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  1. 「フランケンシュタイン」をみんなでゆっくり読んでいく会 後篇
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「フランケンシュタイン」をみんなでゆっくり読んでいく会 後篇

登録日:2017年05月21日 10時16分
フランケンシュタイン
タイトル:フランケンシュタイン
著者:メアリー・ウォルストンクラフトシェリー
出版社:
発売日:2012-09-13
価格:
平均レート:
テーマ主催者:
哀愁亭味楽 さん
哀愁亭味楽さん

テーマの説明

メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」をみんなで読もうという企画です。

毎週日曜日に青空文庫の「フランケンシュタイン」のテキストをコピペして投稿します。皆様はそれを読んで、コメントの下のぶら下がりコメントに好きなことを書きこんでください。

今年の10月最後の週をもって読了する予定です。4000字ずつくらいのペースで読んでいきます。

みんなでわいわいがやがや言いながら一つの作品を読んでいったらどうなるんだろう? という実験ですので「まだ読んだことがない」というそこの貴方、是非この機会に一緒に読んでいきましょう。

もちろん既読の方のコメントも大歓迎です!

一緒に読んでいくのもよし、まとめ読みでの参加も大歓迎です!

ちなみに前篇は

http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no264/index.html

です。

ご参加、お待ちしています!
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  1. 1
    主催者
    哀愁亭味楽
    哀愁亭味楽 さん
         13 アラビア娘の来訪


    「さて、話を端折って、もっと大事なところに入るとしよう。で、以前のわたしを今のわたしに変えた気もちを 押しつけられた出来事について、つぎに述べることにする。
    「春はたちまちのうちにたけなわとなり、天気がよくなって、空には雲もなかった。以前は荒凉として陰欝だったものが、今はすこぶる美しい花や線で燃え立つばかりになったのには、驚いてしまった。わたしの感覚は、無数の気もちのいい香り、無数の美しい眺めでもって、満足させられ、元気づけられた。
    投稿日:
    2017年05月21日 11時04分
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    • GOOD!305/21 23:56
      「花や線」は「花や緑」の誤植だと思います。創元版では「花と若草」。
    • GOOD!205/22 00:03
      あ、ほんとだ。ここはverdureなので、新緑という感じでしょうかね。
    • 2
      主催者
      哀愁亭味楽
      哀愁亭味楽 さん
      「こういった日がつづいているうち、ある日、家の人たちが定期的に仕事を休んで――老人がギターを弾き、若い者たちがそれに耳を傾けていた時のことだったが、わたしが見ていると、フェリクスの顔いろがなんとも言いようのないくらい憂欝で、しきりにためいきをついた。すると、父親が、一度はその音楽をやめて、息子の悲しみの原因を尋ねたことが、そのしぐさで察しられた。フェリクスは快活な口ぶりで答え、老人がふたたび音楽をはじめたとき、誰かが戸をたたいた。
      投稿日:
      2017年05月21日 11時08分
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      • 3
        主催者
        哀愁亭味楽
        哀愁亭味楽 さん
        「それは、馬に乗って土地の者を道案内につれた婦人であった。婦人は黒っぼい色のスーツを着、黒の厚いヴェールをかけていた。アガータが何か尋ねたが、それに対してその見知らぬ婦人は、美しい声で、フェリクスの名を言うだけであった。その声は音楽的だが、この家の人たちの誰の声とも似ていなかった。それを聞いてフェリクスが急いでそのそばへ行くと、婦人はそれを見てヴェールをはずしたので、天使のような美しさと表情に溢れている顔が見えた。髪の毛は黒光りがして、妙なぐあいに編みあげてあった。眼は黒かったが、いきいきとしていながらやさしかった。顔立ちは整っており、肌の色は驚くほど美しく、頬は愛らしい薄桃色だった。
        投稿日:
        2017年05月21日 11時08分
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        • 4
          主催者
          哀愁亭味楽
          哀愁亭味楽 さん
          「フェリクスは、この婦人を眼にすると、歓びにすっかり心を奪われたらしく、悲しみのあとかたもない顔になって、そんなことがありうるだろうかとわたしが信じかねたほど、たちまち有頂天の歓びを見せた。こうして、頬が嬉しさに紅潮すると、眼が輝き、その瞬間にわたしが、この男も御婦人と同じように美しいなと考えたくらいだった。婦人のほうは、それとは違った感情に動かされたように見え、その愛らしい眼の涙を拭きながら、フェリクスに手をさし出すと、フェリクスはむちゅうになってその手に接吻しながら、わたしにわかったかぎりでは、あいてを僕の美しいアラビア人と呼んだ。
          投稿日:
          2017年05月21日 11時09分
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          • 5
            主催者
            哀愁亭味楽
            哀愁亭味楽 さん
            婦人はそのことばがわからなかったらしかったが、それでもにっこり笑った。フェリクスは、手を貸して婦人を馬から下ろし、案内人を帰してから、婦人を家のなかに連れて来た。息子と父親のあいだで何やら会話が交され、その見知らぬ婦人が老人の足もとにひざまずいて、その手に接吻しようとしたが、老人はそれを立たせて、愛情のこもった抱擁をした。
            投稿日:
            2017年05月21日 11時09分
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            • 6
              主催者
              哀愁亭味楽
              哀愁亭味楽 さん
              「見知らぬ婦人は、明哲な声で語り、自分の国のことばで話しているように見えたが、それは、この家の人たちの誰にもわからず、婦人のほうでも、この人たちの言うことはわからない、ということに、わたしはすぐ気づいた。みんなはわたしにはわからない手まねをいろいろしたが、ただわたしにも、この女の人が現われたことが、家じゅうに喜びを満ちわたらせ、太陽が朝霧を払うように、この人たちの悲しみを払ったことは、わかった。フェリクスはとりわけ幸福らしく、歓びにほころんだ笑顔で、このアラビア人を歓迎した。アガータ、いつも気だてのやさしいアガータは、美しい客人の手に接吻し、兄を指して、あなたがおいでになるまでは悲しんでいたのです、というように見える手まねをした。
              投稿日:
              2017年05月21日 11時10分
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              • 7
                主催者
                哀愁亭味楽
                哀愁亭味楽 さん
                数時間がこうして経ち、そのあいだ、みんなの顔には喜びが浮んでいたが、わたしには、その原因がのみこめなかった。まもなくわたしは、客の婦人が、いくつかのことばを家の人たちにならって何度もくりかえして発音しているので、婦人がこの国のことばをおぼえこもうと努力しているのだ、ということがわかった。そこで、わたしにも、同じ目的のために、同じ教わり方をしてやろう、という考えが、たちまち起った。婦人は最初、二十ばかりのことばを教わってそれをおぼえた。その大部分はたしかに、前からわたしにも解ってはいたが、そのほかのものについても得るところがあった。
                投稿日:
                2017年05月21日 11時11分
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                • 8
                  主催者
                  哀愁亭味楽
                  哀愁亭味楽 さん
                  「夜になると、アガータとアラビア人は早く寝室へ引き取った。わかれるときフェリクスは、その婦人の手に接吻して言った、『おやすみ、サフィー。』フェリクスはずっと後まで起きていて、父親と話していたが、その名まえを幾度となくくりかえしたので、あの美しい客人のことが話題になっているのだということが察しられた。わたしはその話をなんとかして理解したいと考えたが、それはてんで不可解だということがわかった。
                  投稿日:
                  2017年05月21日 11時11分
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                  • 9
                    主催者
                    哀愁亭味楽
                    哀愁亭味楽 さん
                    「翌朝、フェリクスは仕事に出かけた。それから、アガータがいつもの仕事をかたずけたあとで、アラビアの婦人は、老人のすぐ前に腰かけて、ギターを取りあげ、心も溶ろけるほど美しい曲をいくつか弾いたが、それを聞くと、わたしの眼から悲しみと歓びの涙が同時にこぼれた。この人が歌うと、その声が森の夜鶯のように、あるいは溢れ高まり、あるいは絶えだえとなって、豊かな抑揚で流れ出した。
                    投稿日:
                    2017年05月21日 11時11分
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                    • GOOD!405/21 14:52
                      このあたりの描写も美しいですね。「この人が歌うと」以下:
                      She sang, and her voice flowed in a rich cadence, swelling or dying away, like a nightingale of the woods.
                    • 10
                      主催者
                      哀愁亭味楽
                      哀愁亭味楽 さん
                      「客人が歌い終ると、ギターをアガータにわたしたが、アガータははじめそれを辞退した。アガータは単純な曲を弾き、美しい声調でそれに合せたか、客人の珍らしい歌とは違っていた。老人はほれぼれとして聞いていたらしく、何か喋ると、それをアガータがサフィーにほねおって説明してやったが、これは、あなたの音楽のおかげでたいへん楽しい思いをしたということを、表わそうとしているらしかった。
                      投稿日:
                      2017年05月21日 11時12分
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                      • 11
                        主催者
                        哀愁亭味楽
                        哀愁亭味楽 さん
                        「それからというものは、家の人たちの顔に悲しみに代って喜びが浮んだことだけが変ったほかは、毎日毎日が、前と同じく平和に過ぎていった。サフィーはいつも楽しく幸福だった。サフィーとわたしは、たちまちのうちに単語をいろいろおぼえこみ、二箇月も経つと、わたしは家の人たちの話すことばがたいていわかるようになってきた。
                        「そのあいだに、黒い地面は草に蔽われ、緑の堤には、数えきれぬ花々が色も香も美しく咲きみだれ、星は月夜の森の梢に蒼白く輝いた。太陽はますます暖かくなり、夜は晴れて爽かになった。わたしの夜の散歩は、日の入りが遅く日の出が早くなったために、ずいぶん短かくなったが、わたしはこのうえもなく楽しかった。というのは、最初わたしが入りこんだ村でのようなひどい目に会うのは、もう懲り懲りだったからだ。
                        投稿日:
                        2017年05月21日 11時13分
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                        • GOOD!405/21 14:54
                          言葉を覚えようとするサフィーと一緒に怪物も言葉を習得していくというのがおもしろいです。
                        • 12
                          主催者
                          哀愁亭味楽
                          哀愁亭味楽 さん
                          「ことばをもっと速く習得するために、日中は周到な注意を払って過ごしたので、わたしが、アラビアの婦人よりもっと速く上達したことを誇っていいかもしれない。アラビアの婦人はなかなか解らず、めちゃくちゃな語調で話をしたが、わたしのほうは、話に出てくるほとんどすべてのことばを解し、また、それをまねることもできた。
                          「話が上達するかたわら、客の婦人に教えられる文字の知識までわたしは学んだ。すると、そのために、驚異と喜びの広い分野がわたしの前に開けてきた。
                          投稿日:
                          2017年05月21日 11時13分
                          GOOD!4コメントを全件表示1

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                          • GOOD!405/21 14:59
                            「語調」というと、抑揚なども含めた少し広い意味に感じますが、ここの原文はaccentなので、単語レベルのアクセントを怪物はきちんと発音できた、ということだと思います。
                          • 13
                            主催者
                            哀愁亭味楽
                            哀愁亭味楽 さん
                            「フェリクスがサフィーに教えた書物は、ヴォルネーの『諸帝国の没落』であった。それを読むとき、フェリクスがあまりこまかい説明をしなかったとしたら、わたしにはこの書物の内容がわからなかったにちがいない。フェリクスの言うところでは、朗読に適するこの文体が、東方の著者たちにまねて作られたものであるから、この書物を選んだ、ということであった。この著作を通じて、わたしは、歴史のあらましの知識と、世界に現存するいくつかの帝国の概観を得、地上のそれぞれに違った諸民族の慣習、統治、宗教等を知ることができた。わたしは、怠惰なアジア人のこと、ギリシア人のすばらしい天才や精神的活動のこと、初期ローマ人の戦争や驚歎すべき徳行――その後の堕落――のことを、その大帝国の没落のこと、騎士道、キリスト教、王などのことを聞いた。アメリカ半球の発見のことも聞き、サフィーといっしょにその原住民の不幸な運命に泣きもした。
                            投稿日:
                            2017年05月21日 11時14分
                            GOOD!5コメントを全件表示1

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                            • GOOD!505/21 11:45
                              ヴォルネーの『諸帝国の没落』は、調べてみてもどの本かよく分からなかったのですが、Project Gutenbergで原書は読めるようです。

                              http://knarf.english.upenn.edu/Volney/volneytp.html

                              ヴォルネーはフランスの人文学者で、『諸帝国の没落』は1791年に出版されたそうです。
                            • 14
                              主催者
                              哀愁亭味楽
                              哀愁亭味楽 さん
                              「こういう驚くべき話を聞いて、わたしはへんな気がした。人間はほんとうに、こんなに力強く、こんなに徳があって堂々としていながら、しかも同時にこんなに悪徳の卑劣なものであろうか。人間は、ある時には、悪のかたまりの子孫でしかないように見え、またあるときは、高貴なもの、神のようなものについておよそ考えられろかぎりの存在のように見えた。偉大で有徳な人になることは、心あるものに与えられる最高の名誉のように見えたし、ものの本にたくさん出てくるように、下劣で悪徳にみちていることは、いちばん下等な堕落、つまり盲のもぐらや毒にも薬にもならない蛆虫にも劣る卑しい状態のようにおもわれた。
                              投稿日:
                              2017年05月21日 11時15分
                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                              • 15
                                主催者
                                哀愁亭味楽
                                哀愁亭味楽 さん
                                人がその仲間をどうして殺しに行くようになるのかということが、いや、それどころか法律や政府がなぜあるのかということが、長いことわたしにはわからなかったのだ。けれども、悪事や流血のことを詳しく聞くにおよんで、もう驚かず、嫌悪感に胸がむかむかしてわきを向いた。
                                投稿日:
                                2017年05月21日 11時16分
                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                  主催者
                                  哀愁亭味楽
                                  哀愁亭味楽 さん
                                  「この百姓家の人たちの話は、こうして、今やみな、新しい驚異を呼びおこした。フェリクスがアラビア人に教えることを聞いていると、人間社会のへんてこなしくみがわたしにもわかった。財産の分配のこと、巨万の富やあさましい貧乏のこと、身分、家柄、高貴な血統のことなどを、わたしは聞いた。
                                  投稿日:
                                  2017年05月21日 11時16分
                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                    主催者
                                    哀愁亭味楽
                                    哀愁亭味楽 さん
                                    「こういうことばを聞いて、わたしは、自分をふりかえってみた。わたしは、人間のいちばん貴ぶ所有物が、富と結びついた高い混り気のない家柄だということを聞いた。そういった利点のうち一つだけをもっていても、人は尊敬されるにちがいないが、どちらももたないとすれば、ごくまれなばあいを除いて、無頼漢や奴隷と考えられ、自分の力を選ばれたごく少数の者の利益のために浪費する運命にあるのだ! ところで、わたしは何者だろう。自分の造られたことと造りぬしのことについては、まったく何も知らなかったが、自分が金もなく、友だちもなく、財産らしいものもないことは知っていた。のみならず、おそろしく畸形な嫌らしい姿を与えられていて、人間と同じ性質のものでさえもなかった。
                                    投稿日:
                                    2017年05月21日 11時17分
                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                      主催者
                                      哀愁亭味楽
                                      哀愁亭味楽 さん
                                      わたしは人間よりもっとすばしこかったし、もっと粗末な食べものでも生きていけた。極度の暑さ寒さも、わたしのからだにはあまりこたえなかったし、わたしの背丈は人間よりずっと高かった。あたりを見まわしても、自分と同じような者は見たことも聞いたこともなかった。それならわたしは、人間がみな自分から逃げ出し自分を寄せつけないような、ひとつの怪物、地上の汚点なのであろうか。
                                      投稿日:
                                      2017年05月21日 11時17分
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                                        主催者
                                        哀愁亭味楽
                                        哀愁亭味楽 さん
                                        「こういった反省がわたしに与えた苦悩は、お話のしようもなく、それを払いのけようとしたが、知識が深まるにつれて悲しみは増すばかりであった。ああ、最初の土地の森にいつまでも居たら、飢え、渇き、寒暑の感覚以上のことを知りも感じもしなかったのに!
                                        投稿日:
                                        2017年05月21日 11時18分
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                                          主催者
                                          哀愁亭味楽
                                          哀愁亭味楽 さん
                                          「ものを知るということは、なんとおかしな性質のものだろう! それは、ひとたび心を捉えたとすれは、岩についた苔のように心に纏いついてくる。わたしはときどき、あらゆる思想と感情を払いのけようとおもったが、苦痛の感じに打ち克つには、たった一つの手段しかない――それは死である、ということを知ったが、わたしの恐れたこの死というものがどんなものかは、まだわからなかった。美徳や善良な感情というものには感心し、この家の人たちのやさしい態度や人好きのする性質を好みはしたものの、ただわたしは、この人たちとの交際から閉め出されていて、人目をはばかって誰も知らないうちにこっそりと何かをしてやるのが関の山だったが、そのことに、この連中の仲間になりたいという願望を満足させずに、かえってそれを募らせるのだ。
                                          投稿日:
                                          2017年05月21日 11時18分
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                                          • 21
                                            主催者
                                            哀愁亭味楽
                                            哀愁亭味楽 さん
                                            アガータのやさしいことばも、魅惑的なアラビアの婦人のいきいきとした笑顔も、わたしに向けたものではなかった。老人の柔和な訓えも、愛すべきフェリクスの溌剌とした話も、わたしに向けたものではなかった。みじめな、不しあわせなやつ!
                                            投稿日:
                                            2017年05月21日 11時19分
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                                            • 22
                                              主催者
                                              哀愁亭味楽
                                              哀愁亭味楽 さん
                                              「それよりももっと深く、心に刻みつけられた教訓が、ほかにあった。わたしは、両性の違いのあること、子どもが生れて大きくなること、父親が赤ん坊のにこにこするのや、もっと大きい子の勢よく跳びまわるのに、どれほど目を細くして悦ぶかということ、母親の生活と心づかいがすべて大事な子どもたちにどれほど注がれるかということ、若者の心がどんなふうに伸びひろがって知識を獲得するかということなどを聞き、一人の人間を他の人間に相互に結びつける兄弟、姉妹、その他さまざまの親縁関係のことを聞いた。
                                              投稿日:
                                              2017年05月21日 11時19分
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                                              • 23
                                                主催者
                                                哀愁亭味楽
                                                哀愁亭味楽 さん
                                                「しかし、わたしの友や親戚はどこにいる? わたしの赤ん坊のころを見守ってくれた父も、笑顔と心づかいをもって祝福してくれた母もないのだ。もし、あったとしても、わたしの過去の生活はすべて、今ではひとつの汚点、目の見えぬ空白であって、自分には何ひとつわからなかった。物心がついでからこのかた、わたしの身の丈もつりあいも今のままだった。いまだかつて、自分に似た者、自分とつきあいたいという者に、出会ったためしがなかった。自分はいったい何なのだろう? この疑問がまたまた首をもたげてきたが、それに対する答えはただ唸ることだけだった。
                                                投稿日:
                                                2017年05月21日 11時20分
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                                                • 24
                                                  主催者
                                                  哀愁亭味楽
                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                  「こういう感情がどう傾いたかは、まもなく説明することにするが、ここでは母家の人たちに話を戻すことにしょう。この人たちの話を聞いて、憤り、歓び、驚きなどいろいろの感情が、起ったが、しかしそれは、このわたしの保護者たち(わたしは、無邪気な、半分は苦しい自己偽瞞から、この人たちをそう称するのを好んだので)に対する愛情と尊敬をいや増すだけのことであった。
                                                  投稿日:
                                                  2017年05月21日 11時20分
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                                                  • GOOD!405/21 16:14
                                                    後編の掲示板開設ありがとうございます~。引き続きお世話になります。

                                                    サフィー、なんとなーく「アラビアンナイト」に出てきそうな美女を思い浮かべます。シェリーはやっぱり読んでたんですかね、アラビアンナイト。

                                                    両親がいて、温かく見守り、優しく導き、教育を与えられて子供が成長するというあたり、当時の教育論なんかも含んでいるんでしょうかね。
                                                    シェリー自身は、母を産褥熱で失い、自らも出産しては子供を相次いで亡くし、と決して「理想的」な家庭生活は送っていなかったようですが、そのあたりも本作には影響しているのかな・・・。

                                                    来週もよろしくお願いしますm(__)m
                                                  • GOOD!405/22 00:31
                                                    いよいよ後半ですね。

                                                    ヒトのようなものは、他の人間を真似ることによって自ら人間になっていき、人間だったはずのものは、他者の人格(あるよね)を踏みにじることによって自ら人でなしになる、という構図?
                                                  • 25
                                                    主催者
                                                    哀愁亭味楽
                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                         14 家の人たちの身の上


                                                     この人たちの身の上ばなしを知ったのは、しばらく経ってからのことだった。それは、わたしの心に深い感銘を与えずにおかない話で、数々の事情をさながらにくりひろげたが、わたしのような、まったくの世間知らずには、どれもこれもおもしろく、びっくりするようなことてあった。
                                                    「老人の名は、ド・ラセーといった。フランスの名門の出で、多年その国で裕福に暮らし、目上の者には尊敬され、同輩には愛された。息子は国務に服するように教育され、アガータは最上流の貴婦人と同列にあった。わたしがここに着く数箇月前までは、この人たちはパリと呼ぶ豪奢な大都会に住んでいて、友人たちに取り巻かれ、相当の資産をもち、美徳や洗煉された知力や趣味などをもってあらゆる歓楽を味わっていたのだ。
                                                    投稿日:
                                                    2017年05月28日 13時18分
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                                                    • GOOD!405/28 13:46
                                                      ちょっとおさらい。

                                                      ド・ラセー 老人

                                                      フェリクス 若者

                                                      アガータ  妹

                                                      サフィー  トルコ人の娘

                                                      なんか一瞬誰が誰だかわからなくなったので(汗
                                                    • 26
                                                      主催者
                                                      哀愁亭味楽
                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                      「サフィーの父親が、この人たちの破滅の原因であった。この父親というのは、トルコの商人で、永年パリに住んでいたが、わたしの知らない何かの理由で、そのとき政府の忌憚に触れ、サフィーがコンスタンチノープルから来て、父親のもとに到着したちょうどその日に、逮捕されて牢獄にぶちこまれ、裁判を受けて、死刑を宣告された。この宣告の正しくないことはまぎれもなかったので、パリじゅうが憤激し、でっちあげられた犯罪というよりもこの人の宗教と富が、この断罪の原因であると判断された。
                                                      投稿日:
                                                      2017年05月28日 13時20分
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                                                      • GOOD!405/28 14:09
                                                        忌憚、「忌憚のない」の形で使われることが多いですが、「忌み嫌う、はばかる」ことですね。政府ににらまれちゃった、ってことですかね。
                                                        原文はhe became obnoxious to the government
                                                      • 27
                                                        主催者
                                                        哀愁亭味楽
                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                        「フェリクスはたまたまこの裁判を聴いていたが、法廷の決定を耳にすると、恐怖と憤激を抑えることができなかった。そして、その瞬間、この人を救おうと厳粛な誓いを立て、それからその手段を求めていろいろ考えをめぐらした。監獄に入れてもらうために手を尽してみてうまくいかなかったが、そのあとで、厳重に格子をはめた窓のところに、この建物の隙を見つけた。それはこの不運なマホメット教徒の入っている地下牢の明りとりであった。この不運な男は、そこで鎖でつながれ、絶望したまま無残な刑の執行を待っているのだった。フェリクスは夜、その鉄格子のところに来て、自分が助けでやるつもりだということを知らせた。
                                                        投稿日:
                                                        2017年05月28日 13時21分
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                                                        • GOOD!405/28 14:13
                                                          マホメット教徒Mahometanといういい方もあったんですね。
                                                        • 28
                                                          主催者
                                                          哀愁亭味楽
                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                          このトルコ人は、驚き、かつ喜び、莫大な報酬をさしあげると約束して、自分を救い出そうとする者の熱心さを煽り立てようとした。フェリクスはこの申し出を軽蔑して斥けたが、そのとき、父親のところに来るのを許された美しいサフィーが、身ぶりでもって感謝の念を強く表わしたのを見て、若いフェリクスは、この囚人は自分のほねおりと危険に十分に報いるだけの宝をもっていると、心中ひそかに思わないわけにいかなかった。
                                                          投稿日:
                                                          2017年05月28日 13時21分
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                                                            主催者
                                                            哀愁亭味楽
                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                            「トルコ人は、自分の娘がフェリクスの心に与えた印象にいち早く気づいて、自分がすぐ安全な場所に伴れていかれたら、娘と結婚していただいてもよろしいと約束して、フェリクスの心をもっと確実につかもうとした。フェリクスは潔癖だったので、この申し出を受けなかったが、それでも、自分の幸福が完成するのはこの出来事によってであるかもしれないという気がした。
                                                            「それから数日かかって、この商人の脱出の準備が進んでいるうちに、フェリクスの熱心さは、あの美しい娘から受け取った数通の手紙のために強められた。娘は、父の家僕でフランス語を解する老人の助けを得て、自分の考えを恋人の国のことばで表わす手段を見つけたのであった。娘は、たいへん熱のこもったことばで、フェリクスが自分の親のためにわざわざ尽してくれることを感謝し、同時に自分の運命をやさしく歎いた。
                                                            投稿日:
                                                            2017年05月28日 13時22分
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                                                              主催者
                                                              哀愁亭味楽
                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                              「わたしはこの手紙を写しておいた。というのは、この小屋に住んでいるあいだに、わたしは、字を書く道具を手に入れる手段を見つけたからだ。手紙はたびたびフェリクスやアガータの手に取って読まれた。お別れする前に、その手紙をあなたにあげましょう。それは、この話がほんとうのことである証拠になるだろうからね。しかし、今は、陽がもうすっかり傾いたから、そのあらましをお話するだけにしておきましょう。
                                                              投稿日:
                                                              2017年05月28日 13時23分
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                                                                主催者
                                                                哀愁亭味楽
                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                「サフィーの述べたところによると、その母親というのは、キリスト教徒のアラビア人で、トルコ人に捕えられて奴隷にされたが、美貌のおかげで、サフィーの父親にすっかり気に入られ、結婚することになった。サフィーは、自由な身分に生れながらいま陥った奴隷の境涯を受けつけなかったこの母親のことを、語を強めてむちゅうで語った。母親はその娘を、自分の宗教の教義に従って教育し、マホメット教の婦人の信者には禁じられている高度の知力や精神の独立を志すことを教えた。この婦人は亡くなったが、その訓えはサフィーの心に消しがたく刻みつけられた。
                                                                投稿日:
                                                                2017年05月28日 13時23分
                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                  哀愁亭味楽
                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                  サフィーは、アジアにふたたび帰り、女部屋の壁のなかに閉じ込められて、今では大なる観念や徳を高めようとする高尚な張りあいに馴れている自分の性分には、とても合いそうもないような、幼稚な娯楽にふけることだけを許されることになりそうなので、いやでいやでしょうがなかった。だから、キリスト教徒と結婚して、婦人が社会的地位を保つことを許される国に居られるとおもうと、嬉しくてたまらなかった。
                                                                  投稿日:
                                                                  2017年05月28日 13時24分
                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                    主催者
                                                                    哀愁亭味楽
                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                    「トルコ人の処刑の日どりがきまったが、その前の夜に、本人は監房から脱出して、夜が明けないうちにすでにパリから遠く離れていた。フェリクスは、父と妹と自分の名まえで旅券を手に入れた。前もってその計画を父に伝えておいたので、父は旅行を口実にして自分の家を出、娘といっしょにパリの人目につかぬ場所に身を隠して、その芝居に協力してくれた。
                                                                    投稿日:
                                                                    2017年05月28日 13時25分
                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                      哀愁亭味楽
                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                      「フェリクスは逃亡者を案内してリヨンに行き、モン・スニ峠を越えてイタリアのリヴォルノ市に出、そこで商人は、トルコ領のどこかへ渡る好機会を待つことに決めた。
                                                                      「サフィーは父親が出発する瞬間までいっしょにそこに居ることに決めたが、出発の前に、娘を命の恩人といっしょにするということをかさねて約束したので、フェリクスもそのことを期待していっしょにとどまり、そのあいだ、ごくあどけない、やさしい愛情を見せるサフィーとの交際を楽しんだ。二人は通訳者を介して、またときには眼にものを言わせて、話をしあい、サフィーは自分の国のすてきな歌をうたって聞かせた。
                                                                      投稿日:
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                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                        パリからリヨン、アルプスを越えてイタリアの港町へ、というのはなかなかの大逃亡ですね。
                                                                      • 35
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                                                                        哀愁亭味楽
                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                        「トルコ人は二人がこのように親しくなるのをそのままにしておき、若い恋人たちの望みを力づけたが、腹のなかではずっと違った計画を立てていた。自分の娘がキリスト教徒といっしょになるという考えが、がまんのならぬことだったが、冷淡だと思われてはフェリクスの怒りを買うおそれがあった。というのは、みんなの居るこのイタリアの政府に密告することを選ぶことだってやれるかぎり、まだ自分がフェリクスの勢力下にあるのだ、ということを知っていたからだ。そこで、その必要がもはやなくなるまであいてを瞞すことを引きのばし、いざ出発という時にこっそり娘をつれていけるようなさまざまな計画を決めた。その計画は、パリから来た便りのおかげでやりやすくなった。
                                                                        投稿日:
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                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                          哀愁亭味楽
                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                          「フランスの政府は、死刑囚の脱走にひどく怒り、手を貸した者を見つけ出して懲罰するためには労を惜しまなかった。フェリクスの密計はたちまち発覚し、ド・ラセーとアガータは投獄された。この消息が耳に達したので、フェリクスは歓楽の夢から醒めた。自分が自由な空気と愛する者との交際を楽しんでいるあいだに、眼の見えぬ年とった父とやさしい妹が、健康によくない地下牢によこたわっていたのだ。それを考えると苦しかった。そこで、さっそくトルコ人と相談して、自分がイタリアに戻って来ないうちに脱出の好機会をつかむようなことがあっても、サフィーはリヴォルノの尼寺に寄宿生として残していってもらう、ということに話を取り決め、それから、愛するアラビア娘と別れて、大急ぎでパリに帰り、そうすることでド・ラセーとアガータを釈放してもらうことを望んで、法の報復を受けるために自首して出た。
                                                                          投稿日:
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                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                            哀愁亭味楽
                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                            「それはうまくいかなかった。一家三人は五箇月の禁錮の後に裁判を受け、その結果、財産を没収され、永久国外追放を宣告された。
                                                                            「三人はドイツの百姓家をみじめな隠れ家としたが、わたしはそこでこの人たちを見つけたわけだ。フェリクスはまもなく、自分とその家族がそのためにああいった前代未聞の圧迫を受けた腹黒いトルコ人が、恩人がこんなふうに貧窮と破滅に陥ったのを知ると、善良な感情や体面を裏切って、娘を伴れてイタリアを去り、今後の生計を立てるうえにお助けすると称して、無礼にもはした金をフェリクスに送ってよこしたのを知った。
                                                                            投稿日:
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                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                              主催者
                                                                              哀愁亭味楽
                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                              「フェリクスの胸をむしばみ、フェリクスに報いた出来事というのは、こういうもので、わたしが、家族のうちでいちばんみじめなこの若者をはじめて見たのは、このときであった。貧乏にはがまんできたし、こういう困苦も、自分の美徳を賞め讃えるものであるなら、それを誇りとしたところだが、トルコ人の忘恩と愛するサフィーの喪失は、それ以上につらい、取りかえしのつかない不幸であった。だから、アラビア娘がやって来たことで、今や、フェリクスの魂に、新しい生命が注ぎこまれたのだ。
                                                                              「フェリクスが富と地位を奪われたという消息がリヴォルノに達すると、商人は娘に、恋人のことはもう考えないで故国へ帰る準備をすることを命じた。気立ての高潔なサフィーは、この命令に踏みつけられたものを感じ、父を諌めようとしたが、父は怒ってそれに取り合おうとせず、圧制的な命令をくりかえした。
                                                                              投稿日:
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                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                「数日後にトルコ人は、娘の部屋に入って来て、自分がリヴォルノに住んでいることがばれたと思われるふしがある。そしたらフランス政府にさっそく引き渡されるだろう、ということを大急ぎで語った。そこで自分は、コンスタンチノープルに行く船を傭っておいたから、数時間のうちにそこへ向って出帆すると、いうのであった。娘は、腹心の召使に世話させることにして後に残し、まだリヴォルノに着いていない財産の大部分をもって、あとでゆっくり自分のあとを追って行かせるつもりであった。
                                                                                投稿日:
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                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                  「ひとりになると、サフィーは、このばあい自分の取るべき行動の計画を心のなかで決めた。トルコに住むのはいやなことで、自分の宗教も、感情も、同様にそれに反対した。自分の手に落ちた父の書類から、恋人が国外に追放されたことを聞き、その後に住んでいる地点の名を知ったとき、しばらく躊躇はしたものの、とうとう決心した。自分のものである宝石をいくらかと金を少しばかり持ち、リヴォルノの土地の者ではあるが日常のトルコ語を解する娘を供にして、ドイツに向けて出発した。
                                                                                  投稿日:
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                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                    「サフィーは、ド・ラセーの家から二十四、五里ばかり離れた町まで無事に辿り着いたが、そのとき供の者が病気になって危篤に陥ってしまった。サフィーはできるかぎりの献身的な愛情をこめて介抱したが、きのどくなことにその娘は死んでしまって、この国のことばがわからず、世間の風習などもてんでこころえないアラビアの婦人は、ひとりぼっちになった。けれども、さいわいに親切な人に出会った。というのは、イタリア人の娘が行き先の地名を言っておいたので、その娘が死んだ後で、二人が泊っていた家の婦人が、サフィーが無事に恋人のいる家に着くように世話をしてくれたのだ。
                                                                                    投稿日:
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                                                                                    GOOD!6コメントを全件表示5

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                                                                                      この人たちの事情がやっとわかり、そうだったのか、と納得しています。
                                                                                      これから何が起こるのでしょう。やるせないような、不幸な匂いがぶんぶんして、あー、落ち着かない。
                                                                                      来週も楽しみにしています。ありがとうございました^ ^
                                                                                    • GOOD!505/29 06:57
                                                                                      しばらくばたばたして、読み逃げ状態になります。すいませんー。

                                                                                      今回で一番感じたのは、善良=キリスト教徒に結びついてるということ。
                                                                                      アラビア娘は誠実ではあるけれど、それは
                                                                                      キリスト教を教えられたから…という形なのですね。
                                                                                      さすがにシェリーも宗教の自由までは書けなかったのかと
                                                                                      この時代の宗教の壁をひしひしと感じました。

                                                                                      読書会スレッドも後半に入り、ストーリーもますます面白い!
                                                                                      遅くなりましたが、後半板立ち上げありがとうございましたー♪( ´θ`)ノ

                                                                                    • 42
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                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                           15 怪物とド・ラセー老人


                                                                                       わたしの好きな家の人たちの経歴は、このようなものであった。それはわたしに深い印象を与えた。そのためにわかってきた社会生活のありさまから、わたしは、この人たちの美徳に感心し、人類の悪徳を非難することを学んだ。
                                                                                      「とはいうものの、わたしはまだ、犯罪などというものは、縁の遠い悪事だと考えていた。つまり、慈愛と寛大がたえずわたしの眼の前にあったので、多くの称讃すべき性質が求められ発揮される活舞台に、一役を買って出たいという願望を、わたしの心に呼びおこした。しかし、わたしの知力の進んだことをお話するには、同じ年の八月はじめに起ったひとつの出来事を省略するわけにいかない。
                                                                                      投稿日:
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                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                        主催者
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                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                        「ある夜、自分の食べものを集めたり家の人たちの薪を取ったりする近所の森に、いつものように出かけたさい、わたしは、衣類数点と数册の書物の入っている革の旅行鞄が、地面に落ちているのを見つけた。わたしは、いっしょうけんめいにその獲物をつかんで、小屋に戻った。書物はさいわい、小屋でその初歩を習いおぼえたことばで書かれてあったが、見るとそれは『失楽園』、『プルタルコス人物伝』の一巻、『ヴェルテルの悲しみ』であった。こういう宝物が手に入ったので、わたしは、このうえもなく喜び、家の人たちがいつもの仕事をしているあいだに、これらの書物についてたえず自分の心を磨きかつ働かせることにした。
                                                                                        投稿日:
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                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                          「失楽園」は初版1667年、「プルタルコス人物伝」は(日本語では「英雄伝」と呼ばれることが多いようです)1~2世紀に書かれたものが16世紀に仏語訳され、それを底本に17世紀に英語版が出ているとのこと。「若きウェルテルの悩み」は1774年初版のようです。
                                                                                        • 44
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                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                          「書物の影響をお話するのは、なかなか、できそうもない。それは、ときにはわたしを有頂天にする新しい想像力と感情を限りもなく心のなかに湧き立たせもしたが、失意のどん底に投げ込むことのはうが多かった。『ヴェルテルの悲しみ』のなかには、その単純で感動的な物語の興味のほかに、今までわたしにわからなかった事がらについて、いろいろ多くの意見が述べられ、多くの見方が示されてあったので、わたしはそのなかに、尽きることのない思索と驚異の源泉を見つけた。それに書いてあるやさしい家庭的な習慣は、自己以外のものを目的とする高潔な情操や感情と結びつき、家の人たちのあいだで得たわたしの経験や、自分の胸のなかにたえず生きていた欲求とも、よく一致していた。
                                                                                          投稿日:
                                                                                          2017年06月04日 13時37分
                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                            主催者
                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                            しかし、ヴェルテルそのものは、かつて見たり想像したりしたよりずっとすばらしい人間で、その性格はなんらの衒(てら)いもなく深く沈潜している、と考えられた。死と自殺についての考察は、わたしをすっかり驚嘆させた。わたしはこの立場のよしあしに立ち入るつもりはないが、それでもわたしは、主人公の意見のほうに傾き、何ゆえかはっきりはわからなかったが、その死に涙した。
                                                                                            投稿日:
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                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                              「けれども、書物を読みながらわたしは、自分の感情や境遇に、個人的にいろいろ当てはめてみた。すろと、それについて読みもしその会話を聞きもした人々と、自分が似てはいるが、同時に妙に違ってもいることがわかった。わたしは、その人々と同感したし、かなり理解もしたが、わたしは精神的にできあがっておらず、頼るものとてもなく、縁つづきの者もなかった。『生きようが死のうが勝手だった』し、死んでも誰ひとり歎いてはくれなかった。わたしの体は醜悪だったし、背丈は巨大だった。これはいったい、どういうことだ? わたしは何者だ? どこから来たのだ? 行き先はどこだろう? こういった疑問がしじゅう起きてきたが、それを解くことはできなかった。
                                                                                              投稿日:
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                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                「わたしのもっていた『プルタルコス人物伝』には、古代のいろいろな共和国の最初の建国者の物語があった。この書物は、『ヴェルテルの悲しみ』とはずいぶん違った影響をわたしに与えた。ヴェルテルの想像からは、失意と憂愁を学んだが、プルタルコスは高い思想を教え、ふりかえって見る自分のみじめな境遇からわたしを高めて、古い時代の英雄たちを崇拝させ敬愛させた。わたしの読んだ多くのことがらは、自分の理解や経験を超えていた。わたしは、王国、土地の広大なひろがり、大きな河、はてしのない海などについて、ひどく混乱した知識を得た。しかし、都会や人間のおおぜい集まっているところはまったく知らなかった。わたしの保護者たちの家が人間研究のたった一つの学校であったわけだが、プルタルコスのこの書物は、新しくてずっと大きな行動の場面をくりひろげてくれた。
                                                                                                投稿日:
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                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                  国事に携わって同族を統治したり虐殺したりする人間のことを、わたしは読んだ。自分の身に引きくらべてみたところでは、いわは歓びと苦しみだけの関係においてではあったが、そこにあることばの意味を解したかぎり、美徳に対するたいへんな熱情と悪徳に対する嫌悪感が自分のなかに湧きあがるのを、わたしは感じた。こういう感情に動かされて、わたしはもちろん、ロムルスやテセウスよりは、ヌマ、ソロン、リュクルゴスというような平和な立法者に感服させられた。家の人たちの家長を中心とする生活が、こういう印象を頭にこびりつかせていたのだが、もしも、わたしの人間性に対する最初の開眼が若い兵士などによってなされ、栄誉と殺戮のために心を燃え立たせるとしたら、わたしは違った感情に染まっていたことだろう。
                                                                                                  投稿日:
                                                                                                  2017年06月04日 13時40分
                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                    ロムルス、オオカミの乳を吸って育ったローマ建国の父ですね。
                                                                                                  • 49
                                                                                                    主催者
                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                    「しかし、『失楽園』は、それとはまた違ったずっと深い感動を与えた。わたしは、手に入ったほかの書物を読んだのと同じように、それをほんとうの歴史として読んだ。それは、自分の違ったものと戦う万能の神の姿を仰いだ時のような、あらゆる驚異と畏怖の感情をひきおこした。それがあまり似ているのに気づいたので、わたしはよく、いろいろな境遇を自分にひきあててみた。わたしは明らかに、アダムと同じように、生きているほかのどんな人間とも結びつけられてはいなかったが、アダムの状態は、そのほかのどの点でも、わたしのばあいとはずいぶん違っていた。
                                                                                                    投稿日:
                                                                                                    2017年06月04日 13時40分
                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                      主催者
                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                      アダムは、神さまの手から完全な被造物として出てきたもの、創造者の特別な心づかいに護られた幸福で有望なものであって、性質のすぐれた者と話をし、そういうものから知識を得ることを許されていたが、わたしときたら、まったくみじめで、頼りなく、ひとりぼっちであった。わたしは何度も、魔王サタンを自分の状態にずっとぴったりした象徴だと考えた。というのは、サタンと同じように、よく、家の人たちの幸福を見ると、にがにがしい嫉み心がむらむらと湧きあがってきたからだ。
                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                        「もう一つ、別の事情が、こういう感情を強め、ゆるぎないものにした。この小屋に着いてからまもなく、あなたの実験室から持ってきた服のポケットに、何か書類の入っているのを見つけたのだ。はじめのうちはそれをほったらかしておいたが、さて、そこに書いてある文字を判読できるようになると、精を出してそれを研究しはじめた。それは、わたしというものが創造されるまでの四箇月間に、あなたがつけた日記だった。この書類には仕事の進捗のあらゆる段階をこまかに書きつけてあったが、そのなかには、家庭的な出来事の記事もまじっていた。あなたはむろん、その書きもののことをおぼえているはずです。これがそうですよ。
                                                                                                        投稿日:
                                                                                                        2017年06月04日 13時41分
                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                          うむぅ、私としてはずっと(AKBじゃないですけど(^^;))「フランケンシュタインが嫌いでも科学(者)を嫌いにならないで!」と思っているところがあり、そのあたりがずっともやもやしています。それはたぶん、「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ)を読んだときに感じた違和感と一緒ですね。
                                                                                                          フランケンシュタインの態度は、科学者とは言えない、と思います。少なくとも、近現代的意味の実験科学者ではないと思うのです。ただし、科学者が暴走する可能性はもちろんあり、根っこのところで共通する部分をこの物語が描いているのかどうか、最後まで読むうちに見極められればよいな、という微かな希望があります。自分の力量的にそこまで行くのかどうかがちょっと不安なのですけれども。
                                                                                                        • GOOD!506/11 13:48
                                                                                                          哀愁亭味楽さんとぽんきちさんのおはなし、すごいです。深いです。

