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そうきゅうどう
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本作はミステリとして結構凄い。事件は本格謎解きミステリ並みに複雑な上、その一部は多分、「ミステリ史上例を見ない特異な犯行動機」で行われていたことが明らかになるのだ。
ニューヨーク市警巡査部長〈キャシー・マロリー〉シリーズ第3作。前作『アマンダの影』で停職処分中だったマロリーは、本作『死のオブジェ』で晴れてニューヨーク市警への復帰を果たした(が、このことについては一切言及なし)。

画廊で起こったアーティスト刺殺事件。それは12年前に同じオーナーの画廊で起こった猟奇的事件との関連が示唆されていた。12年前の事件で逮捕された男は本当に犯人だったのか? マロリーは当時の事件の捜査に当たった亡き養父が残した膨大なメモを手掛かりに、過去と現在の事件の真相に迫る。

『アマンダの影』のレビューでも述べたように、キャロル・オコンネルは元々、人物描写の非常に上手い人ではあったが、第3作になって益々その筆力が上がってきたのが分かる。例えば、プロローグでアーティストのディーン・スターが自身の個展の最中に刺殺されるシーンの一部。
ディーン・スターの頭が、彼の意識には届いていないドラムのビートに合わせ、ほんのかすかに上下している。今夜、彼の意識に届いていないものは他にもたくさんあった。事実、彼はたったいま刺されたところなのだが、それを意識できずにいる。
ドラッグとワインとは、脳の交換機のオペレーターをダウンさせていた。体内の伝達ラインは損なわれており、傷は痛みにつながらない。接触は感じたものの、彼にはそれが何なのかわからなかった。なぜなら、己(おのれ)の内部は見えず、従って、アイスピックの鋼による損傷も把握することはできないからだ。そしていま、心室からは血が流れ出している。状況もわからぬまま、次第に弱っていき、ディーン・スターはずるずるくずおれ、その頭は、まるで枕に着くように硬材の床にそっと落ちた。(p.11-12)
刺された男が徐々に死んでいく様子が、被害者視点の三人称表現で美しく描かれている。

また本作で述べられるニューヨークのアート・ビジネスの裏側が興味深い。例えば、売れないアーティストが別名で評論家もしていて、その人は評論家名義で自分の作品をボロクソに酷評する記事を書くのだという。そうすると、それを読んで「そこまでひどい作品とは一体どういうものだろう」と興味を持って見に来る人が現れ、中には作品を買ってくれる場合もある。まさに悪評すらカネに換えてしまうのが、物語の舞台であるニューヨークという街だ。美術評論家のJ・L・クインはマロリーにこう言ってのける。
「法律? ああ、法律は金で買えますからね。(後略)」
「法律を買ったですって?」
「いいですか、マロリー、ニューヨークでは何だって買えるんです」
「わたしは法の執行者なんだけど」
「よくわかっていますよ。勘弁してください。お互い大人なんだから。この町は、誕生して以来、六分と不正が途絶えたことはないんですからね。ここで買えないものがありますか? 男、女、子供──何だって買える。セックスの相手にしてもいいし、ただスペアパーツとして内臓を取ってもいい。(後略)」(p.287)
そして本作はミステリとしても結構凄い。事件は本格謎解きミステリ並みに複雑な上、その一部は多分、「ミステリ史上例を見ない特異な犯行動機」で行われていたことが明らかになるのだ。この「ミステリ史上例を見ない特異な犯行動機」というのは、ジョイス・ポーターの『ドーバー4 切断』に使われた惹句だが、私はこの『死のオブジェ』にも使っていいと思う。そのくらい特異な、「その発想はなかった!ヽ(; ゚д゚)ノ 」というものだったのである。
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そうきゅうどう
そうきゅうどう さん本が好き!1級(書評数:622 件)

「ブクレコ」からの漂流者。「ブクレコ」ではMasahiroTakazawaという名でレビューを書いていた。今後は新しい本を次々に読む、というより、過去に読んだ本の再読、精読にシフトしていきたいと思っている。
職業はキネシオロジー、クラニオ、鍼灸などを行う治療家で、そちらのHPは→https://sokyudo.sakura.ne.jp

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