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寒露さん
寒露
レビュアー:
「属人化」を徹底的に批判する書籍 具体例は皆無
 替えがきかない存在になりたい。その思いを叶えるために会社勤めをするのは危険だと本書は説く。職場にて、「あなたにしかできない」「あなたがいないと困る」と言われた経験、ないしはそう言われている存在を見たことはないだろうか。言われる側としては悪い気はしないかもしれない。専門的な技能が必要な職場であればなおのことだ。

 しかし、本書ではこうした言葉は「麻薬だ」と断じる。組織として、代替不可能な人材がいるということはバグであり、経営上のリスクが大きい。むしろ、全ての従業員が与えられた役割を完ぺきにこなす「歯車」であることこそが、組織としては理想の形だと説く。
 ここまでの話を聞くと、理屈はわかるが感情的に納得しがたいと感じる。組織の歯車として、個性を出さずに凡事徹底を貫くことが社会人としてあるべき姿。それは、今の「自分らしさを活かして働こう」といった世間に広がっているメッセージとは相反する。一般論としては理解できる。それでも、自分がそうなりたいかと言われると首をかしげてしまう。

 少し話外れるが、私は本書の主張と「歯車」というワードから、とあるアニメのセリフを思い出した。

『歯車には、歯車なりの意地がある。お前はお前の役割を果たせ』――ダグザ・マックール

 こちらは、機動戦士ガンダムUCで登場する特殊部隊の戦士が、主人公に向けて告げる言葉だ。ダグザは乱暴に例えるならば日本の公安に近い組織に所属しているため、「お上の言うことに従う」という意識が極めて強い。それが、自分の命を失う可能性が高い命令であったとしても。
 現代日本では、ダグザのような働き方は「社畜」とされて冷笑されがちだ。実際に、ダグザは社畜キャラという扱いを受けているシーンをしばしば目にする。だが、一般的に日本企業でイメージされる社畜と、ダグザは少し違うように思う。彼はステレオタイプの社畜ではない。己を歯車に例える職務意識の高い軍人だが、他方でそれを決めるのはあくまで己の心だと考え、その考えを上述のセリフと合わせて主人公に伝えている。そういったこともあってか、登場シーンが少ないにもかかわらず、強く印象に残るキャラクターとなっている。

 本書が繰り返し伝えている「組織で働くならば、歯車であれ」というメッセージは、ダグザの言動を振り返ってみるとわかりやすいと感じた。むろん、特殊部隊の軍人が上の命令に逆らうことは許されない。しかしそれは一般企業でも同じではないだろうか。
 現代日本では、「働き方改革」の急速な推進と、それに対応が追い付いていない企業の間にひずみが生じた結果、「会社の方針を言われるがまま受け入れるのは愚かだ」という勤め人の思考が共感されやすくなっているように感じる。SNSで旧態依然とした企業体質の告発が相次ぎ、それに多くのいいねが付く状況は、そうした社会環境の一端を示していそうだ。

 しかし、そもそも「組織」というのは、基本的な決まり事を構成員が守らなければ成り立たない。何もかもを無思考で受け入れるのは、確かに今の時代リスクが高い。他方で、社歴が長い……すなわち「旧態依然」とした企業ほど、つくられてきた決まり事には何かしらの意味がある。その「意味」が現代に適合しているかを逐次確認し、適合していなければ即座に改める。これが、本書のタイトルになっている「仕組み化」の意味だと私は理解した。

 ここまで来てもなお、「本書で言いたいことはわかるが、従えるとは言いがたい」という思いが強い。結局のところ、いちプレイヤーが組織の歯車として凡事徹底を貫くためには、会社の決まりごとが適切に定められていること・マネジメント職にある者が適切に決まりごとを運用していることが前提となる。だが、それができていない企業が圧倒的大多数だから、「歯車であれ」と言われると反発したくなってしまうのだ。

 卵が先か、鶏が先かという議論にもなるが、プレイヤーが凡事徹底を貫きつづけることが難しい会社は、仕組みがうまく回っていない。その場合経営層が仕組みを見直さなければならないが、見直した仕組みに適合できるのは、今まで「あなたがいないと困る」と言われたことが無い人ばかりになるだろう。今までいびつな仕組みの元、現場を回してきた能力を持つ人は会社を去る。その過渡期に、果たして既存の会社は倒れずに残ることができるのだろうか。そんなことも考えてしまった。

 このように、理屈はわかるが腹落ちはしない、と感じる内容が多い本書だったが、唯一以下の部分は腑に落ちた。曰く、「歯車として生きる」のはあくまで会社の中だけの話であり、「代替不可能ないち個人として生きる」コミュニティは別で持っておくべきだという主張だ。かんたんにまとめると以下の二種類に分けられる。

・「属人化」が許されない歯車として生きるコミュニティ=会社
・「属人化」が許された替えがきかないコミュニティ=友だち/家族/趣味など

 両者を混同している人が多い点に、日本組織の問題があると筆者は説く。この話は本書の後半に出てくるのだが、個人的にはこのくだりが冒頭にあったほうが、話に入っていきやすかった。「自分の替えがきかない」という実感を持って所属するコミュニティの存在を認めた上で、「だが、会社はそういった性質のコミュニティではないと認識すべきだ」という主張であれば、まだ受け入れやすかった。はじめに「自分は替えが聞かない存在だ」という考え方は麻薬である、という強い言葉で否定されてしまったことで、心象的に受け入れにくい理論展開になっていた感が否めず、その部分が惜しいと感じてしまった。


(書評執筆日:2025年12月14日)
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寒露
寒露 さん本が好き!1級(書評数:258 件)

読む本のジャンルは雑食。
基本的にはネタバレなしですが、シリーズものの二巻以降の書評では、前巻を読まないと知りえない情報に言及していることがあります。

2021.4.8 投稿開始
2021.5.7 2級昇格
2022.4.8 1級昇格
2023.7.21 投稿作品が100冊を突破!
2025.3.31 投稿作品が200冊を突破! 
『百冊一評』というタイトルで書評集を出版しています(下記リンク参照)

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