                                                                                                          私は、科学はさっぱりだめなので、ピントがずれているかも、ですが、フランケンシュタイン=科学者、というふうには、あまり考えなかったです。

                                                                                                          思い出すのは、子どものころ、友だちとままごとをしようとして、その準備に、おうちづくりの小道具(座布団とか、シーツ、衣類や傘まで!)を持ちだして、ワクワクしながらいろいろ並べているうちに、もう飽きてしまって、準備が終わる前にすっかり遊びの熱が冷めて「もうやらない」と言って、おおいに友たちからヒンシュクを買ったことです^^
                                                                                                          この、一気に遊びの熱が冷める感じが、フランケンシュタインの怪物を放り出して逃走(?)の場面に重なるような気がするんです。
                                                                                                          幼稚なやつだなあ、と思っていました。
                                                                                                          フランケンシュタイン、嫌い…というよりも、嫌なものを見せてくれるやつだな、と思っています。

                                                                                                          でも、この男の心情がどう変わっていくのか(もしかしたら手遅れだとしても?)興味があります。
                                                                                                          なにしろ北極まで追いかけてきたわけだし、ウォルトンにとっては友達に慣れそうな魅力的な人間に映ったわけだし、どうしてそうなったのかなーと、気になっています。
                                                                                                        • 52
                                                                                                          主催者
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                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                          わたしというものの呪われた起原に関わりのあることは、何もかもこのなかには書いてある。そういうことになった胸のわるくなるような事情の一部始終が詳しく示され、あなた自身を恐怖感で苦しめ、わたしの激しい嫌悪感を消しがたいものにしたことばで、わたしの忌まわしい醜悪な姿が微に入り細をうがって書いてあるのだ。読んでいてわたしは気もちがわるくなった。苦しくなってわたしは叫んだ、『おれが生を享けた憎むべき日よ! 呪われた創造者よ! おまえでさえ嫌って顔をそむけるような醜い怪物をどうしてつくったのだ? 神さまは哀れだとお思いになって人間を自分の姿にかたどって美しい魅力のあるものにお造りになったが、おれの姿ときたら、似ているのでかえってよけいに忌まわしい、おまえの姿のけがらわしい模型だ。サタンには敬服し激励する仲間や同類の悪魔どもがあるが、おれはひとりぼっちで厭がられている。』
                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                            主催者
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                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                            「落胆しきった孤独な気もちでいる時にわたしが考えめぐらしたのは、こういうことだが、母家の人たちの美徳や愛すべく情深い気性を眺めると、わたしは、この人たちが、わたしがその美徳に感服していることを知るようになったら、わたしに同情してわたしの体のできそこないなどは見のがしてくれるだろう、と自分に言い聞かせた。いくら畸形だといって同情と友情を哀願する者を玄関払いすることがあるだろうか。わたしは、すくなくとも絶望せず、自分の運命を決するこの人たちとの会見に際して恥しい思いをしないように、どんな方法でも取ろうと決心した。わたしはこの企てをさらに幾月か延ばした。成功するかどうかが重大なことだったので、失敗したら一大事だぞと心配したからだ。そのうえ、わたしの理解力が毎日の経験ごとに向上しているので、もう数箇月ほど経って、わたしがもっと賢くなるまで、この企てに着手したくない、と考えたのだ。
                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                              主催者
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                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                              「そのあいだに、家のなかにはいくつかの変化がおこった。サフィーの居ることが家じゅうを幸福にしたが、また、家のなかがずっと豊かにもなったことがわかった。フェリクスとアガータは、もっと長い時間を娯楽と会話に費し、仕事には召使をつかった。金持ちのようでもなかったが、満足して幸福にしていた。このとおり、みんなの感情が穏かでなごやかなものであったのに、わたしの感情は、日ごとに乱れてきた。知識が増した結果はただ、自分がみじめな宿なしであることを、いよいよはっきりと見せてくれただけのことであった。なるほど、わたしは、希望をもってはいたが、水に映った自分の姿とか、月光の投げた自分など、あの壊れやすい像や変りやすい像を見てさえも、それは消えてしまった。
                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示5

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                                                                                                                今週もありがとうございます。

                                                                                                                会話の言葉さえ見様見真似の独学なのに、いきなり歴史や哲学や文学を理解する素晴らしい天才の怪物君。そんな完成度にも全く関心なく、見た目の第一印象で(って自分で創ったんだろうに)拒絶してそれっきりって、創造者の自覚なさすぎですよね。

                                                                                                                構想時点でゼロ歳児の母であり、前に未熟児を一人死なせている作者には、自分の子宮で数カ月育んだけれども自分とは全く異なる存在である他者(我が子)に対する恐れや畏れ、場合によっては拒否の気持ちがあったのでしょうか。
                                                                                                                おそらく日々の養育は乳母か何かに任せてるよね。庶民でなければそれが普通なのだろうけど。
                                                                                                              • GOOD!506/04 18:17
                                                                                                                「わたしは何者だ、どこから来たのだ、どこへ行くのだ、という言葉が心に残りました。
                                                                                                                いよいよ何かが起こりそうだけど痛ましいような…
                                                                                                                今週もありがとうございました。
                                                                                                              • 55
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                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                「わたしは、こんな心配を握りつぶし、二、三箇月の後に受けようと決意した試験に対して、自分を強くしようと努力した。そして、ときには、理性では抑えきれない自分の思想が楽園の野に逍遥し、愛らしく美しい人たちが、自分の気もちに同感し、自分の憂いを吹きはらって、その天使のような顔が慰めの笑いを浮べている、というようなところを空想した。しかし、それはみな夢であって、悲しみを和らげてくれ、考えを共にしてくれるイヴは居なかった。わたしはひとりぼっちだった。創造者に対するアダムの歎願を、わたしはおぼえていた。けれども、わたしの創造者はどこにいるのだ? 創造者はわたしを見棄てておいたし、わたしも、心のつらさに堪えかねてこの創造者を呪った。
                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                2017年06月11日 11時14分
                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示3

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                                                                                                                  うーんでもどうなんだろう?
                                                                                                                  私も詰めていず、ぽんきちさんのコメントを一読しただけで書き込んでいるのですが、仏教の場合はお釈迦様が天地創造をしたわけじゃないしねえ。

                                                                                                                  もっとも宗教に関係なく「どうして俺を生んだんだ?!」「好きで生まれてきたわけじゃない!」的な感情を親にぶつけることも多い気が。
                                                                                                                • GOOD!506/11 20:29
                                                                                                                  「誰も生んでくれとか頼んでねーよ!」と暴れる思春期のワカモノ的な(^^;)。
                                                                                                                  怪物は、親≒フランケンシュタインの「愛」がほしかったんだったり!?
                                                                                                                  うーん、それはそれでありな気もします。

                                                                                                                  宗教的なことでいえば、日本人一般(というのもどういう人なんだ、というのもありますが)てあんまり絶対的な創造主がいるように思っていないような気がするんですよねぇ・・・。
                                                                                                                  絶対的な支配者もいない代わりに、絶対的に責任を負わせる存在もいない、というか。
                                                                                                                  なんか、その辺の感覚がちょっと違うような気がします。いや、ほんと、ぼんやりと、ですけど。
                                                                                                                • 56
                                                                                                                  主催者
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                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                  「秋はこんなふうにして過ぎてしまった。わたしは、木の葉が枯れ落ち、自然がふたたび、はじめて森や美しい月を見た時にまとっていた、あの荒凉とした吹きさらしの相貌を装ったのを、驚きかつ悲しんで眺めた。けれども、塞い気候はなんとも思わなかった。わたしは、体のつくりが暑さよりも寒さに堪えるのに適していたのだ。しかし、花や、鳥や、夏のあらゆる華美な装いを眺めるのが、何よりの歓びだったのに、そういうものがなくなったとなると、家の人たちにもっと注意を向けてみるしかなかった。この人たちの幸福は、夏を過ぎても減らなかった。この人たちは、たがいに愛しあい、同情しあった。この人たちの喜びは、いずれも相互に依りあっていて、まわりに起る偶発的なことでは中絶させられなかった。
                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                    この人たちを見ていればいるほど、その保護と親切を得たいというわたしの願望はいよいよ強くなり、この愛すべき人たちに知られ愛されることを心から願い、この人たちの感情のこもったやさしい眼がわたしに向けられるのを見るのが、わたしの野心の極限であった。この人たちが軽侮と恐怖の念をもってわたしから眼をそむけるようなことは、どうしても考えられなかった。この家の戸口に立った貧乏人で、まだ追いはらわれた者はなかったのだ。わたしはたしかに、わずかばかりの食べものや休息よりも大きな宝を求め、親切や同情を欲したのだが、自分にその資格がてんで無いとは思わなかった。
                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                      「冬も深くなって、わたしが生命に眼ざめてから、四季がまるまる一めぐりした。このときわたしの注意は、自分を家の人たちに引き合せる計画だけに向けられていた。あれやこれやと、いろいろ計画をめぐらしましたが、最後に決めたのは、盲の老人がひとりでいる時に家に入って行くことであった。以前にわたしを見た人たちが怖れたのは、主としてわたしの姿の不自然な無気味さであった、ということがわかるほど、わたしは賢くなっていたのだ。わたしの声は、耳ざわりではあるが、そのなかには怖ろしいものがなかった。だから、もしも若い連中の居ないあいだにド・ラセー老人の善意ととりなしを得ることができれば、そのために若い人たちに咎められないですむかもしれない、と考えた。
                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                        「ある日、地面に散らばった紅葉を陽が照らして、暖かくはなかったが晴ればれとしていたとき、サフィーとアガータとフェリクスは遠足に出かけ、老人は自分から望んでひとりで畄守(るす)をしていた。みんなが出かけると、老人はギターを取り出し、悲しげであるが甘美な、今までに聞いたことのなかったほど甘美で、しかも悲しみにみちた曲を、いくつか奏でた。はじめのうちは、その顔は歓びに輝いていたが、続けているうちに、考えこみ、悲しみはじめたかとおもうと、おしまいにはとうとう、楽器をわきにおいて、もの思いにふけるのだった。
                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                          「わたしの心臓は速く鼓動した。これこそ、わたしの希望を解決するか、それとも怖れていたことが事実となってあらわれるかの、試煉の時であり、瞬間であった。召使たちは近所の市へ出かけていった。家の内も外も静まりかえり、絶好の機会だった。とはいえ、計画をいざ実行に移すとなると、手足がいうことをきかなくなって、わたしは、地面にへたばりこんだ。ふたたび立ちあがって、できるだけの断乎たる力を揮い起しながら、自分の足どりをくらますために小屋の前に立ててあった板を、取りのけた。すると、新鮮な空気にあたって元気が出たので、決意を新たにして家の戸口に近づいた。
                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                            主催者
                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                            「わたしは戸をたたいた。『どなたです?』と老人が言った、――『お入りください。』
                                                                                                                            「わたしは中に入って言った、『とつぜんに参りましてすみません。わたしは旅の者ですが、ちょっと休ませていただきたいとぞんじまして。ほんのちょっとのあいだ、火のそばに居させていただければ、たいへんありがたいのですが。』
                                                                                                                            「ド・ラセーは言った、『さあ、お入りになって。お望みに添えるようにはできるでしょうが、あいにく子どもたちが畄守でして、それにわたしが盲なものものですから、食べものをさしあげかねるようなわけですが。』
                                                                                                                            「『どうぞおかまいなく、食べものはもっていますから。暖まって休めるだけでけっこうです。』
                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                              「わたしは膝をおろして、そのまま黙っていた。一分でもたいせつなことはわかっていたが、どんなふうに話をきりだしたらよいか迷った。と、そのとき老人が話しかけた――
                                                                                                                              「『お客さんは、おことばから察しますと、わたしの国の方のように思われますね。――フランスの方ですね?』
                                                                                                                              「『いいえ、そうじゃありませんが、フランスの家庭で教育されまして、フランス語しかわからないのです。わたしは今、自分が心から愛する方々、そしていくらかは好意を寄せてもらえそうな気がする方々の保護を願おうと思っているところなのです。』
                                                                                                                              「『それはドイツの方ですか。』
                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                そか、ド・ラセー家はフランス人だし、ここまで日々の会話はずっとフランス語ということですよね。
                                                                                                                              • 63
                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                「『いいえ、フランス人なのです。けれども、話題を変えましょう。わたしは、不しあわせな、見棄てられた者です。どこを見ても、この世には親戚も友人もありません。わたしが目あてにしでいる親切な方々は、わたしを見たことはありませんし、わたしのことはごぞんじないのです。わたしは心配でたまりません。というのは、もしもそこでしくじったとしたら、永久にこの世の追放者になってしまうのですよ。』
                                                                                                                                「『絶望しなさるな。友だちがないのは、なるほど不運なことですが、人間の心は、明白な利己心に捉われないときは、兄弟のような愛情や慈悲に満ちているものですよ。ですから、希望をつなぐことですね。しかも、その人たちが善良でやさしいのだとしたら、何も絶望なさることはありませんよ。』
                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                  「『親切な方々なのです――この世でいちばんりっぱな方々です。ただ、あいにく、わたしに対して偏見をもっているのです。わたしは善良なたちでして、今まで悪事をはたらかず暮してまいりましたし、いくらか人のやくにもたちましたが、致命的な偏見のためにこの人たちの眼が曇って、わたしを思いやりのある親切な友人と見てよいところを、まるで蛇蝎視するだけなのです。』
                                                                                                                                  「『それはなるほどおきのどくですね。しかし、ほんとに疚しくさえなければ、この人たちの非をさとらせることができるのじゃありませんか。』
                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                    まるで蛇蝎視するだけなのです
                                                                                                                                    they behold only a detestable monster

                                                                                                                                    ここは「怪物」でもよかったような。
                                                                                                                                    monster、creature、creatorというのは結構大きなキーワードである感じがします。
                                                                                                                                  • GOOD!406/24 22:51
                                                                                                                                    創元推理文庫版では、
                                                                                                                                    忌まわしい怪物しか見ないのです
                                                                                                                                    となっています。
                                                                                                                                  • 65
                                                                                                                                    主催者
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                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                    「『そうしようと思っているところですよ。それで、そのためにいろいろ心配でたまらないのです。わたしはその人たちが心から好きで、知られないようにして、もう幾月も毎日親切なことをしてあげるのを習慣にしていますが、この人たちは、わたしが害を加えるというふうに思いこんでいるのですね。わたしが無くしたいとおもっているのは、この偏見なのです。』
                                                                                                                                    「『その人たちはどこにお住まいですか。』
                                                                                                                                    「『この近くです。』
                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                      「老人はちょっと黙っていたが、やがて話をつづけた、『あなたがもし、身の上の話を腹蔵なくうちあけてくださるなら、ひょっとしたらわたしが、その人たちの誤解を解くのにおやくにたつかもしれません。わたしは盲人ですから、お顔を判断することはできませんが、おことばをうかがったかぎりでは、どこかまじめな方のように受け取れます。わたしは、貧乏人で、しかも追放者ですが、何かのことで人さまのおやくにたてたら、ほんとうに嬉しいのですよ。』
                                                                                                                                      「『たいへんおりっぱなことです! ありがとうこざいます。おことばに甘えさしていただきます。御親切のおかげで、泥まみれのところから浮び上れます。お助けいただければ、きっとわたしは、あなたの同胞の方々から追い出されずに、おつきあいと同情を願えるでしょう。』
                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                        「『追い出すなんて、そんなことがあるものですか! たとえあなたがほんとうに罪人であったとしても。そんなことをしたら、あなたをそれこそ、ほんとうの絶望に追いこむだけのことで、徳を積ませるようなことにはなりませんよ。わたしだって不運なのです。わたしの一家は、罪もないのに断罪されました。ですから、あなたの不しあわせに思いやりがあるかないか、おわかりになるでしょう。』
                                                                                                                                        「『なんと言ってお礼を申しあげたらよいか、あなたはわたしの、たった一人の、このうえもない恩人です。はじめてわたしは、あなたのお口から親切な声を聞きました。御恩は永久に忘れません。あなたのこの情深さから見て、これからお目にかかろうとしている方々のばあいも、うまくいくという気がします。』
                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                          「『その方々のお名まえとお住まいを承ってもいいですか。』
                                                                                                                                          「わたしは黙った。おもうに、これこそ永久に幸福を奪い去られるか、それとも幸福を与えられるかを決する瞬間であった。それにはっきり答えられるだけの確乎としたものをつかもうとして、わたしは、むなしくもがいたが、この努力に、残っている力が根こそぎ引きぬかれ、椅子に半身をのめらせながら、声を出してむせび泣いた。その瞬間、若い人たちの足音が聞えた。一秒だってもうぐずぐずしてはおれなかったが、それでも老人の手を掴んでわたしは叫んだ、『その時が来ました!――わたしを助けで保護してください! あなたとあなたの御家族が、わたしの求めている方々なのです。せっぱつまったこの時こそ、わたしを見棄てないでください!』
                                                                                                                                          「『なんということだ! あなたは誰です?』と老人は叫んだ。
                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                            「そのとき家の戸が開いて、フェリクスとサフィーとアガータが入って来た。わたしを見たときのこの人たちの恐怖と驚愕を、誰が形容することができよう。アガータは気絶し、サフィーはそれを助け起すこともできずに家の外へ跳び出した。フェリクスは突進して来て、老人の膝にすがりついていたわたしを、人間わざとおもえない力で引き離し、怒りにまかせてわたしを地面にたたきつけ、棒でわたしを烈しく殴りつけた。獅子が羚羊(かもしか)を引き裂くように、あいての手足を一本一本引き裂くことまできた。しかし、ひどい病気にかかったみたいで心がめいったので、それも思いとどまった。またまた殴りつけようとしているのを見たので、痛さ苦しさに堪えかね、家を跳び出して、大騒ぎしているあいだに人知れず自分の小屋に逃げこんだ。
                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示5

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                                                                                                                                              見た目も醜いだけでなく、相当強靱に見えたのではないかしら。

                                                                                                                                              たとえば、もし老人の手を取って膝にすがりついていた「怪物」が、巨大な熊の姿のような姿をしていたら……恐怖を引き起こすのはやっぱり「醜い」だけでないかも…。
                                                                                                                                              うん。やっぱり大きかったと思うな。
                                                                                                                                              匂いは……匂いが強烈だったら、老人も、帰ってきた家族もそれなりに構えたと思うので、あんまりひどくなかったんじゃないかな。
                                                                                                                                            • GOOD!406/24 23:09
                                                                                                                                              せっかく老人には理解されかけていたのなら、なぜ彼らの前ですぐフランス語をしゃべって、化け物ではなく理性のある意思を通じ合える相手だと伝える努力をしなかったのか、と「自己責任」論者なら言うところ。もともとそういう構想だったのだろうから。
                                                                                                                                              でも、いざとなったらショックで理性的な行動はできないよね。身を守るために相手を傷つけなかっただけでも、偉いよ、怪物。
                                                                                                                                            • 70
                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                   16 怪物の旅


                                                                                                                                              「呪われた、呪われた創造者よ! わたしはどうして生きたのか。ふざけ半分に与えた存在の火花をどうして消しとめなかったのか。わたしにはわからない。まだ絶望しきってはおらず、わたしの感情は怒りと復讐に燃えていた。わたしには、その家と住んでいる者どもをめちゃめちゃにし、その悲鳴とみじめさに腹鼓を打って、喜ぶことだって、できるわけだった。
                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                「夜になると、わたしは、隠れ家を出て、森のなかをぶらついた。今はもう、見つかるのを怖れてびくびくすることもなかったので、おそろしい哮え声をあげて苦悩をぶちまけた。まるで罠を破った野獣のようで、邪魔になるのをたたきこわしながら、鹿のような速さで森じゅうをうろつきまわった。おお! なんというみじめな夜を過ごしたことだろう! 冷たい星が嘲るように光り、裸の木々が頭の上で枝をゆすり、ときおり小鳥の美しい声が宇宙の静寂を破った。自分を除けば、あらゆるものが休むか楽しむかしていた。わたしは魔王のように、おのれの内部に地獄をもち、自分が同情されないのを感じながら、木々を根こぎにしようとし、やがて、まわりというまわりをめちゃくちゃに破壊してやろうと思った。
                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                  自然描写の美しさと怪物の惨めさの対比が効いていますね。
                                                                                                                                                • 72
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                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                  「しかし、これは、永つづきのしない感情の昂ぶりでしなかったので、体を動かしすぎてへとへとに疲れ、絶望に打ちひしがれたまま、湿った草の上にへたばってしまった。この世の数限りもない人間のなかに、わたしを憫んだり助けたりする者が、一人として無いのに、この敵に対して親切な気もちをもたなくてはいけないのか。否、その瞬間からわたしは、人類に対して、また何よりも、わたしを造り、この堪えがたい不幸へと送りこんだ者に対して、永遠の戦いを宣言した。
                                                                                                                                                  「陽が昇り、人声が聞えたので、昼のうちに隠れ家に戻れないことがわかった。そこで、これからの時間を自分の置かれた立場を考えて費すことに決め、とある茂った下生えに身を隠した。
                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                    「快い日の光と昼の澄んだ大気のおかげで、かなり平静を取り戻し、あの家で起ったことを考えてみると、自分があまり結末を急ぎすぎたというふうに信じないわけにいかなかった。わたしはたしかに、軽はずみに行動した。わたしの話があの父親に興味をもたせて、事が有利に運びそうに見えたのに、自分の姿を若い人たちの恐怖のなかにさらしたのは、ばかなことだった。ド・ラセー老人と親しくなり、あとの者に、わたしがあとから現われることに対して心の準備をさせてから、みんなの前に出て行くべきであっだ。しかし、このまちがいは、取り返しのつかないものでもないと信じたので、よくよく考えてみたあげく、あの家に戻って老人に会い、事情を訴えて自分の味方につけようと決心した。
                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                      「こう考えると気が静まってきたので、午後はぐっすりと寝込んだ。しかし、血が燃え立って、平和な夢は見られなかった。前の日の怖ろしい場面がしじゅう眼の前にちらついて、女たちが逃げ出し、怒ったフェリクスが父親の足もとからわたしを突き離した。ぐったりとして眼をさますと、もう夜になっていたので、隠れ家から這い出し、食べものを探しに出かけた。
                                                                                                                                                      「空腹がおさまると、よく知っている道へ歩みを向けて家のほうへ行った。そこではすべてが平穏だった。わたしは小屋に這いこみ、黙って皆のいつも起きる時刻を待っていた。その時刻が過ぎ、陽が高く昇ったのに家の人たちは出て来なかった。わたしは、何か怖ろしい災難でも起ったのかとおもって、がたがた慄えた。家のなかは真暗で、何の動く音も聞えなかった。この不安な苦しみはたとえようもなかった。
                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                        「やがて田舎の人が二人で通りかかり、家の近くで立ちどまって、しきりに手まねをまじえて話しはじめたが、その二人は家の人たちのことばとは違う国のことばで話したので、わたしには何を言っているのか見当がつかなかった。ところが、やがてフェリクスが別の人をつれてやって来た。その朝フェリクスが家を出なかったことはわかっているので、わたしはびっくりして、とにかくその話を聞いたうえで、こうして思いもかけず姿を現わしたのは、いったいどういうことなのかを知ろうとおもって、気づかいながら待ちうけた。
                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                          「つれの男がフェリクスに言った、『三箇月分の家賃を払って、しかも菜園の作物を手離さなくちゃならないなんて、お考えなおしになったらいかがです。わたしは不当な利益を占めたくはありませんよ。ですから、二、三日よく考えたうえでお決めねがいましょう。』
                                                                                                                                                          「フェリクスはそれに答えた、『それにはおよびません。私どもはこの家には、二度と住めないのです。お話したような怖ろしい事情のために、父の命がひどく危いのですよ。妻や妹は、あの怖ろしさからとても立ちなおれないでしょう。お願いだから、もう何も言わないでください。あなたの貸家はお返ししますよ。とにかく私をここから立ち去らせてください。』
                                                                                                                                                          「フェリクスはこう言っているあいだもひどく慄えた。二人は家のなかに入り、二、三分も居たかとおもうと出ていった。ド・ラセーの家族の者は、もはや一人も見当らなかった。
                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                            ご老人はショックで命に関わる状態になってしまったということなんですね?あんなに穏やかに話していたのに、見えなかったのに、それほどショックを受けるなんて……よっぽど他の人たちの動揺が激しかったということなのでしょうか。
                                                                                                                                                          • GOOD!306/24 23:19
                                                                                                                                                            おじいさんは悪魔の囁きに騙されるところだったのだ、とみんなに言われたのかな。
                                                                                                                                                            怪物、よほど物凄い外観だったのでしょうね。目の見える人たちは見た目の印象に左右されますからねえ。おじいさんも自分の判断力に自信がなくなってしまった?
                                                                                                                                                          • 77
                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                            「わたしは、その日の残りを、まったくの気のぬけた絶望状態のまま、小屋のなかで過ごした。わたしの保護者たちは立ち去ってしまい、わたしを世間につないでいたただ一つの鎖が断ち切られたのだ。復讐と憎悪の感情がはじめてわたしの胸に溢れたが、わたしはそれを抑えようとはせず、押し流されるままになって、危害と死だけをもっぱら考えていた。わたしの友人たち、ド・ラセーのもの静かな声や、アガータのやさしい眼や、アラビアの婦人のなんともいえない美しさを思うと、そういう考えも消え失せ、涙が溢れ出ていくらか心が慰んだ。
                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                            2017年06月18日 16時32分
                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

                                                                                                                                                            ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                              しかし、また、この人たちがわたしを足蹴にして棄て去ったことを考えると、怒りが、激烈な怒りが戻ってきて、人間のものを何ひとつ傷つけることがてきなかったので、この憤ろしさを無生物に向けた。夜おそくなってから家のまわりにいろいろな燃えやすいものを集め、菜園のわざわざ作ったらしいものを残らずめちゃめちゃにしてから、逸る心を抑えて、月が沈むまで事を始めるのを待った。
                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                              2017年06月18日 16時33分
                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                              ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                それじゃあ、彼らの思った通りの本物の怪物に結局なっちゃうじゃないの。
                                                                                                                                                                でも、犯罪者の心理ってこういう風に働く気がする。(どうせそんな風にしか思わないのなら、そうしてやろうじゃないか)自尊感情や、多面的に物事を見るゆとりがないのね。
                                                                                                                                                              • 79
                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                「夜が更けてくるにつれて、森のほうから強い風がおこり、空に低迷していた雲をたちまち吹きはらった。その強風が大雪崩のように押しまくり、わたしの魂のなかで狂乱状態となって、理性や反省のあらゆる束縛を破ってしまった。わたしは一本の乾いた木の枝に火をつけ、おとなしくしている家のまわりを荒々しく踊り狂ったが、眼はただ、月の下端がまさに触れようとしている西の地平線を見つめたままだった。月の円の一端がついに隠れると、わたしは燃える木の枝を振りまわし、月がすっかり沈んだのを見すまし、大きな叫び声をあげて、集めておいた藁やヒースの木や灌木に火をつけた。風が火を煽り、家はたちまち焔に包まれた。焔は家にまといつき、叉になった破滅の舌でそれを舐めるのだった。
                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                2017年06月18日 16時33分
                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                  「おとなしくしている家」は少し変じゃないかな・・・? 
                                                                                                                                                                  devoted cottageが原文ですが、「呪われた家」?、あるいは「捧げられた家」?かな? 生贄的な感じですかね・・・?
                                                                                                                                                                  人間という存在に絶望した、怪物なりの「儀式」のようにも見えます。
                                                                                                                                                                • GOOD!406/24 23:27
                                                                                                                                                                  創元推理文庫版では、「呪われた家」になっていました。
                                                                                                                                                                • 80
                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                  「いくら加勢して消しとめようとしても、この家のどこの部分も助りっこない、と見定めると、わたしはまもなく、その場を去って森のなかへ逃げこんだ。
                                                                                                                                                                  「さてこんどは、この世に抛り出された身が、どこへ歩みを向けたものだろう? この不運の現場から遠くへ逃げ去ることには決めたが、憎まれ蔑まれるこの身にとっては、この国だって同様に怖ろしいにきまっている。とうとう、あんたというものがわたしの心を掠めた。あんたが書いたものから、あんたがわたしの父、わたしの創造者であることを知らされた。わたしに生命を与えた者にお願いするよりほかに適当な方法があるだろうか。フェリクスがサフィーに教えた課業のうちには、地理学も省かれてはなかったので、それによってわたしは、地上のさまざまな国の相対的位置を学んでおいたのだ。あんたの生れた町の名は、ジュネーヴと書き記してあったので、わたしは、この場所に向って行くことに決めた。
                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                    「しかし、どうして方角をきめたらいいのか。目的地に達するには西南の方角に旅行しなければいけないことは知っていたが、案内してくれるものは太陽のほかになかった。通過することになっている町の名も知らず、さればといって、一人の人間から教えてもらうこともできなかったが、わたしは絶望しなかった。あんたに対しては憎悪以外の感情をもたなかったものの、救ってもらえるあてがあるのは、あんただけだった。無情な、心ない創造者! あんたはわたしに知覚と欲情を与えておきながら、人間の軽蔑と恐怖の的として突き放してしまった。しかし、あんたにだけは、憐憫と救済を求めたいので、人間の姿をしたほかの誰からも求めても得られなかったあの正義を、あんたに要求することに決めたのだ。
                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                      「わたしの旅は長く、受けた難儀もひどいものだった。永らく住みなれた地方を旅立ったのは、秋も晩くなってからであった。わたしは人の顔に出会うのを怖れて夜だけ旅行した。あたりの自然は凋落し、太陽も暖かくはなくなった。雨と雪が身のまわりに降りつけ、大きな河も凍り、土の表面も固く、冷たく、むきだしになって、身を隠すところとてなかった。おお、大地よ! わたしは幾度、自分が存在するにいたった原因を呪咀したことだろう! わたしの性質のやさしいところは消え失せ、わたしの内部のあらゆるものは苦汁と辛酸に変った。わたしは、あんたの家に近づけば近づくほど、復讐の念がますます深く胸のなかで燃え立つのを感じた。
                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                        雪が降り、水が凍ったが、わたしは休まなかった。いろいろな出来事でときどき方角がわかったし、この国の地図も手に入れたが、たびたびひどく道に迷った。心の苦悶がわたしに休息を許さなかったし、激怒と悲惨のたねとならない事は起らなかった。しかも、スイスの国境に着き、太陽がふたたび暖かくなって、土に緑が見えはじめた時に起った出来事は、わたしの気もちのせつなさ怖ろしさをとくべつに強めた。
                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                          「だいたいわたしは、昼間は休んで、人の目につかない夜だけ旅行したけれども、ある朝、道が深い森のなかを通っているのを見て、太陽が昇ってからも思いきって旅をつづけたが、その日はもう春の初めで、美しい日の光や爽かな空気を浴びてつい朗らかになった。わたしは、長いこと死んだように見えていた穏かな楽しい心もちが自分のなかに生さかえってくるのを感した。こういう珍らしい感情をなかば意外に思いながら、その感情に身をまかせ、自分の孤独や畸形を忘れてすっかり嬉しくなった。甘い涙がふたたび頬を濡らし、このような喜びを与えてくれる祝福された太陽をさえ、感謝にうるおった眼で見上げるのだった。
                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                          2017年06月18日 16時36分
                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示5

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                                                                                                                                                                            今週もありがとうございます。

                                                                                                                                                                            「創造主」に対する反旗というのがどういう感じなのか、参考になるかと思い、「失楽園」を読もうと思った今週ですが、何だかあれれれな結果に(^^;)。
                                                                                                                                                                            http://www.honzuki.jp/book/250073/review/178503/
                                                                                                                                                                            いやいや、いろいろ勉強にはなりました、がw

                                                                                                                                                                            後半戦も佳境に入ってきたし、そろそろ関連本をがっつり読んでいきたいなと思っています。が、どうなりますか(^^;)。

                                                                                                                                                                            「創造主」への疑問、絶対的価値観の揺らぎ、といったあたりが、実は根底にあるのかな?と思ったりしています。どうだろな・・・?
                                                                                                                                                                          • GOOD!506/25 09:52
                                                                                                                                                                            神の庇護・支配に対する反逆ならまだ理解できる気がする(思春期?)のですが、フランケンシュタイン君は怪物君を庇護も支配もせず、創りっぱなしな(しかも、良いものを創ったぞと思わず、逆に嫌悪し否定することで一種の呪いをかけている)わけで、被造物の側が怒って当然に思えます。

                                                                                                                                                                          • 85
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                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                            「森のなかのうねりくねった道を辿って行き、おしまいに森はずれに出にが、その森のへりに流れの速い深い川があって、いろいろの木がその上に枝を垂れ、今やいきいきとした春の芽をつけていた。ここでわたしは、どの道を行ったらよいか、よくわからなかったので、立ちどまったが、そのとき人声がしたので、糸杉のかげに身を隠した。わたしが隠れるか隠れないうちに、若い娘が誰かのところから戯れて逃げたのか、わたしの隠れているところに笑いながら走って来た。それから続けて川の岸の崖になったほうに行ったが、そのときとつぜん足をすべらして急流のなかに落ちこんだ。わたしは隠れていたところから跳び出し、やっとこさで強い流れのなかからその娘を助け、岸へ引き上げた。
                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                              娘は気を失っていたので、息を吹き返させるために、自分の力でできるだけのことをしてやったが、そのとき、とつぜん、この娘と戯れていたらしい一人の百姓男が近づいてきたので、それが遮られた。その男は、わたしを見ると跳んで来て、わたしの腕から娘を引き離し、森のもっと奥のほうへ駈けていった。なぜということもなく、わたしは急いでそのあとを追ったが、その男はわたしが近づくのを見て、手に持っていた鉄砲で、わたしの体に狙いを定めて発砲した。わたしが地面に倒れると、その加害者は、もっと足速に森のなかへ逃げていった。
                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                「さて、これが、わたしの慈悲心の報いだった! 一人の人問を死から救い、その報酬として今、肉と骨とを砕いた傷のみじめな苦痛に悶えるのだ。つい先ほど抱いていた親切なやさしい気もちは、悪鬼のような激怒と歯ぎしりに変った。苦痛に煽られて、あらゆる人間に対する永遠の憎悪と復讐を誓ったが、傷の痛みに堪えかね、脈搏がとまってわたしは気絶してしまった。
                                                                                                                                                                                「わたしは、受けた傷を治すことに努めながら、何週間も森のなかてみじめな暮らしをつづけた。弾は肩に入って、まだそこに残っているのか、それとも突き抜けたのか、わからなかったか、とにかくそれを抜き取る手段はなかった。わたしの苦悶はまた、こんなふうに危害を加えたことの不正や忘恩に対するがまんのならぬ気もちのために、いっそう強められた。わたしの毎日の誓いは、復讐――わたしが受けた凌辱と苦痛だけを償うような、深刻な、死のような復讐であった。
                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                  「数週間の後に傷が治って、わたしは旅を続けた。わたしの堪えてきた旅の労苦は、もはや輝しい太陽や春のそよ風では楽にならなかった。喜びはみな偽りでしかなかった。それは、自分が歓びを享けるように造られていなかったことを、いっそう痛ましく感じさせるものだったのだ。
                                                                                                                                                                                  「しかし、わたしの旅も終りに近づき、それから二箇月後にはジュネーヴの郊外に着いた。
                                                                                                                                                                                  「着いたのは夕方だったが、まわりの野原に身を隠すところを見つけて、どうしたらあんたに会って頼めるかを思案した。わたしは疲労と空腹に参ってしまい、あまりにみじめだったので、夕方のそよそよした風や、雄大なジュラ山脈のむこうに沈む太陽の光景などは、楽しむどころの沙汰ではなかった。
                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                    「このとき、すこしばかりまどろんで、こういう苦しい考えからのがれたが、その眠りは一人のきれいな子がやってきたためにさえぎられた。その子はいかにも幼い者らしく喜々として戯れながら、わたしの隠れていた物陰に走り寄って来たが、それを見たとたんに、わたしは、こんな小さい者なら偏見をもつまい、生れてまだまもないのだから畸形をこわがりはすまい、という考えに捉えられた。そこで、この子をつかまえて、自分の仲間として教えこむことができたら、人の住むこの地上でこれほどさびしくはなくなるだろう。
                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                      「こういう衝動に襲われて、わたしは、通り過ぎるところをつかまえて、その子を自分のほうに引き寄せた。その子にわたしの姿を見るとすぐ、両手で眼を蔽って甲高い悲鳴をあげたので、その手をむりやり顔から離させて話しかけた、『坊や、なんだってそんなことをするの? 痛い目にあわせるつもりじゃないんだよ。わたしの話を開さなさい。』
                                                                                                                                                                                      「子どもは烈しく身をもがいた。『放してよ、怪物! 悪者! 僕を食べたいんだろう、ずたずたに引き裂きたいんだろう――きさまは人食い鬼だ――放せったら、放さないとお父さんに言いつけるよ。』
                                                                                                                                                                                      「『坊や、もう二度とおまえをお父さんに会わせないよ。わたしといっしよに来るんだ。』
                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                        怪しい相手にこんな危険な発言をしてしまうほど幼い子なら、外で目を離してはいけないな。
                                                                                                                                                                                      • 91
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                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                        「『怖ろしい怪物め! 放しなよ。僕のお父さんは長官だぞ――フランケンシュタインだぞ――おまえを罰するぞ。僕をつかまえておいたらたいへんだぞ。』
                                                                                                                                                                                        「『なに、フランケンシュタイン! さてはおまえは敵のかたわれだな――その敵におれは永遠の復讐を誓ったのだ。おまえを最初の犠牲にしてやるぞ。』
                                                                                                                                                                                        「子どもはなおも身をもがいて、わたしの心に絶望的な形容のことばを浴せかけるので、黙らせようとして喉をつかむと、あっというまに死んで、わたしの足もとによこたわった。
                                                                                                                                                                                        「犠牲になった者を見つめていると、歓喜と悪魔的勝利に胸がふくらんだ。そこで手を叩いてどなった、『おれだって、人を破滅におとしいれることができるのだ。おれの敵は不死身ではない。この子どもが死んだことは、敵に絶望を感じさせるだろう。これから無数の不幸で、そいつを悩ませ滅ばしてやるぞ。』
                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                          「子どもをじっと見ていると、胸のところに何か光るものが見えた。手に取ってみるとそれはすこぶる美しい婦人の肖像たった。烈しい悪意をもってはいながらも、それはわたしの気もちを和らげ引きつけた。ちょっとのあいだは喜んで、睫毛の長いその黒い眼や愛らしい唇をじっと眺めたが、すぐにまた怒りが戻ってきて、自分は永遠にこういう美しい人から与えられる歓びには縁がないこと、見るとよく似ているその婦人が、わたしを見たばあい、そのけだかい慈愛に満ちた様子を嫌悪と恐怖を表わすものに変えたにちがいないことを、わたしは憶い出した。
                                                                                                                                                                                          「腹立ちまぎれのこいいう考えを、あんたは無理もないとは思わないか。その瞬間に、自分の気もちをぶちまけて絶叫しながら苦しみ悶えたりしないで、人間のあいだに馳けこみ、それを滅そうとして自分が死ぬようなことにならなかったのは、ふしぎなくらいだ。
                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                            「こういう感情に身を任せながら、殺人のおこなわれた地点を去り、もっと人里離れた隠れ家を求めて、空っぽらしく見える納屋に入った。藁の上には、一人の女が眠っていたが、それは若い娘で、たしかに、わたしが持っていた肖像の婦人ほどは美しくなかったが、いやみのない顔立ちで、若さ健かさの美しさに溢れていた。おもうに、その喜びをわかつ笑顔をわたし以外のあらゆる人に見せる者が一人、ここに居るのだ。そこでその娘の上に身かかがめてささやいた、『眼をおさまし、美しい娘さん、おまえさんの恋人がすぐそばに居るよ――その男は、おまえさんの愛情のこもった眼で一目だけ見てもらうなら、命を棄ててもいいのだ。かわいい娘さん、眼をおさまし!」
                                                                                                                                                                                            「眠っているその娘が身じろぎしたので、ぞっとするような怖ろしさが全身を馳けめぐった。
                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                              ほんとうに眼をさましてわたしを見たら、わたしを呪い、人殺しといって叫ぶだろうか。この隠された眼が開いて、わたしを見るとしたら、きっとそんなふうにするにきまっている。そう考えると気も違いそうになり鬼畜の心がこみあげてきた――おれではない、この娘が苦しむのだ、この娘が与えることのできるあらゆるものをおれが永久に奪われているからこそ、おれの犯した殺人罪をこの娘に償わしてやるのだ。犯罪はこの娘から出ているのだから、刑罰はこの娘に加えるがいい! フェリクスの課業と人間の殺伐な法律のおかげて、わたしはもう悪戯をはたらくことを学んでいた。そこで、娘のほうに身をかがめて、その着物の襞の一つに落ちないように肖像をさしこんだ。娘がまた身動きしたので、わたしは逃げた。
                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                「フェリクスの課業と人間の殺伐な法律のおかげて、わたしはもう悪戯をはたらくことを学んでいた。」
                                                                                                                                                                                                Thanks to the lessons of Felix, and the sanguinary laws of man, I had learned now to work mischief.

