜかモモに話を聞いてもらうとみんな不思議と心が落ち着いて、新しい良い考えが浮かぶのです。
他のどんなファンタジーの主人公よりも平凡なこの能力に、幼い私は魅了されました。それがどんなに難しいことか、誰にでも出来るわけじゃないということがわかったからです。
そんな風に町の人たちと助け合いながら仲良く暮らしていたモモの前に現れる、「灰色の男たち」。
彼らは言葉巧みにみんなを操り、モモの大切なひとたちから「時間」を奪ってしまいます。時間を盗まれた人たちは自分の時間に余裕が無くなり、いつでも忙しく働いて、夢や希望や楽しいことを全部忘れて、元気も笑顔も消えてしまいます。
モモはみんなの時間を取り戻すために、ひとり灰色の男たちと戦うのです。
激しいアクションも、ドキドキするような魔法も出てきません。
それなのにこんなに心を動かされる物語が他にあるでしょうか。
モモに出来るのは話を聞くということだけで、その他は全く普通の女の子。何が出来るというわけでもありませんが、友達の為に一生懸命動きます。
途中モモを助けてくれる、30分先の未来がわかるカメのカシオペイア、その主人のマイスター・ホラ。彼らもまた不思議な魅力を持っています。
彼らはモモの味方ですが、どうせならもっと助けてあげてよ!と言いたくなるくらいのことしかしてくれません...。
の、ですが。それがまたいいのです。
彼らのくれるヒントを頼りに、モモは自分で考えます。自分の力で、みんなを救うのです。
今ならあの頃の自分が、この物語のどこにそんなに惹かれたのかわかります。
みんなを受け入れるだけのモモの心の強さ、深さ、大きさ、そして純粋さ。誰もが持っているわけではありません。
小学生の私にも、幼いながら悩み事はたくさんありました。モモみたいに強くなれたら。見た目や能力の問題じゃない。心が、強くなれたら。無意識のうちにそう願っていたのだと思います。
成人した今でもこの本を手元に置いて、たまに読み返すのは、モモのような人間になりたいから。夢を忘れず、希望を忘れず、心が貧しくなることのないように。
日々やることに追われて「時間がない」とぼやきがちな自分を、優しく楽しく諭してくれるこの物語を私はきっと、一生手放せません。
モモは児童文学で、しかもファンタジーですが、込められたメッセージには大人の方が気付かされることの多い物語だと思います。
時間に追われて疲れ気味な社会人に読んで欲しい一冊です。
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