余った傘はありません



「四月一日」――エイプリルフールの日からはじまる双子の姉妹の物語は、嘘と秘密、悲哀と祝福との混沌だ。お笑い芸人・鳥居みゆきの描く、いまいち笑えない人間喜劇、悲劇、あるいは惨劇。
本書には、双子の姉妹――姉・よしえと妹・ときえのふたりの物語を主軸に据えた全十八編の掌編小説が収めら…

本が好き! 1級
書評数:154 件
得票数:858 票
小説を読んだり書いたり。
日本やロシアの純文学を中心として、童話やミステリ小説にも手を出しています。そしてその何倍もの漫画を読んでいます。
本が好きなのです。



「四月一日」――エイプリルフールの日からはじまる双子の姉妹の物語は、嘘と秘密、悲哀と祝福との混沌だ。お笑い芸人・鳥居みゆきの描く、いまいち笑えない人間喜劇、悲劇、あるいは惨劇。
本書には、双子の姉妹――姉・よしえと妹・ときえのふたりの物語を主軸に据えた全十八編の掌編小説が収めら…




彼女たちを翻弄するのは、運命ではない。彼女たちはそれを受け入れ、自らのものとしてしまっている。彼女たちを翻弄できるのはただ、その不自由でどうにもならない心のみである。
キャシーは三十一歳で、十一年以上のあいだ〈介護人〉として働いていた。車でイギリスの田舎を走り、〈提供…





マイマイの弟・ナイナイは、マイマイにしか見ることができない。マイマイとナイナイは、同じ景色を見る。マイマイにしか見えないはずのものを、ナイナイは見てしまう。皆川博子の世界が、〈怪談えほん〉に描かれる。
小さな女の子のマイマイは、小さい小さい弟のナイナイを見つける。けれどもナイナイは小さすぎて、お父さん…




『家族八景』、『七瀬ふたたび』に続く〈七瀬三部作〉の最終章、ひとの心を読むことのできる超能力者・火田七瀬は、ひとりの少年に恋をする。その結末は思いがけなく、読後しばらく放心状態を味わうこととなる。
高校の事務員として働く日々を送っていた七瀬は、ある日放課後の校庭で起きた不可解な事件をきっかけにひと…




テレパスの女・七瀬と、同じく超能力を持つ者たちとの出会いと別れの物語。家々を渡り歩く一能力者の孤独な境遇を描いていた前作に対し、今作では、人類における超能力者の存在がひとつのテーマとなっている。
超能力者・火田七瀬は、自身がテレパスであることを知られるのを避けるため、高校を卒業して以来続けていた…




ひとの心を読むことができるテレパスの娘・七瀬が、お手伝いとして、さまざまな家庭の裏側を垣間見ていく。そこには、言葉や飾りによって偽られた空虚な家庭の姿があり、見えてしまうことのかなしさやこわさがある。
他人の心を読み取ることのできるテレパス・火田七瀬は、高校を卒業してからというもの、自身の能力が露呈す…



〈家族の絆〉をテーマにしたシリーズの第三弾、古書に秘された物語とともに、栞子さんの母親・智恵子の人物像も徐々に明らかになっていく。もうひと味ほしいところだが、やはり読み心地いい作品だ。
ビブリア古書堂の店主・栞子さんに連れられ、初めて「古書交換会」に参加する《俺》であったが、そこで出会…




ナイジェリアの作家アディーチェが、アフリカやそこに生まれた人々の〈いま〉の姿を描いている。イメージでかたどられた張りぼての殻が破られ、その中から生まれ出た本当のアフリカが静かに息づきはじめる。
ナイジェリアにあるおばあちゃんの家の庭に立ち、《きみ》は十八年前の夏の日のことを思い起こす。それは、…




想い人と添う道と料理人として突き進む道――苦心の末、その一方を選んであゆむ澪であったが、つらい決断の先に幸せな未来があるとは限らない。読んでいてつらく、今回ばかりは食欲も沈黙してしまっていた。
人生の岐路、苦しい選択を強いられた女料理人は、ついにその決心を想い人に告げる。もはやあと戻りはできず…