                                                                                                                                                                                                ここ、ちょっとわかりにくいですね。「フェリクスの課業」とは、フェリクスがサフィーに言葉を教える一環で書物の講義をし、法律についても語ったコメント13~16あたりを指しているのでしょうか。その流れで、法律の大まかな仕組みを怪物は知っており、娘(ジュスチーヌ)を陥れる手段を思いついた、というところでしょうかね。mischiefは悪戯というより「危害」の方が近いんじゃないかな。
                                                                                                                                                                                              • GOOD!506/25 18:58
                                                                                                                                                                                                創元推理文庫版を引いておきます。

                                                                                                                                                                                                フェリックスの講義と人間どもの血まみれの法のおかげで、自分も今では悪事のしかたを知っていた。

                                                                                                                                                                                              • 95
                                                                                                                                                                                                主催者
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                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                「四、五日のあいだ、そういった活劇の演じられた地点にかよって、ときにはあんたに会いたいと思ったり、またときには永久に世界とその不幸におさらばしようと決心したりしたのです。とうとうわたしは、あんただけが満足のできる燃えるような情熱のままに、この山々にさまよいこみ、その巨大な山奥をつぎつぎと渉り歩いていたわけだ。わたしの要求に応ずるとあんたが約束するまでは、お別れするわけにはいきませんよ。わたしは、ひとりぼっちで、みじめなのだ。人間はつきあってくれないけれども、わたしと同じような、畸形の怖ろしい者なら、わたしを斥けはしないでしょう。わたしのこの相棒は、同じ種族で、しかも同じ欠点をもっていなくてはいけない。そういうものを造ってもらわなくてはいけないね。」
                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                2017年06月25日 11時19分
                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                  とうとう本当に怪物になってしまった。
                                                                                                                                                                                                  最後の怪物の要求(仲間を作ってほしい)、思いがけなかったけど、本当にそうできたら、どんなによかっただろうと思います。もっと早くに叶えられていたらねえ。
                                                                                                                                                                                                  コメント88の「自分が歓びを享けるように造られていなかったことを、いっそう痛ましく感じさせるものだったのだ。」は、辛すぎます。
                                                                                                                                                                                                  今週もありがとうございました。
                                                                                                                                                                                                • GOOD!506/27 21:56
                                                                                                                                                                                                  やっと追いつきました~~。
                                                                                                                                                                                                  上のキリスト圏と日本の宗教コメントがちょっと興味深かったので。

                                                                                                                                                                                                  「怪物が哀れ」というのは、ひょっとして日本思考なのかもですね。
                                                                                                                                                                                                  「創造主は神のみ」という考えの上には
                                                                                                                                                                                                  フランケンも怪物も罪の上で差はないのかもです。
                                                                                                                                                                                                  むしろ今のように科学が進んだ現代なら
                                                                                                                                                                                                  キリスト圏でも怪物に憐みを持てるのかもしれません。

                                                                                                                                                                                                  うーん、そう考えるとますます興味深いなこの物語!
                                                                                                                                                                                                  フランケンシュタイン・コンプレックスという言葉がありますが
                                                                                                                                                                                                  この物語の真のホラーは怪物の形相ではなく、
                                                                                                                                                                                                  生命を生み出すような世界への恐れのことなのか。うーむ。
                                                                                                                                                                                                • 96
                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                       17 怪物との約束


                                                                                                                                                                                                   怪物は、語り終えて私をじっと見つめながら、返答を待った。しかし、私は、すっかりめんくらい、困惑して、あいての要求の全体を理解するだけに考えをまとめることができなかった。怪物は話をつづけた、――
                                                                                                                                                                                                  「生きていくうえに必要な同情を交してわたしといっしょに暮らしていける女性を、あんたに造ってもらわなくてはいけないのです。これはあんたしかできないことだし、あんたの拒むわけにいかない権利として、これを要求するわけですよ。」
                                                                                                                                                                                                   話のあとのほうの部分を聞いて、百姓家での穏かな暮らしの話を聞いているあいだは消え去っていた怒りが、私の心に新しく火をつけたが、今また、これを聞いて私はもはや、自分のなかに燃える怒りを抑えきれなかった。
                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                    「あんたの拒むわけにいかない権利として、これを要求するわけですよ」
                                                                                                                                                                                                    I demand it of you as a right which you must not refuse to concede.

                                                                                                                                                                                                    これは相当強い口調ですね。当然の権利を主張する、という傲然とした印象を受けます。(訳としては前から「私(怪物)は伴侶を作れと要求する権利がある。ノーとは言わせない」という感じの方がすっと飲み込みやすいような気がしますが)

                                                                                                                                                                                                    フランケンシュタインがむっとするのもわかりますが、これまでの行いが無責任だったから(--;)、怪物に分があるかなぁ・・・。
                                                                                                                                                                                                  • 97
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                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                    「そんなことはおことわりだ。いくら僕を苦しめても、同意するわけにいかないよ。おまえが僕をどこまでも不幸な人間に陥し入れるかもしれないが、僕は、この眼で見て自分が卑劣になるようなことはやらないよ。おまえと同じようなものを別に造ってみろ、いっしょに悪事をはたらいてこの世界を荒らすだろう! 行ってしまえ! おまえに対する答えはすんだ。おまえは僕を苦しめるかもしれないが、僕はけっして同意しないぞ。」
                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                       怪物はそれに答えた、「あんたはまちがっているよ。わたしは、脅すわけでなく、あんたに納得してもらうことで満足するのだ。わたしは、どんな人間からもあいてにされないし、憎まれているじゃありませんか。わたしを造ったあんたは、わたしを八つ裂きにして勝ち誇りたいのだ。それをおぼえておきなさい。そして、人間がわたしを憫れむ以上に、どうしてわたしが人間を憫れまなくちゃならないか、そのわけを教えてほしいね。あんたがわたしを氷の裂け目に突き落して、自分の手でこしらえたわたしの体を滅すことができたとしても、それをあんたは殺人だとは言わないでしょう。人間がわたしを軽蔑するのに、わたしは人間を尊敬するのかね。たがいに親切にして人間がわたしといっしょに暮らすとしよう、そしたら、わたしは、害を加えるどころか、受け容れてくれたことに対する感謝の涙で、人間にあらゆる利益を与えるだろう。
                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                        しかし、それはできないことだ。人間の心もちが、わたしたちの結びつきにとって、越えることのできない障壁なのだから。とはいえ、わたしの気もちだって、卑屈な奴隷のように屈伏したりするものか。自分に加えられた危害には仕返しをするのだ。愛情を与えるにも与えられないとすれば、恐怖の念を起させてやるよ。しかも、わたしの造りぬしだから、主として第一の敵であるあんたに向って、消すことのできない憎悪を誓うのだよ。気をつけなさい。わたしはあんたの破滅を仕事にし、あんたの心を破滅させ、あんたが自分の生れた時間を呪うようになるまでその仕事をやめないからね。」
                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                          これ、ちょっと「ヨブ記」を思い出します。ヨブ記では「自分の生れた日を呪う」ですが。

                                                                                                                                                                                                          「第一の敵」arch-enemy
                                                                                                                                                                                                          普通、arch-enemyと言ったらサタンを指すことが多いみたいですね。このあたりはもしかしたら失楽園との関連があるのかも。
                                                                                                                                                                                                        • 100
                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                           そう言いながら悪鬼のような怒りに燃え、その顔が、人間の眼ではふた目と見れないほど恐ろしくひきつったが、まもなく気をおちつけて話をつづけた、――
                                                                                                                                                                                                          「わたしはよく話しあうつもりでした。こんな激情がわたしには有害なのですよ。あんたは自分がその激情をよけいにした原因だということを考えてくれないからね。もしも誰かがわたしに慈悲ぶかい気もちをもつならば、わたしはそれを何万倍にもしておかえししますよ。というのは、その一人の人のためなら、全人類と和解してもいいからですよ! 
                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                            けれども、それはいま、実現のできない幸福の夢にふけるだけのことだ。あんにに求めているのは、ごくもっともな、穏当なことで、性は別だがただわたしのように醜い者を要求するだけのことです。その満足はささやかなものだが、わたしが受けることのできるのはそれだけのものですから、それに甘んじます。それはなるほど、全世界から切り離された怪物どもではあるでしょうが、そのためになおさらおたがいに愛着を感じるでしょうよ。二人の生活は幸福ではないでしょうが、それは害にはならないもので、いま感じているみじめさからはのがれられるでしょう。おお! わたしを造ったあんたにお願いする、わたしをしあわせにしてください。一つだけ恩恵を施して、わたしに感謝の気もちを向けさせてください。誰か人間から同情してもらえるということを、わたしにわからせてください。この要求を斥けないてください!」
                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                              「この要求を斥けないてください!」do not deny me my request!

                                                                                                                                                                                                              requestはdemandより語調としては「お願いする」感じがします。懇願している感じですね。
                                                                                                                                                                                                              怪物、かわいそう・・・。
                                                                                                                                                                                                            • 102
                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                               私は心を動かされた。自分が同意したことから起りうる結果か考えると身慄いしたが、怪物の言うことにも一理はあると感じた。その話や、いま表わした感情は、こまやかな気もちをもった者であることを証拠立てたし、また造った者としてできるだけ幸福の分けまえを与えてやる義務があるのではなかろうか。私の気もちが変ったのを見て、怪物は話をつづけた、――
                                                                                                                                                                                                              「もしも同意していただけるとしたら、あんたをはじめほかの人間にも二度とお目にかからないようにして、南アメリカの広漠とした荒地にでも行きます。食べものが人間の食べものじゃありませんから、腹が空いたからといって仔羊や仔山羊を殺したりしないで、どんぐりや苺のようなもので十分に栄養が取れるのです。
                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                              • 103
                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                わたしの伴れあいもわたしと同質だとしたら、同じ食事で満足するはずです。わたしらは乾いた木の葉で寝床をつくるでしょうし、人間に照らすと同じように太陽が照らし、わたしらの食料をみのらすでしょう。お話しているこんな情景は、平和な人間らしいもので、あんだだって、みだりに残虐な暴力をふるってでもないかぎりは、否定することができないと感じるにちがいありません。あんたはわたしに対して無情でしたが、いまあなたの眼には同情の念があらわれています。この好意をもった時にわたしを理解して、わたしが熱烈に望んでいることをしてくれると約束してください。」
                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                  「人間の住む所から退散して、野獣だけが仲間になるような荒地に住もう、というのだね。人間の愛情や同情を熱望するおまえが、こんな追放を辛抱できるとおもうのかね。戻って来てまた人間の親切を求め、人間に忌み嫌われるのだろう。よくない熱情がよみがえれば、おまえは伴れあいの助けを借りて破壊の仕事にかかるだろう。これじゃいけないよ。こんなことを議論するのはやめなさい、僕は同意できないから。」
                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                    「なんというあやふやな気もちだ! たった今までわたしの話に動かされていたのに、どうしてまた、つれなくするのかね。わたしの住んでいる大地にかけて、またわたしか造ったあんたにかけて、あんたの与える伴れあいをつれて、人間の界隈を立ち去り、その時のばあいによってもっとも未開な所に住む、ということを、ここで誓いますよ。同情さえ得られれば、よくない熱情などは消えてしまいます。わたしの生活は穏かに流れていき、死ぬ瞬間にも、わたしを造った者を呪うことはないでしょう。」
                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                       そのことばは、私に奇妙な効果を及ぼした。私は同情を催し、慰めてやりたくさえなったが、あいての姿を眺め、動いて話をしている汚らしい塊を見ると、胸くそがわるくなって、気もちが恐怖と憎悪の感情に変ってしまった。私はそういう感情を抑えつけようとした。同情することができないのだから、せめて自分の力で与えることのできるわずかばかりの幸幅を、与えずにおく権利はない、と考えたのだ。
                                                                                                                                                                                                                       私は言った、「おまえは害をしないと誓っているが、僕が疑うのがあたりまえなくらいの悪意を、もう見せたじゃないか。この誓いだって、仕返しの幅をもっと拡げて、おまえの勝利を大きくするための偽りじゃないのかね。」
                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                        「どうしてそんなことになるんだろう? なぶってはいけませんよ。わたしは答えが聞きたいんだ。もしもわたしに対して、義理も愛情も感じられないとしたら、憎悪と悪徳がわたしの運命となるほかはありませんよ。ほかの者の愛があれば、わたしの犯罪の原因がなくなって、わたしは誰も知らない存在となるわけです。わたしの悪徳は、わたしの嫌いな、無理に押しつけられた孤独の結果ですから、似たもの同志で暮らすとなれば、当然、わたしにも美徳が生れてきます。わたしは、心ある者の愛情を感じ、いまわたしが閉め出されている存在や出来事の聯鎖のなかに結びつくことになるでしょう。」
                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                           私はしばらく黙ったまま、怪物の話したことや、そこで用いられたいろいろな論法を、よく考えてみた。生存のはじめに当って示したような美徳のみこみがあることや、ド・ラセー家の人たちがこの怪物に向って表わした嫌悪や軽蔑のために、あらゆるやさしい気もちが枯れはててしまったことを、私は考えた。この怪物の力や脅迫も勘定に入れないわけにいかなかった。氷河の氷の洞穴に居て、これを追いかけても近よれない断崖の峯々のあいだに隠れてしまう生きものは、争ったところでむだな能力をもったものであった。私は、黙って長いこと考えたあとで、この怪物にとってもまた人間仲間にとっても当然の正しさが、この要求を承諾することを求めている、という結論に達した。そこで、怪物のほうを向いて言った――
                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                            「追放中のおまえに伴れ添う女性をおまえの手にわたしたら、さっそく、永久にヨーロッパから、人間が近くにいるあらゆる場所から、立ち去ってしまう、と厳粛に誓うならば、おまえの要求に応じよう。」
                                                                                                                                                                                                                            「誓いますとも。天日にかけて、神のまします青空にかけて、この胸を燃やす愛の火にかけてわたしの祈りが聴きとどけられるならば、それらのもののあるあいだは、二度とにお目にかかりません。お家に帰って仕事にかかってください。その仕事の進捗ぶりを、言いようのない渇望をもって見守っています。準備ができたらわたしが現われますから、それだけは心配なさらぬように。」
                                                                                                                                                                                                                             そう言うと、怪物は、私の気が変るのを恐れでもしたのか、とつぜん私から離れ去った。見れば鷲の飛ぶよりも速く山を馳け降り、起伏する氷の海のあいだにたちまち見えなくなった。
                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                               怪物の話はまる一日かかり、そいつが立ち去ったころには、太陽が地平線とすれすれになっていた。まもなく暗やみに包まれるので、急いで谷間に降りていかなければならないことはわかっていたが、心が重く、歩みははかどらなかった。山の細道を曲りくねって辿り、進むのにいちいち足を踏みしめるつらさに、昼間の出来事で興奮していた私は、すっかり悩まされた。途中の休憩する所まで来て山のふもとに腰を下ろした時には、もうすっかり夜ふけだった。
                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                雲が掠めて通るあいまあいまに星が輝き、黒い松の木が眼の前に立ち、地面にはどこにもここにも折れた木か倒れていた。それは驚くほど厳かな場面であって、私の心に奇妙な感じを起させた。私はさめざめと泣き、苦悶のあまり手を握りしめて叫んだ、「おお! 星よ、雲よ、風よ、おまえらはみな私を嘲ろうとしている。ほんとうに僕を憫れむなら、感覚や記憶を叩きこわしてくれ。僕を無に還らせてくれ。が、それもできないなら、行ってしまえ、行ってしまえ、そして暗やみのなかに僕を置いていけ。」
                                                                                                                                                                                                                                 これはむちゃくちゃでみじめな考えだったが、永遠にまたたく星の光がどんなに重たくのしかかり、焼きつくすように吹いてくるどんよりしたいやな熱風のような風の吹くたびに、その音をどんな思いで聞いたかは、とてもお話できそうもない。
                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                   シャムニの村に着かないうちに夜が明けたので、私は休息もしないでまっすぐジュネーヴへ帰った。私は、自分の心のなかでさえ、私の気もちを言い表わすことができなかった、――それは山のような重さでのしかかり、私は下敷きにされて、あまりの苦しさにむちゅうになった。こんなふうにして私は、家に帰り、中に入って家の者の前に現われた。やつれはてて気ちがいじみた私の姿に、みなひどくびっくりしたが、私は何を聞かれても返事をせず、ほとんど口をきかなかった。私は、禁令のもとに置かれているような――みんなの同情を受ける権利がないような――もうみんなと仲よくできないような気がした。それでも私は、みんなを敬慕に近いくらいにさえ愛し、この人たちを救うために、自分のいちばんいやな仕事に身を捧げる決心をした。そういうことに没頭することを考えると、ほかのことはみな夢のように眼の前を過ぎ去り、そういう考えだけが生活の現実となった。
                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                  2017年07月02日 19時52分
                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示6

                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                    ぱせりさん、ぽんきちさん、
                                                                                                                                                                                                                                    そうですよね~、誰かが愛情をかけてやらないと、人間には育たない気がする。育児放棄のパパの責任が重大だと思う。しかも、創ったことだけ後悔してて、その後の放置については自分の責任と感じてないみたい。
                                                                                                                                                                                                                                  • GOOD!507/03 09:17
                                                                                                                                                                                                                                    >創ったことだけ後悔してて、その後の放置については自分の責任と感じてない

                                                                                                                                                                                                                                    深いですね。
                                                                                                                                                                                                                                    取り敢えず「う、うん」みたいな返事をしたヴィクトル、
                                                                                                                                                                                                                                    結局はまた「放置」することに気付いているんでしょうか。

                                                                                                                                                                                                                                    怪物が「人間」であればあるほど
                                                                                                                                                                                                                                    たった一人の伴侶と生きていくことは不可能なのに。
                                                                                                                                                                                                                                  • 113
                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                        18 イギリスへの旅立ち


                                                                                                                                                                                                                                     ジュネーヴへ帰ってから幾日も幾週間も経ったが、仕事にかかる元気は湧いてこなかった。望みを失った悪鬼の仕返しを恐れはしたものの、私は、言いつけられた仕事をするのはいやでたまらなかった。ふたたび深遠な研究とほねのおれる探求に数箇月を費さなければ、女性を造り出せないことがわかっていた。イギリスのある哲学者が何か発見をした話を開き、それを知ることは私が成功するためには必要なことだったので、そのためにイギリスへ行くのに父の同意を得たいと考えることもあったが、あらゆる口実をもうけてぐずぐずし、その仕事がぜひともすぐやらなければないわけでもなさそうな気がしはじめて、その第一歩を踏み出すことを尻込みした。私の身にはたしかに変化が起っていた。
                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                      というのは、今まで衰えていた健康がだいぶ恢復し、不幸な約束を思い出すことで妨げられないかぎりは、それに応じて元気も出てきた。父はこの変化を見て喜び、私の憂欝のなごりを根絶するいちばんよい方法について考えた。私のこの憂欝は、ときどき発作的に、日の光も蔽う舐めつくすような暗さを帯びて戻ってくるのであったが、そういう最中には、私は、それこそまったくの孤独のなかに隠れ、終日ひとりで小さなボートに乗って、黙ってぼんやりと雲を眺めたり、波のさざめきに耳をかたむけたりした。けれども、新鮮な空気と輝かしい太陽が、かならず、と言っでもいいくらい、ある程度のおちつきを取り戻してくれたので、家に帰るとみんなは、待っていてくれた笑顔で機嫌よく迎えてくれた。
                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                         ある日、こういう漫歩から戻ってくると、父は私をそばに呼んで、つぎのように話しかけた、――
                                                                                                                                                                                                                                        「おまえが以前の喜びを取り戻し、自分に帰っているらしいのを見て、わたしは嬉しいよ。けれども、おまえはまだ不しあわせで、わたしらのなかにいるのをまだ避けているね。わたしはしばらく、その原因についてあれこれと考えてみたが、昨日ひとつ考えが浮んだので、それが十分に根拠のあることだったら、聴いてもらいたいのだ。そういうことで遠慮することは、無用であるばかりでなく、わたしら皆のものに三重の不幸を招くことになるからね。」
                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                           この前置きを聞いて私はひどく慄えたが、父は話をつづけた、――「白状するが、わたしはいつも、おまえのエリザベートとの結婚を、この家庭を楽しくする絆であり、わたしの晩年の支えであると思って、将来を考えていた。おまえらは幼い時からたがいに仲よくし、いっしょに勉強し、気性や趣味の点でもまったく一致しているようだった。しかし、盲目的なのは人間の経験だから、わたしが自分の計画をいちばんよく手助けできると考えたことだって、それを叩き壊してしまうかもしれない。ひょっとしたら、おまえは、あの子を妹と考えていて、自分の妻にするというつもりはないのかもしれない。いや、おまえの好きなほかの女に出会っているのかもしれない。そして、エリザベートとは義理に縛られていると考え、どうもそうらしく見えるように、そんな気苦労でひどく参っているのかもれないね。」
                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                            「お父さん、御安心ください。僕は、あの従妹を心から深く愛しているのです。エリザベートのように、熱烈な敬慕や愛情を僕に起させる婦人には会ったことかありません。僕のこのさきの希望や予想は、まったく、僕らがいっしょになることの期待に結びついていますよ。」
                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                              「この問題に対するおまえの気もちを聞くと、ねえヴィクトル、絶えて味わったことのない喜びを感じるよ。おまえがそんなふうに考えてくれれば、いくらこのごろの出来事がわたしらに暗い影を投げようと、わたしらはきっと幸福になれるだろう。しかし、わたしが追いはらいたいのは、おまえの心を掴んで離さないように見えるこの影なのだよ。だから、この結婚の式をさっそく挙げることに、おまえが賛成かどうか、聞かしてほしいね。
                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                わたしは運がわるかったし、最近の出来事がわたしの齢や老衰に似つかわしい毎日の平静さを奪ってしまった。おまえは若い、けれども何不自由のない財産があるのだから、早く結婚したところで、おまえの立てているかもしれない未来の名誉な、また有益なことの計画の邪魔にはなるまい、と考えるのだ。といって、わたしがおまえの幸福を指図したがっているとか、おまえのほうでのびのびになるのがわたしにたいへんな心配を起させる、などと考えてもらっては困る。わたしの言うことを率直に取って、お願いするからひとつ、自信と誠実さをもって答えてもらいたいのだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                   私は黙って父の言うことに耳をかたむけ、しばらく答えることができずにいた。頭のなかですばやくさまざまなことを考えめぐらし、何か結論に達しようと努力した。ああ! 私にとって、エリザベートとさっそく結婚することは、怖ろしいことだったし、狼狽せずにいられないことだった。わたしはひとつの厳然たる約束に縛られていて、それをまだ果していなかったし、破る気もなかった。というよりは、もしも破ったならば、どんな数々の災難が私と私思いの家族に降りかかるかもしれなかった! こういう致命的な分銅を頸に懸け、地につくほど身を屈めたままで祝儀に臨むことができるだろうか。平和を期待する結婚の喜びを享ける前に、私は約束を果して、あの怪物を伴れといっしょに立ち去らせなければならなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                  2017年07月09日 11時35分
                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                     私はまた、イギリスへ行くか、それともその国の哲学者たちと久しいあいだ通信を交すかする必要があるのを思い出した。この哲学者たちの知識と発見は、私の現在の企てには欠くことのできないやくにたつものであったからだ。ただ、通信でもって自分の望んでいる知識を得ることは、手間がかかってしかも不十分だし、それにまた、父の家で、自分の愛する者たちといっしょに仲よく暮らしながら、一方で忌まわしい仕事に従うことを考えると、どうにもこうにもいやでたまらなかった。恐ろしい出来事がたくさん起るかもしれないし、そのうちのどんな小さなことでも、私に関係のある者全部に、怖ろしさに身の毛もよだつ思いをさせる秘密をあばき出すことになる、ということは明らかだった。
                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                      ここで言っている「哲学者」は、原文でphilosopherですが、「現在の企てには欠くことのできないやくにたつ」知識と発見の持ち主だとすると、いわゆる今いうところの哲学者ではない、んですよね、多分。
                                                                                                                                                                                                                                                      このあたりの区別がいまいちよくわからないのですが、前編に出てきた自然哲学のようなものですよね。ヴァルトマン教授みたいな人かな。
                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!407/09 15:41
                                                                                                                                                                                                                                                      創元推理文庫版では、「むこうの学者たち」となっています。
                                                                                                                                                                                                                                                    • 122
                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                      また、自分がしばしば自制心を失って、この世のものとも思われない仕事の進行中に、人を傷つけるような感情に捉えられたとしても、それを隠す力がなくなってしまうということも、私にはわかっていた。この仕事をしているあいだは、すべて自分の愛する者から離れていかなくてはならなかった。いったん、始めたとなると、それは早くできあがるだろうから、そしたら、平和で幸福な家族のもとに帰れるのだ。約束を果せば、あの怪物は、永久に立ち去るはずだ。もしかしたら(と私の甘い空想が心に描いたところでは)そのあいだに何か偶発的なことが起きて怪物を殺し、私のこんな奴隷状態が永久に終りを告げるかもしれなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                        > そのあいだに何か偶発的なことが起きて怪物を殺し

                                                                                                                                                                                                                                                        いやいや、キミキミ、そんな都合のよいことが起こるはずないだろ!、とツッコミたいです(--;)。
                                                                                                                                                                                                                                                      • GOOD!407/09 15:57
                                                                                                                                                                                                                                                        こいつ邪魔だなあ、いなくなってくれないかな、って最初からずっと思っているのですよね。
                                                                                                                                                                                                                                                        自分で創ったのに。並外れて大きいこととか見た目がおぞましいこととか、創る途中で十分解っていたはずなのに。どうも醜いなあと思いながらも自分で命を吹き込んだのに。
                                                                                                                                                                                                                                                        彼女が妊娠したり、生まれた我が子が重い障害児だったりすると、逃げ腰になる男たちとヴィクトル君が重なる。身に覚えがあるんでしょ、そこで逃げちゃあ駄目でしょう!
                                                                                                                                                                                                                                                        見捨てられた怪物君がかわいそう。
                                                                                                                                                                                                                                                      • 123
                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                         こんな気もちから、私は父に返答した。私はイギリスに行きたいという望みを言いあらわしたが、この要求のほんとの理由は伏せておいて、疑念をすこしも起させない口実のもとにこの願いに衣を着せ、父もわけなく承諾させられるような熱心さでこの願望を力説した。その烈しさや結果から言って狂気にも似た無我夢中の憂欝が長く続いたあとだったので、父は、私がそういった旅行を考えついて喜ぶようになったのを知って嬉しがり、場面の変化やいろいろな楽しいことで、帰って来るまでにはすっかり元の私にかえるのを望んだ。
                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                           私の留守にする期間は自分で選んでさしつかえないことになったので、数箇月あるいはせいぜい一年というのが予定期間になった。父は、私に伴れができるように、父親らしい配慮をしてくれ、私には前もって知らさずに、エリザベートと相談して、クレルヴァルがストラスブルグで私と会うような手筈をととのえた。これは、仕事をするために自分の求めた孤独の妨げにはなったが、旅をはじめるにあたっては、友だちが居てくれることはいっこうさしつかえなく、長いこと孤独な、気の狂いそうな考え事にふけることからこんなふうに助かって、私はほんとうに嬉しかった。否、例の私の敵の闖入したとか、アンリがその前に立ちふさがってくれるかもしれなかった。もしも私が、ひとりだとしたら、あいつはときどき、私の前にあのぞっとするような姿でおしかけて来て、仕事のことを憶い出させたり、その進捗ぶりを眺めたりするかもしれないではないか。
                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                             だから私は、イギリスへ出発しようとした。そして、帰って来たらすぐエリザベートと結婚すべきだということを了解した。父も、齢のせいで、ぐずぐずするのをたいへん嫌った。自分には、いやな仕事がすめばと自分に約束した一つの報酬――比べるもののない苦痛に対する一つの慰めがあった。それは、自分が、みじめな奴隷状態から解放されてエリザベートを求め、この娘との結婚によって過去を忘れる日の期待であった。
                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                               私はそこで旅の仕度をしたが、怖ろしくて胸さわぎのする一つの感じに絶えず悩まされた。私の留守中は、自分の親しい者たちは敵のいることに気づかず、私の出発したことで激昂するかもしれないあいつの攻撃を妨げないのだ。しかし、あいつは私の行く所へはどこであろうとついていくと約束したのだから、イギリスまでついて来るのではなかろうか。この想像はそれだけのものとして見れば怖ろしいものであったが、親しい者の安全を思わせるものであるだけに、慰めとなった。ただ、これと反対のことが起りはしないかと考えると苦しくなった。しかし、自分の造ったものの言うことに従った全期間を通じて、私は、その瞬間瞬間の衝動の支配するのにまかせたが、現在の感じではなんとなく、あの魔物が私のあとを追って来て、家族たちがそいつの悪だくみの危険をまぬがれるという気がしてならなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示3

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                                                                                                                                                                                                                                                                「けれども自分がつくったものの奴隷に成り下がっている間、わたしは瞬間瞬間の衝動に身を任せていましたから、このときもあいつはわたしを追ってくるだろう、だから家族があいつの罠に陥ることはあるまいと確信したのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                とあって、まあ言い訳なわけなんですが、理性的な判断力を失っていたといいたいのかなあと。

                                                                                                                                                                                                                                                                ところが角川版ではここの部分はばっさり削られていて
                                                                                                                                                                                                                                                                「イングランドまで追ってくるつもりいるのでしょうか?想像するだけでも背筋が凍りましたが、ともあれそうなれば家族は無事だと思うと、同じぐらい安心もするのでした。私はただ、ミナが無事では済まないかもしれないと思うと、ひたすら苦しかったのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                とだけあります。

                                                                                                                                                                                                                                                                だいぶ印象がちがいますよねえ。
                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!207/23 11:50
                                                                                                                                                                                                                                                                ありがとうございます~。

                                                                                                                                                                                                                                                                最後の部分、原文を貼っておきますね。
                                                                                                                                                                                                                                                                But through the whole period during which I was the slave of my creature, I allowed myself to be governed by the impulses of the moment; and my present sensations strongly intimated that the fiend would follow me, and exempt my family from the danger of his machinations.

                                                                                                                                                                                                                                                                前後を見ないとはっきりしたことは言えないですが、この部分、宍戸さんの訳は原文に「沿っている」印象を受けます。どうかな・・・?

                                                                                                                                                                                                                                                                個人的には、フランケンシュタインが根拠もなく直観に任せている感じにちょっとイラっとしますw(フランケンシュタインに対して)
                                                                                                                                                                                                                                                              • 127
                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                 私が故国を離れたのは、九月の下旬であった。この旅は自分が言い出し、したがってエリザベートが賛成してくれたものであったが、エリザベートは、私が自分と別れるのがつらくて、不幸と悲歎に暮れていると考えて気を揉んだ。クレルヴァルを私の伴れにするようにしたのは、エリザベートの注意であった――それなのに男は、女の周到な注意を必要とする無数のこまかい事情には盲なものだ。エリザベートは、私に早く帰ってと言いたいのであったが、――万感こもごも胸に迫ってものが言えなくなり、黙って涙ながらの別れを告げるのだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示4

                                                                                                                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                  本当に、エリザベート、ヴィクトルのどこがよかったんでしょうかねえ。友人のアンリにしても…
                                                                                                                                                                                                                                                                  ヴィクトルのまわりにいる人たちがあまりに良すぎて、不思議です。

                                                                                                                                                                                                                                                                  今週もありがとうございました。
                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!407/09 16:37
                                                                                                                                                                                                                                                                  今週もありがとうございます。

                                                                                                                                                                                                                                                                  家族や婚約者の心配も無視して、独断で怪物造りに没頭してきたのに、完成したら知らん顔って・・・
                                                                                                                                                                                                                                                                  この時代だし、世話になっている家で息子の嫁にしてやると言われれば、断れる立場ではなかったんだろうなと思いますが、作者(のような性格の女性)だったら、ヴィクトルみたいなうじうじした奴なんか願い下げだったかな。

                                                                                                                                                                                                                                                                  そういえばこのお話には悪人は出てきませんね。出来過ぎのような立派な人たちばかり。
                                                                                                                                                                                                                                                                • 128
                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                   私は自分を乗せて行く馬車に身を投じたが、どこへ行くのかも知らなかったし、あたりに何が起きているかにも気をつけなかった。ただ、いっしょに持っていくように、化学器具を荷造りしてくれと命じたことはおぼえているが、そのことを考えると、やりきれない苦悩を感じた。わびしい想像をめぐらしながら、私は多くの美しい雄大な光景を通り過ぎたが、眼はじっとすわっていても何も見ていなかった。私にはただ、この旅の目的地と、旅先にあるあいだはやめずに没頭しなければならない仕事のことしか考えられなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                     四、五日ほどぼんやりと怠惰のうちに過ごして、そのあいだに何里も歩いたりしたあとで、ストラスブールに着き、そこで二日クレルヴァルを待ち合わせた。クレルヴァルはやって来た。ああ、私たち一人がなんと対照的だったことだろう! クレルヴァルは、どんな新しい場面にも敏感で、沈む太陽の美しさを見ては喜び、太陽が昇って新しい日が始まるのを見てはそれ以上に嬉しかった。風景の移り変る色や空の現象を教えたりもした。「生きているかいがあるというのは、こういうことなんだ。いま僕は、こうして生きていることを享楽するよ! だけど、フランケンシュタイン、なんだって意気銷沈して悲しんでいるんだ!」
                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示3

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                                                                                                                                                                                                                                                                      創元推理文庫版では、
                                                                                                                                                                                                                                                                      「だらだらと怠惰な何日かを費やして何リーグも走ったすえ、」
                                                                                                                                                                                                                                                                      となっています。走ったのは馬車で、乗客は何もしないで運ばれていたんでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!307/23 11:18
                                                                                                                                                                                                                                                                      光文社古典新訳版では
                                                                                                                                                                                                                                                                      「何もすることがないまま数十マイルも進んでストラスブールに着くと、二日間、クラーヴァルの到着を待ちました。」

