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放浪の作家D.H.ロレンスが描いた、イタリアの秘境への旅。

  • レビュアー: さん
  • 本が好き!1級
海とサルデーニャ: 紀行・イタリアの島
ロレンスは英国の炭鉱労働者の家庭で育った作家だが、波乱万丈の生涯を送ったらしい。

第一次大戦前に大学の恩師の妻だったフリーダと恋仲になってドイツに駆け落ちしたが、そのドイツで英国のスパイの容疑をかけられイタリアに逃れたとのこと。その後イタリアでフリーダと正式に結婚し、長編小説「虹」を出版したが猥褻だとして発禁処分になった。イギリスのコーンウォールに移るがここでもスパイ容疑をかけられ、英国内を転々とするが、第一次大戦後の1919年にイタリアへ移住した。そして1921年の1月から一週間、当時住んでいたシチリア島からアルデーニャ島へ旅行してこの紀行文を書いたという。

妻のフリーダはドイツ貴族の娘だったから、イギリスでロレンスがスパイ扱いされたのはそのためらしい。この結婚の結果、ロレンスは放浪の作家になったと言えるのかも。

第一次大戦でイタリアは英仏と手を組み、元は同盟国だったドイツ、オーストリアと戦ったが大した戦果を得られずに経済は疲弊していたらしい。旅で出会ったイタリア人はロレンスが英国人だと分かると、イタリアのリラのレートが暴落して、戦勝国なのに何も買えないと不平を言う。

この旅行記では妻のフリーダはクイーン・ビー(女王蜂)と呼ばれている。女王蜂のように貫禄のある女性だったのかも。

新年にシチリアの自宅を出て船に乗ってサルデーニャ島へ向かう。旅の行程は出たとこ勝負らしかった。当時の東地中海の船旅の様子が偲ばれる。乗った客船はエンジンで走ったようだが周りにはまだ帆船が走っている。向かい風の中をジグザグに航路を切り返しつつシチリアへ向かう帆船とすれ違う。客船の甲板には何の仕事をしているのか不明の船員がたむろしている。外洋では船はひどく前後に揺れてお客は皆気分が悪くなる。

サルデーニャの南端の港町、カリアリに着く。町では断崖の上にある古い城塞へ登ってみる。到着した日は町のお祭りで上流階級の女たちの立振舞いは美しい。農民たちは皆民族衣装で着飾っている。ロレンスはこの民族衣装が気に入ったようだった。

カリアリから島を北上するには島の西側を走る国鉄と島の中央の山岳地帯を走る狭軌鉄道があったが、ロレンスらは狭軌に乗って山の中を進んだ。

汽車の窓から見る冬のサルデーニャの風景は以前住んでいた英国のコーンウォール地方のランズエンドを連想させた。

汽車が谷間の町に着きロレンスらは宿を求めた。この宿はリストランテと名乗っていたが食事は貧しくわずかの肉とブロッコリーだけで、コーヒーもミルクもない。ベッドのシーツも汚れていて、翌朝に怒ったロレンスは宿屋の主人と激しくやり合う。二人は宿で知り合ったバスの運転手の勧めに従い、路線バスで山の上のこの地域の中心都市ヌーオロへ向かうことに。

バスが出発する前の霞がかかった村の風景を見てロレンスは美しさに打たれる。バスは途中で止まって付近の農民を乗せたり下ろしたりしながら山肌を穿って作られた山道を楽々と走って行く。こんな僻地にもバスの通れる道路を作るイタリアにロレンスは関心する。英国ではこうはいかない。

サルデーニャでは山の上にシチリアやイタリア本土では必ず見られるお城や城塞が見られない。

途中でバスに乗り込んでくる女性たちの民族衣装は集落により異なりどれも彩りが美しい。ヌーオロの町のホテルの部屋は素晴らしく、窓から下を眺めているとマスクを付けて女装した男たちが女を冷やかしながら通りを練り歩いている。今日は日曜日だった。月曜日にロレンスらはまたバスに乗って港町のテッラノーヴァを目指す。

バスは途中で寂れたオロゼーイの町に停まり、その後は海沿いの断崖の道を北へ向かう。車掌が近づいてきて二人にフランスの悪口をいう。ロレンスにイギリスで職を斡旋して欲しいという。その後乗ってきた乗客の一人がロレンスらがドイツ人だと思って、戦争中ドイツ人がサルデーニャに強制収容されていたことを他の乗客に話す。しかしロレンスがイタリア語が解ってかつイギリス人だと知って驚く。

二人はテッラノーヴァで船に乗りイタリア本土に渡ると、トリノから来た急行に乗りローマでナポリ行に乗り換えた。ナポリ発シチリア行の船は豪華客船のトリエステ号で、やっとの思いで乗船切符を手に入れた。

船の食堂ではイタリア人と同席になった。宝石商の若者と金ピカのセールスマンだ。ここでもまたイギリスのポンドとイタリアのリラとの為替レートの話になった。イタリアは戦勝国なのに敗戦国のドイツと並んで貧しいままだと。ロレンスはついには切れてしまい、イタリア人はしゅんとなった。

パレルモでは妻が観たいというのでマリオネットの芝居小屋に入った。中世の劇で12人の騎士が人食いの魔女と戦う。ブリテンの騎士も出てくるが口先だけで弱い。これが為替レートの影響なのかどうかとロレンスは疑う。ちなみにスペインの騎士は敵方だ。イギリス人がイタリアでイジメられるのは世界のリーダーたる英国が他国を足で踏みつけにするからだとロレンスはいう。

こうしてロレンス夫妻のサルデーニャへの旅は終わった。この後ロレンスはメキシコに移り住みここでも旅行記を書いている。そのうち読んでみたい。
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  • 掲載日:2026/05/02
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