鴎外の子供たち―あとに残されたものの記録
たぐい稀なる世紀の才人を父に持ち、一般のご家庭とはどうしたって異なる交遊関係や家族たちの中で育つことは、幸福でもあり、不幸でもあり。何かお伽の国の出来事のようでもある。
本が好き! 1級
書評数:253 件
得票数:704 票
約2年間、ありがとうございました。
ズレが大きくなってしまったので、ひとまず退会いたします。
献本に55冊応募して、いただいたのは9冊。ご参考まで。
またどこかでお会いしましたら、よろしくお願いします。
たぐい稀なる世紀の才人を父に持ち、一般のご家庭とはどうしたって異なる交遊関係や家族たちの中で育つことは、幸福でもあり、不幸でもあり。何かお伽の国の出来事のようでもある。
人は人の何に惹かれるのか。あまりに違いすぎるお互いの人生を、どこまで許し合い、どこまで認め合えるのか。違いが悪いわけではないのに、違いすぎてうまくいかない、それでも好きでいられるのか。
「シェリ」が、40代の、財産も教養も知恵もあるレアが、それを持たないシェリを引きつける、という構図で…
40代女性と20代男性という、恋愛としては稀少な組み合わせのこのお話、もっと稀少なのは、夢中になるのが年上の女性のほうではなく年下男性のほう、というところ。それを、あくまで崩れのない硬質な文体で描く。
恋愛がより燃えあがるためにはいくつかの障壁が必要だが、昔の定番であった「家柄」「貧富の差」「戦争」な…
喪失についての物語。コドモの本じゃないです、何かを失ったことのあるオトナが読んでこそ、せつないです。
「愛とは、決して後悔しないこと」…おセンチであろうとも、結局はこれに尽きる、のだろうか。「セカチュウ」で泣くくらいならこれで泣け、とあえて言おう。
ああこの人はどうしてこんなにも。失ってしまったものを、失ってしまったのにどこかにきっとあるものを、こんなにも。
こわくて、かなしくて、やさしくて、温かいものを、胸のどこか奥深く、人はやはり持っていないと。コドモでも、オトナになっても、いつの時代でも。
長らく天文台に勤めてきた天文学者である著者の、星や宇宙への愛がひしひしと伝わってきて、地味だけれど温められます。
タイトルがよい。手触りがよい。素直な文体がよい。出てくる人物の味がよい。イワタコーヒーで珈琲とエクレアが食べたくなります。
読後感が暗くないのが不思議。どこへ行こうと、過去やしがらみと決別したり、新しい人生を歩んだりすることは、まあ容易じゃないけれど。
だって、 アメリカの息子たちのところへ来たはいいが、孫たちがすうかり中国の伝統や文化をいやがって名…
「バケツの騎士」「田舎医者」「断食芸人」など。不条理と言うには繊細でせつなくて、少し牧歌で。カフカ以上にカフカ的。
スコット・スナイダー「ヴードゥー・ハート」とか、ミランダ・ジュライ「妹」とか。笑ってしまう、でもどこか身につまされる、今笑った私を誰かに見られていやしないかキョロキョロしてしまうようなお話が11編。
翻訳の初期のあれやこれやが、まとめて読めて、読み易い。しかし、こんなに本の好きな人に訳される本は幸せです。
アメリカ南部というのも、へんな作家、へんなお話のいっぱいあるところで。吸い込まれそうなへんさが癖になります。
「小説を書けば事件が何も起きず退屈だと言われ、エッセイを書けばまわりくどくて難しくてわからないと言われる」とご本人が仰るが、これはさらりと読みやすいエッセイ。流れている時間の速度は、小説の中と同じだ。
フィッツジェラルド、ヘミングウェイ…華やかな交友関係でいいね、という話ではない。たとえどんなに悲惨で過酷で苦しい人生であったとしても、優雅に生きることが、人生に対する「最高の復讐」だと思い知る。
イギリスの新聞に掲載された広告「人魚へ。とうとう帰り着いた。連絡を待つ。ビスケットより」…なんと魅力的な謎ではないか!
そういえば、しばらく道草してないなあ、迷子になってないなあ。落ちたら困ったことになるとわかっている穴に、自ら進んで足を突っ込んでみると、こんなものが見えてくるわけです。穴があったら、入るに限る。
そうなのだ、出先で本を読んでいて何か気になってひっかかり、付箋を持っていないことに気付いた時の焦りと…
沢木耕太郎は、「いや、」の人である。「しかし」を越えて、「いや、」が突出して多いのがの特徴である。登場人物たちは一度思い、そして「いや、」と思い直す。
ということを、「虹の髪」を読みながら、思い出した。 単行本で14ページの短篇の中に、「いや、」が4…
下流大学の下流教師として下流生活を送るクワコーの回りには、癖だらけの教授たちや文芸部員たち。クワコーにはクワコーの。生活と意見と悩みと事件。スーパーの値下げ目指し、自転車とばして今日も行く。