                                                                                                                                                                                                                                                                      角川版では
                                                                                                                                                                                                                                                                      「そうして物憂げなままに数日かけて何リーグもの道のりを進みストラスブールに到着すると、そこで二日ほどクレルヴァルを待ちました。」
                                                                                                                                                                                                                                                                      となっています。
                                                                                                                                                                                                                                                                      やっぱり走ったのは馬車で、自分はただ馬車に揺られていたんでしょうね。
                                                                                                                                                                                                                                                                    • 130
                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                      まったく私は、陰気な考えにふけり、宵の明星の沈むのも、ライン河に映える金色の日の光も見なかった。――だから、私の回顧談に耳をかたむけるよりも、多感と歓びの眼で風景を観察したクレルヴァルの日記のほうがずっとおもしろいにちがいない。みじめなあさましい私は、喜びへのあらゆる通路を閉めきる呪いに附きまとわれたのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年07月16日 21時54分
                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                         私たちはストラスブールからロッテルダムまで、ボートでライン河をくだり、そこからロンドンへ渡航することに相談を決めた。この舟旅のあいだ、私たちは、柳の多い島々を過ぎ、いくつかの美しい都会を見た。マンハイムには一日滞在し、ストラスブールを立ってから五日目にマインツに着いた。マインツから下流のラインの河筋は、ますます絵のようになってくる。絶壁のふちに立ち、高くて近よれない黒い森に囲まれた古城を、私たちはたくさん見た。このあたりのライン河は、珍らしく変化に富んだ風景を見せている。ある地点では、峨々たる山々や、その下に色濃いラインの河の流れる巨大な断崖の上に聳え立った古城が見え、また、とある山はなを曲ると、緑のなだらかな岸に繁る葡萄園や曲りくねった河や背景を占めた賑かな町々が見える。
                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                        • 132
                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                           葡萄のとりいれの時に旅行したわけで、私たちは、流れを滑るようにくだりながら、労働者の歌うのを耳にした。意気沮喪し、たえず暗欝な気もちに胸を掻きむしられる私でさえ、嬉しかった。舟の底に横になり、雲ひとつない青空を眺めていると、長いこと忘れてきた平静さに吸い込まれるようにおもわれた。こうして、私の気もちがこのようであったとすれば、誰がアンリの気もちを述べることができるだろう。アンリはお伽ばなしの国につれていかれたような気になって、人間としてめったに味わえない幸福にひたった。
                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                            「僕は自分の国のいちばん美しい景色を見ている。ルツェルン湖やウリ湖にも行ったが、あそこでは、あの華やかな眺めで人の眼を慰める青々とした島々がなかったら、陰欝で悲しげな風景になりかねない黒い底知れぬ陰を投げて、雪に蔽われた山々が、ほとんど垂直に水辺に迫っていた。あの湖水があらしに波立つのを僕は見たが、そのときは、風で水の渦巻ができて、大海の竜巻とはこういうものにちがいないと思うくらいだったよ。そして、浪が怒り狂って山の麓にぶつかったが、そこでお坊さん夫妻が雪崩に押しつぶされ、今でも夜風のあいまに、二人の死に瀕した声が聞えるという話だ。僕はラ・ヴァレー山脈やペー・ド・ヴォー湖も見たことがある。しかし、この国はね、ヴィクトル、いっさいのそういうものより僕の気に入ったよ。
                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                              スイスの山のほうがもっと雄大で変っているが、このすばらしい河の岸には、まだ比べになるものを見たことのない魅力がある。むこうの絶壁にさしかかっているあの城をごらんよ。あの美しい木立の葉に隠れてよく見えないけれど、島の上にもあるよ。あれあれ、労働者のむれが葡萄のあいだから出てくるところだ。あの村は山ふところに半分隠れてしまっているのだね。ねえ君、こういう所に住んでここを守っている精霊は、きっと、僕らの国の、氷河を積みあげたり、山の近よれない峯々にひそんだりしている精霊よりは、ずっと人間と調和する魂をもっているわけだね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                 クレルヴァル! 愛する友よ! 君の言ったことを記録し、誰よりも君こそ受けるに価する賞讃の辞を述べるのに、今だって私には嬉しいことだ。クレルヴァルこそ「自然の詩そのもの」に養われた人間なのだ。野性的で熱狂的なその想像力は、心の感受性によって精煉されたものだ。魂は熱烈な愛情に溢れ、またその友情は、世俗的な心をもった人なら、そんなものは想像のなかだけにあるものだと言うような、あの没我的な、ふしぎな性質のものだった。しかし、人間の同感さえ、この男の燃えるような心を満足させるには足りなかった。ほかの者ならただ感歎して見るだけの外的自然の風景を、この男は熱情をもって愛したのだ。――
                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                  轟く滝は激情のように
                                                                                                                                                                                                                                                                                  たえずその人に附きまとう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                  高い岩も、山も、また深い暗い森も、
                                                                                                                                                                                                                                                                                  その色も形も、こうしてその人には嗜好だった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                  与えられた思想による、あるいは
                                                                                                                                                                                                                                                                                  眼から見たのでもない何かの興昧による
                                                                                                                                                                                                                                                                                  間接的な魅力を必要としない
                                                                                                                                                                                                                                                                                  感情や愛情だった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                        ――ワーズワース「チンターン僧院」――
                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                                                                                                    --轟き落ちる瀑布が
                                                                                                                                                                                                                                                                                    熱情のごとく取り憑いたその日から、
                                                                                                                                                                                                                                                                                    高き岩と、山と、そして深くうつろな森と、
                                                                                                                                                                                                                                                                                    その色と姿とが、
                                                                                                                                                                                                                                                                                    彼の情熱となった
                                                                                                                                                                                                                                                                                    思考が補うどんな能力も
                                                                                                                                                                                                                                                                                    目を借りぬどんな趣も必要なき
                                                                                                                                                                                                                                                                                    感動と、愛情に
                                                                                                                                                                                                                                                                                  • GOOD!307/23 12:46
                                                                                                                                                                                                                                                                                    光文社古典新訳版は

                                                                                                                                                                                                                                                                                    ----轟く滝の響きは
                                                                                                                                                                                                                                                                                    情熱となってあの人を魅了し、
                                                                                                                                                                                                                                                                                    高い岩、山と深く暗い森
                                                                                                                                                                                                                                                                                    その色とかたちも、
                                                                                                                                                                                                                                                                                    その人にはその日の願望、
                                                                                                                                                                                                                                                                                    感情や愛には
                                                                                                                                                                                                                                                                                    思考がくれる深い魅力を要せず
                                                                                                                                                                                                                                                                                    目を借りぬ興味も
                                                                                                                                                                                                                                                                                    必要としない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 137
                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                     そのクレルヴァルは、いまどこにいるのだろう。このやさしい愛すべき人間は、永久に居なくなったのだろうか。ひとつの世界を形成する空想的なすばらしい観念や想像にあれほど満ちていた心、その存在が創造者の生命に依存していた心は、――あの心は、滅び去ってしまったのだろうか。いや、そうではない。あのようにすばらしくつくられた輝くばかりに美しい君の姿こそ、朽ちはててしまったが、君の精神は今でも、君の不幸な友を訪れて慰めてくれるのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                     こんなふうに悲歎にくれるのを許してください。いまさら言ってもむだな、こういうことばは、アンリの比類ない価値に対する、ささやかな、たむけのことばでしかありませんが、それでも、あの男を思い出すと襲いかかって苦悩に溢れる私の心を慰めてくれるのです。さて、話を続けましょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年07月16日 22時00分
                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!207/17 10:34
                                                                                                                                                                                                                                                                                      「その存在が創造者の生命に依存していた心は、」というのは意味が取りにくいような。
                                                                                                                                                                                                                                                                                      創元推理文庫版では、
                                                                                                                                                                                                                                                                                      「その世界が存在するのも、創造主が生きていればこそだったのに」
                                                                                                                                                                                                                                                                                      とあります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!307/23 12:55
                                                                                                                                                                                                                                                                                      光文社古典新訳版では
                                                                                                                                                                                                                                                                                      「奔放にして素晴らしい思想と想像力が溢れ、一つの世界をつくりあげていた。創造主が生きていればこそ存在し得た世界。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                      角川文庫版では
                                                                                                                                                                                                                                                                                      「彼の心には奔放で壮大な創意と想像力とが溢れ返り、創り主を無くしては成り立たぬ世界をそこに創りあげていた」

                                                                                                                                                                                                                                                                                      となっていました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 138
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                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                       ケルンを過ぎれば、オランダの平野に出る。そこで二人は、それから先の道を早馬で行くことに決めた。風が向い風だったし、河の流れも舟にはゆるやかすぎたからだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                       この旅も、ここまでで、美しい景色から生ずる興味を失ったが、数日後にはロッテルダムに着き、そこから海を渡ってイギリスに向った。ブリテンの白い崖をはじめて見たのは、十二月も末のある日の晴れた朝であった。テームズ河の西岸は、新しい光景をくりひろげたが、それは平坦ではあるが土地が肥えていて、ほとんどどの町にも、何か物語を思い出させるような痕跡があった。ティルベリ堡塁が見え、スペインの無敵艦隊が憶い出された。グレイヴゼンド、ウーリッヂ、グリーニッヂというような、国にいるときでさえ聞いたことのある所も見えた。おしまいには、ロンドンの無数の尖塔、あらゆるものの上に聳え立つセント・ポール寺院、イギリスの歴史のうえで有名なロンドン塔などが見えてきた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年07月16日 22時01分
                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示4

                                                                                                                                                                                                                                                                                      ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                        今週もありがとうございます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                        明るく、かつ感受性豊かな友との旅がもっと続けばよかったのに。イギリスについてしまったからには、仕事に取り掛からなくちゃならなくなってしまいますね・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                        アンリに何か不吉なことが起こりそうな嫌な感じ、この辺の描写も上手ですねぇ・・・。

                                                                                                                                                                                                                                                                                        *派生読書の「失楽園」http://www.honzuki.jp/book/59900/review/180484/が予想を超えておもしろかったです。この読書会がなければ手が出なかったと思います。下巻のレビューもそのうち書きます~。
                                                                                                                                                                                                                                                                                        派生の派生で、今なら「神曲」も読めそうな気がちょっとしていますw
                                                                                                                                                                                                                                                                                      • GOOD!407/17 11:18
                                                                                                                                                                                                                                                                                        イギリスから極地に向かう探検家が、ヴィクトル君の述懐を聴いているんでしたよね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                        ヴィクトル君はスイスのジュネーブ出身で、ドイツのインゴルシュタットで学び、怪物を創ったが、放り出したまま帰国してしまった。弟ウィリアムが殺害されており、その冤罪でジュスティーヌが死刑になった後、アルプスのシャモニから登山中に怪物と再会して話をした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                        怪物君はインゴルシュタット近くの森で暮らしたが、食べ物を求めて3日さまよい、民家に隠れてフランス語で自分を教育、そこで拒絶されて家に火をつけ、独力でジュネーブを目指し、たどり着いたところでウィリアムらと不幸な出会いをしてしまったという。
                                                                                                                                                                                                                                                                                        自分の伴侶を作ってくれさえすればもう迷惑はかけないという怪物の申し出を受け入れる形で、研究のためイギリスにわたる旅をしている。

                                                                                                                                                                                                                                                                                        パートナーが詩人ですし、外国旅行で見聞したことが物語に生かされているのでしょうね。こんなに自然描写の豊かな作品とは知りませんでした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 139
                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                             19 荒凉たる孤島で


                                                                                                                                                                                                                                                                                         ロンドンはさしあたりの休息地であった。私たちは、このすばらしい有名な都会に数箇月滞在することに決めた。クレルヴァルはこのころ盛名のあった才能ある人たちとの交際を望んだが、それは、私にとっては第二次的な目的であった。私は、おもに、自分の約束をはたすために必要な知識を得る手段に心を用い、自分が持ってきた、もっともすぐれた自然哲学者あての紹介状を、さっそく利用した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!4コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                                                                        ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                           この旅が、もしも、まだ研究に従っていた幸福な時代におこなわれていたら、私に言いようもない喜びを与えていたことだろう。しかし、私の存在には暗影が投げかけられていて、私はただ、自分がおそろしく深刻な関心をもっている問題についての知識を、教えてもらうために、この人たちを訪ねたにすぎなかった。仲間も私にはわずらわしかったので、ひとりきりになっていると、心を天地の眺めで満たすことができた。ただアンリの声は私を慰めてくれるので、自分を偽って、しばしの幸福を味わうことができた。しかし、しきりにつまらなそうにしてはしゃいでいる人々の顔を見ると、私の心には絶望が戻ってきた。私は、自分と自分の仲間である人間のあいだにある越えることのできない障壁を見たが、この障壁は、ウィリアムとジュスチーヌの血で封印がしてあり、この二人の名まえに結びついた出来事を考えると、私の魂は苦悶でいっぱいになった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年07月23日 11時12分
                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示3

                                                                                                                                                                                                                                                                                          ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                            > この障壁は、ウィリアムとジュスチーヌの血で封印がしてあり、この二人の名まえに結びついた出来事を考えると、私の魂は苦悶でいっぱいになった。

                                                                                                                                                                                                                                                                                            このあたり、発想が詩的な感じがします。
                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!307/23 19:05
                                                                                                                                                                                                                                                                                            光文社古典新訳では
                                                                                                                                                                                                                                                                                             この旅がかつて勉学に明け暮れていた楽しい日々のことであったら、言い尽くせぬほどの喜びをもたらしたに違いありません。しかし病に冒されたような私は……(中略)。
                                                                                                                                                                                                                                                                                             しかし、せかせかとしてつまらぬ笑顔を浮かべている連中を見ていると、心に絶望が蘇る。

                                                                                                                                                                                                                                                                                            角川文庫では
                                                                                                                                                                                                                                                                                             もしあんな不幸に見舞われる前に過ごしていた学生時代だったならば、私はきっと言葉にできぬほどの喜びをこの旅に感じていたことでしょう。しかしすっかり絶望に打ちひしがれていた私にしてみれば、…(中略)。しかし、せかせかとした退屈な連中が愉快そうにしている顔を見ていると、この胸に絶望が舞い戻ってきてしまうのでした。

                                                                                                                                                                                                                                                                                            となっていました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 141
                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                             しかしクレルヴァルは、以前の私自身のおもかげを髣髴たらしめ、研究的で、経験や知識を得ることに熱心だった。自分の守った風習の違いが、この男にとっては教訓と楽しみの尽きることのない源泉であった。この男はまた、長いこともくろんでいた目的を追求していた。そのもくろみというのは、インドへ行くことであって、自分のもっているその国のさまざまな言語の知識、その社会についての見解が、ヨーロッパの植民と貿易の進歩を実質的に助ける手段であると信じていた。さらに進んでこの計画を実行に移すのは、イギリスに居てはじめてできることであった。クレルヴァルはしじゅう忙がしくしており、その楽しみのたった一つの邪魔は、私の悲しげながっかりした気色だった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年07月23日 11時13分
                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                                                                            ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                              私は、何かの心配やつらい思い出に煩わされないで、新しい人生の舞台に上ろうとしている者の、自然な歓びを妨げないために、できるだけそれを隠そうとした。自分ひとりで居るために、ほかに約束があるからと言って、私はよく、クレルヴァルといっしょに出かけるのをことわった。私は今また、新しい創造のために必要な材料を集めはじめたが、このことは、頭にたえず落ちてくる水の一滴一滴の拷問のようなものだった。もっぱらそのために用いられた考えは、どれもこれも極端な苦悩であり、暗にそれを指して語ったことばは、一つ一つ唇を慄えさせ、心臓をどきどきさせた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                 ロンドンで何箇月か過ごしたあとで、私たちは、スコットランドに居る人から手紙を受け取ったが、この人は以前ジュネーヴに私たちを訪れたことのある人であった。自分の国の美しさを挙げて、もしもこういうものに誘惑を感じるようでしたら、私の住む北方のこのパースまで足を延ばしていただけませんか、と言ってきたのだ。クレルヴァルはしきりにこの紹待に応じたがったし、私も人とつきあうのは嫌だったけれども、山や河や、自然が意のままに定めたその住まいを飾るすばらしい細工を、ふたたび見たかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                   私たちがイングランドに着いたのは十月初めで、今は二月だった。そこで、三月が過ぎたら北に向って旅を始めることに決めた。この長途の旅に際して私たちは、エディンバラへの大道を通らず、ウィンザー、オクスフォード、マトロッタ、カンバーランド湖水地方などに寄るつもりで、七月の終りごろにはこの旅の終点に着くことに決めた。私は、スコットランドの北部山地のどこか人知れぬ片隅で、自分の仕事を仕上げることに決めて、化学器具と集めた材料を荷造りした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                   私たちは、三月の二十七日にロンドンを立ち、二、三日ウィンザーに滞在して、そこの美しい森のなかを散歩した。これは私たちの山国の人間には目新しい風景であって、厳めしい檞(かしわ)の木、たくさんの鳥獣、堂々とした鹿のむれになどは、いずれも珍らしかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                    うーん、そんな持ち運びできるほど簡単な設備で怪物は作り上げることができるのか…ていうかスコットランドで死体をどうやって調達するんだろう…も、もしやヴィクトル、その辺何も考えなかったりして!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 145
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                     そこから私たちはオクスフォードへ行った。この都会に入ると私たちは、一世紀半以上も前にここに起った出来事を思い出さずにいられなかった。チャールズ一世が軍隊を集めたのは、ここであった。国民全部が議会と自由の旗を守って王の味方をすることをやめた後でも、この市に忠義を立てとおした。あの不運な王、その仲間、気立てのやさしいフォークランド、傲慢なゴーリング、王妃、王子等の憶い出は、この人たちが住んでいたとおもわれるこの市のあらゆる部分に、特別の興味を与えている。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年07月23日 11時17分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示3

                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「失楽園」のミルトンはクロムウェル支持派でしたね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      革命後、クロムウェルの外交秘書として働きますが、激務による過労のため失明。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「失楽園」は王政復古後、政治的には失脚した後の作品ということになります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!307/23 18:01
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      1世紀半前ということは、現代の私たちからすると明治維新の頃、みたいな感じですかね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      そうするとシェリーたちにとっての「失楽園」は、時代感覚的には私たちが明治の文豪の作品を読んでいるくらいな感じなのかな・・・? そう思うと大昔の古典というよりは、案外と身近に感じられるものだった、のかな・・・?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 146
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      古い時代の魂がここにはとどまっており、私たちはその足跡を尋ねて喜んだ。こういう感情が想像力を満足させなかったとしても、市の外観は、それだけでもなお十分に、私たちを感歎させるような美しさをもっている。大学の各学部は古色を帯びて絵のようだが、街々もたいてい壮麗であり、すてきな緑の牧地を通って市のそばを流れるアイシス河は、木々の間に抱かれた塔、尖塔、円屋根などの集まりを映す渺茫とした水鏡をひろげている。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私にこういう光景を見てこの楽しんだが、楽しみは、過去を憶い出しても、また未来を予想しても、にがにがしいものになった。私は穏かな幸福を享けて暮らせるはずであった。今より若いころは不満の起ったためしはなかったし、また、私がいつも倦怠(アンニュイ)に襲われたとしても、自然のなかの美しいものを眺めたり、人間の制作のなかの優れにもの、卓越したものを見たりすると、つねに自分の心に興味が起り、精神に弾力が与えられたものだった。しかし、今に、私は枯木であった。電戟が私の魂を打ったのだ。そのとき、私は、自分が生きながらえるとすれば、ほかの人たちに対してはなさけない、自分自身に対してはがまんのできない、難破した人のみじめな姿――まもなくそうであることをやめるだろうような――をさらすことになるにちがいない、という気がした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示8

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「わたしは安らかな幸福のために創られた人間です。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「しかし今は、雷に打たれた木のようなもの、魂まで稲妻につらぬかれてしまっているのです。自分は生きながらえて、人から見れば哀れむべき、自分にとっては耐えがたい、みじめな敗残の姿を­-それももうすぐ終わるのですが-さらすことになるのだと、そんな予感がしていました。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                          雷に打たれて、受動的に野心??にとりつかれ化け物を創らされたので、私の責任ではありません、て感じですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • GOOD!307/30 23:19
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          創元推理文庫版の、1931年版のまえがきの中に、着想を得た時の描写があるのですが、

                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「恐ろしい亡霊のような人のかたちが横たわっていて、やがて何か強力な機械の作動によってそれが生命の兆候を見せ、ぎごちない半生命的な動きをする。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「おのれの成功に科学者は震えあがるだろう。恐怖に打たれ、忌まわしい仕事を捨てて一目散に逃げだしてゆく。ほうっておけば彼があたえたわずかばかりの生命の火花は消えてしまい、あんな不完全な生気を受けとった生物はもとの死せる物質に戻ってしまうだろうと、そう彼は期待を抱く。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                          スイッチを入れた時だけ動くけれど、こちらが動かさなければ動かない機械を設計したつもりが、予期せず永久運動が始まってしまったような感じなのでしょうか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 148
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                           私たちはかなり長くオクスフォードで過ごし、その郊外を散策して、イギリスの歴史のもっとも生彩に富んだ時期に関係のある地点を、いちいち見て歩いた。このささやかな発見の旅は、目的物がつぎつぎと現われてきたために、たびたび延期された。有名なハンプデンの墓やこの憂国の士が倒れた戦場も訪れた。私の魂はしばしば卑屈になるみじめな気づかいから高められ、こういう名所にその記念物や記念碑を遺している自由や自己犠牲のけだかい思想について考えた。しばらくは私も、思いきって自分の鎖を振り棄て、自由で高潔な精神をもってあたりを見まわしたが、鉄鎖が肉に食いこんでいるのを見て、ふたたび戦慄し失望してみじめな自分に還るのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年07月23日 11時19分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                             私たちは思いを残しながらオクスフォードを去り、つぎの休息地マトロックへ行った。この村の近隣地方は、かなりスイスの風景に似ているが、何もかも規模が一段と小さく、緑の小山にも、故国の、あの松の生えた山々にかぶさった遠くの白い冠が欠けている。珍らしい洞窟や博物学の小さな陳列館にも行ってみたが、そこには、セルヴォやシャムニの蒐集品と同じようにして珍らしいものが並べてあった。アンリがセルヴォやシャムニという地名を口にすると、あの恐ろしい場面が聯想されたので、急いでマトロックを立ち去った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                               ダービーからさらに北に向って旅をつづけ、カンバーランドやウェストモアランドで二箇月ほど過ごした。すると今度は、スイスの山々に居るのかと空想しかねないほどであった。山の北側のまだ消えやらぬはだら雪や、湖水や、岩間をほとばしる流れは、私に親しいなつかしい光景であった。ここでもまた私たちは、幾人か知り合いができて、そのために私も、どうにかこうにか幸福になれた。クレルヴァルの喜びは、こんなふうで私どころのさわぎでなく、才能のある人たちと仲間になってその心が伸びひろがり、また自分より劣った者とつきあっているうちに、自分の性質のなかに、自分で想像していたよりも大きな能力と素質をもっていることがわかった。クレルヴァルは私に言った、「僕は、ここで一生を過ごせるね。こういう山の中にいると、スイスやライン河を羨むこともないからね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示5

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                しかし本当に美しい風景描写が、不吉な予感を効果的に引き立てていますよねえ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                こういうのが文才っていうものなのでしょうか。計算し尽くして書いたというよりは天性のものであるような気がします。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!407/30 23:51
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                作者も夫と同じように詩心があるのでしょうね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                嘘だ、僕は悪夢を見てるんだ、と現実に目をつぶってきた主人公は、自分が生みだした怪物と直接話し合い、怪物の実在とその力を思い知らされた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                それでも、なんとか怪物の伴侶を創る(創ろうとして創れるのか?)ことで、あくまでも怪物の存在を隠そうとする主人公。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                父親も婚約者も親友も良い人で、みな主人公のことを心配してくれているのに、主人公の頭の中はもう怪物のことばかり。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                自分にくっついてイギリスにも来るんだろうなと思ってもいる。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                怪物はどうやって海を渡るんだろう?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 151
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 しかし、旅人の生活というものが、喜びのさなかに多くの苦痛を蔵するものであることを、クレルヴァルも知った。というのは、感情がいつも緊張しており、何かしら新しいものを見っけては喜んで寄りかかるが、さて、ゆっくりした気分になりはじめると、それから離れ去らずにいられなくなり、新しいものにふたたび注意を奪われ、それをまた見棄てて別の新しいものを求めるのだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  a traveller\'s life is one that includes much pain amidst its enjoyments. His feelings are for ever on the stretch; and when he begins to sink into repose, he finds himself obliged to quit that on which he rests in pleasure for something new, which again engages his attention, and which also he forsakes for other novelties.

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  旅についての箴言みたいな感じですねw
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  実生活でシェリーが体験した旅は、やはり浮草的な感じだったのでしょうかねぇ・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 152
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   ようやくカンバーランドとウェストモアランドのいくつかの湖水に行き、土地の人たちにもなじみができたころ、スコットランドの友人との約束の期限が近づいたので、そこをあとにして出発した。自分としては心残りはなかった。しばらく約束をほったらかしておいたので、怪物が力を落として何かしでかしはせぬかという懸念もあった。あいつはスイスに残っていて、私の身うちの者に仕返しするかもしれなかったからだ。この考えが附きまとって、それさえなければゆっくりもし、穏かにしていられるときでも、私を苦しめた。私は、興奮していらいらしながら自分あての手紙を待ち、それが遅れるとみじめになって、どこまでも危惧の念に駆られるのだったが、さてその手紙が来て、エリザベートか父の上書きを見ると、思いきって読んで自分の運命を確かめる気にはなかなかなれなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示3

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    創元推理文庫の訳は、「あの悪魔が失望したらどうなるかと恐ろしかった。」です。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • GOOD!110/01 13:48
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    角川・田内訳では「あの悪魔が失望すればどんな目に遭わされることかと冷や冷やしていたのです。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    光文社古典新訳版では「落胆した悪魔がどんなことをするか怖かったのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    となっていました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 153
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    あの魔ものが私について来て、怠慢を責めて私を促すために私の伴れを殺すかもしれないとも考えた。こういう考えに取り憑かれると、ひとときもアンリのそばを離れず、影のようにそのそばに附いてまわり、殺戮者の怒りを想像してこの友人を護った。私に、自分が何か大きな罪を犯したような気がして、その意識にどこまでも附きまとわれた。罪を犯したわけではないが、実際に、罪の呪いと同様の致命的な怖ろしい呪いを頭上に招いていたのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       私は眼も頭もどんよりとしてエヂンバラに行ったのだが、どんな不運な者でもこの都会には興味をもつにちがいない。クレルヴァルは、オクスフォードほどにはここを好まなかった。オクスフォードの古さがここより気に入っていたからだ。しかし、エヂンバラの新しい町の美しさや整然たるところや、またその浪漫的な城、世界でいちばん楽しいその近郊、アーサー王の座席、聖バーナードの泉、ペントランド丘陵などが、気分を変えるのにやくだったので、クレルヴァルもすっかり愉快になって感歎した。けれども私は、旅を切りあげてしまいたくてならなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年07月30日 18時59分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         一週間ほど経ってからエヂンバラを去り、クーパー、セント・アンドリウスを通り、テイ何の岸をつたわってパースへ行った。しかし、よその人と笑いあって話をしたり、来訪者らしいよい機嫌でその人たちの感情や計画に立ち入ったりする気分にはなれなかったし、したがってクレルヴァルにも、ひとりでスコットランド観光の旅をやりたいと語った。「君はゆっくりしていてくれよ。そして、ここで落ちあうことにしようよ。僕はひと月かふた月畄守にするだろうが、お願いだから、かってにしておいてくれないか。ちょっとのあいだ、静かにひとりっきりで居さしてほしいんだ。帰って来たら、気もちがもっと晴れやかになって、君の気分にももっとしっくりするようになるつもりだから。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         アンリは私に思いとどまらせようとしたが、この計画に心を傾けている私を見て、諌めるのをやめ、そのかわり手紙をたびたびくれるように念を押した。「僕はね、自分の知らないスコットランドの人たちといるくらいなら、君の一人旅についていきたいよ。それじゃ、早く帰って来てくれたまえ。そしたら僕はまた、くつろいだ気分になれるだろうからね。どうも君が居ないとだめなのだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         友と別れてから、スコットランドのどこか遠い所へ行って、そこでひとりになって仕事をしあげようと決心した。あの怪物が私のあとについてきて、仕事をしあげたときに、自分の伴れあいを受け取るために、私の前に姿をあらわすだろう、ということだけは疑いなかったからだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 157
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           こう決心して北部高地を横ぎり、仕事の場所として、オークニー群島中のいちばんはずれの島に腰をおちつけた。それは、岩といったほうがよいくらいな、高いほうの側がたえず波に打たれる島で、こういう仕事にはふさわしい場所だった。土地は痩せていて、かろうじて数頭のみすぼらしい牛を飼う草地と、五人しかない住民の食べるオートミルとがあるだけで、この人たちの痩せこけて骨ばった手足が、そのまま食料の乏しさを語っていた。珍らしいごちそうの野菜やパンばかりでなく、清水でさえも、五マイルも離れた本土から持って来なければならないのだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           島全体で、みすぼらしい小屋が三軒あるだけで、しかもその一軒が空いていた。それを借りたわけであるが、それにたった二つの部屋があるだけで、しかもそれは見るかげもなく荒れはてたむさくるしい代物だった。草葺きの屋根は落ち、壁は塗りがはげ、扉の蝶つがいははずれていた。私はそれを修繕させ、家具を少しばかり持ち込んでそこに住むことにした。これは島の人々の意識が欠乏とむごたらしい貧困のためにすっかり麻痺していなかったならば、かなり意外なことに思われたにちがいない。しかし、食べものや着ものを少しばかりくれてやってもお礼も言わないくらいのもので、どうやらじろじろ見られたり妨害されたりもしなかった。貧苦というものは、人間のごく粗野な感覚をそれほど鈍らせるものだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             この隠れ家で、朝のうちは仕事にかかりきり、夕方には天気さえよければ、石ころの多い海辺を歩いて、足もとに哮えて砕ける浪の音に耳をかたむけた。単調ではあったが、たえず変る光景であった。スイスのことを考えたが、それはこの荒涼としたものすごい風景とはずっと違っていた。スイスの山は葡萄に蔽われ、その農家に平原に散在している。美しい湖水は、青い穏かな空を映して、風に乱される時でもその騒々しさは、この大海の咆哮に比べれば、元気のいい赤ん坊のいたずらのようなのでしかない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               はじめここに着いたとき、仕事をこんなふうに割り当てたが、仕事が進むにつれて、それが日ましにいやになり、うんざりするようになった。幾日となくどうしても実験室に入れないこともあったし、そうかとおもうと、仕事をしあげるために夜も昼も働くこともあった。私が従事したのは、ほんとうに穢らわしい仕事だった。最初の実験中は、一種の気ちがいしみた熱中のおかげで、仕事のおぞましさに対して盲になり、ただいちずに仕事を完成することにしか心がはたらかず、自分のやっていることに対する怖ろしさも眼に入らなかった。しかし、気もちが冷静になってくると、今度は、自分の手を使ってやっていることに対して、何度もつくづくといやになった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 こういう状態で、このうえもなく忌わしい仕事に従事し、自分の置かれた現実の場面からちょっとのあいだでも注意をそらしてくれるもののない孤独にひたっていると、精神に不同が生じてきて、だんだんおちつきがなくなり、神経質になった。いつなんどき、自分を追いかける者に出会わないともかぎらないのを恐れたのだ。ときには見るのをこんなに怖れているものと顔を合せるようなことのないように、眼をあけるのを恐れて、地面に眼を伏せて坐った。ひとりでいて、あいつが伴れあいをよこせと言って来るようなことのないように、人間の眼のとどくところから外へ出歩くことも、怖がってやらなかった。 
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  そうしているあいだにも、働きつづけたので、仕事はもうかなりはかどった。私はその完成を、いっしょうけんめいな、しかしびくびくする望みをもって眺め、その完成を疑う気にはなれなかったものの、何かしら漠然とした悪い予感がそこに入りまじってきて、私の胸をむしばむのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年07月30日 19時05分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    というわけで、ついに第二の怪物の製作に取りかかったヴィクトル!果たしてこの先どうなるのでしょうか!?

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    また来週~
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • GOOD!407/30 20:54
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    今週もありがとうございます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    えーと、彼の「仕事」には死体がいるんじゃないかと思うのですが、現地で手に入れたんでしょうかね・・・? こんな辺鄙そうなところだとなかなか手に入れるのも大変そう。本土から運んだのかな・・・?

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    荒涼とした風景と相俟って、ますます不穏な感じですねぇ・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 163
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         20 約束を破棄して


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     ある晩、私は仕事場に居た。陽が沈んで、月がちょうど海から昇るところだった。仕事をするには光が足りないので、今夜は仕事を休もうか、それとも、そんなふうにほったらかしたりせずに完成を急ごうか、などと考えて、なすこともなくぼんやりしていた。腰を下ろしていると、つぎからつぎと考えが浮んできて、自分のいまやっていることの結果を考慮させた。三年前に私はこれと同じことをして怪物をつくったが、そいつは、そのたといようなもない残酷さで私の心をめちゃくちゃにし、それをこのうえもなく傷ましい悔恨でもっていっぱいにした。それなのに、今また同じものをつくろうとしているのだが、その性分がどんなものであるかは、私にも前同様にわからなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年08月06日 21時34分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      そうか、やっぱ約束を破っちゃうのね・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 164
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      それは、その相棒よりも千倍も万倍も悪いものになって、理由もなく人を殺したいばかりに殺し、難渋させたいために難渋させて喜ぶかかもしれなかった。例の怪物は人間の住む界隈から離れて荒野に身を隠すと誓ったが、女の怪物のほうは約束していないし、また、ものを考えたり推理したりする動物となるはずのそいつは、自分が造られる前にできた契約を守ることを拒むかもしれない。二人はたがいに憎みさえするかもしれず、すでに生きているほうの怪物が、自分の畸形を嫌っているのに、それが、女の姿で眼の前に現われるとしたら、もっともっと嫌悪するかもしれないではないか。女のほうもまた、人間のすぐれた美しさに比べて、男を嫌ってそっぽを向くかもしれないし、男を捨てるかもしれない。そうすれば、男はまた、ひとりぼっちになり、自分と同種のものに見棄てられたという新しい挑発に激昂するかもしれない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年08月06日 21時34分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         二人がヨーロッパを離れて新大陸の荒野に住むにしても、あの魔ものが渇望している同感の最初の結果は子どもの生れることだろうが、そうすれば、この悪魔の一族か地上に繁殖して、人間の存在そのものを、不安な、恐怖にみちた状態にしてしまうかもしれない。私は、自分の利益のために、この呪咀をどこまでもつぎつぎと続く世代にかぶせてしまう権利があるだろうか。前には、自分がつくった者の詭弁に乗せられ、そのものすごい脅迫のおかげで、うっかりばかげたことを言ってしまったが、今はじめて、あの約束のまちがっていることがわかり、これから先の世の人々が、私というものを、自分たちの疫病神として呪うだろう、と考えて身慄いした。この私は、利己的な立場から、おそらく人間全体の存在を犠牲にして、一身の平和を購うことを躊躇しなかった、ということになるのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年08月06日 21時35分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示4

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          子孫に呪われるという部分、「失楽園」のアダムの慨嘆(第10巻730行前後)をちょっと思い出します。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • GOOD!308/20 13:06
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          まあでも発明欲に突き動かされていた男が
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          やっと後先のコト考えるようになったワケですね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          遅いんだけど、人間もそんなものかも。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 166
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           私は身慄いし、気が挫けた。と、そのとき、眼をあげると、月のあかりで、窓のところに例の悪魔の姿が見えた。腰かけて当てがい仕事をしている私を眺めながら、そいつの唇はものすごい笑いにひきつった。そうだ、私の旅について来たのだ。森のなかをうろついたり、洞穴に身をひそめたり、広い殺風景な荒蕪地に避難したりして、いま私の進捗ぶりに気をつけ、約束を果してくれと言いに来たのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           見れば、その顔には、極度の悪意と不信が現われていた。私は逆上して、こいつと同じようなものをもう一つ造るなんて約束したのかと考え、激情に身を慄わせながら、造りかけたものをこなごなに打ち砕いてしまった。怪物は、自分のこのさきの幸福はそれが居るかどうかできまると考えていたものを、私が壊してしまったのを見て、悪鬼のような絶望と復讐のわめき声をあげて引き下がった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年08月06日 21時36分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!4コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            やっぱりついてきてました。海路はどうしたのでしょう?女の怪物の材料調達問題と一緒で、突っ込んではいけないお約束なのかな?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 167
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             私は部屋を出て、扉に鍵をかけ、この仕事を二度と始めはしないぞと自分の心におごそかに誓い、それから足をぶるぶるさせながら居間にひきこもった。私はひとりきりだった。この暗澹たる気分を追いはらって、胸のわるくなるような怖ろしい幻想の圧迫から救ってくれる者は、近くに一人もいなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             数時間が過ぎ、私は窓の近くに腰かけたまま海を眺めていた。ただ数隻の漁船が海上に点在しているだけで、ときどき微風が、呼び交わす漁夫の声を運んできた。私は、深い深い静けさを意識したわけではないが、夜の静けさを感じてはいた。そのうちにとつぜん、私の耳に、岸辺の近くで櫓を漕ぐ音が聞え、私の家の近くで人が上陸する音が聞えた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               二三分経ってから、誰かがそっと開けようとしているらしく、扉のきしる音が聞えた。私は、頭のてっぺんから足の先まで慄えあがり、誰が現われたかを感じて、私の家から遠くない所に住んでいる百姓の一人を呼び起したいと思ったが、よく、恐ろしい夢のなかで、さしせまった危険から逃れようとしてもできない時に感じるような、腑ぬけた感情に圧しつぶされて、その場にじっとして動かずにいた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               すると、廊下に足音が聞え、扉が開いて、恐れていたやつが姿を現わした。そいつは扉を閉めて私に近づき、声を殺して言った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「やりはじめた仕事をぶちこわしたね。それはどういうつもりなの? 約束を破る気だね? わたしは、つらさ、みじめさを堪えしのんできた。あんたといっしょにスイスを立ち、ライン河の岸に洽って、柳の生えた島々のあいだを通ったり、山のてっぺんを越えたりしがなら、わたしは人目を忍んで歩いて来た。イングランドの荒地やスコットランドの荒野に何箇月も住んだ。言いようのない疲労と寒さと飢えに堪えてきたんだ。そのわたしの願いを踏みにじる気かね?」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「出て行け! 約束は破るよ。おまえみたいな、できそこないの邪悪なやつを、もう一人つくる気はないのだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「腰抜けめ、このまえ筋みちを立てて話して聞かせたが、おまえはわたしの謙遜に価いしないことを証明したね。おれに力があるのを知らないか。おまえは自分が不幸だと思いこんでいるが、おれは、おまえが日中の光を憎むほどひどい目にあわせることができるぞ。おまえは造りぬしだが、おれはおまえの主人だ――いうことをききないさい!」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「僕は煮えきらなかったが、もうそれもやめた。おまえがいくら脅迫したって、それに負けて邪悪な行動を取ったりはしないぞ。それはかえって、おまえに悪事の相棒をつくってやらぬという決意を、固めさせるだけのことだ。死や惨事を見て喜ぶような悪魔を、冷静な気もちでこの世に野放しにできるものか。出て行け! 僕の決心は変らないぞ。おまえの言うことは、僕の怒りを昂ぶらせるだけだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年08月06日 21時41分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!4コメントを全件表示4