とんち話や笑い話、こわい話、ミステリアスな話――とバラエティ豊かなショートショートが二十四編収められている。わずか二行で終わるお話もあり、好きなタイミングで気軽に手に取れるのがいい。
圧倒的な人気を誇るテレビ番組「死者の挨拶」には、毎回多くの参加希望者が殺到する。見事その中から選出さ…




精巧な文章で紡がれたこの幻想的な物語に描かれてあるのは、危うくも静謐で、かなしくもやさしい〈目覚めの約束〉だ。始まりが終わりの始まりであるとするならば、終わりもまたきっと始まりの始まりなのである。
「銅板」、「閑日」、「竈の秋」、「トビアス」、「青金石」の五編から成る本作は、山尾悠子著の連作長編小…




人や時代、空気といったひと言では表現し得ないものが淡々と語られるのに耳を傾けていくうち、自分がその世界に入り込んでしまったかのような、あるいは自分がその世界に満たされているかのような錯覚を覚えてくる。
男が戦争から帰ってくると、妻は情夫とともにひとつ屋根の下で暮らしていた。 しばらくの同居生活ののち…




両手両足を失くし、話すことも聞くこともできない芋虫のような夫と、その妻時子とのいびつな関係は、ある夜悲しい結末を迎えることとなる。グロテスクながらもどこか美しい、不思議な物語の数々であった。
戦争で多くの傷を負い、声や聴覚、四肢のすべてを失って帰ってきた夫は、まるで芋虫か肉独楽かと思われるよ…




夜市がひらかれ、異世界の住人たちがそこに集う。奇怪な品々、形ないもの、そして人間の子どもなどが売り買いされるその場所からは、何も買わずに帰ることは許されない。静かで濃密、幽玄な物語であった。
今宵は夜市がひらかれる――学校蝙蝠がそう告げるのを耳にして、裕司はある決意を胸にその地を訪れる。かつ…




自作した椅子の中に身を潜め、そこに座った者の感触を皮一枚隔てて味わう――醜く孤独な椅子職人の楽しみは、あまりに異常で猟奇的なものであった。変幻自在、奇々怪々な物語の数々に、頭が毒されてしまう。
ある女流作家のもとに、「奥様」という呼びかけからはじまるひと束の原稿が届けられる。 そこに綴られて…




パイロットの〈僕〉は大人にならない子どもで、戦闘機に乗って敵を撃つ仕事をしている。生き続ける限り、誰かに殺されるその時まで、〈僕〉は誰かを殺し続ける道を選ぶだろう。どこまでも無機的で乾いた物語だ。
〈僕〉はパイロットだ。戦闘機に乗り、戦争をして生きている。 右手で誰かを殺しながら、誰かの右手が自…




怖くても、目をそむけられない。見たくなくても、見ずにはいられない。古い家の上のほうにある暗いところが、〈ぼく〉にはどうしても気になってしまう。京極夏彦のつくる、怪談絵本。ゾクゾクドキドキワクワクする。
しばらくのあいだ、〈ぼく〉はおばあさんのところで暮らすことになった。そこは古い家で、柱は太く、少し暗…




大店の「若だんな」と妖怪たちが協力し合い、江戸の町で次々と発生する殺人事件の真相解明に奔走する。妖怪のいる日常には、どこかちぐはぐでいて妙にあたたかな人情味が漂う。ほのぼのと楽しい一冊だ。
江戸の廻船問屋兼薬種問屋のひとり息子で、その病弱さを気にかける両親から蝶よ花よと育てられてきた「若だ…




謎多き古典部に所属する一年生四人が、日常に起きるいたって日常的な謎の真相を解き明かしていく。口の中でゆっくり味を変える、そんな不思議なソーダ水を飲んだような気分にさせられる。
《省エネ》をモットーにして無関心に生きる少年折木奉太郎は、姉が放った鶴のひと声により、半ば強引に廃部…



江戸のとある家庭を舞台に、ささやながら人情味あふれる物語が繰り広げられる。偏食のきらいのある娘、のぶと、食道楽な舅、忠右衛門との関係は見ていて心あたたまり、全体に漂う妙に抜けた雰囲気は心地がいい。
憧れていた男のもとに嫁いだはいいが、子を二度流し、夫からはつれなくされ、日々つらい生活を送ることを余…