ニコライ堂とは、御茶の水の駅からほど近いところにある、有名な歴史的建造物です。魅力的な建物と感じつつも、実はまだ中に入ったことがありません。「いつかは、」と思いつつ、したことがないことの1つです。本書はそのニコライ堂を焦点の1つにしつつも、日本の正教会の聖堂建築史をまとめた1冊です。
60頁とちょっとのブックレットですが、ニコライ堂こと東京復活大聖堂についての1章を含み、日本国内の正教の教会建築の歴史と特徴について手際よくまとめており、想像以上に読み応えがありました。残念ながら、ニコライ堂の写真集ではありませんが、小さい中に国内の聖堂建築の写真をいくつも盛り込んでいます(表紙に3つ、見返しに6つのカラー写真)。
巻末には日本ハリトリス正教会教団の全聖堂・会堂のリストが掲載されています。小さいながら日本国内の正教教会建築総覧の趣です。そもそも正教会だけではなく、日本のキリスト教人口そのものもさほど多くはないはずですが、正教教会建築は北海道から鹿児島や熊本の人吉まで意外に数多くあることがわかります。
この数の多さは、正教会信者の人口の多さというより、幕末の函館からはじまった布教の歴史の長さを反映しているのかもしれません。そんな歴史も簡単に解説されていきます。
本文では、日本各地に残る教会建築の様式や紹介に割かれ、ニコライ堂そのものについて扱うのは第四章です。設計者・シチュルーボフの来歴から百年をこえるニコライ堂の歴史まで手際よく紹介されています。関東大震災で大きな被害を受けつつ、大々的に修復された詳細など、知らないことが多かったです。
ニコライ堂は、もちろん正教の教会建築であるわけですが、「東京のランドマーク」としての歴史も長い建築であり、その部分の歴史ももう少し知りたかったところです。ニコライ堂から撮った東京の俯瞰写真が有名ですが、他にもいろいろ撮影されて来たのではないでしょうか。
また、本書でも詩にうたわれたことが少し紹介されていますが、どんなものだったのでしょう。後年、山田風太郎も小説の舞台の1つにするなど、文芸作品の中にもいろいろ取り入れられて来たのではないでしょうか。そのあたりも気になるところです。建築史を専門とする著者と限られたスペースの中では、少々ないものねだりではありますが。
この書評へのコメント