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    まずは謝れよ、ヴィクトル…。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • GOOD!110/01 14:00
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ひと月以上遅れていますが読み比べしておきますね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    光文社古典新訳版
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「おまえは奴隷だ!前はおとなしく言い聞かせたが、下手に出るべき相手ではないことがわかった。いいか、おれには力がある。おまえは自分が惨めと思っているようだが、どん底に落として日の目を見るのもいやだと思うほどの不幸を味わわせてやるぞ。おまえはおれをつくったが、今はおれは主人だ。言うことを聞け。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    角川版
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「お前は奴隷なのだ!前には情理を説いてやったが、どうやらお前は、俺が下手に出るような人間ではないらしいな。俺に力があるのを忘れたわけではあるまい。お前は自分の身の上を嘆いているのだろうが、日の光すら見たくもなくなるほど不幸にしてやることも俺にはできるのだぞ。いくら俺を創ったのがお前でも、お前の主人はこの俺なのだ。従え!」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 171
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     怪物は私の顔に決断をみとめ、怒りのもどかしさに歯ぎしりした。「人間の男はみな妻を見つけて抱き、動物もそれぞれ相棒をもっているのに、おれはひとりぼっちなのか。おれは愛情をもっているが、それが嫌悪と軽蔑で報いられた。おい! おまえは憎むかもしれないが、気をつけろ! おまえの一生が怖ろしいみじめなものになり、やがておまえから永久に幸福を奪い去らずにおかぬ電戟を、おみまいするからな。こんなみじめなありさまでおれが匍いずりまわっているというのに、おまえが幸福でいてよいものかね? おまえは、おれのそのほかの情熱を枯らすことができるとしても、復讐心だけは残るよ――これからは光や食べものよりもたいせつな復讐心だけは!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!4コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!508/06 22:49
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      このあたり、怪物の方が理があると思います。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!508/06 23:54
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「おまえの時は恐れとみじめさのうちに過ぎ、やがて落ちる雷(いかずち)が、必ずやおまえの幸せを永久に奪いさることになるだろう。」(創元)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      雷、また出てきましたね。これは科学技術でしょうか、力でしょうか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 172
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      おれは死ぬかもしれないが、まず、おれの暴君、おれの苦しみの種であるおまえを、自分の不幸を見下ろす太陽を呪うようにしてやる。気をつけろ、おれは恐れないし、力があるからな。おれは、毒牙で咬んでやるために、蛇の狡猾さでもって見守ってやる。やい、ひどい目にあって後悔するな。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「畜生め、黙れ。そんな悪意のこもった声で空気を毒さないでくれ。僕は僕の決意を言いきったし、おどし文句に屈するほど臆病でもないぞ。出て行け。言ったってむだだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「よろしい。行くよ。しかし、おぼえてろ、おまえの結婚の夜には行くからな。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年08月06日 21時44分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!4コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        この2人の会話はそのまま演劇のセリフになってもしっくりきそうです。シェリーは劇化も考えていたのかな?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • GOOD!408/07 00:00
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        出版から5年で劇化されているようですからね。この素材なら考えますよね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「それならよし、出てゆこう。だが覚えておけ、おまえの婚礼の夜に、きっと会いにゆくぞ」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 173
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私は身をのりだして叫んだ、「悪党め! 僕の死刑執行命令書に署名する前に、自分が安全でいるかどうか確かめろ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私はつかまえようとしたが、怪物は身をかわして、まっしぐらに家を飛び出した。それから二、三分経つと、そいつが小舟に乗っているのが見えたが、その舟は矢のような速さで海をよこぎり、やがて波のあいだに見えなくなった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年08月06日 21時44分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!4コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          判断力も腕力も実行力もないくせに、啖呵だけ一丁前の主人公であった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 174
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           すべてがまた静かになったが、怪物のことばは耳のなかでひびいていた。私は怒りに燃え、私の平和を台なしにしたやつを追いかけて、海にたたきこんでしまいたかった。私は、気がせき、心みだれて、部屋じゅうをあちこち歩きまわったが、そうしているあいだにも、自分を苦しめ痛める想像を数かぎりもなく想い描いた。どうしてあいつのあとを追って、生きるか死ぬかの闘いをやらなかったのだろう。私は、あいつが立ち去るのを見のがし、あいつは本土を指して行ってしまった。私は、あいつの飽くなき復讐心に捧げられるつぎの犠牲者は誰だろう、と考えて身慄いした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年08月06日 21時45分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            また、それから、あいつの言ったことをふたたび考えてみた、――「おまえの結婚の夜には行くからな。」そうすると、それが、私の運命の満了と定められた期限なのだ。その時に私は死に、同時にあいつの悪意を満足させ消滅させることになるのだ。そういうことを考えても、恐ろしくてどうこうするわけではなかったが、ただ、愛するエリザベートのことを考えると――愛する者を自分の手から残酷にもぎとられた時の、その涙やはてしない悲しみのことを考えると――長いあいだ流したことのなかった涙が、私の眼から流れ出した。しかし、激しい格闘を演じないでは敵の前に倒れないぞと、決心した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              怪物の半分も人の気持ちがわかっていないような。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              もしもその通りの展開になったとして、怪物は創造主ひとり殺したら、それで諦めて後追い自殺してくれるとでも?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 176
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               夜が明け放たれて、海上から陽が昇った。激しい怒りが絶望の底に沈潜するとさ、それが平静と呼ばれるかもしれないとしたら、私の気もちはかなり平静になった。昨夜の怖ろしい争いの場所である家を出て、海岸を歩いたが、海はほとんど私と人間仲間とのあいだの越えがたい障壁に見えた。いや、事実そういうことになってほしいものだと思った。なるほど退屈ではあるが、突然に不幸の打撃を蒙ることもなく、この不毛の岩の上で一生を過ごしたかった。もし帰るとすれば、自分が犠牲になるか、私のもっとも愛する者が私自身のつくった悪鬼につかまれて死ぬのを見るか、どちらかになるのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年08月06日 21時46分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                いやいや、きみきみ、直ちに帰って愛するものの安全を確保した方がよいと思うぞ(^^;)。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!508/07 00:11
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                結局自分のいやなものは目をつぶって見たくないってだけじゃん。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                怪物は自分についてくるだろうから、残る人たちは安全だってこないだ言ってなかったっけ?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 177
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 私は、愛するすべての者から離れた、そしてその離れていることでみじめな思いをしている、おちつきのない幽霊のように、島を歩きまわった。正午になり、陽が高く昇ると、草の上に寝て、深い眠りに陥った。前夜、一睡もしていなかったので、神経が昂ぶり、眼が徹夜と苦悩のために充血したのだ。しかし、ぐっすり眠って元気が恢復したので、眼がさめると、やっと自分が、自分と同じ人間に属しているという気になり、ずっとおちついて今までのことを考えはじめたが、それでもまだ、悪鬼のことばが葬いの鐘のように耳のなかに鳴りひびき、それが、夢のようてもありながら、しかも現実として明白な、重たくのしかかるものに思われた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年08月06日 21時46分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示8

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!408/21 13:09
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  はるほんさん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  怪物が独立した生命体ならば、それが己を全うすべく、食欲や性欲や承認欲求を満たそうとすることは罪でしょうか?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  他人の財物を破壊したり、子どもを殺したり、などの行為については、悪いとわかってはいたようなので、本人?に(も)責任があると言ってもよいと思うのですが。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  フランケンシュタイン君は、神(なり自然の秩序)に愛され(存在を容認され)ていたのに(自ら神になろうとする振る舞いにより?)その掟に反した罪あるものだとしても、生まれ落ちた瞬間に作者から存在を否定された(それならせめて創った者が自分の手で死なせるべきだったのか・・・?)怪物君に「罪」はあるのでしょうか。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  難しい問題です。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!408/22 07:40
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ぴょんはまさん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  難しいトコなんですが、無論そもそもの罪はヴィクトルにあります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  命を生み出す「科学者」の理論はあっても
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「育ての親」になる責任感は全くなかったワケですから。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  怪物は虐待児童にも似た立ち位置に思われます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  しかし彼は無力ではない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  幸か不幸か知性があり、自分の生きる権利を主張し
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  その為に振るう腕力すら持ち得ています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  それはヴィクトルの身勝手さから「育った」ものですから
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  怪物が悪意から復讐を始めたのではないことは、私も理解しています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  けれど苦しみを分かつ伴侶を求めた時点で
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  伴侶が背負う苦を無視しているんではないかとも思うのです。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  古い映画版では、怪物は余り知能が無く
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  アクシンデントで少女を殺してしまうシーンに改変されていました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  彼に「知」があることは、それほど難しい問題なんでしょうね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  人を殺めるという怪物の恐怖しか認識せず
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  自分の残虐さを理解していないヴィクトルには
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ほんとムカつきます。ええ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 178
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   太陽がずっと低くなったので、私は浜に坐りこみ、オートミールの菓子で、がつがつになった食慾をみたした。と、そのとき、見ていると、一隻の漁船が私の近くに着き、そのなかの一人が、私のところへ一つの包みを持って来た。そのなかには、ジュネーヴからの手紙と、帰って来てほしいというクレルヴァルの手紙が入っていた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年08月20日 15時13分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    クレルヴァルの手紙には、自分がこの土地でむなしく過ごしていること、ロンドンでできた友人たちから、インド関係の仕事のことで取りきめておいた相談を実行に移すために帰ってほしい、という手紙が来ていることが、書かれてあった。自分は出発をこれ以上延ばすわけにいかないのだが、ロンドンへ行けば、ばあいによってはいま臆測しているよりも早く、すぐまたもっと長い航海に出ることになるので、なんとか都合をつけて、できるだけいっしょにいるようにしてほしい、と頼んでよこしたのだ。だから、二人でいっしょに南へ行くために、そのさびしい島を去って、パースで僕と落ちあってくれないか、とも懇願してあった。この手紙で、私はある程度、生活のなかにつれもどされ、二日あとに島を去る決心をした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     とはいえ、出発する前に、やらなければならぬ仕事があり、それを考えると身慄いした。それは化学器具の荷造りで、そのためには、あのいやらしい仕事の場所であった部屋に入らなければならなかったし、見ただけでも胸の悪くなるような器具類を手にしなければならなかった。翌朝、夜明けに私は、勇を鼓して仕事部屋の鍵をはずした。すると、半分できたのを私が壊した動物の遺骸が、床の上に散らばっていて、なんだか自分が人間の生体をこまぎれにしてしまったような気がしてならなかった。私は立ちどまって気をおちつけ、それからその部屋に入った。慄える手で器具を部屋の外に持ち出したが、造ったものの残骸を遺して百姓たちに恐怖と嫌疑を起させてはいけないと考え、そこで、それをたくさんの石といっしょに籠に詰めこみ、今夜こそそれを海に投げこんてやろうと決心した。そして、そのあいだ浜に坐って、化学器械を掃除したり整理したりすることにかかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年08月20日 15時15分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!4コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      > 半分できたのを私が壊した動物の遺骸
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      remains of the half-finished creature

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「人間の生体をこまぎれにしてしまった」のと、死体を寄せ集めて生き物を作ろうとしたのと、どちらがより「胸の悪く」なることか、何かびみょーな気もしますけれど。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!508/20 17:05
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ヴィクトルは死体の尊厳を殺し、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      さらに怪物の心を殺し、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      その結果多くの命を殺してしまったワケで…

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      シェリーはヴィクトルの罪をどう定義したいのでしょうね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      気になります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 181
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       怪物が現われた夜以来の私の感情に起った変化ほど、完全な変化はどこにもない。以前には私は、自分の約束は、どういう結果を生ずるにしても、果さなければならぬものと考えて、暗い絶望に閉ざされていたが、今では自分の眼から薄皮が取れて、はじめてはっきりものが見えるような気がした。あの仕事をくりかえしてやりはじめようという考えは、ほんのひとときも起らなかった。私の聞いたあのおどし文句は、心に重くのしかかっていたが、それが自分の力で避けられることだとは考えられなかった。私は、最初に作ったあの悪鬼と同じような心のをもう一つ造るなどということは、はなはだ卑劣非道な利己的行為だと心に決め、これと違った結論に達するあらゆる考え方は、頭から追いはらってしまった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年08月20日 15時16分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「最初に作ったあの悪鬼と同じような心の」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        見た目はともかく、心の部分は、作った当初から「悪鬼」だったわけではないような。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 182
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         朝、二時から三時のあいだに、月が昇った。そこで私は、籠をボートに積み、岸から四マイルばかり漕ぎ出した。あたりはまったくものさびしく、二、三隻の小舟が陸のほうに戻るところだったが、私はそれから離れたところを漕いでいった。何か恐ろしい罪を犯しかけているような気がしたので、人に遭うことをびくびくしながら避けたのだ。そのとき、それまで明るかった月がとつぜん厚い雲に蔽われたので、私はその瞬間の暗さを利用して、籠を海中に投げこみ、それが沈むときのごぼごぼという音を聞いて、それからその場を漕ぎ去った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年08月20日 15時16分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          空は曇ってきたが、空気は清新だった。ただ、そのとき吹きだした北東風でそれは冷たかった。しかし、そのために気が清々して、快適な気もちになったので、水上にもうしばらく居ることにし、舵をまっすぐの位置に固定して、舟の底に手足を伸ばした。雲が月を隠し、あらゆるものが、ぼんやりして、竜骨が波を切っていく時の舟の音しか耳に入らなかった。そのざわざわした音に寝かしつけられて、まもなく私は、ぐっすりと眠った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年08月20日 15時17分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!4コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 184
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             いつからこんな状態でいたのかわからなかったが、眼をさました時には、陽はもうよほど高く昇っていた。風が強く、涙がたえずこの小さな舟の安全を脅かした。その風は北東風で、乗り出した岸からずっと私を吹き流してしまったにちがいないことがわかった。向きを変えようとしてみたが、もしも、二度とそうしてみようとすれば、舟はたちどころに水浸しになることが、たちまちわかった。こうして、この立場にあっては、風のまにまに流されるしかなかった。白状するが、私はちょっと恐ろしく感じた。羅針盤はなかったし、この地方の地理をほとんど知らなかったので、太陽もあまり助けにならなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              洋々たる大西洋に吹き流されて、あらゆる飢餓の苦しみを感じるかもしれないし、まわりで哮えたける巨大な水に呑みこまれるかもしれなかった。もうずいぶん時間が経っていたので、燃えるような渇きの苦しみを感じたが、それはそのほかの苦痛の前ぶれであった。空を見上げると、あとからあとから来ては飛んでいく雲に蔽われていた。海を眺めたが、それは私の墓場になるはずの場所であった。私は叫んだ、「畜生め、おまえの仕事は、もう終ったぞ!」私は、エリザベートのこと、父のこと、またクレルヴァルのことを考えた。みんなあとに残るのだが、その人たちに対して怪物は、血に飢えた無慈悲な欲情を満足させるだろう。こう考えると、絶望的な怖ろしい妄想に捉えられた。その場面が眼の前で永久に終りを告げようとする今でさえ、そのことを考えると戦慄するのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 何時間かがこうして過ぎ去ったが、太陽が水平線に傾くにつれて、だんだん風が衰えて微風となり、海には砕ける白浪がなくなった。しかし、そのかわりに大きなうねりが出てきた。私は舟に酔って、舵につかまっているのがやっとだったが、そのとき、とつぜん、南のほうの水平線に陸地が糸のようになって見えた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 へとへとになって、数時間も恐ろしい不安に堪えてきたので、精も根も尽きはててしまったが、いまだしぬけに、だいじょうぶ助かるというみこみがついて、暖かい血のように喜びが胸に溢れ、眼から涙がほとばしった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   私たちの気もちはなんと変りやすく、はなはだしい苦境にあってさえ、私たちのしがみつく生命への愛着は、なんと妙なものだろう! 私は着物を裂いてもう一つ帆をこしらえ、いっしょうけんめいに陸に向けて舵を取った。それは見たところ荒れた岩だらけの陸であったが、だんだん近づくにつれて、耕作のあとがすぐみとめられた。岸の近くには船が見えたので、開けた人間の住むところにいきなり伴れもどされたことがわかった。私は注意ぶかく曲りくねった岸に洽うて歩き、ついに小さな岬のむこうに突き出ている尖塔を見つけた。私はひどく衰弱した状態にあったので、いちばんたやすく栄養物を手に入れることのできる場所として、その町へ向ってさっそく舟を漕いでいった。さいわいに金は持っていた。岬を廻ると、小さなさっぱりした町と、よい港が見えたので、思いがけなく助かった喜びに胸をはずませながら、その港に入っていった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     舟をつなぎ、帆を始末していると、数人の人々がその場に集まって来た。その人たちは、私が現われたのをたいへんいぶかしくおもっているらしく、私をちっとも手助けしないで、ほかの時なら少しは警戒の感じを私に起させるような身ぶりで、たがいに囁きあっていた。しかし、このとき、その人たちが英語を話していることに気づいただけであった。だから私は、英語で話しかけた、「皆さん、この町はなんという所ですか。ここはどこだか教えていただけませんか。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     すると、嗄れた声の男がそれに答えた、「そのうちにわかるさ。たぶん、あんたの気に入らない所に来たわけだよ。あんたの宿の相談に乗る者はないだろうよ、きっと。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       私は知らない人からこんな失礼な返答を受けてひどくびっくりし、しかもその仲間たちの眉をひそめて怒った顔を見てめんくらった。「どうしてそういう乱暴な答えをなさるのです? よそ者をそんなふうに不親切に扱うのは、たしかイギリス人のしきたりじゃありませんね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「イギリスのしきたりがどんなのか知らないがね、悪党を憎むのがアイルランド人のしきたりさ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         こういう奇妙な会話が取り交されているあいだに、たちまち、黒山のように人垣が築かれるのが見えた。その連中の顔が好奇心と怒りのまじりあった表情をしていたので、私は、それが気になって、かなり警戒もしはじめた。宿屋へ行く道を尋ねたが、誰も答えなかった。それから、私が歩きだすと、あとについて来たり取り巻いたりしている群衆のなかから、がやがや言う声が起り、そのとき人相のよくない男が近づいて、私の肩を叩いた、「さあ、行こう。カーウィンさんのところへ行って、身のあかりを立ててもらおう。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「カーウィンさんって、誰です? どうして僕は身のあかりを立てなきやならないんです? ここは自由な国じゃないですか。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「ええ、そりあね、正直な人間にとっては、たしかに自由だよ。カーウィンさんというのは、知事(行政・司法を兼ねる長官でいわば奉行とでもいうべきもの。訳=註)――だ。昨夜ここで殺されていた紳士のことで、詳しく話してもらおうじゃないか。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             この返事には驚いたが、まもなく気を取りなおした。私に罪はない、それはたやすく証明できる。そこで私は、黙ってその案内者のあとになって、町でもっともりっぱな家の一つにつれて行かれた。疲労と空腹で今にも倒れそうになっていたが、群衆に取り巻かれているので、体の衰弱のために危惧の念や有罪意識をもっていると解釈されたりしないように、全力を振い起すのが得策だと私は考えた。そのときは、自分をぺちゃんこにして、恐怖と絶望のために不名誉だの死だのというあらゆる気づかいも消えてなくなるような、災難がふりかかってくるとは、よもや思いもかけなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ヴィクトルおまえ…( ゚д゚)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 193
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               ここで私は、ひと休みしなければなりません。というのは、思い浮んだままにこれから詳しくお話しする事件を憶い起すのは、あらゆる勇気を必要とするのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年08月20日 15時23分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示11

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                はるほんさん~、ご心配いただき、ありがとうございます。ぼちぼち少しずつ良くなってきました。夏も終わりそうですね^^
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!508/23 22:04
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                この小説が当時どのように読まれていたのか、という話について、個人的な見解なんですけど。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                この小説っていわゆる「ゴシック小説」じゃないですか。今で言う「ラノベ」みたいな、ドン・キホーテが家にたくさん持ってた「騎士道物語」みたいな、そういう類のものだったと思うんですよね。だから当時のいわゆる知識人みたいな人のほとんどはこの作品を読んでいなかったんじゃないかと思っています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                1931年のボリス・カーロフ主演の映画でも「ドラキュラ」に続く「ホラー第2弾」として映画化されたわけで、要するに20世紀に入ってからもそういうもんだと思われていた。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「フランケンシュタイン・コンプレックス」という言葉はアイザック・アシモフが1950年に発表した「われはロボット」が最初だそうです。そう考えると、このとき初めてこの作品が「あ、ホラーであるだけでなくSFでもあるんだね」と認識され始めたんじゃないですかねえ。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                少なくともこの作品が発表された1820年頃の時点では「幼稚な恐怖小説」みたいな扱いだったのではと思います。テーマとかをまじめに考える人はあまりいなかったのでは。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                あと、これも何の根拠もないんですけど、どうしても私にはヴィクトル=パーシーに思えるんですよね。作者がヴィクトルを描く視線には、妻が夫を見る目のような、アンヴィヴァレントなものをすごく感じます。すごく惹かれる部分と、危険だと感じる部分がないまぜになっているような、そんな気がしています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 194
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     21 思いもかけぬ災難


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 私はまもなく知事の前に伴れて行かれたが、知事というのは、ものごしの穏かで柔かな、やさしそうな老人であった。とはいえ、かなり厳しく私に眼をくれてから、案内してきた者に向って、誰がここに証人として出ているのかと尋ねた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   五、六名の人が進み出て、そのなかの一人が知事に選ばれたが、その男の申し立てによると、昨夜、自分の息子と義弟ダニエル・ニュージェントを伴れて漁に出、十時ごろに強い北風が吹きだしたので、港に入った。月がまだ昇ってなくて、たいへん暗い晩だったので、港で上陸しないで、いつものように、二マイルばかり下の入江で上陸した。その男が漁具の一部を持って先に立って歩き、あとの二人はすこし離れてついて来た。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    砂浜を歩いていると、ふと何かにつまずいて地面に四つん匍いになった。そこで、伴れの者が来て助け起し、提灯の光で見ると、どう見ても死んでいる人間の体につまずいて倒れたものだということがわかった。はじめは、溺れて波のために岸に打ち上げられた者の死体であろうと仮定したが、よく調べると、着物が濡れておらず、体もまだその時には冷たくなっていないくらいだった。そこで、さっそくそれをその場に近いある老婆の家へ運んで、息を吹き返させようと手を尽したが、どうしてもだめだった。それは二十五歳前後の美しい青年で、見たところ絞め殺されたらしく、頸についている黒い指のあと以外には、何ひとつ暴力のしるしがなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       この証言のはじめのほうは、私にはちっとも興味がなかったが、指のあとということを聞くと、弟が殺されたのを憶い出して、ひどく胸さわぎがし、手足が慄え、眼が霞んで、椅子によりかからずには立っていられなかった。知事は私をするどく観察し、もちろん私の態度から好ましくない徴候を看て取った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       息子は父親の話を確証した。しかし、ダニエル・ニュージェントは、証言に呼び出されると、義兄が倒れる直前に、岸に近いところに一人の男の乗った舟を見たが、乏しい星明りで見分けることができたかぎりでは、それは自分かさっき乗っていた舟と同じであった、と自信ありげに言った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       一人の女の証言によると、この女は浜の近くに住んでいて、死体発見の話を聞く一時間ほど前に、自分の家の戸口に立って漁師の帰りを待っていたが、そのとき一人だけ乗った舟が、あとで死体の見つかったあたりの波うちぎわから出かけていくのを見た、ということだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「自分かさっき乗っていた舟」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        the same boat in which I had just landed
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        →現在の語り手であるフランケンシュタインが乗ってきた舟、ですね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        次の女の証言の「自分の家」her cottageは女性自身の家を指しています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        この証言の部分、原文も特に会話文にはなっていないところですが。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        英語だと人称もややこしく感じないですが、日本語だと(というかこの訳文だと?)ちょっとまどろっこしい感じがしますね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 198
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         もう一人の女は、死体を家のなかに運びこんだという漁師の話を確証した。これによると、死体はまだ冷たくなかった。みんなで寝台に寝かしてこすってやり、ダニエルが町へ薬を買いに行ったが、そのうちにすっかり冷たくなった、ということだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私の上陸のことで、ほかの数名の男が調べられたが、いずれも言い合せたように、昨夜はずっと強い北風が吹いたので、この男は何時間も吹きまくられて、出かけた所とほとんど同じ場所に戻されてしまったのにちがいはあるまい、と述べた。のみならず、この男は死体をほかの町から持ってきたと見え、ここの海岸を知らないために、この町から死体を棄てておいた場所までどれだけ隔たっているのかわからずに、港へ入って来たものらしい、とも申し立てた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年08月27日 14時33分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           カーウィン氏は、この証言を聞いてから、死体を見て私がどんな影響を受けるかを観察するために、埋葬するために死体を横たえてある部屋に伴れて行かせた。こういう考えは、おそらく、殺害の手口を聞いた時に示した私の極度の興奮から、思いついたのであろう。そこで私は、知事とそのほか数人の者につれられて、その部屋に行った。私は、いろいろな出来事のあった夜のあいだのこういう奇妙な、偶然の一致には驚かざるをえなかったが、この死体が発見された時刻には、私が住んでいた島の数人の者と話を交していたことを知っているので、この事件の成りゆきについてはまったく平気だった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             私は、死体の置いてある部屋に入り、棺のところに伴れて行かれた。それを見たときの私の感情をどう言いあらわしたらいいだろう! 私は今でも恐怖に焙られるような気がするし、戦慄や苦悶なしにあの怖ろしい瞬間を考えることができない。アンリ・クレルヴァルの命のない体が私の前に伸びているのを見たとき、取り調べのことも、知事や証人の居ることも、私の記憶から夢のように薄れた。私は息もつけずに喘ぎ、死体の上に身を投げ出して叫んだ、「僕の大事なアンリ、僕のろくでないもくろみのために、君まで命を取られたのか。僕はもう、二人も死なせている。犠牲になるほかの者も、運命を待っているんだ。しかし、クレルヴァル、親友で恩人の君が、――」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             人間の体ではもはや、堪えてきた苫悶を支えることができなくなって、私は、烈しい痙攣を起したまま部屋から運び出された。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年08月27日 14時35分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               それにつづいて熱病が起きた。ふた月ほど危篤の状態で寝こんだが、あとで聞くと、私のうわごとはものすごかった。私は自分をウィリアムとジュスチーヌとクレルヴァルの殺害者だと称し、ときには附き添いの者に、自分を苫しめる悪鬼をやっっけるのに手を貨してくれと頼むこともあった。また、ときには、怪物の指がもう自分の頸をつかんでいるような気がして、大きな声で苦悶と恐怖の悲鳴をあげた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               さいわいに、自分の国のことばをつかったので、私の言ったことがわかったのは、カーウィン氏だけであったが、私の身ぶりと激しい叫び声は、ほかの目撃者を怖がらせずにはおかなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年08月27日 14時35分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ショックだとすぐ寝込んでしまうな、君は(ーー;)。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                えーと、自分の国の言葉、ということは、ここはアイルランドで、村人たち(庶民?)は普通、英語は解さない、ということなんですかね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!309/03 11:23
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                あ、そうか、フランケンシュタインは英語ネイティブじゃないんだっけ(><)。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ・・・とコメント208で思い出しました(遅いわw)。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ここでいう「自分の国のことば」はフランス語ってことかな?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                で、村人は基本、アイルランド語、なのかな。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 202
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 私はどうして死ななかったのだろう。かつてこれほど悲惨であった者もないのに、なぜ忘却と休息に陥らなかったのだろう。溺愛する両親のただ一つの望み、花と咲いた子どもたちを、死はいくらでもさらっていく。花嫁たちや若い恋人たちが、この日、健康と希望に溢れているかとおもえば、つぎの日には、墓場の蛆や腐敗の餌食に、どれほどなったことだろう! 車輪が廻るようにたえず苦しみを新たにするいろいろな打撃に、私がこうして堪えられるのは、どんな材料でできているからなのだろう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年08月27日 14時36分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「私がこうして堪えられるのは、どんな材料でできているからなのだろう。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  という表現は、なんかとてもヴィクトルっぽい。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 203
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   しかし私は、生きるように運命づけられていた。そしてふた月ほど経ってから、夢から醒めてみると、自分が、囚人としてむごたらしい寝台にのびており、看守、牢番、閂、そのほかすべて牢獄のあさましい道具立てに囲まれているのがわかった。私がこんなふうに、理解力を取りもどしたのは、朝のことであったとおぼえている。どういうことが起ったのか詳しいことは忘れて、ただ、何か大きな不運がとつぜん私をうちのめしたような気がしたが、あたりを見まわして、閂をさした窓や自分のいる部屋のむさくるしさを見ると、あらゆることが記憶に浮び、私は烈しく呻き声をあげた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年08月27日 14時36分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    具合が悪くなっても、献身的に看病してくれるクレルヴァルはもういないんですね・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 204
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     この音で、私のそばの椅子にかけて眠っていた老婆が眼をさました。附添人として傭われたこの老婆は、一人の看守の妻で、その顔つきは、よくこういう階級の者に見られるあの特徴的なよくない性質を表わしていた。顔の輪郭は、人の不幸を同情なしに見ることに馴れている人たちのそれのように、硬くて粗々しかった。声の調子もまったくの冷淡さを表わしており、英語で私に話しかけたが、その声は、私か苦しんでいる最中に聞いた声だと気づいた、――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「もうよくなりましたかね?」とその老婆が言った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     私も英語で、弱々しい声を出した、「どうやらね。しかし、これがすべてほんとのことで、夢ではないとすると、まだ生きてこんなみじめな恐ろしい目にあうのは、残念ですよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       老婆はそれに答えた、「そりあね、あんたが殺した紳士のことだとすれば、あんたは死んだほうがいいようなものさ。だって、どうせひどい目にあうものね! だけど、そんなことはわたしのかまったことじゃない。わたしゃ、あんたを看病してよくするためによこされただけだからね。やくめはまちがいなく無事にはたしますよ。誰がやったところでいいのさ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       私は、胸がむかむかして、命の瀬戸ぎわからたったいま引き返したばかりの人に、こういった無情なことばをかけることのできる女から、眼をそらしたが、けだるくて、過ぎ去ったことをすっかり回想することができなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       生涯の全連続が夢のように見え、ときにはそれが、ほんとうに現実のことであるかどうかを疑った。というのは、それが現実の力を伴って順に浮んでこなかったからだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         眼の前に浮ぶ影像がだんだんはっきりしてくると、私は興奮した。暗やみがあたりに迫ってきたが、やさしい愛情のこもった声で慰めてくれる者は、近くには誰ひとりとしてなく、親しい手で私を支えてくれる者も、一人としてなかった。医者が薬を処方し、老婆がそれを調合してくれたが、医者は、眼に見えてまるきり冷淡だったし、老婆の顔つきには残忍な表情が強く刻まれていた。給金をもらっている死刑執行人のほかは、いったい誰が殺人者の運命に関心をもてるだろう?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年08月27日 14時38分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           私のまず考えたのは、こういうことであったが、ただ、カーウィン氏がたいへん親切にしてくれるのが、まもなくわかった。この人は、私のために、監獄のなかでいちばんよい看房を当てがうようにしてくれたし(じっさい悲惨なのもいちばんだったが)、医者と看護人を附けるようにしたのも、この人だった。カーウィン氏は、さすがに、めったに私のところには来なかった。というのは、あらゆる人間の苦しみを救済したいと熱心に考えてはいたものの、殺人者の苦悩とみじめなうわごとのそばに居たくはなかったのだ。だから、カーウィン氏は、おりおり、私がなおざりになっていやしないかどうかを見に来たが、来るとすぐ帰ったし、来るのも、ごく稀れであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!508/27 18:27
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            いつもありがとうございます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            残りわずかになってきましたが、すぐ寝込んでしまって問題解決を先送り&人任せにする主人公に苛々しっ放しです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            それだけのことをしたのはアンタ自身だろうが!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            自分のパートナーや自分の息子がこういう奴じゃなくてよかったと本気で思ってしまいます。失敗しても、少なくとも、相談だけはしてくれると信じてます。そうでなきゃ、やり切れないよ~
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!508/29 21:23
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            クレヴァルの死、ショックでした。怪物を、おそろしいと思ったの、初めてかも。すでにウィリアムが殺され、(えっと名前わすれちゃった)彼女が無実の罪で死刑になってしまっているというのに。クレヴァル、馴染み深かったから。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 208
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             ある日、私がおいおいに恢復してきたころ、私は、眼がなかば開き、頬が死人のように蒼ざめたままで、椅子にかけていた。私はたびたび、陰欝と不幸にひしがれ、自分にとって悲惨なことばかりの世の中に生きながらえることを望むよりは、いっそ死んだほうがよい、と考えた。一時は、自分はきのどくなジュスチーヌに比べると罪がなくはないのだから、有罪だと名のり、法の裁きを受けるべきかどうかということも考えた。こんなことを思っていると、看房の扉が開いてカーウィン氏が入って来た。氏は、顔に同情と憐憫を表わし、私のそばの椅子を引き寄せて、フランス語で話しかけた、――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年09月03日 10時46分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ログイン後、コメントできます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • GOOD!509/03 11:26
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              フランケンシュタインはフランス語ネイティブってことですよね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              さらっとフランス語で話せる知事カーウィン氏は、相当の教養人だと思ってよいのかな。何か、欧州の言語事情がいまひとつよくわかりませんが(^^;)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 209
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「こういう所が君に打撃を与えやしないかとおもって心配でね。何かもっと気もちよくしてあげられることがありませんか。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「ありがとうございます。しかし、おっしゃってくださることは、僕には無意味なのです。地上にはどこにも、僕の受けられる慰めはないのですから。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「見知らぬ人の同情が、君のように妙な不運にひしがれた者にとって、ちっとも助けにならないことは、わたしも知っています。けれども君は、まもなくこの憂欝な住まいから出ることになりそうですよ。犯罪の嫌疑から解放されるような証拠が、きっと、たやすく出てきますからね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「そんなことはちっとも考えていません。奇妙な事の成りゆきで、僕は人間のうちでいちばんみじめな者になりました。僕のように悩み苦しめられる者にとっては、死ぬことなんか禍ではありませんよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年09月03日 10時48分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「人間のうちでいちばんみじめな者」the most miserable of mortals

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ここはmortal(死すべき定めの者)を使っていますね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 210
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「最近起ったこのふしぎな出来事ほど、めぐりあわせがわるくて人を苦しめたことは、たしかにどこにもありませんよ。あなたは、何か意外な事で、親切で有名なこの海岸に投げ出されてさっそくつかまえられ、そして殺人罪で告発されたのです。最初にごらんになったのは、わけのわからぬやりかたで殺され、いわば悪鬼のようなものの手であなたの通るところに置かれた、あなたの友人の死体でしたよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 カーウィン氏がこんなことを言ったので、そのために自分の苫悩を思いかえして興奮したにもかかわらず、また私のことをよく知っているらしいのにもかなりびっくりした。私の顔にかなり驚きが現われたと見え、カーウィン氏は急いで言った――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年09月03日 10時49分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「君が病気になってからすぐ、身につけておられた書類がわたしのところに来たので、それを調べてみると、かなりの手がかりを見つけて、それでお家の人たちに、君の不運や病気のことを言ってやることができたわけですよ。というのは、数通の手紙が見つかり、その一通が、書き出しから見て、君のお父さんからだということがわかったのです。わたしは、さっそく、ジュネーヴへ手紙を出しました。その手紙を出してから、もうかれこれ、ふた月になりますよ。――それはそうと、君は病気ですね。今もまだ慄えていますよ。少しでも興奮してはいけませんな。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「この不安は、どんなに恐ろしいことより千倍もこたえるのです。おっしゃってください、新しい死の舞台がどんなふうに演じられたか、こんどは誰が殺されて悲しむことになるのか。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     カーウィン氏はやさしく言った、「御家族はまったく無事です。ところで、どなたか、お友だちがあなたを訪ねて来ていますよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     どんな考えからそう思うようなことになったのかわからないが、殺害者が私の不幸を嘲笑しにやって来て、やつの鬼畜のような願望に私を同意させるための新しい刺戟として、クレルヴァルが死んだと言って私を罵るのだということが、たちまち私の頭に浮んだ。私は手で眼を掩って悶えながら叫んだ。――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「おお! そいつを追いはらってください! 僕は会うわけにいかないんだ。後生だから中に入れないでください!」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      思いこみの激しいこと。「そいつ」が来て第三者にも目撃されれば、その外見からそっちに殺人の容疑がかかるか、そうでなくても今までのいきさつを洗いざらい告白するきっかけになって、むしろ助かるのではないのかな。少なくとも、お友だちには見えないのでは?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 213
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       カーウィン氏は困った顔をして私を眺めた。氏は、私がわめきたてるので、どうやら有罪かもしれないと見ないわけにいかなくなって、どちらかといえば厳しい語調で言った。――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「君のお父さんが見えたとしたら、そんなひどい反感を見せないで、歓迎するにちがいないと、わたしは思うがね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「父ですって!」と私は叫んだが、苦悶が歓びに代ってそのために顔の造作も筋肉も弛んだ。「父がほんとに参りましたか。それはそれは御親切に! だけど、どこにいるんです、どうして急いで来ないのでしょう。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年09月03日 10時52分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私の態度が変ったので、知事は驚きもし喜びもした。知事は、私がさっき喚きたてたのは、精神錯乱の一時的再発だったと考えたらしく、またすぐ以前の思いやりのある態度に変った。そして、起ちあがって附添人といっしょに出ていったが、入れかわりに父が入ってきた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         このとき、父が来てくれたほど嬉しいことはなかった。そこで私は、手をさしのべて叫んだ、――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「それじゃ御無事でしたね、――エリザベートは――それからエルネストは?」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           父はみんな達者だといって私をおちつかせ、私の関心をもっていることを詳しく話して、私のげっそりした気分を引き立てて元気にしようとしたが、まもなく監獄というものに楽しく住めるわけがないと感じた。「おまえの住んでいる所は、まあなんとしたものだ!」と言って父は悲しげに、格子のはまった窓や部屋のあさましい様子を眺めた。「おまえは幸福を求める旅に出たのに、運命がおまえを追いまわしていると見えるね。それにしても、きのどくなクレルヴァルは――」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           運わるく殺された友人の名は、この弱りきった状態では、なかなか堪えられない刺戟であった。私は涙を流した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「ああ! そうなんです、お父さん。何かしらひどく怖ろしい宿命が僕に迫っていて、それが終るまで僕は生きなくちゃならないのです。でなかったら、僕はきっとアンリの棺の上で死んでしまったはずですよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「何かしらひどく怖ろしい宿命が僕に迫っていて、それが終るまで僕は生きなくちゃならないのです。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            そ、そうなのかなあ。自業自得のような。もうヴィクトルには解決する気はないのかしらん。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!409/03 23:53
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            自分で解決しようとする努力はしてませんよね。どこか他人事のような。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 216
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             私たちは長く話しこむことを許されなかった。私の健康状態がまだ心配なので、安静を保つためにできるだけの用心が必要だったからだ。そこで、カーウィン氏が入って来て、無理をして力を出しきってはいけないと主張した。しかし、父が現われたことは、私には護り神が現われたようなもので、私はだんだん健康を恢復した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年09月03日 10時53分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               病気が治ると、私は、何ものも消すことのできない陰気な暗澹とした憂欝に浸るようになった。ぞっとするほど蒼ざめた、殺されたクレルヴァルのおもかげが、しじゅう眼の前にあった。こういう考えに興奮して危険なぶりかえしが来はすまいかとみんなが心配したことは、一再ならずあった。ああ! どうしてみんなが、こういったみじめでいやな生活をするのだろう。それは、きっと、今や終りに近づいている私の運命を満足させるためであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!4コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                創元推理文庫版では、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「こうまでみじめな憎むべき命を、彼らはなぜとりとめさせたのでしょう。」です。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!010/01 14:14
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                角川版
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「ああ!なぜこうも惨めな憎むべき命を、彼らは生き長らえさせたりしたのでしょう?それは無論、この運命を私にまっとうさせるためだったのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 218
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                まもなく、おお! まさにまもなく、死がこの脈搏を断って、屍になるまで私にのしかかる苦悶のたいへんな重みから、私を救ってくれ、そして正しい審判をおこなうことによって、私もまた安息にひたることができるだろう。そうなってほしいという思いが、いつも念頭を去らないのに、死の姿はいま遠のいてしまった。私はよく、何時間も身しろぎもせず、ものも言わずに腰かけて、私も私の破壊者もその廃墟のなかに埋まるような、大変革か何か起ればよいと思うのだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   巡回裁判の季節が近づいた。私はもう三箇月も監獄におり、まだ弱っていてたえず再発の危険もあったのに、裁判の開かれる州庁のある町まで、百マイル近くも行かなければならなかった。カーウィン氏は自分で証拠を集め、私の弁護の手筈をきめるために、あらゆる気を配ってくれた。この事件は、生死を決定する裁判にはかけられなかったので、私は、犯罪者として公衆の前に姿をさらす不名誉をまぬかれた。私の友人の死体が見つかった時刻には、私がオークニー諸島に居たことが証明されたので、大陪審(十二名ないし二十三名から成り、小陪審の手に移る前に告訴状の審査をするもの―訳註)がこの告訴を却下し、この町へ来てから二週間後には、私は監獄から釈放された。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年09月03日 10時55分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    > 巡回裁判
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    何かこの辺の制度もいろいろ興味深そうですが。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    > この町へ来てから二週間後には、私は監獄から釈放された
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    a fortnight after my removal I was liberated from prison
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ここは告訴が却下されて「被告人」ではなくなって(my removal)から2週間後に釈放された、と言っているのではないかと思うのですが。どうかな?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • GOOD!409/04 13:45
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    大陪審というのは起訴するかどうかを決定する機関です。(日本では起訴は検察官の権限で、チェックする検察審査会があるだけ)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    起訴された者が「被告人」となり、小陪審による刑事裁判を受けることになります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    まだ「被疑者」の段階で身柄拘束されていたのが、容疑が晴れて釈放されたのでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「告訴」というのは、被害者が、起訴してほしいと申し出ることです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 220
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     私か罪の嫌疑を受けた無念さから解放されて、娑婆の新鮮な空気を呼吸することをふたたび認められ、故国へ帰ることを許されたのを見て、父はすっかり喜んだ。私はそんな気もちにはなれなかった。私にとっては、牢屋の壁も宮殿の壁も、どちらも同じように憎らしかったからだ。生命の盃が永久に毒されていたので、太陽が幸福な楽しい人々を照らすと同じように私を照らしはしたものの、私を見つめる不達の眼のかすかな光しかさしこまぬ、濃い、恐ろしい暗黒のほかには、何ひとつまわりに見えなかった。その二つの眼が、死んでしまって窶れたアンリの表情的な眼、あの、瞼にほとんど蔽われた黒っぽい眼球や、それをふちどる長くて黒い腿毛になることもあり、そうかとおもうと、インゴルシュタットの私の部屋ではじめて見た時の、例の怪物の、白ちゃけてどんよりした眼になることもあった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年09月03日 10時55分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       父は私を愛情に眼ざめさせようとした。そこで、まもなく私か帰るはずのジュネーヴのこと――エリザベートやエルネストのことを話して聞かせたが、それはただ、私から深い呻き声を引き出すことだけのことであった。私は、幸福を求めようと願って、私の愛する従妹のことを憂欝な喜びをもって考えることもあったし、また、望郷の念にかきむしられて、子どものころ親しんだ青い湖やローヌの急流をもう一度見たいと熱望することもあったが、私のだいたいの気もちは、自然の神々しい情景も監獄もどうせ同じことだと思うような麻痺状態になっていて、たまにそういった願いがむらむらと起ってきても、それは苦悶と絶望の発作で中断されるだけのことであった。私は再三、なんとか忌わしい存在に結着をつけようとしたので、私が何か恐ろしいむちゃなことをしでかさないように、たえず人が附き添って見張りしている必要があった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         とはいえ、私には一つの義務が残っていて、考えがそこへいくと、結局は自分の利己的な絶望をひっこめないわけにいかなかった。必要なことは、即刻ジュネーヴに帰って自分の熱愛する人たちの命を見張りし、あの殺人鬼を待ち伏せて、やつの隠れ家のある所に乗りこむような機会があれば、あるいは、やつがふたたび現われて私に危害を加える気になったとすれば、狙いあやまたず、あの奇怪な姿の存在をかたづけることであった。やつの姿は、魂のなかでなおさら奇怪なものとなって私を愚弄するのであった。父は、私が旅の疲れに堪えられないだろうと気づかって、まだ出発を延ばしたいと考えた。というのは、私に打ち砕かれた残骸――人間の影であった。私は腑抜けになってしまった。私は骸骨でしかなく、しかも夜となく昼となく熱が私の体を衰弱させるのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「化け物じみた姿にもまして、化け物じみたまがいものの魂を授けてしまったあの生き物を、(狙いあやまたず滅ぼしてしまわなくては・・・)」とあります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • GOOD!409/04 08:58
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          I might, with unfailing aim, put an end to the existence of the monstrous Image which I had endued with the mockery of a soul still more monstrous.

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ここは創元版の方が原文の意を汲んでいるでしょうね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          化け物じみた姿かたち(monstrous Image)のあいつを滅ぼさなければならないが、その姿は私が与えたもので、私は同時に、姿かたちよりなお化け物じみた偽物(mockery)の魂を与えてしまったのだ、というところでしょう。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          生れた時点で、姿かたちはともかく、魂はそうmonstrousではなかったと読者としては思うのですが。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 223
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           それでも、私がいらいらして、しつこくアイルランドを立つことをせがむので、父は、私の言いなりにするほうがいちばんよいと考えた。私たちは、アーヴル・ド・グラースへ行こうとしている舟に乗り、順風を受けてアイルランドの海岸から出帆した。それは真夜中のことだった。私は、甲板に横になって星を眺め、波のぶつかる音を聞いた。私は、アイルランドを視野から閉ざす暗やみを喜んだ。まもなくジュネーヴが見れるのだと考えると、熱っぽい喜びで脈搏が鼓動した。過去は、怖ろしい夢のなかのように見えた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年09月03日 10時58分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            けれども、乗っている船と、アイルランドの忌まわしい海岸から吹く風と、あたりの海は、自分が幻想にだまされているわけでないこと、私の友人でありもっとも親しい仲間であったクレルヴァルが、私と私のつくった怪物のために犠牲者となったことを、いやおうなしに認めさせるのであった。私は、記憶の糸をたぐって、自分の全生涯を、家の人たちとジュネーヴに住んでいたころの穏かな幸福、母の死、自分のインゴルシュタットへの出発などを憶いかえした。見るも怖ろしい敵を造り出すように私を駆りたてたあの病的熱狂を憶い出して、私は戦慄し、あいつがはじめて生命を得た夜のことを追想した。私は、筋みちを辿って考えることができず、万感こもごも胸に迫ってたださめざめと泣くのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年09月03日 10時58分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               熱病が治ってからはずっと、毎晩、ごく少量の阿片丁幾を用いる習慣がついていた。命を持ちこたえるために必要な休息を取るには、この薬にたよるほかはなかったからだ。さまざまな不運の想い出に打ちのめされると、こんどはいつもの倍の量をのんで、そのおかげでまもなくぐっすりと眠った。しかし、眠っても、もの思いやみじめさからのがれてくつろぐことができず、夢のなかにさえ私をおびえさせるものが無数に出てくるしまつであった。明けがたには、夢魔のようなものにうなされ、魔物に頸を締められるような気がしても、それを振りきることができず、呻き声と叫び声が耳にひびいた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年09月03日 10時59分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                私を見守っていた父は、私が寝苦しそうにしているのを見て、私を起した。しかし、ぶつかって砕ける浪がまわりにあり、曇った空が上にあるばかりで、例の魔ものはここにいなかったので、とにかくひとつの安心感、すなわち、現在のこのときと、のっぴきならぬ惨澹たる将来とのあいだに休戦が成り立った、という気もちが、一種の穏かな忘却を与えてくれた。人間の心は、別して忘却には陥りやすくできているのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年09月03日 11時00分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示7

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ふと思ったのですが、シェリーって(というかこの時代って)「意識」についてはどう思っていたのでしょうね? 
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  死体(多分脳も含めて)を使っているわけなので、元の持ち主の記憶とかが残るとか、元の持ち主が「蘇る」的な発想にはならなかったのでしょうか・・・?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  怪物は、知識に関してはまるでまっさらな「赤ちゃん」のような状態で生まれているわけで、何だかちょっと不思議な感じがします。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  パラケルススとかアグリッパの名前が出てくるので、もっと何か「ホムンクルス」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%A0%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%82%B9みたいなぼーばくとした感じだったのでしょうか・・・?

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  19世紀って近いようで遠いですね・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!509/10 11:10
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  それって哲学上の心身問題ってやつですよね。心(意識)と脳は果たして同一なのか別なのか。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  もし心と脳が同一であれば、怪物は蘇った時にその脳の持ち主と同じ心を持っているはず。ブルガーコフの「犬の心臓」という小説は犬に人間の脳(心臓だったっけ?)を移植したら犬がどんどん人間みたいになっていくというお話ですが、そんな感じで。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  なんか、そういう解釈も聞いたことがあるんですよね。そもそもヴィクトルがなぜ最初から怪物をあんなに嫌ったのかと言うと、それはこの時代に死体を手に入れようとしたらそれは当然犯罪者とかそういうのしか手に入れようがなかったわけで、だから実はヴィクトルの目には怪物は生まれた時から「こいつは犯罪者の塊」みたいに見えていた、みたいな。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  でも心と脳が別のものであるならば、怪物が前世(?)の脳に支配されることはない。なぜなら脳は単なる内臓器官の一つに過ぎず、意識とはその脳が作り出したものにすぎないから。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  デカルトも心身二元論を唱えていますし、この時代でも科学的な、合理的な立場では心身二元論や人間機械論が主流だったと思うんです。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  メアリー的にというか、ヴィクトル的には「心と脳は別」なんでしょうけど、この物語の根幹にあるのは「でも、本当にそうなの?」という疑いのような気もします。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  なんか、仰るとおり茫漠としてたんでしょうね。理屈としては二元論が正しいような気がするけれど、実際に確認する技術がないから本当にそうだとは言い切れない、みたいな。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  今は医学的に答えが出てるんですかね。どうなんだろ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 227
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       22 帰郷と結婚


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   航海は終った。私たちは上陸してパリへ行った。私は自分が体力を酷使してきたこと、これ以上旅をつづけるにはどうしても休息しなければならぬことが、まもなくわかった。父は、疲れを見せずに私を世話し、めんどうをみてくれたが、私の苦悩が何から来ているのかがわからず、この不治の病を医そうとして誤まった方法を考えた。父は私に、人との交際に楽しみを求めさせようと思ったのだ。ところが、私は、人の顔を見るのが嫌いだった。いやいや、嫌いなものか! そういった人たちは、私の兄弟、私の同胞であって、そのなかのどんないやらしい者でも、天使のような性情と天人のような性分をもった人間と同じように、私を惹きつけるのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    しかし、自分には、その人たちと交際を共にする権利がない、という気がした。人の血を流し人の呻き声に聞きなれて喜ぶ敵を、この人たちのあいだに、野放しにしたのだ。私の穢らわしい行為と私から出た犯罪のことを知ったとすれば、この人たちは、みんなで私を嫌い、世間から追い出してしまうことだろう!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年09月10日 10時45分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       父もとうとう、人とのつきあいを避けたいという私の願いに譲歩し、議論をいろいろ持ち出して私の絶望をほくしようとした。ときには、私が殺人の嫌疑に答えなければならないのをひどく屈辱的なことだと感していると考え、誇りなどは何にもならないものだということを証明しようとした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「ああ、お父さん、」と私は言った、「お父さんは、僕のことはごぞんじないのです。僕のような悪い者が自尊心をもつとしたら、人間は、人間の感情や情熱は、ほんとうに屈辱的なものになりますよ。ジュスチーヌは、きのどくで不しあわせなジュスチーヌは、私と同じように罪がなかったのに、同じように嫌疑をかけられて、苦しみそのために死んでしまいました。原因は私にあるのですよ、――私が殺したのです。ウィリアムも、ジュスチーヌも、それからアンリも――みんな私の手にかかって死んだのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           私の入獄中に、父は再々、私がこれと同じようなことを言うのを聞いており、私がこんなふうに自分を責めると、説明を聞きたがっているように見えることもあったが、また一方、それを錯乱状態の結果だと考えるように見えた。病気中に何かそういうことが考えられるのではないかと想像したが、恢復期になっても私はそのことをおぼえていた。私は説明を避け、自分がこしらえた怪物についてはどこまでも沈黙を守った。私は気が狂っていると考えられたほうがよいと考え、そのためにしぜん、あくまで口をつぐむことになるのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            全部正直に話して、それで信じてもらえずに狂人扱いされた方が、いちおうできることはやったんだと自分に言い訳できそうですが、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            沈黙を守っていて、気が狂っていることになりますかねえ?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 232
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            それに、また、聞く者を驚愕させ、恐怖とあるまじき嫌悪感をその人の胸に抱かせるにちがいないような秘密を、どうしても漏らすことはできなかった。だから、同情してもらいたいという堪えがたい渇望を抑え、この致命的な秘密を人にうちあけたいとおもう時でも、黙っていた。それでも、なお、前に述べたようなことばが抑えきれなくなっておもわず飛び出すのであった。そういうことを説明するわけにはいかなかったが、それが実際であったことは私の奇怪な災難の重荷をいくぶん軽くしてくれた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示4

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「頭の中で考えてる内は名作」みたいなモンかしら…(´・ω・`)

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              シェリーの意図はどこにあるのか分からないけど、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ヴィクトルの苦悩に筆舌を尽くしてるのは、スゴいですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              今はオトナだから「このゆとりが!」って思うけど
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              罪に苦しむ姿は確かにそれっぽく聞こえる。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              シナリオ次第では、ヴィクトルが善人の映画なんかもできるのかもなあ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              いろんな捉え方が考えられるところも、この物語が名作たるゆえんかも。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • GOOD!209/18 07:37
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              創元推理文庫では「わけを話すことはできないが、それでも真実を言うことで、不可思議な苦悩の重荷が少しは楽になるのでした。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              わかるけど、半端に聴かされる方はたまらない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 233
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               こういうばあい、父はどうも不審でたまらぬという表情で言うのであった、「ヴィクトルや、おまえ正気でそんなことを言っているのかね。ねえ、頼むから、二度とそんなことを言わないようになさい。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年09月10日 10時48分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 234
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「僕は狂っているわけじゃないのです。」と私は力をこめて叫んだ、「僕のやったことを見ていた太陽や天なら、僕の言うことが真実だということを、証明してくれますよ。なんの罪もないあの犠牲者たちを殺したのは、僕なのです。みんな僕のたくらみにかかって死んだのです。あの人たちの命を救うためには、自分の血を一滴ずつ何千回流そうとかまわなかったのですが、まったくのところ、全人類を犠牲にすることはできなかったのですよ、お父さん。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   父は私のこういうことばから結論して、私の考えに狂いが来ていると見、さっそく話の題目を変え、私の考え方の筋みちを変えようと努力した。父は、アイルランドで起った場面を憶い出さないようにできるだけ抹消しようとし、そのことにはいっさい触れず、私にも私の不運のことについては何も語らなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     時が経つにつれて私もすこし平静になり、みじめさは心から去らなかったが、もはや前のように、あともさきもなく自分の罪のことを口走るようなことがなく、自分の気もちだけで抑えておくようになった。ときには、不幸のあまりに、全世界にぶちまけようとする威丈高になった声を、自分でみずから、叩き伏せるようにして抑えた。そこで、例の氷海に出かけてからというものは、以前に比べて、私の態度はずっと穏かになり、おちついてきた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「そこで、例の氷海に出かけてからというものは、以前に比べて、私の態度はずっと穏かになり、おちついてきた。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      my manners were calmer and more composed than they had ever been since my journey to the sea of ice.

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      えーと、ここは「氷海への旅以来の態度に比べて、穏やかで落ち着いてきた」ということじゃないかな。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      今、氷海にいるわけではないと思うのですが。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「氷海」は、オークニー群島周辺のことかと思ったのですが、前編http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no264/index.htmlで怪物と対峙するところ(コメント285前後)に「氷の海」という記載があるので、そっちかなと思います。(10章の「怪物とのめぐりあい」のあたりです)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      原文ではsea of iceとなっていますが、これは「海」というより氷原のことのようですね。氷河の中で怪物と再会して、その告白を聞いて以来、ということだと思います。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!209/18 07:43
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      創元推理文庫は
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「ですからわたしの態度は、あの氷河への旅以来、絶えてなかったほど穏やかで冷静なものでした。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 237
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       パリをあとにしてスイスへ向う数日前に、エリザベートからのつぎのような手紙を私は受け取った、――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「ヴィクトルさま――伯父さまがパリでお出しになった手紙を受け取りまして、とても嬉しうございました。あなたはもう、おそろしく遠い所にはいらっしゃらないで二週間もたたないうちにお目にかかれるわけなのね。おきのどくに、ずいぶんお苦しみになったでしょう! ジュネーヴをお立ちになった時よりおぐあいがわるいのじゃないかとおもいます。どうなったかとおもって心配で心配で、そのためにこの冬はとてもみじめな思いをして暮らしました。でも、お顔の色に平和を見、お心に慰藉や平静が欠けているわけでないことを知るのを私は望んでいます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「でも、一年前にあなたをあれほどみじめにしたと同じようなお気もちが今もまだあり、ひょっとしたら時間が経ったためにそれがもっと強くさえなったのではないかと、私は心配しています。いろいろな不運があなたにのしかかっているこの時に、お心を乱したくはありませんが、伯父さまと出発の前にした相談について、お会いする前に少しばかり説明しておく必要がありますの。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「説明だって! と、たぶん、おっしゃるでしょう、エリザベートが説明するようなどんなことがあるのか、と。ほんとうにそうおっしゃるのでしたら、私の質問は答えられたことになり、私の疑いはみな解けたことになります。しかし、あなたは私と離れた所におり、この説明を恐れはするけれどもお喜びになるかもしれません。ひょっとしたらそれが事実かもしれませんので、お留守のあいだにたびたび申しあげたいとおもい、そうするだけの勇気がなかったことを、もう先に延ばしたりしないで、おもいきって手紙で申しあげることにしました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「よくごぞんじでしょう、ヴィクトル、私たちがいっしょになることは、子どものころからずっと、あなたの御両親のお望みの計画でした。二人はずっと前からそのことを聞かされ、たしかにそうなることとして期待するように教えられました。二人は子どものころには仲のよい遊び友だちだったし、大きくなるにつれて、おたがいにたいせつな友人になったと私は思います。しかし、兄と妹なら、もっと深い結びつきを欲せずに、たがいにいきいきとした愛情を抱くでしょうが、私たちのばあいもそういうものではないのでしょうか。ねえヴィクトル、おっしゃってください。おたがいの幸福のために、お願いですからほんとうのことを答えてください。――あなたはほかの方を愛していらっしゃるのではありませんか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年09月10日 10時52分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「あなたは旅をなさっていました。インゴルシュタットで生涯のうちの何年かをお過ごしになりました。白状いたしますが、昨年の秋、あなたがあんなに不幸で、あらゆる人との交りを避けて孤独になさるのを見て、あなたが私たちの結びつきを悔み、気に合わないながらも親たちの望みに添う義理があると思いこんでいらっしゃる、と考えずにはいられませんでした。しかし、これは誤った推理でした。私があなたを愛していること、私の未来の夢のなかではあなたがいつも変らぬ友であり伴侶であったことを、私は告白します。しかし、あなた自身の自由な選択で決めたものでないかぎりは、私たちの結婚は永久に私をみじめな者にすると申しあげるほうが、私自身はもとより、私の願うあなたの幸福になるのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年09月10日 10時53分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                残酷きわまる不運にひしがれたあなたが、体面ということばのために、あの愛と幸福のあらゆる望みを殺しておしまいになるかとおもうと、今でさえ泣けてきます。この望みだけが、あなたを昔のあなたにかえしてくれるというのに。あなたに対してこれほど私心のない愛情をもっている私でも、あなたの望みを邪魔するものになって、あなたの不幸を十倍も増しているかもしれませんね。ああ! ヴィクトル、あなたの従妹、遊び友だちが、あなたに対して誠意のある愛情をもっているかぎり、こういう仮定のためにみじめな思いをなさらなくてもよいことはたしかです。幸福になってください。このただ一つの要求に従ってくださるなら、地上の何ものも私の平静を妨げる力をもたないことに満足していらしてください。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「この手紙があなたを苦しめたりするようなことがございませんように。もしも、そうするのが苦痛でしたら、明日も、明後日も、お帰りになるまでも、御返事をお書きにならなくてさしつかえありません。伯父さまがあなたの御健康のことを知らしてくださるでしょう。お会いしたとき、私のいろいろな努力によってあなたの唇にただの一度でも微笑が浮ぶのを見たら、私にはそのほかの幸福に要りません。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  エリザベート・ラヴェンザ
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ジュネーヴで一七××年五月十七日」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     この手紙は、今まで忘れていた悪鬼のおどし文句――「結婚式の夜には行くからな!」――を記憶のなかに甦らせた。それが私に対する刑の宣告であって、その夜、例の魔ものは、私を殺すためにどんな手でも使い、幸福をちらつかしていくらかでも私の苦悩を和らげる目あての立つものがあれば、それを、私から引き裂いてしまうだろう。よろしい、それでよいのだ。そのときにはきっと、死の闘いがおこなわれ、やつが勝てば、私は平和になり、私に及ぼすやつの力は終りになるし、やつが負ければ、私は自由な人間になるのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ああ! どんな自由だというのか。自分の家族が眼の前で虐殺され、家は焼かれ、畑は荒され、路頭に迷って、家もなく、金もなく、ひとりぼっちで、自由という名ばかりの、土百姓の享けるようなもの。エリザベートという宝を一つもっていることを除けば、そういうのが私の自由であろう。ああ! それも、死ぬまで私をつけまわす悔と罪の恐怖感のために帳消しにされたのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         美しく愛らしいエリザベート! 私は、その手紙をくりかえして読んでいると。何かしらなごやかな感情が心に忍びこんで、愛と歓喜の楽園の夢をささやいたが、林檎はすでに食べられており、天使は腕をまくって私のあらゆる望みを取りあげようとしているのであった。けれども私は、エリザベートを幸福にするなら死んでもよかった。怪物がもしその脅迫を実行に移すとしたら、死は避けられなかったが、それでも、結婚すれば自分の宿命を早めることになるかどうかをまた考えてみた。私の破滅はなるほど数箇月早くやってくるかもしれないが、私を苦しめる怪物が、その脅迫を怖れて私が延期したというふうに邪推するとしたら、別の、おそらくはもっと怖ろしい復讐の手段を見つけ出すにきまっている。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年09月10日 10時57分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          > 林檎はすでに食べられており、天使は腕をまくって私のあらゆる望みを取りあげようとしているのであった

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          楽園からの追放は決まっている、というわけですね・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 247
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          やつはおまえの結婚式の夜に行くからなと誓ったのだが、この脅迫がそのあいだ平和を守る約束をしたことになると、考えているわけではなかった。というのは、まだまだ血に飽き足りていないことを示すもののように、あのおどし文句を並べた直後に、クレルヴァルを殺しているからだ。だから、私がすぐ従妹と結婚して、この従妹が父の幸福をもたらすとすれば、私の命を狙う敵の計画のために、ただの一時間でも結婚を延ばしはしないぞと私は決心した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年09月10日 10時57分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示5

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            エリザベートけなげです~。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            しかしヴィクトルの都合のよい独白を読むにつけ、これは、怪物についてだけだったのだろうか、と考えてしまいます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            成長するまで、だれも、この男の身勝手さに今まで気がつかなかったのでしょうか。せめて「ずれている」と思うことはなかったのかなあ、と不思議です。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!309/10 21:44
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ふうっ。やっと追いつきましたw
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            来週末は上京予定なのでまた周回遅れになりそうですが、ゆっくり楽しませていただいています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            読み比べの方はまだ追いついていないので、後日また、さかのぼってコメントさせていただくこともあるかと思いますがご容赦ください。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            それにつけてもヴィクトルめ!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 248
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             こういう精神状態で、私はエリザベートにあてて手紙を書いた。その手紙は、なごやかな愛情にみちたものであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年09月17日 11時37分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「僕の愛するひとよ、僕は、地上にはもう、僕らのための幸福はあまり残っていないのではないかと心配するのです。それにしても、いつか私が享けるかもしれない幸福はみな、あなたを中心にしたものです。何にもならぬ懸念は、追いはらっておしまいなさい。僕は、自分の生活と満足のいくための努力を、あなただけに集中しているのですから。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年09月17日 11時37分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                > 僕は、地上にはもう、僕らのための幸福はあまり残っていないのではないかと心配するのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                \"I fear, my beloved girl,\" I said, \"little happiness remains for us on earth\"
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ここ、ちょっと不吉な感じですね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「自分の生活(my life)」とされているところは、「人生」の方がふさわしいような気がします。「あなたに人生を捧げ、あなたが満足するよう努力する」というところでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!409/18 07:51
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                創元推理文庫は
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「いとしい人よ、地上にはぼくたちの幸福はもうほとんど残っていないけれど、それでもぼくがいつか喜びを味わうことができるとしたら、それはみなきみがいてくれるからなのだ。いわれのない心配は忘れておしまい。きみだけのために、僕はこの命を捧げ、満ち足りて暮らす努力をしよう。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 250
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                僕はね、エリザベート、一つの 秘密を、恐ろしい秘密をもっているのですが、それをあなたにうちあけたら、あなたの体は恐怖のために凍ってしまい、僕の不幸に驚くどころか、私が生きながらえて堪えてきたことをふしぎに思うだけでしょう。この悲惨な恐ろしい話は、私たちの結婚が済んだつぎの日に、あなたにうちあけます。そうなれば、おたがいにすっかりうちあけなければなりませんからね。しかし、お願いだから、それまでは、直接的にも間接的にもそのことに触れないでください。私はほんとうに心からこれをお願いし、あなたも承知してくれることとおもっています。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年09月17日 11時38分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示3

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!409/18 08:00
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  秘密を明かして、それでも結婚してくれますかと聞かないのは、自分の方が彼女よりかわいいのか。そんな奴を信頼して結婚してくれようとする婚約者は男前。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 251
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   エリザベートの手紙が着いてから一週間ほど後に、私たちはジュネーヴに戻った。エリザベートは曖かい愛情で私を迎えた。それでも私の窶れた体や熱ばんだ頬を見ると、エリザベートの眼には涙がにじんだ。私もあいての変ったことをみとめた。ずっと痩せて、以前私を惹きつけた天与の快活さはずいぶん失われたが、そのやさしさと同情のこもったなごやかな顔のために、私のように枯れはてたみじめな者には、いっそうふさわしい伴侶になっていた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年09月17日 11時39分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     私かいま感じている平静は長く続かなかった。記憶には狂気が伴っていて、過ぎ去ったことを考えると、私はほんとうに気が狂った。荒れ狂って激しい怒りに燃えることがあるかとおもうと、すっかりふさぎこんで、しょんぼりとすることもあった。誰とも口をききもしなければ会いもせず、つぎつぎと自分をたたきのめす災難に戸惑いして、ただじっと坐っているのだった。 こういう発作から私を救い出す力があったのは、ただエリザベートだけで、そのやさしい声は激情に浮かされている私をなだめ、麻痺状態に沈んでいる私に人ごこちをつけてくれた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      エリザベートは、私といっしょに、私のために泣いた。私か正気にかえると、私に忠告し、諦めさせようとほねおってもくれた。ああ、不幸な者にとっては、諦めるのもよいことだろう。しかし、罪を犯しに者には平和はない。悔恨に苦しみ悶えると、さもなければ、過度の悲しみにふけるさいに往々見られる悦びがだめになってしまうのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年09月17日 11時40分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私が家に置いてからすぐ、父は私とエリザベートとの結婚式をさっそく挙げようと言いだした。私は黙っていた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「それではおまえは、誰かほかに好きな人でもあるのかね?」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「そんなものはとこにもありませんよ。僕はエリザベートを愛しています。私たちがいっしょになるのを喜んで待っているのです。だから、日取りを決めてください。そうすればその日に、生死をかけて、あの子の幸福のために身を献げます。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「ねえヴィクトル、そんな言いかたをするものじゃないよ。わたしらはひどい不運にみまわれたが、こうなるともう、あとに遺っている者にだけすがりついて、亡くなった者に対する愛情を、まだ生きている者に移そうじゃないか。わたしらの身うちは小さくなったが、愛情とおたがいの不運の絆でぴったり結ばれているのだよ。時の力がおまえの絶望を和らげてくれれば、新しく大事に世話してやる者が、わたしらから残酷に奪い去られた者に代って生れてくるだろうからね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             父が教えてくれたのは、そのようなことであった。しかし、私にはやはり、あの威嚇の憶い出が戻ってきた。あの悪鬼は、血を見ることにかけてはまだまだ万能だったので、それを私がほとんどどうにもならないものと考え、やつが「結婚式の夜には行くからな」と明言したかぎり、この脅迫された運命を避けられないものと見たとしても、驚くには当らないだろう。しかし、死は私にとっては、もしもそれでエリザベートを失うことが帳消しになるなら、禍でもなんでもなかった。そこで私は、喜んだ、むしろ快活な顔で、あの子さえ賛成するなら十日後に式を挙げる、という父に同意し、こうして想像したように、自分の運命に捺印した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               ああ! 鬼畜のような敵の兇悪なもくろみがどんなものであったかを、ただの一刻でも考えていたら、このみじめな結婚に承諾したりしないで、むしろ、故国から永遠に自分を追放したところだろう。しかし、魔法の力をもっているかのように、怪物は、そのほんとうの意図を私に見えないようにし、私が自分の死だけを覚悟していると思ったとき、ずっと大事な犠牲者の死を早めてしまったのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 決められた結婚の期日が近づくにつれて、私は、臆病からか予感からかわからないが、気がめいってしまうのを感じた。しかし、うわべは陽気にしてこの感情を隠したので、父の顔には笑いと喜びが浮んだが、ただ、エリザベートのつねに油断のない鋭敏な眼を欺くことはできそうもなかった。エリザベートは、静かな満足をもって私たちの結婚を待ちうけてはいたものの、過去の災難に刻みつけられた多少の危倶がまじっていないでもなかった。つまり、今は確実明白な幸福と見えるものも、まもなくはかない夢となって消え失せ、深刻な、はてしない悲歎をしかあとにのこさないのではないか、という心配があるのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年09月17日 11時43分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   式の準備が整えられ、お祝いの客の訪問を受けて、みんながにこにこしていた。私は、自分を悩ます不安を、できるだけ胸に閉じこめ、それが自分の悲劇の飾りとしてしかやくだたないにしても、とにかく熱心に見えるようにして父の計画に従った。父の尽力によって、エリザベートの相続財産の一部が、オーストリア政府から返され、コモ湖畔の小さな所有地がエリザベートのものになった。私たちは、結婚の直後に、ヴィラ・ラヴェンザに行って、その近くにある美しい湖のほとりで私たちの幸福な最初の日々を過ごすということに相談を決めた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年09月17日 11時43分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    本筋とは関係が無いのですが、コモ湖といえば、スイスにほど近いイタリア北部のリゾート地!なかなか素敵な避暑地なんですが、当時はオーストリアだったのでしょうか?それともただ単に財産を管理していたのがオーストリア政府だったというだけ?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 260
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     そのあいだ私は、例の悪魔が公然と私を攻撃したばあいに身か護ろうと、あらゆる予防手段を講じた。拳銃と短剱をたえず身につけ、策略にかからぬようにいつも気をつけていたので、そのためにだんだんおちつきを取りもどした。じっさい、その時が近づくにつれて、あの威嚇がますます錯覚のように見え、私の平和を乱すほどのことでないような気がしたし、また一方、挙式の日と定められた時がだんだん近づき、それを妨げる出来事が起ろうなとど夢にも思わないで語られているのを聞くと、結婚したら得られるだろうと望んでいた幸福が、ますます確実なものに見えるのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年09月17日 11時44分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       エリザベートは、幸福なようすだった。私の平静なふるまいが、心を安めるのにたいへんやくだったのだ。しかし、私の願望と宿命が果されることになったにその日は、エリザベートも憂欝で、禍の予感にひたされ、またおそらくは、私がそのつぎの日にうちあけるた約束した怖ろしい秘密のことを考えてもいた。そのあいだも、父は大喜びで、準備のどさくさにまぎれて、姪の憂鬱を花嫁のはにかみぐらいにしか考えなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       式か済んだあとで、父のところにおおぜいの人々が集まったが、エリザベートと私は、水路で旅に出かけ、その夜はエヴィアンに泊り、翌日はまた旅をつづける、ということになった。天気がよく、風は追い風で、みんなが笑顔で私たちの蜜月の舟出を見送ってくれた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年09月17日 11時44分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         これは、私の人生のうちの幸福感を味わった最後の瞬間であった。私たちは急速に進んでいった。太陽は暑かったが、天蓋のようなもので日よけをして、景色の美しさを楽しみ、ときには湖の一方の端を進んで、そこでモン・サレーヴや、モンタレーグルの気もちのよい岸を眺め、遠くにあらゆる山の上にぬきんでた美しいモン・ブラン、それと競っても追いつけない雪の山々の集まりなどを眺めた。また、ときには、反対の岸に沿うて、偉大なジュラ山系を眺めたが、それは故国を去ろうという野心に対する暗黒面や、その故国を奴隷にしたがっている侵入者に対するほとんど越えがたい障壁を、突きつけているのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           私はエリザベートの手を取った。「悲しそうにしているね。僕が悩んできたこと、まだそれに耐えていくことがわかったら、すくなくともこの一日だけは、絶望から逃れて安静にしておいてやろうと努力してくれそうなものなのにね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年09月17日 11時46分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!309/18 08:25
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            彼女のためを考えるなら、好きでも身を引く。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            一緒に幸せになろうと思うなら、全部正直に打ち明けて、一緒に考える。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            きみは、お子ちゃま。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 264
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「幸福になってね、ヴィクトル、」と、エリザベートは叫んだ、「あなたを苦しめるものは何もないとおもうわ。私の顔がいきいきとした喜びに染まっていなくても、私の心は満足しているのよ。私たちに向って開かれた前途にあまり頼ってはいけないと、何かささやくものもあるけど、私はそんな、縁起でもない声には耳を傾けませんわ、ごらんなさいな、私たちの船はこんなに早く進んでいるのよ。それに、モン・ブランの円屋根を蔽い隠したり聳え立たしたりする雲が、この美しい眺めをいっそう引き立せていますのね。また、澄んだ水のなかで泳いでいるたくさんの魚もごらんなさいな。底の小石が一つ一つ見わけられるくらいよ。なんてすばらしいでしょう! 自然がみんな幸福に晴ればれとして見えますわ!」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年09月17日 11時46分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              最初のところの原文は、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              \\\"Be happy, my dear Victor,\\\" replied Elizabeth
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              なので、ここは普通に「答えた」でよいと思うのですが。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • GOOD!409/18 08:36
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              創元推理文庫では、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「元気を出して、ヴィクター」とエリザベスは答えました。「心配なさることなんて、何もないのよ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              とあります。将来の人生のことではなくて、今日一日を心地よく過ごして下さいということですよね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 265
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               エリザベートはこんなふうに、憂欝なことを考える自分と私の心を、なんとかしてそらそうとした。しかし、その気分が動揺していて、ちょっとのあいだは眼を輝かしてよろこんだが、それがたえず困惑と空想に代っていった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               太陽は沈みかけた。私たちはドランス河を過ぎ、小山の深い割れ目やもっと低い山の谷あいを通っている水路を眺めた。アルプス山系はこのあたりでは湖に近く迫っていて、私たちはその東の境になっている山々の円形劇場に近づいた。そのまわりにある森や、そのそばにさしかかった山また山のつらなりの下に、エヴィアンの尖塔が輝いていた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年09月17日 11時47分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 それまでたいへんな速さで私たちを吹き送っていた風が、日没には止んで微風になった。そのそよそよとした風は、水面にさざなみを起すぐらいのもので、海岸に近づくにつれて木々のあいだをこころよくそよがせ、花と乾草のじつに気もちのいい香りを運んでくるのだった。上陸するとき、太陽が水平線の下に沈んだ。私は、岸に着くと、まもなく自分を捉えて永久にまといつく心労や不安が甦ってくるのを感じた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  今週もありがとうございました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  フランケンシュタインの勘違いぶりよりも、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  それに気がつかないのか、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  気がついているけれど、もっと大きな美徳(でも読者にはとんとみえない)があるから大目に見ようと思っているのか、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  まわりの人たちの優しさに、なんだかイライラしてしまいます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  エリザベート危うし〜。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!509/18 15:43
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ありがとうございます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  いよいよゴールが見えてきた感じですね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  パーシー、よっぽどとんでもない奴だったんだろうな。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 267
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      23 最愛の者の死


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   上陸したのは八時ごろであった。私たちはしばらく、ひとときの光を楽しんで湖畔を歩き、それから宿屋に入って、暗くてぼんやりしてはいるがまだ黒い輪郭を見せている水や森や山々の美しい景色を眺めた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   雨へ落ちていた風が、こんどは西から激しく吹き起った。月は天心に達して傾きはじめたが、雲は禿鷹の飛ぶより速くそれをかすめて光をかげらせ、湖はあわただしい空模様を映して、起りはじめたおやみない浪のためにますます騒々しくなった。と、とつぜん、沛然として雨が降りだした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年09月24日 17時25分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    このネタバレ見出しはなんとかならないのか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • GOOD!409/24 19:02
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    > 月は天心に達して
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    The moon had reached her summit in the heavens
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    これ、ちょっとおもしろい言い回しですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 268
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     私はおちついていたが、夜になって物の形がぼやけはじめるや否や、心に数限りない恐れが起ってきた。拳銃をふところに隠して右手で握りしめながら、私は気がかりになって用心した。物音がちょっとでもするとびくびくしたが、私は、そうやすやすと殺されてたまるか、自分か敵かどちらかが息の根をとめるまでは、ひるまずに格闘するぞ、と決心した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     エリザベートはしばらく、おどおどとして、心配そうに黙ったまま、私の興奮を見ていたが、私の顔つきに何かしら恐怖を伝えるものがあったと見え、慄えながら、私に尋ねた。「昂奮なさるのは何のためなの、ヴィクトル? 何を怖がっていらっしやるの?」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「おお! 静かにして、静かに、」と私は答えた、「今夜だけは。そうしたらすっかり安全になるよ。けれど、今夜は恐ろしい、とても恐ろしいのだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年09月24日 17時26分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      こんな風に言われて安心するのはよほど能天気な人だけかと(^^;)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 269
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       私はこういう精紳状態で一時間ばかり過ごしたが、そのとき急に、私が今にも起るかと待ちかまえている戦いが、妻にとってどんなに怖ろしいものであるかを考え、寝室に引き取ってくれと熱心に頼み、敵の動静について多少とも知らないうちは、妻のところに行かないと決心した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       妻が去ったあとで、私は、この家の廊下をあちこち歩きまわって、敵のひそんでいそうな隅々をみな調べてみた。しかし、どこにもそいつの形跡が見つからなかったので、何か都合のよいことが起って、やつが脅迫を実行に移すことが邪魔されたのだろうと推測しはじめたが、そのとき、とつぜん、耳をつんざく怖ろしい悲鳴が聞えた。それはエリザベートが寝ていた部屋からだった。こんな状態はほんのちょっとで終り、悲鳴がまた起ったので、私はその部屋に跳びこんだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年09月24日 17時27分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「こんな状態は」以下は、創元推理文庫では、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「聞くが早いか、真実の全貌がわたしの頭にひらめきました。腕は萎え、筋肉も繊維もことごとく動きを止めました。血が血管を駆けめぐり、手足の先でひくひくと疼くのがわかりました。そんな状態が続いたのはほんの一瞬でした。ふたたび悲鳴が聞こえ、わたしは部屋に突入していったのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • GOOD!409/24 19:06
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        ぐぁー、何でエリザベートを1人にしちゃうんだー(><)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 270
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         なんということだ! どうしてあのとき私は、死んでしまわなかったのだろう! この世で私の最上の望みであったこのうえもない純潔な人の死を、どうしてここでお話しするようなことになったのだろう。エリザベートは、死体となって、寝台の上に投げ出され、頭ががっくりと垂れさがり、蒼ざめて歪んだ顔が髪の毛になかば蔽われていた。どちらを向いても私には、あの同じ姿が見える――今は花嫁の棺架となった寝台の上に、殺害者の手で投げ出された、血の気のない腕やだらりと伸びた姿が。私はこれを見てしかも生きていられたのだろうか。哀しいかな、生命は執拗なもので、いくら嫌われてもその嫌われるところにかじりつくのだ。記憶がとぎれるのは、ほんのひとときだけであっだ。私は気が遠くなって倒れるのを感じた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年09月24日 17時28分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!4コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           気がついてみると、宿屋の人々がまわりに集まっていて、その顔は息もつまりそうな恐怖の表情を浮べていたが、私には、他人の恐怖などは、ただのまねごと、つまり自分にのしかかる感情の影法師でしかないようにおもわれた。私はこの人々から逃れて、つい先ほどまで生きていた、大事な、かけがえのない、恋人でありまた妻であるエリザベートの死体の置いてある部屋へ行った。最初に見たときと姿勢が変って、こんどは、頭が腕を枕にするように置かれ、顔と頸にハンカチが掛けてあって、眠っているかとおもわれるようであった。私は馳け寄って、むちゅうで抱きついたが、死んで手足にもう動かず、冷たくなってしまっているので、いま腕に抱いているのは、自分が熱愛したあのエリザベートではなくなっていることがわかった。あの畜生の絞め殺した痕が頸についており、肩から息が出なくなっているのだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年09月24日 17時28分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             私がまだ絶望的に悶えて死体の上にかがんでいるあいだに私は、ふと眼を上げた。部屋の窓はそれまで暗かったが、月の薄黄色の光が室内を照らしているのを見て、一種の恐慌を感じたのだ。鎧戸が押しあけられ、開いた窓のところに、見るも恐ろしい嫌なものの姿を、名状しがたい恐怖感をもって私は見た。怪物は歯をむき出して笑い、残忍な指で妻の屍を指さして嘲弄しているように見えた。私は窓に馳け寄り拳銃ピストルを胸にあてて発射したが、怪物は身をかわし、居たところから跳び下り、電光のような速さで走っていって、湖水に跳びこんだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               拳銃ピストルの音を聞いて、人がたくさん部屋にやって来た。やつが見えなくなった地点を指さすと、みんなボートに乗って追跡し、網を打ったりしたが、何にもならなかった。数時間経ってから、私たちは、失望して帰って来たが、いっしょに行った人たちは、たいてい、私か空想ででっちあげた姿だと思いこんだ。舟から上ると、こんどは陸の上を探すことになり、組みに分れて森や葡萄園のあいだを八方に散っていった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               私もいっしょに行こうとして、宿屋からちょっと離れた所まで行ったが、目が廻って、歩きぶりも酔いどれのようになり、とうとう、へとへとに疲れきって、眼に薄皮をかぶり、皮膚が熱病の熱で焼けるような気がした。こんなありさまで私は伴れもどされ、寝台に寝かされたが、どんなことが起ったのかわからず、何か失ったものを探すように、部屋を見まわすのだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 しばらくしてから私は起きあかつて、本能にみちびかれたように、愛する者の死骸のよこたわっている部屋に入っていった。女の人たちがまわりで泣いており、私もその上に身を屈めて、いっしょに泣いた。――この時にはどうもはっきりした考えが頭に浮ばず、自分の不運とその原囚をごたまぜに反映するさまざまなことを、考えるともなく考えていた。雲とむらがる驚愕と恐怖のために、途方に暮れてしまったのだ。ウィリアムの死、ジュスチーヌの死刑、クレルヴァルの殺害、今また、妻の殺害。そして、この瞬間にも、ただ二人だけ残っている身うちも、あの殺人鬼の悪意の前には安全でないことがわかった。父が今にもあいつに絞められて身もだえし、エルネストがあいつの足もとて死んでいるかもしれなかった。私は、こう考えて身慄いし、さっそく行動にとりかかった。ここを出発して、できるだけ速くジュネーヴに帰る決心をしたのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年09月24日 17時30分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 275
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   手に入れられる馬がなかったので、湖水を渡って帰らなければならなかったが、風が逆風で、雨は滝となって降った。とはいえ、夜も明けきっていなかったので、夜までにはむこうに着ける望みがあった。そこで、舟を漕ぐ男たちを傭って、自分も橈を取った。いつも、体を動かすことで心の悩みを忘れた経験があったからだ。しかし、こんどは、どうにも支えきれぬみじめさを感じ、じっと堪える心の動揺のあまりに、手足がいうことをきかなかった。私は橈を棄て、あおむけに寝て、浮んでくるあらゆる陰欝な考えに身を委した。見あげれば、私が幸福だったころに親しみ、今は影や回想でしかない妻といっしょに前の日に眺めたばかりの、風景が見えた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年09月24日 17時31分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    涙が眼から流れた。ひととき雨が止んでいたので、魚が水のなかで、幾時間か前と同じように泳いでいるのが見えたが、あの時は、エリザベートもそれを見たのだ。大きなだしぬけの変化ほど、人の心にとって苦痛なものはない。太陽が輝いて、雲が低く垂れれているかもしれないが、私には、どんなものも前の日と同じには見えなかった。悪鬼が私から将来の幸福の望みという望みを強奪してしまった。私ほど悲惨な者はかつてなかったし、こんな怖ろしい出来事も、人間の歴史のうえでたった一つしかないのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年09月24日 17時32分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!409/25 13:33
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 277
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       しかし、この最後の圧倒的な出来事に続いて起った事件は、もう詳しくお話するまでもないでしょう。私の身の上ばなしは恐怖の話であり、私はすでにその極点に達し、いまお話ししなければならないことは、あなたにとってはただ退屈なだけです。ここでは、私の身うちが一人また一人と奪い去られたことを、知っていただければよいのです。私はひとりぼっちになってしまいました。私自身の力も尽きはてました。私はごく手短かに、この怖ろしい話の残りをお話ししなければいけませんね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私はジュネーヴに着いた。父とエルネストはまだ生きていたが、父は私かもたらした消息を聞いてぐったりとしてしまった。すぐれた慈悲ぶかい老人であった父が、今でも私の眼に見える! 父の眼はあらぬかたをぼんやりと見ていた。それはもはや魅力や歓びを失ったのだ。余生が少くなるにつれて、ほかのことにはあまり感情を動かさないで、残っている者にますます一心にしがみつく人が感じる、あのあらゆる愛情をもって溺愛したエリザベートは、父にとっては娘以上のものであった。老齢の父に災難をもたらし、不幸のために精根を枯らすように運命づけた悪鬼は、いくら呪われてもよい! 父はまわりに積み重なった恐怖のもとに生きていけず、存在の泉がとつぜんに涸れ、寝床から起き上れなくなって、数日のうちに私の腕に抱かれて死んでしまった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!4コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           それから私はどうなったか。私は知らない。私は感覚を失い、鎖と暗黒しか私に強く迫るものはなかった。ときにはたしかに、若かった頃の友だちと花の咲いた牧場や楽しい谿谷をさまよっている夢を見たが、目がさめると牢屋のなかにいるのであった。憂欝は続いたが、だんだんと自分のみじめさや情況をはっきり考えるようになり、やがて牢獄から釈放された。人々は私を気ちがいと呼んだが、察するところ、幾月となく私は、独房に住んでいたのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             けれども、私が理性に目ざめたとき、同時に復讐の念を取りもどさなかったとすれば、自由は私には無用のたまものであった。過去の不運が私を圧迫するにつれて、私は、その原因である自分のつくった怪物、自分の破滅のためにこの世に追い放ったあの悲惨な魔もののことを考えはじめた。そいつのことを考えると、私は、狂おしい怒りに捉えられ、そいつをつかまえてその呪われた頭に、これと思い知らせやれるようにと、願い、かつ一心に祈るのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年09月24日 17時34分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               私の憎悪は、何にもならない欲求だけにいつまでもとどまってはいず、やつをつかまえるいちばんよい手段を考えはじめた。そして、そのために、釈放されてからひと月ばかりして、町にいる刑事裁判官のところに出かけて、私は告発することにする、私は自分の家族を殺した者を知っている、だから、その殺害者の逮捕に全力をあげていただきたい、と話した。刑事裁判官である知事は、注意ぶかく親切に私の話に耳をかたむけた、――「ええ、だいじょうぶですよ。骨身を惜しまずにその悪者を見つけますから。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                「ありがとうございます。」と私は言った、「では、証言しますから、お聴き取りください。これは変った話ですから、どれほどへんなことでも、それを信じさせるだけの力のある何かが実際にないと、ほんとうにはなさらないのではないかとおもって心配です。この話は、前後左右の脈絡がはっきりしていて、夢とまちがえられたりすることはありませんし、私が嘘を申しあげるいわれもありません。」知事にこう話しかけたとき、私の態度は印象的であったが、おちついていた。私は心のなかで、あの殺戮者を死ぬまで追跡する決心を固めていたので、この目的は私の苦悩を和らげ、しばらくのあいだ私に生きがいを感じさせた。私はそこで手短かに、自分の経歴を述べたが、しっかりと精確に、日附けなどにもいささかの狂いもなく、また筋みちをそれて罵倒したり絶叫したりすることもなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   知事は、はじめのうちは、まるきりほんとうにしないように見えたが、話をつづけるうちに、だんだん注意し、関心をもつようになって、ときには恐怖に身慄いし、またときには、少しも疑いをさしはさまぬ驚きがその顔にまざまざと描かれるのを、私は見た。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   話が終ってから私は言った、「僕が告発するのは、そいつなのです。そいつを逮捕して処罰するために、ひとつ全力を尽してくださるようにお願いします。それは知事としてのあなたの義務ですし、人間としてのあなたのお気もちも、このばあい、そういう職責をはたすことをお厭いにならないだろうと、私は思ってもいますし、またおもいたいのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     このことばに、聴いていた知事の顔色が、かなり変った。知事は、精霊や超自然的事件の話を聞いた時のように、半信半疑で話を聞いていたのだが、その結果として公的に行動することを求められると、頭から信じられないという態度にもどった。けれども知事は、穏かに答えるのであった、「あなたが追跡するばあいには、喜んでどんな援助でもしますが、お話しになったその生きものは、わたしの努力などはものともしない力をもっているようですね。氷の海をよこぎったり、人間のとても入りこめない洞窟や獣の巣窟に住むことのできる動物を、誰が追いかけられますか。そのうえ、あの犯罪がおこなわれてから何箇月も経っており、そいつがどんな場所を歩いているのか、今どの土地に住んでいるのか、誰も推測できませんからね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年09月24日 17時37分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「きっと僕の住んでいる所の近くをうろついています。また、たしかにアルプスの山中に逃げこんでいるとすれば、玲羊カモシカのように狩り出して猛獣として殺すのですよ。しかし、僕には、あなたのお考えがわかります。僕の話を信じてはおられないのだ。それで、僕の敵を追跡して当然の刑罰に処するつもりがないのだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       こう語ったとき、私の眼には怒気がちらついた。すると知事は、それに気がついて言った、「それはまちがっている。わたしは努力しますよ。わたしの力でその怪物をつかまえたら、きっとそいつの犯罪に相当した処罰をします。ただ、お話しになったそいつの性質から見て、それができそうもないと思うのですよ。そんなわけであらゆる適当な手段を講じますが、まあ、望みのないことだと思っていただかなくてはなりませんね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「そんなはずはありませんよ。しかし、僕がなんと言ったって、やくにたたないでしょうね。僕の復讐などは、あなたには何も重大なことではありませんからね。だけど、自分で悪いことだとは認めても、白状しますが、それが僕の魂の渇望、そのたった一つの情熱なのです。僕が世の中に追い放った殺戮者がまだ生きていると思うと、僕の怒りは言語に絶するのだ。あなたは僕の正当な要求を拒みましたが、僕の取る手段はたった一つしかありません。生きるか死ぬかで、あいつをやっつけることに身を捧げるのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           こういいながら私は、興奮のあまりぶるぶる慄えた。そこには、狂乱の風と、どうやら、昔の殉教者たちがもっていたといわれるあの尊大な荒々しさがあった。献身や英雄主義の観念とはまるで違った観念を心に抱いているジュネーヴの知事には、こういう心の高揚は、よほど気ちがいじみて見えるのであった。子守りが子どもをあやすように知事はしきりに私を宥めようとし、話を前にもどして、あなたが言ったようなことは錯乱状態の結果だ、と言うのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「なんだと、」と私は叫んだ、「あなたは賢いのを自慢にしているが、なんて無知なのだ! おやめなさい。言っていることがどんなことかこぞんじないのだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           私は、腹立ちまぎれにいきなりその家を跳び出し、自分の家に帰ってほかに取るべき行動を考えた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年09月24日 17時39分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示5

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            エリザベートと、あとお父さんとね…
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ぽんきちさんの「エリザベートの遺体を使って、というのがすごくこわい^ ^
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            上の弟、ほんと、どうしたでしょうか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!509/30 00:29
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            馬鹿な子だとは思ってたけど、本当に馬鹿な子ヴィクトル…!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「結婚したら教えるNE★」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「めっちゃこわい こわいけど大丈夫さ安心してNE★」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「告発するお!僕が作った怪物がわるものなんだYO★」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            なんかもうおつむ残念過ぎてちょっとフイタ。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ずっとシェリーの気持ちを掴み切れずに読んでましたが
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            やっぱりシェリー、ヴィクトル大嫌いなんじゃ…。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            というかヴィクトルという存在が
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            科学とか当時の世相的な何かを暗示しているのかな、とも思ったり。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 288
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 24 極地への追跡


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             こういう情況では、私の自発的な考えは、ことごとく形をひそめ、失くなってしまった。私は怒りに駆り立てられ、復讐だけが私に力とおちつきを与えた。さもなければ、錯乱状態か死に陥ったにちがいない時にも、この復讐が感情の鋳型になり、いろいろものを考えて平静にしていられるようにするのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               まず最初に決めたことは、永久にジュネーヴを立ち去ることであった。自分が幸福で愛されていた時には、私にとってなつかしかった祖国が、自分が逆境に陥ってみると、憎らしいものになったのだ。私は、母のものであった少しばかりの宝石と何がしかの金を身につけて出発した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               こうして今や、死ぬ時にはじめて終るはずの私の放浪が始まった。私は、地上を広く歩きまわり、旅人が無人境や蛮地で出会うすべての辛苦に堪えた。自分がどうして生きてきたか、私は知らない。幾度となく私は、弱りきった手足を砂原に投げ出し、死を求めて祈った。しかし、復讐の念が私を生かしておいてくれたので、自分が死んで敵を生さながらえさせる気にはなれなかった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 ジュネーヴを去ってます最初にやることは、あの悪鬼のような敵の足とりの手がかりを何かつかむことであった。しかし、私の計画はきまっておらず、どこをどう行ったらよいかわからずに、何時間も町はずれをさまよった。もう夜になるころ、ウィリアムとエリザベートと父の眠る墓地の入口に来ているのがわかった。私は、中に入ってその墓を示す碑に近づいた。風にかすかにそよぐ木の葉のほかは万物寂として声なく、夜は暗黒に近く、行きずりの人の眼にも、この情景は厳かな傷ましいものに映ったことだろう。世を去った者の霊が、哀悼する者の頭のまわりを飛ひまわり、影を投げているように見えるのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   この情景が最初に引きおこした深い悲しみは、たちまち憤怒と絶望に代った。みんなが死んで、私が生きている。みんなを殺したやつも生きている。だから私は、そいつをやっつけるために、自分の疲れはてた存在を延長しなくてはならない。私は、草の上にひざまずき、土に接吻し唇を震わせて叫んだ、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「僕のひざまずく聖なる大地にかけて、僕のそばをさまよう影たちにかけて、僕の感じる深い永遠の歎きにかけて、僕は誓います。おお夜よ、おんみにかけて、また、おんみのつかさどる霊たちにかけて、生さるか死ぬかの格闘をしてあいつが斃れるか自分が斃れるまで、この不幸を招いた悪魔を追跡するために、僕は誓います。僕はこのために生さながらえ、このたいせつな復讐を遂げるために、さもなけれぼ永久に僕の眼から消えるはずの太陽をふたたび見、地上の緑の草をふたたび踏みます。そして、僕の仕事を助け導きたまえと、あなたがた死者の霊に、また、さまよっているあなたがた復讐の使者に呼びかけるのです。あの呪われた凶悪な怪物に、深い苦悶を味わわせ、いま僕を苦しめているような絶望を思い知らせてください。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!410/01 13:06
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      科学的手法でもって神の領域に足を踏み込んだ男が、まさかここで精霊に祈りを捧げるようになるとはね……まあでも、人間なんて所詮そんなものかも。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!410/01 14:08
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      怪物 目玉→゜゜(Д)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ヴィクトル…、ほんとうにざんねんなこ…。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 293
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       私はおごそかに、畏怖の念をもって、この誓いを始めたが、そのために、殺された身うちの影たちがこの祈りに耳をかたむけて同意しているような気がしたが、そう言い終ると怒りが私を捉え、憤ろしい思いでものが言えなくなった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       夜の静寂を通して、声高い悪魔的な笑いが私に答えた。その笑いは私の耳に長く重くひびき、山々がそれにこだまをかえしたが、私は、地獄が嘲笑を浮べて自分を取り巻いているような気がした。私の誓いが聴かれず、私が復讐のために生きながらえているのでなかったら、あの瞬間に私は、たしかに気が狂ってこのみじめな存在を滅していたにちがいない。笑いがとまると、よく知っているいやらしい声が、どうやら私の耳の近くで、聞きとれるぐらいにひそひそと話しかけた、――「おれは満足だよ、ざまを見ろ! おまえは生きる決心をしたね、それでこそおれは満足だよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年10月01日 12時55分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私はその声のする所に向って跳びかかっていったが、悪魔は身をかわした。とつぜん円い大きな月が出て、人間わざとおもえない速力で逃げ去る亡霊のような醜い姿をありありと照らし出した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         私はそれを追いかけた。そして、何箇月も、この追跡が私の仕事になってしまった。ちょっとした手がかりをたよりに、ローヌ河のうねりくねった流れを辿ってみたが、むだに終った。青い地中海が見えた。すると、私は、妙な機会から、例の悪鬼が、黒海へ向けて立とうとしている船に、夜のうちに乗りこんで隠れるところを見た。その船に私も乗りこんだが、どんなふうに逃げたのかわからないが、やつは逃げてしまった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年10月01日 12時56分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           やつは今また私を遁れたが、韃靼やロシアの苦野のさなかを、私はやつのあとをどこまでもつけていった。ときには、この怖ろしい化けものに脅かされた百姓が、そいつの行った道を教えてくれたし、またときには、やつが自分で、その足どりを私がすっかり見失ったら絶望して死にはしないかと心配して、私の目じるしになるものを何か残していった。雪が頭に降りかかると、白い平原に、やつのでっかい足あとがついているのが見えた。はじめて実地の経験をお始めになる、苦労というものがまだもの珍らしくて未知の悩みでしかないあなたにとっては、私の感じた、また今でも感していることを、どうして理解できるでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            最後のところはウォルトンに言っているんですね。そうか、一応、今はフランケンシュタインがウォルトンに語っている形なんでしたっけ。彼のことを忘れていましたw

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            To you first entering on life, to whom care is new, and agony unknown, how can you understand what I have felt, and still feel?

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            若くて、あまり苦労したこともない君にはまだわかるまい、といったところでしょうか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 296
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            寒さ、窮乏、疲労などは、私が堪えぬく運命におかれた苦しみのうちの、いちばん楽なものであった。私は、ある悪魔に呪われ、永遠の地獄を持ち歩いたのだが、それでもなお守護天使があとについてきて、私の歩みを導いてくれ、どうにもならなくなって呟くと、とても越えられそうもないと思った困難から、たちまち救い出してくれるのであった。ときには、飢えのために参って体がへたばったような時に、荒野のなかに私の食べるものが置いてあって、そのおかげで恢復して元気づくこともあった。その食べものは、なるほど、その地方の百姓たちが食べるような粗末なものであったが、それは、私が助けたまえと祈った精霊たちが用意してくれたものであることを、私は疑わない。すべてが乾ききって、空に雲ひとつなく、喉が渇いてからからになったような時にも、よく、薄雲が空を蔽い、私を生きかえらせる数滴の雨を降らせて消え去ることがあった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年10月01日 12時57分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               私はできるだけ河すじを辿って行ったが、悪魔はたいてい、国の人口が主としてそこに集まっているので、河すじを避けて歩いた。そのほかの所では、人間はめったに見られず、私はそういう所ではたいてい、道で出くわした野獣を殺して飢えを凌いだ。金を持っていたので、それをやって村の人たちと仲よくなったし、そうかとおもうと、殺した食料の獣を持っていって、少しばかり自分で取ってから、それをいつも、火や調理道具を貸してくれる人たちに与えたりもした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 こんなふうにして過ごしたので、私の生活は自分ながらじつにいやで、私が歓びを味わえるのは、ただ眠っているあいだだけであった。おお恵まれた眠りよ! どれほどみじめな時でも、よく私はぐっすりと寝こんだが、そうすると夢にあやされて、うっとりとなるくらいだった。私が行脚をしとおすだけの力を持ちこたえれるようにと、私を見守る精霊が、幸福のこういう瞬間、否、むしろ時間を与えてくれたのだ。こういう休息が奪われれば、私は艱難辛苦に参ってしまったことだろう。日中も私は、夜の希望に支えられ元気づけられた。眠ると、身うちの者や妻や愛する母国が見えたからだ。また、父の慈悲ぶかい顔が見え、エリザベートの声の銀のような音調が聞え、健康と青春を享楽するクレルヴァルの姿が現われた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  フランケンシュタインは「守護天使」や「精霊」を心の拠り所にできたのですねぇ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  怪物も実際の「創造主」(フランケンシュタイン)を飛び越えて、信仰や何か別のものへの崇拝の気持ちが持てたらよかったのに。そんなものが持てないほど、つらい生涯だったのかなぁ・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 299
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ほねのおれる歩行に疲れると、私はよく、夜になるまでは夢をみていて、夜になったらなつかしい人たちをほんとうに抱くのだ、と自分に言いきかせた。この人たちに対して、私はなんという苦しい愛着を感じたことだろう! ときには私が歩いているさいちゅうにさえこの人たちが附きまとって、まだ生きていると思いこませたので、どれほど私は、そのなつかしい姿にすがりついたことだろう! そういう瞬間には、私の内部に燃えていた復讐の念が、胸のなかで消え、自分の魂の已みがたい願望としてよりも、天から言いつけられた仕事として、つまり自分にはわからぬ何かの力の機械的衝動として、悪魔退治に向って自分の道を辿るのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     自分の追跡している者の気もちがどんなものであったか、私にはわからない。ときには、まったくのところ、やつは、木の皮に書き石に刻んで目じるしを残し、そうすることで、私に道を教えたり、私の怒りを煽ったりした。「おれの支配はまだ終っていない。」(やつの書きつけたものの一つに、そんなことばが読まれた)、「おまえは生きているし、おれの力も完全だ。ついて来い。おれは北方の永遠の氷を目ざして行く。そこでは、おれには苦しくもなんともない寒さと氷雪のつらさが、おまえにはこたえるだろう。おまえがあまり遅れないでついてくれば、この近くに死んだ兎を見つけるだろうから、食べて元気を出せ。来い、敵よ。われわれはまだ、命のやりとりをしなければならないわけだが、その時がくるまで、おまえは、数々のつらいみじめな目に会わなくてはならないぞ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年10月01日 13時00分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      構って欲しい子どもみたいね、怪物…。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!310/02 23:52
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      だってボクのこの世でたった一人の縁者がこの冷たいパパなんだもん。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 301
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       嘲笑する悪魔め! 私はまたまた復讐を誓うぞ。あさましい畜生め、私はふたたび、おまえの運命を、苛責と死へと追いつめるぞ。どちらか一方が斃れるまで、私はこの追求をやめないだろう。どちらかが斃れたら、私はどんなに歓んで、エリザベートやそのほかの亡くなった親しい者に会うことだろう! この人たちは今でも、このあきあきするような難儀や怖ろしい行脚の御褒美を、私のために用意しているのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年10月01日 13時01分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示8

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ログイン後、コメントできます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • GOOD!510/03 00:28
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        着想はすばらしいけど、娯楽物語として受けたのだと思うし、作者の経験に基づく紀行文としても読まれたのではないでしょうか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        作者の父は有名な革命思想家、その弟子のシェリーは無神論のパンフレットを配ってオックスフォード大学を放校になった男、妻がいるのに16歳くらいの作者とヨーロッパに駆け落ちしている。ナポレオンの時代の話だから、世間の倫理や道徳からは相当ぶっとんだとんでもないカップルだったに違いない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • GOOD!510/03 12:26
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        苦しい旅路だったよねえ、と思いつつも、御大層な回想が滑稽な感じです。自分の責任は打っちゃって、復讐の一文字しかないんだもの。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        そして、終盤のほうは、みなさん言われていますが、怪物とフランケンシュタインの関係の変化(?)に、おや^^と思ったり。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        しかし、そういうわけで北極なのか、と物語の最初の部分に、やっと重なってきました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        いよいよ終盤ですかねえ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 302
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         さらに北方へと旅をつづけるにつれて、雪は深くなり、寒気もきびしさを増して辛抱できないくらいになった。百姓たちは小屋に閉じこもり、ごく頑丈な少数の者が、空腹のあまり餌食を求めてしかたなしに隠れ家から出てきた動物をつかまえに、思いきって外に出るだけであった。河は氷に蔽われて、魚も取れなかった。こうして私は、主要な糊口の道を断たれてしまった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         敵の勝利は、私が難儀になるにしたがって増していった。やつが書き残したことばのなかには、こういうのがあった、――「覚悟しろ! おまえのほねおりはこれから始まるのだ。毛皮で身を包み、食料を用意しろ。まもなく、おれの永遠の憎しみがおまえの苦悩を見て満足する旅に入りこむのだから。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年10月08日 11時44分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          chief article of maintenance
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          これちょっとおもしろい言い回しですね。いきなりこう出てきたら、どう訳すか、ちょっと考えてしまいそう。何か出典があるのかしらん。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • GOOD!510/09 11:58
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          創元推理文庫ではあっさり「主要な生存の手段」です。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 303
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           こういう嘲笑のことばで、私の勇気と忍耐は元気づけられた。こうして、私はこの目的を遂げないうちに挫けることのないように決心し、天の加護を願いながら、めげない熱心さをもって広大な無人境をよこぎりつづけると、ついに遠くに大海が見え、水平線の限界となった。おお! それは南の青い海とはなんと違っていることだろう! 氷に蔽われていて、すこぶる荒涼としており、凹凸が多い、という点で、陸地と見わけがつくにすぎないのだ。ギリシア人は、アジアの山から地中海を見たときに嬉し泣きをし、自分たちの労苦の限界を知ってむちゅうで歓呼した。私は泣かなかったが、跪いて、敵の愚弄にもかかわらず、やつに出会って格闘しようと望んだ所に無事に私を導いてくれた精霊に、胸いっぱいで感謝した。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年10月08日 11時45分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             この時から何週間か前に、私は橇と数匹の犬を手に入れ、こうして考えられないような速力で、雪の上をよこぎって行った。怪物もこれと同じ便宜をもっているかどうかわからなかったが、今までの追跡で毎日遅れていたのに、今度は追いついて、私がはじめて大海を見たときには、怪物は一日の旅程だけ先に進んでいたので、海岸に達しないうちにやつをつかまえられる望みがあることがわかった。そこで、新しい勇気を振いおこして進んで行き、一日かかって、海辺のみすぼらしい小村落に着いた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年10月08日 11時46分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              怪物のことを土地の者に尋ねて、私は正確な情報を得た。その人たちの言うところによると、その前の夜、鉄砲と拳銃で武装した巨大な怪物がやって来て、その怖ろしい姿で一軒家の人たちを逃げ去らせた。そいつは、蔵ってあった冬の食糧を奪い去って、馴れた犬の群につけた橇にそれを載せて曳かせ、その夜のうちに、陸地には着かない方角をさして、海をよこぎって行ってしまった。その人たちの推測によると、そいつはたちまち氷が裂けて死ぬか、永劫の寒さで凍死したにちがいないというのであった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年10月08日 11時47分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 この情報を耳にして、私は一時、激しい絶望に襲われた。やつは逃げてしまったのだ。こうして、土地の人でも長く堪えられる者のほとんどない、まして温暖で日当りのよい気候に生まれた私にはとても助かりそうもない寒気のなかを、大海の山のような氷をよこぎって、破滅的な、ほとんど際限のない旅を始めなくてはならなかった。けれども、あの悪鬼が生きていて凱歌をあげることを考えると、怒りと復讐の念がまた戻ってきて、大きな津波のように他のあらゆる感情を押し流すのであった。私は体をすこし休めたが、そのあいだ、死者の霊たちがまわりを飛び舞い、追跡をつづけて復讐するように私をけしかけるので、すぐ旅の支度をした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年10月08日 11時48分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  この「死者の霊」はspirits of the dead、304で自分を導いてくれたと感謝している「精霊」はmy guiding spiritで、どちらもspiritなんですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  なんかちょっと超自然的な存在、みたいな感じ? キリスト教でいう聖霊とはまた違う感じなんでしょうか??
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 307
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   私は、今までの平地用の橇を、起伏の多い氷結した大海にむくように作った橇に変え、食糧をどっさり買いこんで陸地を離れた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   それ以来どのくらいの日数が経ったか、推側できないが、自分の胸に永久に燃える正当な復讐の感情がなくてはとってい支えきれない苦しさに、私は堪えた。氷の巨大な突兀たる山々が、たびたびゆくてをはばみ、また、今にもおまえは死ぬぞと脅かすような、大海の轟きが、たびたび足もとに聞えてきた。しかし、厳寒がまたやってきて、安全な海の道を作ってくれた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年10月08日 11時49分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     自分の食べた食糧の量から見て、私はこの旅で三週間ほど過ごしたものと判断され、またまた、いつになったら望みがはたされるものやら、はてしがないような気がして、失意と悲しみのにがい涙をこぼした。私は、まさに絶望の餌食になって、この不幸のために今にも斃れそうだった。信じられないような辛苦に堪えて私を運んでいたかわいそうな動物たちが、ひとたび、傾斜する氷の山のてっぺんに達してから、一匹が疲れのために倒れて死んでしまったので、私は苦悶を湛えて眼の前の広漠たるひろがりを眺めたが、そのときとつぜん、私の眼は、薄暗い平原のかなたに、ひとつの黒点を捉えた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年10月08日 11時50分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      >私は、まさに絶望の餌食になって、この不幸のために今にも斃れそうだった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      Despair had indeed almost secured her prey, and I should soon have sunk beneath this misery

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「絶望」はsheなんですねw 女性名詞なのかと思ったら、フランス語では男性名詞みたいでした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 309
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      いったい何だろうかと目を凝らしてよく見ると、一台の橇と、夢にも忘れない畸形の姿が見わけられたので、私はむちゅうで、荒々しい叫び声をあげた。おお! どんな噴炎となって私の胸に望みがふたたび訪れたことだろう! 暖かな涙が眼に溢れたので、悪魔の姿を見失わないように、急いでそれを拭ったが、それでもまた、熱い涙のために視界がぼんやりし、おしまいには胸に迫る感動をもてあまして大声で泣いた。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年10月08日 11時50分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        いや、キミ、泣いてる場合じゃなかろう(^^;)。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 310
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         しかし、ぐずぐずしているばあいではなかったので、死んだ犬をその仲間から取りのけて、残った犬に食べものをどっさりやり、どうしても必要な、とはいえもどかしくてじっとしておれない一時間ほどの休息を取ってから、旅をつづけた。例の橇はまだ見えており、ちょっとのあいだ前に立ちはだかる氷の岩山で見えなくなる時以外は、それを二度と見失うようなこともなかった。私は、事実、はっきり認められるぐらいに追い迫り、二日間ほど追いかけたあげく、一マイル足らずのところに敵の姿を見たときには、私の心は躍りあがった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年10月08日 11時51分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           しかし、もう少しのところで敵をつかまえそうになったそのとき、私の望みはばったりと消え失せ、やつの足どりが今度こそすっかり見失われてしまった。足下に激浪の音が聞え、海の水がうねり高まって進んでくる時のすさまじい音が、刻々とますます不気味に恐ろしくなってきた。私は進んでいったが、何にもならなかった。風が出て、海が怒号し、地震のような大きな衝撃を感じたかとおもうと、ものすごい、耳を聾するばかりの爆音が起って氷が割れた。私の労苦は立ちどころに終った。たちまち荒海が私と敵のあいだにさかまき、私は切り離された氷片の上に取り残されて漂流しはじめたが、その氷はたえず小さくなり、こうして身の毛もよだつ死の手が私を待ちうけることなった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             こんなふうにして恐ろしい何時間かが過ぎ、犬が数頭死んでしまった。そして自分も、かさねがさねの苦難のためにへたばってしまいそうになったが、そのときあなたの船が碇泊しているのを見つけ、助かって命拾いする望みがもてたわけだ。船がこれほど北に来ているなどということに、思いもよらなかったので、それを見てびっくりした。私はさっそく橇を壊して橈をこしらえ、それを使って、よくよく疲れきってはいたが、とにかくその氷の筏をあなたの船のほうへ動かしてきた。あなたがたが南へおいでになるのだとしたら、自分の目的を棄てずに、自分を浪のまにまに委ねることに決めたにちがいない。というのは、敵を追跡でさるボートを貸していただけるように、お願いしたかったのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年10月08日 11時53分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「自分の目的を棄てずに、自分を浪のまにまに委ねることを決めたにちがいない。」では意味が通じないですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「目的を棄てるよりは、もう一度海の情に身をゆだねようと決めていました。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • GOOD!410/09 19:35
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              I had determined, if you were going southward, still to trust myself to the mercy of the seas rather than abandon my purpose.

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              うーむ、宍戸さんが何で「ちがいない」としたのか、原文からはよくわからないですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 313
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              しかし、あなたがたの行く先は北だった。私は、力が尽きはてた時に、あかたがたのおかげて船に引き上げてもらい、かさなる苦難のためにまもなく死にそうになったが、私はまだ死を怖れていた。――というのは、私の仕事は終っていないのだ。 おお! 私を導いてくれる霊は、いつになったら私を悪魔のところへ伴れていって、こんなに私が望んでいる休息を私に許してくれるのだろう。それとも、私が死んであいつを生かしておかなくてはならないのだろうか。もしもそうだとしたら、ウォルトンさん、やつを逃さない、やつを探し出して私の仕返しをしてやる、と誓ってください。といって、私の行脚を引き受け、私の辛抱してきたような苦難に堪えてほしいとお願いしてよいものでしょうか。いやいや、私はそれほど利己的ではありません。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年10月08日 11時54分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                >私はそれほど利己的ではありません

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                や、読んでる人の大半が君は利己的と思ってるんじゃないかと(^^;)。というか、どこかズレてる感が。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 314
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ただ、私が死んでから、まんいちあの怪物が姿を見せたとしたら、つまり、復讐の神の使いがあなたのところへあいつを引っぱってきたら、そのときは生かしておかない、と誓っていたださたいのですよ。――あいつが私のかさねがさねの災難に凱歌をあげ、あいつの凶悪な犯罪の目録に追加をするようなことはさせない、と誓ってください。あいつは雄弁で口がうまいので、一度は私まであいつのことばにほだされましたが、信用なさってはいけません。あいつの魂は、あいつの姿と同じように、背信と、鬼畜のような悪意でいっぱいなのです。あいつの言うことに耳をかたむけてはいけません。ウィリアムと、ジュスチーヌと、クレルヴァルと、エリザベートと、私の父と、それから哀れなこのヴィクトルの名を呼んで、あなたの剣をあいつの胸に突き剌してください。私がそのそばを飛び舞って、刃先をまっすぐに向けるようにしますから。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年10月08日 11時55分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示6

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  自分が同じ立場だったら、同じように卑怯な弱虫になりそうなので、人造人間はつくりたくないし、つくる能力も機会もなくて助かった。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!510/10 08:36
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2004年版の「フランケンシュタイン」の映画を見ました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  原作に割と忠実ながら、なにか違和感。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  映画としてはやはり多少なりとヴィクトルに良心を
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  怪物に悪を持たせないとストーリーにならんのでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  そこを少し改編しただけで、このフランケンシュタインという物語は
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  あっというまにチープな話になってしまう感。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  宙ぶらりんなシェリーの書き方があって、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  この名作が今もあるのかな、という認識が新たに出てきました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 315
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ウォルトンの手紙 ――続き


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  一七××年八月二十六日
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   この奇妙な恐ろしい物語をお読みになったでしょう、マーガレット。そこで、僕が今でさえそうなるように、怖ろしさに血も凍る思いがしなかったでしょうか。この人は、ときには苦悶のあまりに、話をつづけることができなくなることもあり、またときには、声がとぎれて、苦悩しながら話そうとすることが、なかなか口に出ないこともありました。その美しい愛らしい眼が憤怒にきらきら輝いたかとおもうと、こんどは悲しみに萎れ、このうえもない悲惨な状態に沈むのでした。また、顔いろや声の調子もいつもと変らず、興奮のそぶりをちっとも見せずに静かな声で恐ろしい出来事を話すこともあり、迫害者を呪って甲高い声をあげながら、爆発する火山のように、顔がとつぜん荒々しい怒りの表情に変ることもありました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     この人の話は、前後に脈絡があって、すこしも飾りけのない真実のように見えました。しかも、この人が見せてくれたフェリクスとサフィーの手紙や、僕の船から見えたその怪物の出現が、この人が本気で筋みちを立てて断言した以上に、その話がほんとうであることを確信させるものとぞんじます。それなら、そういう怪物がほんとうに存在したのか! 僕はそれを疑うことはできませんが、それでもすっかり度肝を抜かれて茫然としています。僕は、ときおり、フランケンシュタインからその生きものをどうして造ったかを詳しく聞き出そうとしましたが、この点になると頑としてゆずりませんでした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「あなたは気でも狂ったのですか。」とその人は言いました、「それとも、無意味な好奇心でお訊きになるのですか。まあ、まあ、おちつきなさい! 私の不幸がよい手本ですよ。不幸をわざと大きくなさってはいけません。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      > フェリクスとサフィーの手紙
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      これはコメント29・30のあたりに出てくるもの(「わたしはこの手紙を写しておいた。(中略)お別れする前に、その手紙をあなたにあげましょう。それは、この話がほんとうのことである証拠になるだろうからね。」)ですね。原本を怪物が書き写しておいたものでしょう。スイスの氷河で怪物と出会い、ほぼ喧嘩別れしていた感じでしたが、手紙の写しは受け取っていたわけですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • GOOD!510/15 13:02
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      うーん、そうか、怪物の造り方はやはり明かされないのですね(そりゃそうか・・・)。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 317
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       フランケンシュタインは、僕がこの話を書き取っているのを見て、それを見せてほしいと言いだし、ところどころ自分で手を入れたり附け加えたりしましたが、それはおもに、自分が敵と交した会話に生命と活気を与えるためでした。そして言いました、「私の話を保存なさるからには、まちがったものを後世に伝えたくはありませんからね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年10月15日 11時52分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         こうして、想像もつかぬ奇怪な物語を聞いているうちに、一週間ほど経ちました。僕の考えること、またすべて魂に感じることは、この客人に対する興味に吸い取られてしまいましたが、それは、この話と、この人のもっている高められたやさしい態度から来たものでした。慰めてやりたいとはおもいますが、このようにどこまでも悲惨で、どんなことをしても慰められそうもない人に、いくら勧告したところで、生きるようにさせることができるでしょうか。どうしてどうして! この人がいま知ることのできるたった一つの喜びといえば、その打ち砕かれた精神が死の平和へとおちつく時なのでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年10月15日 11時53分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          1週間! 何かシェーラザードみたいですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 319
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          けれども、この人は、孤独と精神錯乱から出てくる一つの楽しみを味わってもいるのです。夢のなかで親しい者と話をつづけ、そういう交りによって自分の不幸を慰められたり、復仇の念をかきたてられたりすると、それは、自分の幻想から生れたものでなく、幽界からはるばると自分を訪ねて来た人たちだと思いこむのです。この信念は、そういった瞑想に厳粛さを与えて、それを、ほとんど真実のような、きわだった興味ふかいものにしているのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年10月15日 11時54分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ここ、何かちょっとおもしろいですね。こんな発想は自分にはないな。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            原文貼っておきます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 320
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             僕たちの会話は、かならずしも、この人自身の経歴や不運のことに限られてはいません。文学一般のあらゆる点について、この人は、無尽蔵の知識と鋭敏な鑑識力を見せます。その雄弁は、力強くて人を感動させ、悲しい出来事について話したり、聞く者の憐憫や愛の情熱を動かそうと努力したばあいは、涙なしには聞けませんでした。破滅した今さえこんなに高貴で神々しいとすれば、華やかだったころには、どんなに輝かしかったことでしょう! この人は、自分の値うちや失敗の大きさを感じでいるように見えます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年10月15日 11時54分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              こうまで高く評価されちゃうフランケンシュタイン。えーと、私は何か読み落としていたのでしょうか(^^;)。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              何か、くらくらしますw
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • GOOD!410/16 07:09
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              そう言えば冒頭でも、ウォルトンはヴィクトルべた褒めだったんですよね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ヴィクトルが罪を犯す以前、学校の師について
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「声もいいし、己への理解があるからイイ人!」的なことを
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              言ってたのを何となく思い出したり。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「人が思いもよらない事をやりとげる」ことにおいて
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              二人は共通しているワケだけど、それは同時に
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「お前らには分からない」という思いあがりがあるのかかも。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              今のヴィクトルには、かつてのそんな自分が見えるのかな。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              だからウォルトンに自分の話をしたんだろうか?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 321
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「若かったころには、」とその人が言うのでした、「私は、自分が何か大事業をやるような運命にあると思いこんでいたものです。私の感情は深刻でしたが、そういう事業をやりとげるのにふさわしい冷静な判断力をもっていました。自分の性質を高く買っていた気もちは、ほかの人なら参ってしまう時でも、私を支えてくれました。同胞のためにやくにたつ自分の才能を無益な悲しみのために放棄することは、犯罪だと思ったのです。知覚あり分別のある動物の創造にほかならぬ自分の完成した仕事を考えてみたとき、私は自分を無数の平凡な発案者と同列におくわけにはいきませんでした。しかし、世の中に踏み出したころには自分を支えてくれたこの考えも、今となっては、自分をますます踏んだり蹴ったりするのにやくだつばかりです。私の思索も希望も、すべて無いに等しく、万能を志した主天使と同じことで、永劫の地獄につながれているのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示3

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                > 万能を志した主天使
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                the archangel who aspired to omnipotence

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                えーとこれはつまり、「失楽園」で神に背いたルシファー(サタン)を指している、んですよね?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!410/15 13:33
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                あ、すいません、コメントかぶってたw
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 322
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                私の想像力はいきいきとしていましたが、しかも分析や応用の力が強かったので、そういう性質を合せて人間の創造ということを考えつき、それを実行したのです。今でも、あの仕事が未完成であったころの自分の空想を憶い出すと、熱情をおぼえずにいられません。あるいは自分の力に有頂天になり、あるいはその結果を考えて胸を燃やしながら、自分の考えのなかで天上を踏み歩いたものです。幼いころから私は、高い希望と崇高な野心にひたってきましたが、今ではなんと落ちぶれたことでしょう! おお! あなたがもし、かつての私をごぞんしでしたら、この零落状態にある私を、以前の私だとはお認めにならなかったでしょう。失意の念もめったに私の心を訪れませんでした。最高潮に達した運命は、私が倒れて、けっして二度と起ち上れないようになるまでは、緊張をゆるめないように見えたのですよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年10月15日 11時56分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   僕は、この感歎すべき人物を失わなければならないのでしょうか。僕はしきりに友だちがほしいと思い、僕に同感し僕を愛する友人を求めていました。ごらんなさい、こういう荒涼たる海上で、その友だちを見つけたのですよ。けれども、見つけてその価値を知ったばかりで、すぐ失うことになるのではないかと心配しています。生きようとする気もちにならせたいのですが、そういう考えをてんで受けつけないのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年10月15日 11時57分
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     その人は言うのでした、「ウォルトンさん、こんなみじめな者に対する御親切は、ありがたいことです。しかし、あなたは、新しい絆や新しい愛情ということをお話しになりましたが、亡くなった者たちの代りになるものがあるとお考えなのでしょうか。私にとって、クレルヴァルと同じような人間があるものでしょうか。また、エリザベートがもう一人ほかにいるでしょうか。何かすぐれた長所があって、そのために愛情が強くはたらくばあいでなくても、子どものころの仲間は、その後にできた友だちではなかなか得られない力をつねに私たちの心に及ぼすものです。そういう人たちは、私たちの子どものころの性分を知っていますが、その性分は、あとで変るとはいえ、根が絶えるわけではありません。この人たちは、私たちの動機の誠実さについては、いっそう確かな結論でもって私たちの行動を判断できるのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ほかの友だちなら、たとい強い愛着をもたれながらも、思わず知らず疑惑の眼で見られるような時でさえ、兄弟とか姉妹は実際にそういった徴候が前々から現われるのでないかぎり、たがいに瞞したり偽りの扱いをしたりしやしないか、などと疑うことはできません。しかし私には、習慣や交際からばかりでなく、その人のもっているほんとうの値うちから親しくなった友人もありました。こうして、どこへ行っても、エリザベートのやさしい声とクレルヴァルの話し声が、たえず私の耳もとでささやいていたのでした。この人たちも死んでしまい、もはやこういった孤独のなかでは、たった一つの感情しか私を生きながらえさせることはできません。つまり、私がもし同胞のために広くやくだつ何か高邁な仕事もしくは計画に従事したとすれば、その時は私も、それをやりぬくために生きることができたはずです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        しかし、それは私の運命ではありません。私は、自分が生存を与えたものを追いかけて息の根をとめてしまわなければなりません。そうすれば、この世では私の運命は終り、もう死んでもよいのです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示5

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          今週もありがとうございます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          怪物を造り出したのはすごいことなんだろうし、愛する者たちを失ってから、地の果てまで追いかけて怪物を始末しようとするあたりは、立派なことかも知れないけれど、その間にすべきこと、できることがあったのでは?と現代人なら思いますよね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          フランケンシュタイン氏、しっかり原稿チェックしてるし、あんたが悪いとか、こうすべきだったのにとか、言えないし書けないとは思いますが、手放しの称賛には違和感があります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          人造人間を造ることができる魔術師だということに、圧倒されてしまったのか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • GOOD!510/16 07:21
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          個人的な感想ですが、ヴィクトルが
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          怪物のことで責任を果たさねばならない、と考えたのは
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          それ自体は正しいなと思うのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          今まで逃げ回っていた訳ですから。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ただそれを「息の根を止める」と思いこんでいるのは
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          やはりヴィクトルの思い上がりだなあと思いますが。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          親だから子どもをどうしようが自由だろうが!とでもいうような。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          正解があるとしたら、ヴィクトルが全てを捨てて
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          怪物と共に暮らすことだろうか、と思う。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          もしシェリーがそう考えているとしたら、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「本当に愚かしい」物語として結末を迎えようとしている訳で。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          当時の思想なども分かってないと判断できませんが
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ホント、当時の評価が分からないのが悔しいなー。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          結末まであと少し。よろしくお願いします!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 327
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          九月二日
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           姉さん、――なつかしいイギリスやそこに住む親しい人々を、二度と見るような運命にあるかどうか、あぶないものだし、またいずれとも知るよしもありませんが、とにかくそういうなかでこの手紙を書きます。脱出を許さず、今にもこの船を押し潰しそうな氷の山に取り巻かれているのです。僕が仲間になってくれと言って伴れてきた勇敢な連中も、助けを求めて私のほうを見ますが、どうすることもできません。事態はたしかに怖ろしくぞっとするようなものですが、それでも僕は、勇気と希望をまだ失っていません。しかし、この人たちが僕のために命の瀬戸ぎわに立っていると考えると、恐ろしくなります。僕らが命を失うことになれば、それこそ僕の気ちがいじみた計画か原因なのですから。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年10月22日 11時28分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             ところで、マーガレット、あなたの精神状態はどんなふうでしょう。あなたは僕の死んだことを聞かず、僕の帰りを心配してお待ちになっているのでしょう。幾年か経って絶望に陥り、それでも希望を捨てきれずに苦しむのでしょう。おお、なつかしい姉さん、待ちに待った期待がはずれてよろめくことを考えると、自分が死ぬよりも恐ろしいのです。しかし、あなたは、夫と愛する子どもたちがあるのですから、幸福にしていられないこともありません。天の恵みで何とぞそういうことになりますように!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年10月22日 11時28分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               僕の不運な客人は、厚い同情の念をもって私を見てくれます。僕に希望をもたせようとして、命こそかけがえのない宝だと言うのです。この人は、この海の探検を企てた他の航海者たちも、どのくらいこれと同し目に出遭ったか、ということを憶い出させたので、思わず元気にさせられます。水夫たちさえ、この人の力強い雄弁に打たれ、この人が話をするともう絶望しなくなります。こうして、みんなの力を奮起させるので、その声を開いていると、巨大な氷の山も、人間の決断の前につぶれるモグラの山だと思いこむのです。とはいえ、こういう気もちも一時的で、期待が一日一日と先に延びるにしたがって、みんなの心配が大きくなっていくので、僕は、こういった絶望のために暴動が起りはしないかとさえ恐れています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年10月22日 11時29分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                九月五日
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 この手紙はどうやらお手もとにとどきそうもありませんが、それでもどうしても書いておかずにいられないような、そういう異常に興味のある場面が、たったいま見られたばかりです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 私たちはまだ氷の山に取り巻かれていて、あいかわらず今にもそれにぶつかって潰されるかもしれない危険にさらされています。寒さがひどく、たくさんの不運な同僚がすでに、この荒原たる天地のなかで死んでしまいました。フランケンシュタインの健康も、日ごとに衰えています。熱病の火がまだ眼のなかに輝いていますが、力が尽きはてて、とつぜん元気を出して努力するかとおもうと、すぐまた死んだようにぐったりとなるのです。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年10月22日 11時29分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   この前の手紙で私は、暴動のおそれがあると申しあげました。今朝、眼をなかば閉じ、たいぎそうに手足をだらりとしている友人の蒼ざめた顔を見守っていると、五、六人の水夫が船室に入っていいかと言って来ました。中に入って、そのなかの頭株の者が、僕に話しかけましたが、それによると、この連中が、ほかの水夫たちから代表に立つように選ばれ、正義からいって僕の拒絶できない要求をすることになったのでした。僕らは氷に閉ざされ、おそらく逃れられないでしょうが、ひょっとして氷がなくなり、自由な航路が開かれるとしたら、せっかくこの場を切りぬけてからでも、僕がむこうみずに航海をつづけて、新しい危険を迎えることになるだろう、ということを、みんなが心配しているのでした。そこで、船がもし自由になったら、さっそく進路を南へ向けると厳粛に約束してほしい、と言って迫りました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  2017年10月22日 11時30分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     これを聞いて僕も閉口しました。僕はべつに絶望しているわけでなかったし、自由になったら帰航するなどという考えはまだもっていなかったからです。とはいえ、正義からいって、というよりは可能かどうかから見て、この要求を拒絶できるでしょうか。私は答を躊躇しました。すると、はじめのうちは黙っていて、耳をかたむけるのもやっとなくらいに見えたフランケンシュタインが、そのとき身を起しましたが、見ると、ひととき精気に溢れて、眼から火花を放ち頬を紅潮させていました、――
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      「それはどういうことです? 隊長に何を要求するのかね? それなら君たちは、そんなにやすやすと自分たちの計画をうっちゃるのかね? 君たちはこれを光栄ある遠征だなんて呼びはしなかったかね? どうしてそれが光栄あるものだったの? それは、航路が南の海のように坦々として平穏なものだからでなく、危険や恐怖にみちみちているからだったろう。新しい出来事に出遭うたびに、君たちの剛毅さが呼び出され、君たちの勇気が示されることになるからだった。危険や死に取り巻かれ、君たちがものともせずにそれに立ち向って打ち勝つからだったね。このためにそれは、光栄あるものだったし、このためにそれは、名誉な事業だったのですね。君たちは、このさき、人類の恩人として敬慕され、君たちの名は、人類の名誉と福祉のために大いに死に立ち向った勇敢な人々に属するものとして、崇敬されることになるのですよ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        それなのに今、見たまえ、はじめて危険を想像してというよりは、いわば自分たちの勇気の最初の大きな恐ろしい試煉にあたって、尻ごみをし、寒さや危険に堪えるだけの力がなかった者として言い伝えられることになるのです。かわいそうなやつらさ、寒さにかじかんで、暖かい炉辺に帰って行ったとね。なんだって、こういう準備を必要としたのだろう。君たちの臆病を証明するだけのことなら、隊長を何も引っぱり出して敗北の恥をかかせることもあるまいよ。さあ。男になるのだ、男以上の者に。目的に向ってぐらぐらしたりせず、岩のようにしっかりしなさい。この氷は、君たちの不抜の心と同じような材料でできているわけでなく、君たちさえその気になれば、どうにでも変るものだし、君たちに逆らうことができないものですよ。額に不名誉の烙印を捺して家族たちの所に帰ってはいけません。戦って征服した英雄、敵に背を見せることを知らぬ英雄として帰るべきです。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          うわ。これはまたすごい演説ですね。原文からも熱を感じます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          不名誉の烙印 > the stigma of disgrace marked on your brows
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          スティグマってこんな風に使う言葉なんですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 335
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           フランケンシュタインは、けだかい意向と英雄主義とにみちたまなざしで、その話に現われたいろいろな表情にたいへんぴったりした声を出しながら、こう話しましたので、水夫たちが感動したのも怪しむに足りません。連中はたがいに眼を見合せて、なんとも答えることができませんでした。そこで、僕が口を出して、ひとまず引き取って、いま言われたことを考えてみたまえ、みんながあくまで反対するなら、僕はもっと北へ進むとはいわないが、考えてみたうえでみんなの勇気がまた出てくるのを望んでいる、と話しました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           水夫たちが引き取ったので、友人のほうを向きましたが、友人はぐったりとなって、ほとんど死んだもののようでした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年10月22日 11時34分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             これがどういうふうにおちつくか、僕にはわかりませんが、恥を忍んで、目的を遂げずに帰るくらいなら、死んだほうがましです。けれども、そんなことになるのが僕の運命じゃないかと思って心配しています。光栄や名誉という観念に支えられない水夫たちは、喜んでこのつらさを辛抱しつづけるなどということは、とてもできません。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             骰子(さいころ)は投げられました。僕は、もし破滅に陥らなければ帰るということに同意しました。こうして、僕の希望は臆病と不決断のために立ち消えとなり、僕は何もわからずにがっかりしたままで帰ります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             こんな不法に堪えていくには、自分のもっている以上の哲学を必要とします。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              今週もありがとうございました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              フランケンシュタインの熱弁は唐突で、不思議な感じでした。気高い意向? 英雄主義? この自分本位の坊やが? もう偏見たっぷりで言わせてもらえば、「引き返してもらったら困るんだ。怪物おいかけてほしいんだもの」が案外本音じゃないか、と厭らしく考えてしまいます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              私は、どちらかといえば船乗りたちのほう寄りです。まずは生きてうちに帰りたいような。とはいえ、氷の中から脱出しなくちゃどうしようもないし・・・
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              このへんに怪物、からんでくるのかな。そうしたらおもしろそう。


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • GOOD!510/22 21:44
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              フランケンシュタイン・コンプレックスをふと考えました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              本来は「生命を創造する憧れとその創造物が想像主を超える恐怖
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              のジレンマ」を差す言葉ですが、突き詰めれば
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「人類という進化という義務とその範疇を超える思い上がり」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              でもあるのかもしれないなぁ、と。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ヴィクトルの熱弁は至極ゴモットモなのだけど、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              その先にあるのが私たちの今の世界であり、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              素晴らしい発見がある一方、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              己の命を縮めるような道具も存在するワケで。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              キャラクターとしてはイヤなヤツなのですが(笑)、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ヴィクトルは正に人類そのものなのかも。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              怪物を核や原子炉の置き換えてみると──
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ──現代でも起こりそうな話になってしまいそう。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              あと2週かあああああ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              なのに深すぎる!深すぎるよメアリーシェリー…!!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 337
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              九月十二日
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               事は終りました。僕はイギリスに帰るところです。人類の役に立つという望み、光栄の望みを失い――友を失ってしまいました。しかし、姉さんには、このせつない事情をできるだけ詳しく申しあげましょう。イギリスに向って、あなたのところに向って船で近づいているあいだは、僕も落胆しないでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 九月九日に氷が動きはじめ、氷の島々が裂けて八方に散らばる時の雷のような音が、遠方に聞えました。僕らは、ひどくさし迫った危険状態にありましたが、なるがままになっているよりほかはなかったので、僕はほとんど、病気が悪化してすっかり床についたきりの不運な客人に、附き添っていました。氷が僕らのうしろで割れ、僕らはむりやりに北方へ押しやられましたが、西から風が出て、十一日には南への航路が完全に自由になりました。水夫たちはこれを見て、どうやら確実に故国に帰れるようになったので、騒々しい喜びの声をあげ、大声でいつまでもがやがやしていました。すると、眠っていたフランケンシュタインが眼をさまして、どうしてあんなに騒ぐのかと尋ねました。私は言いました、「まもなくイギリスへ帰るというので、わいわい言っているのですよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「では、あなたはほんとうに帰りますか。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「ええ、そうです、哀しいことですが。あの連中の要求には逆らえません。いやなものを、むりやり危険なところへ引っぱって行くわけにはいきませんからね。ですから、僕も帰るほかはありません。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「そういうことなら、そうなさいませんか。けれど、私は帰りません。あなたは目的をお棄てになるかもしれませんが、私の目的は天からきめられたもので。棄てる気にはなれないのです。私は弱っていますが、僕の復讐を助けてくれる精霊たちが、きっと十分な力を与えてくれます。」こう言って寝台からはね起きようとしましたが、そうするだけの力もなくて、あおむきに倒れて気を失ってしまいました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     正気にかえるのに長くかかり、僕は何度も、もう息を引き取ったのではないかとおもいました。やがてやっと眼を開きましたが、呼吸が苦しく、口もきけませんでした。医者が気つけ薬をのませ、安静にしておくように命じ、この人はもう何時間ももつまいと僕に耳うちしました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      >医者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      原文ではsurgeonで、船医を指すようです。軍医もsurgeon。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      surgeonと言われたら外科医かと思ってしまいますが。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    • 341
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       医者に見放されてしまったので、僕はただ、悲しんで辛抱するほかはありません。寝台のそばで見守っていると、病人は、眼を閉じていたので、眠っているものと思っていましたが、やがて弱々しい声で、僕を近くに呼び寄せて言いました、――「ああ、残念ですが、当てにしていた力も尽きましたよ。私はもうまもなく死にますが、私の敵であり迫害者であるあいつはまだ生きているでしょう。ウォルトンさん、私がこんなふうにいまわのきわになっても、かつて表わしたあの燃えるような憎悪や真剣な復讐の願いを抱いているとは、考えないでください。しかし、敵の死を願っているのは、自分でも正しいことだとおもっています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        このごろ、私は、自分の過去の行為を検討してみましたが、べつに非難すべき点も見つけませんでした。熱狂的な発作に襲われながら、私は、理性をそなえた生きものを創造し、それに対して、私の力でできるだけは、その幸せをはかってやる義務を負いました。これは私の義務でしたが、そのほかにもっと大切な義務もあったわけです。自分の属する人類に対する義務のほうが、幸不幸のもっと大きな部分を占めていますから、私の注意をそれだけ大きく要求することになります。こういう見解から私は、最初に造った者の伴れあいをっくることを拒絶しましたが、拒絶するのが正しかったのです。そいつは、邪悪さの点でお話にならない悪意と利己心をさらけ出し、私の親しい人たちを殺し、微妙な感情をもった、幸福な、賢い人たちを殺害しました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          「このごろ、私は、自分の過去の行為を検討してみましたが、べつに非難すべき点も見つけませんでした。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          そ、そうかあ?と思いつつ、後の文章を読むと女の怪物を作ってやらなかったことの話をしているのでしょうね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          うん、でも、それ以外にも色々ねえ……
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 343
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          しかも、こういう復讐に対する渇望が、どこで終りになるかもわからないのです。みじめはみじめでも、ほかの者を不幸にしないためには、そいつが死ななければいけません。そいつをやっつける仕事が私の仕事でしたが、私は失敗しました。自己本位のよくない動機に駆られた時には、この未完成の仕事を引き受けてくださるようにお願いしましたが、理性と徳だけで動いている今でも、この要求をくりかえします。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「とはいえ、この仕事を果すためにお国やお友だちを棄てることはお願いできません。しかも、イギリスへお戻りになるとすれば、あいつに出会う機会もなくなります。しかし、こういう点を考慮することと、あなたが義務だとお取りになることをよく考え合せることは、あなたにお任せします。私の分別なり考えなりは、もはや死が近くなったために乱れています。私は、正しいと思うことをしてくれとお願いする気はありません。私はまだ情熱のために誤っているのかもしれませんからね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「あいつが生さていて、災害を振り撒いていると思うと、私の気もちは乱れます。そういうことを別にすれば、今にも楽になれるかと待ちかまえているこの時が、この数年ずっと味わったことのない唯一の幸福な時です。亡くなった人々の姿が眼の前にちらつき、私はその姿に向って急いでいるのです。さようなら、ウォルトンさん! 平穏無事のなかに幸福を求め、野心はお避けなさい、たといそれが、科学や発見で功を立てようという見たところ無邪気な野心でしかないとしても。だけど、なぜ、こんなことを言うのでしょう? 自分こそこういう希望に敗れましたが、ほかの人なら、成功するかもしれないのに。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 そう話しながらも声がだんだん弱くなり、とうとう力尽きて黙りこんでしまいました。それから三十分ほど経ってからまた言いだそうとしましたが、何も言えず、僕の手を力弱く握って、眼を永久に閉じ、やさしい微笑の光も唇から消え去りました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 マーガレット、この赫々たる精神の時ならぬ消滅をなんと言ったらよいでしょう。僕の悲しみの深さを理解していただくためには、どう申しあげたらよいでしょう。僕の言い表わすことはみな、不十分で弱いのです。涙が流れ、失望の雲で心が暗くなります。しかし、私はイギリスを指して進んでいるのですから、帰れば慰めが得られるでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   邪魔が入って書けなくなりました。あの音はなんでしょう? 今は真夜中で、風も追い風ですし、甲板の見張りも動きません。人間の声のような、ただもっと嗄れた音がまた起りましたが、それは、フランケンシュタインの死体の置いてある船室から聞えてくるのです。行って調べなくてはなりません。おやすみなさい、姉さん。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     ああ、なんたることだ! どんな場面が現出したと思いますか。今でもそれを憶い出すと眩暈がします。それを詳しく申しあげる力があるかどうかわかりませんが、それでも、この最後の驚くべき結末がなければ、僕の記録したこの話は不完全なものになるでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       僕は、運の悪い感歎すべき友人の遺骸の置いてある船室に入っていきました。すると、なんともかんとも言いようのない、背丈が巨大で、しかも不格好な、つりあいのとれぬ姿のものが、死体の上にかがみこんでいました。棺の上にかがみこんでいたので、もじゃもじゃした長い髪の毛に隠れて顔は見えませんでしたが、色も見かけもミイラの手のような一方のものすごく大きな手をのばしていました、僕の近づく音を聞きつけると、悲歎と恐怖の声を立てることをやめ、窓のほうへ跳んでいきました。そいつの顔ほど胸のわるくなるょうな、ぞっとするものすごいものを見たことがありません。僕はおもわす眼を閉じ、この殺人鬼に対する自分の義務が何であったかを憶い出そうとしました。僕はそいつを呼びとめました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        そういえばなぜか怪物って坊主頭か短髪のイメージがあったけれど、長髪なんですね。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        すごく大きくて、身体の釣り合いが取れていないアンバランスな姿で、もじゃもじゃの長髪で、あと変な臭いを発している……「進撃の巨人」のエレンが巨人化したときみたいな姿?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 350
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         そいつは立ちどまって、怪訝そうに僕を見、それからまた、自分を造った人の死体のほうへ戻って来、僕の居ることも忘れたようになって、何か抑えされぬ激情に駆られた荒々しい怒りを顔つきと身ぶりで示しました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「こいつもおれの犠牲だ!」とその怪物は叫びました。「こいつを死なせたからには、おれの犯罪ももうおしまいだ。おれの存在のみじめな糸も、すっかり巻き終えられたというわけさ。おおフランケンシュタイン! 寛大で献身的な人だった! 今俺が赦しを求めたところで、なんの役に立とう? おまえの最愛の人たちをみな殺して、おまえを死なせてしまったのだ、おれは。ああ、冷たくなっている、もう、おれに答えてくれないのだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          え!? そうだったのか!?
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • 351
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           その声はのどをつまらせたようでした。僕の衝動は、はじめ、友人が死んでいく時の頼みに従って、この友人の敵をやっつけることを思いつかせましたが、今それを見て、好奇心と同情の入りまじった気持ちに抑えられました。僕はこの見るも怖ろしいものに近寄りましたが、その顔を見あげる気にはなれませんでした。その醜悪さにはじつに、胆をつぶすばかりの、この世のものとも思えないものがあったからです。僕は、口をきこうとしましたが、言葉が唇のところで消えてしまいました。怪物は、荒々しくとりとめもない自責のことばを喋りつづけました。とうとう僕は、そいつの激情の嵐がちょっとやんだ時に、意を決して話しかけました。「君の後悔は、今となっては余計なことだよ。君がその凶悪な復讐をここまで極端に進める前に、もし、良心の声に耳をかたむけて、悔恨の苛責を感じていたとすれば、フランケンシュタインはまだ生きていたはずだ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「笑わせないでほしいね。それじゃおれが苦悶も悔恨も感じなかったと思っているのかね。――この人は、」と、死体を指さしながら、「この人は、死んでいく時には、ちっとも苦しまなかった、――そうだ、計画の一つ一つが遅々としてはかどらない時のおれの苦しみの、万分の一ほども。おれは恐ろしい利己心に駆られていたが、その間にもおれの胸は悔恨にむしばまれていたのだ。クレルヴァルの呻き声がおれの耳には音楽に聞えたとでも思うのかね。おれの心は、愛や同情に感じやすいようにつくられ、不幸のために悪徳と憎悪のほうへねじまげられた時には、激しい変化に堪えかねて、あんたなどの想像もつかぬほど苦しんだよ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              >「笑わせないでほしいね。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ここの原文は、And do you dream? なので、「笑わせないでほしい」は、少し意訳が過ぎるように感じます。それよりもう少し悲痛な感じがします。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              怪物も苦しんだんですね。かわいそう・・・。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            • 353
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「クレルヴァルを殺してから、断腸の思いでおれはスイスへ戻った。フランケンシュタインをかわいそうに思い、その憫れみが嫌悪に変り、おれは自分がいやになった。しかし、おれの存在を造ると同時に、言いようのない苦痛まてつくりだしたこの人が、幸福になろうという望みをもったのだ。この人はおれの頭には苦難と絶望を積みあげておきながら、おれには永久に拒まれている恩恵から自分の感情や欲情の享楽を求めている、ということがわかったので、無力の嫉みと激しい怒りのために、おれは復讐に対する飽くことを知らぬ渇望でいっぱいになった。おれは自分の脅迫の言葉を憶い出し、それを実行に移す決心をした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              2017年10月29日 11時44分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                これが自分にとっては死ぬような苦しみになることは知っていたが、おれは、自分でもいやでたまらぬ、といって背くことのできぬ衝動の、主人ではなくて奴隷だった。けれど、あの女が死んだ時は――あの時は、おれは不幸ではなかった。おれは、感情をみな投げ棄て、苦悩を押えつけて、絶望のあまり暴れまわった。それ以来、悪がおれの善になったのだ。こうなると、おれは、自分の性質を自分から進んで選んだ要素に適応させるほかはなかった。この悪魔的な計画を完成することが、抑えきれぬ熱情となったのだ。それがいま終って、最後の犠牲がここにいるというわけだ!」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年10月29日 11時45分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示6

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  今週もありがとうございます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  やはり自分としては当時の評価が気になります。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  現代人の私たちは「ヴィクトル変だろ!」と思うけど
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  当時の読者もそう感じたのか、という点が。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ちょっとネットで面白い論文見つけたんですよね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  http://www.gsid.nagoya-u.ac.jp/bpub/research/public/forum/26/01.pdf

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  かいつまんでいうと、怪物の扱いと言うのは
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  当時の大英帝国が諸国を植民地化し、先住民を奴隷とした扱いを
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  重ねているのではないか、という話です。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  面白いなーとは思ったのですが
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  当時の意識からそこまで「平等」という意識があったかどうか、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  特にメアリーシェリーがそこまで革新的な女性であったか
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  その辺の資料があれば知りたいなあと思ったり。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  それにしても最後まで、ヴィクトルはエエトコなしでしたなぁ…。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ┐(´д`)┌ヤレヤレ
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • GOOD!411/01 20:17
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  全く別の本を読んでいてふと思ったのですが、この話って女性が書いているにもかかわらず、登場する女性は端役ばかりで感情を吐露する場面もほとんどありませんよね?

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  私はこれ、ある意味、創造主である神に挑戦する話だと受け止めていたのですが、もしかすると生命を生み育てる女性性への挑戦でもあるのかしら?などと思ったりして。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  フランケンシュタイン君、産んだら産みっぱなしなわけですが……(汗

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  はるほんさんの挙げられている植民地政策へのあれこれについて、時代的にはどうなのかは調べていないのですが、女性解放うんぬんについては、メアリー・シェリーのママが時代の最先端をいっていたフェミニストなんですよね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  『フランケンシュタイン』を読み終えたらちょっと、ママの方にも手を伸ばしてみようかなあ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 355
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   僕は、はじめのうちは、そいつが自分の不幸について語ったことに感動しましたが、フランケンシュタインが怪物の雄弁と説得の力のことを言っていたのを憶い出し、友人の死体にふたたび眼を投げたとき、僕の胸に怒りがまた燃えあがりました。「悪党め!」と僕は言いました。「おまえが、自分でこしらえた破滅状態を悲んで泣くためにここにやってきたのは、けっこうだ。おまえはたくさんの建てものに松明を投げこんでおいて、その建てものが燃えてしまった時に、その焼け跡に坐って、それがなくなったと言って歎いているわけだ。腹黒い鬼め! おまえがいま弔っている人がまだ生きていたら、おまえの呪われた復讐の餌食になるにきまっている。おまえがいま感じているのは憫れみじゃない。おまえが歎いているのは、ただ、おまえの悪意の犠牲者がおまえの力のとどかぬ所へ行ってしまったからだよ。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示3

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「おお、そんなことはない、――そんなことは。」と怪物はさえぎって、「ただ、それがおれのやったことの本音だと思われる点かあり、そのために、あんたに与える印象がそんなことになるのにちがいないが、おれは、自分の不幸に同情を求めているわけではないのだ。おれが同情を受けるようなことはないだろう。おれがはじめ同情を求めたとき、自分もあずかりたいと思ったのは、自分のありあまる美徳への愛と幸福や愛の感情だった。しかし、今では、それも影のようになってしまい、その幸福や愛情がつらい忌まわしい絶望に変ってしまったというのに、いったい何におれは同情を求めたらいいのかね? おれは、自分の悩みが続くうちは、ひとりで悩むことに満足しているのだ。死ぬ時に、憎悪や非難でおれの記憶が背負いきれないようになったって、おれは十分満足だよ。かつて、おれの空想は、美徳と名声と享楽の夢に和らいでいたものだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      かつておれは、おれの外形を承知して、おれの示せるすぐれた特質のゆえにおれを愛してくれる人に出会いたいという、まちがった望みをもっていた。おれは名誉や献身という高邁な理想を抱いたこともある。しかし今では、犯罪のために、もっとも蔑しい動物以下に堕落してしまった。どんな罪も、どんな害悪も、どんな不幸も、おれのばあいとは比べものにならない。おれの罪悪の恐ろしい目録にざっと目を通すと、その思想ががっては崇高な卓越した美の幻想と善の威厳にみちていたあの存在と同じものであるとは、自分でも信じられないのだ。しかし、それはまさにそのとおりなのだ。堕天使は悪意にみちた悪魔になる。けれど、この神と人間の敵は、その荒廃のなかにあってさえ友だちや仲間をもっていた。おればひとりぼっちなのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年11月05日 11時23分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「フランケンシュタインを自分の友人だと言うあんたは、おれの犯罪やこの男の不幸のことをよく知っているらしいね。しかし、あんたにした詳しい話のなかで、この男は、おれが辛抱して無力な欲情をすり減らしていた不幸の歳月を勘定に入れることができなかったのだ。おれはこの男の望みをたたき壊しながら、自分の欲望をみたしたわけでなかった。それはいつも、熱烈切実なもので、おれはそれでも愛と友情を欲して、やはりはねつけられた。これには不正がなかっただろうか。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年11月05日 11時24分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          人間がみなおれに対して罪を犯したのに、おれだけが一人犯罪者と考えられなくてはならないのだろうか。自分の友だちを辱しめて戸口から叩き出したフェリクスを、どうしてあんたは憎まないのだ? 自分の子を助けてくれた者を殺そうとした田吾作をどうして憎まないのかね? いやはや、こんなやつが有徳で潔白なお方なのだ。みじめな、見棄てられたおれは、突きとばされて踏んだり蹴ったりされる出来そこないだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          2017年11月05日 11時25分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示2

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            これは現代の翻訳では使わないでしょうね(^^;)。rustic、田舎者くらいの意味でしょうか。85のコメントにあるエピソードの、溺れかけた娘を怪物が助けてくれたのに、銃で怪物を撃った男ですね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!111/06 01:01
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            創元推理文庫では、「百姓」でした。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 360
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            「しかし、おれはまったく悪者だ。おれは愛らしい者や無力な者を殺した。罪もない者を眠っているあいだに絞め殺し、おれをはじめ生きているどんなものも傷つけたことのない者の喉をつかんで死なせた。愛と称讃に価する人間のうちでも選りぬきの手本であるおれの創造者を、苦境におとしいれ、こんな取りかえしのつかない破滅にまでも追いつめた。その人が、ここに伸びているのだ、死んで血の気がなくなって、冷たくなって。あんたはおれを憎んでいるが、その嫌悪は、おれが自分に対してもっている嫌悪とは比べものにならないよ。おれはこれを実行しに自分の手を見、こういうことを思いついた自分の心を考えて、この手がおれの眼を掩い、そういう考えにもう二度と悩まされなくなる刹那を、しきりに望んているのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            2017年11月05日 11時26分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「おれがこのさき悪いことをしやしないかという心配は、無用だよ。おれの仕事はどうやらかたづいたのだ。おれの生涯にきりをつけて、どうしてもやっておかなければならぬことをやりとげるには、あんたやそのほかの人の死は必要じゃない。入用なのはおれ自身の死だ。おれがこんなように自分を犠牲に供することをぐずぐずしているとは考えてもらいたくない。おれは、おれが、ここまで乗ってきた氷の筏で、あんたの船から離れ、地球のいちばん北のはてまで行ってから、自分の火葬の薪の山を集めて、このみじめな体を燃やして灰にしてしまうのだ。おれのようなものをまた造ろうという好奇心の強い穢らわしいやつが、おれの死骸から手がかりを得たりしないようにね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                というのは、とても強い非難の言葉ですよね。私たちはここまでヴィクトルの人間性についてずいぶんツッコミを入れてきたわけで、それはある意味では怪物に対する共感でもあった。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                でももしかしたら怪物の怒り、絶望、憎しみというのはもっとずっと奥深いものだったのかもしれない。というのは、もし怪物がヴィクトル個人を恨んでいたのならば、怪物はヴィクトル以外の「まともな」科学者に期待することもできたはず。そうするだけの知性は持ち合わせていたはず。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                でも怪物はそうしようとは思わなかった。つまり怪物の憎しみの矛先は、実はヴィクトルではなかった。ヴィクトルを突き動かしたものをこそ、この怪物は最も憎んでいたような、そんな気がします。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • GOOD!011/06 01:07
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                自分はうまれてくるべきではなかった、と考えているのですね。優れた知性を持つゆえに。なんと悲しい。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 362
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                おれは死ぬつもりだよ。いまおれの胸に焼きついている苦悩も感じなくなるだろうし、この飽き足らぬ、抑えきれぬ感情の餌食になることもないだろう。おれをつくったこの男は死んでいるのだ。おれが居なくなれば、おれたち二人の記憶だって、すぐ消えるだろう。おれはもう、太陽とか星を見たりしないし、頬をなぶる風も感じなくなるだろう。光も、感情も、意識もなくなってしまうだろう。そして、そういう状態のなかに幸福を求めなくてはならないのだ。何年か前、この世界の示す形象がはじめておれの眼の前に開け、夏の気もちよい暖かさを感じたころ、木の葉のさやぐ音や鳥の囀る音を耳にしてそういうことがおれの全部であったころなら、死ぬのが怖くて泣いたにちがいないが、今では死ぬことがたった一つの慰めなのだ。犯罪でけがれ、悲痛な悔恨に引き裂かれた今、死以外のどこで休息を取ることができるだろう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  「さようなら! これでおいとましよう。おれの眼が見おさめする最後の人間があんただ。さらばフランケンシュタイン! おまえがまだ生きていて、おれに対して復讐の念をもっていたら、おれが死んでからでなく、生きているうちに、それが満たされたわけだね。しかし、そうじゃなかった。おまえは、おれがもっと大きな悪事をはたらかないように、おれを殺そうとした。だから、何かおれの知らないやりかたで、おまえがまだ考えたり感じたりするのをやめないとしても、おまえは、おれの感じる復讐の念よりも大きな復讐の念をおれに対してもたなかったにちがいない。おまえは破滅したが、おまえの苦悶はまだまだおれの苦悶には追いつかない。悔恨のとげは、死がそれを取り去ってくれるまでしじゅう傷口を悩ませるだろうからね。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    「しかし、すぐに」と悲しげに、また厳粛に、熱情をこらえかねて、怪物は叫んだ、「おれは死んで、いまこうして感じていることももう感じなくなるのだ。まもなく、この火の出そうな苦しみも消えるだろう。おれは、火葬の薪の山に意気揚々と登り、苦痛の焔にもだえて勝ち誇るのだ。燃えさかるその火の光も消え去り、おれの灰は風のために海へ吹き飛ばされるだろう。おれの霊は安らかに眠り、それが考えるとしても、きっとこんなふうには考えないだろう。では、さようなら。」
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!5コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       怪物はこう言いながら、船室の窓から、船の近くにあった氷の筏に跳び下りました。それはまもなく、浪に流されて暗やみのなかを遠くへ消えていったのです。


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        完
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      2017年11月05日 11時31分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!5コメントを全件表示7

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        ぱせりさんの
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        >きっとこの人には怪物の言葉はまったく入っていかない
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        という言葉をしみじみと読みました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        怪物の言葉によって、ウォルトンがどう感じたかも書かれていない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        怪物は罪を犯してしまったけれど、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        「父親」より科学という本質に寄り添っていたような。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        人類が責任を取れない科学は、ただの無責任でしかない。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        怪物はその象徴であるように感じます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        おりしも当時は産業革命の頃。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        プロメテウスのサブタイトルが語る通り、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        科学(火)を手にした人間が、成功と過ちの岐路にあるという
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        テーマもあったでしょう。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        またソレを「生んだ」のが男性であるという点から
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        女性地位への皮肉もあったのかもしれません。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        深読みもできるけど、シンプルに読んでも本当に面白い。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        前から好きな物語(と怪物)ではあったけど
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        今回の読書会でさらに奥深さに気付くことができ、
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        コレも棺桶本にしようと思いました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者様参加者様にもお礼申し上げます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        1年すごーく楽しかったです!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        またこんな機会があるといいなー!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • GOOD!411/06 01:27
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者さま、ご参加の皆さま、長い間ありがとうございました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        まだ関連書を読みながら考えを整理しています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        ウォルトンがフランケンシュタインに共感し擁護しているのが、現代人としては納得しかねるのですが、話の初めの方で、人格者の船長だか航海士だかを無知で無教養で対等な友達にはなり得ないと言ってたのを思い出しました。下層階級の者や女性や外国人を対等の人格としてみる発想がないのだから、自分が作った生き物の人権なんて、想像もつかないんだろうな。と思いました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        こんなに深く広い本とは思っていませんでした。こんな読書会向きの本をご提案いただいたおかげで貴重な時間を持てました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      • 366
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        とりあえず貼っておきます。物語の中でも引用された「老水夫行」が収められている

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        コウルリヂ詩選
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          ぽんきち さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          GOOD!5コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            しかし、ぽんきちさんには頭がさがります!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ただ単に思いつきだけでなく、その都度しっかりと派生読書を読み進めていく姿勢!尊敬します!

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            実は私、本日この本を入手しました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            http://www.honzuki.jp/book/255945/
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            もちろん読もうと思ってのことですが、あれやこれやで読み始めるめどは立っていません…(汗)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • GOOD!311/05 17:51
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            あ、いやいや、私もどこまで読み切れるかわからないです(^^;)。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            関連読書かと思ったら彼方まで飛んで行ってしまうことも多いですしw
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          • 368
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ぽんきち
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            ぽんきち さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            もう1つ、エピグラフにもあった、古典的名著。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            失楽園 上
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            失楽園 下
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            GOOD!4コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              かもめ通信 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              年内に本体を含めあれこれも読み&書きしたいと思っているのですが、どうにもとっちらかってしまって、なかなかまとめられそうにありません。だから…というわけではないのですが、豊彩夏さんによる「フェミニズムに近づくかもしれない23冊」のフランケンシュタイン紹介から抜粋でご紹介。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              「 この優れてポップな現代の神話的物語は、フェミニズム/クィア批評の伝統の一端を作っています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               まず、その誕生からいわくありげな物語である。最初の版につけられた序文は、彼女の夫が書いています。まるで自分が書いたものであるような顔をして。のちにつけられた、彼女自身の手になる序文は、以前の序文を書いたのは夫であることを暴露している。しかし彼女は、自分のことを「付け足し」として語るのみである。そして肝心の内容といえば、男性の主人公が饒舌に語り、進む物語である。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              (コメント欄につづきます)
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              GOOD!2コメントを全件表示1

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                (続き)しかしそこで描かれているのは、「生命の誕生」なるものが女性ではなく、男性の手によってなされ、なおかつ怪物を生み出すといった事態である。女性が書くこと、語ることについて考えるべきことが、あらゆる意味において山ほど盛り込まれた小説です。もっとも重要なのは怪物的であることだと、この本について考えるたび思います。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                (早稲田文学増刊女性号 P539)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              • 370
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                主催者
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                哀愁亭味楽 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                フランケンシュタインに関するさまざまなことについて、市川純氏の博士学位請求論文がとても参考になると思ったのでご紹介しておきます。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                メアリ・シェリー作品におけるロマン主義文学の廃墟的光景:男性英雄像の破壊、及び英雄に代わる女性像 早稲田大学大学院教育学研究科博士学位請求論文

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                序論ではフェミニズム批評に対する評価と同時に問題点の指摘、本論ではプロメテウス問題や科学と錬金術の話、また本書が当時どのように受容されたかということも詳細に研究されています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                2017年12月17日 15時20分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                GOOD!2コメントを全件表示2

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                • 371
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ぽんきち
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ぽんきち さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  1つ上の哀愁亭さんのコメントで思い出したので、2つ貼ります。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  鎖を解かれたプロメテウス
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  メアリの夫、パーシーの作品です。フランケンシュタインの副題にも「現代のプロメテウス」とありますが、さて、プロメテウスとは当時の彼らにとってどういった人物だったのでしょう、というところにもつながりそうです。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  もう1つ、アンソロジーですが
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  書物の王国 吸血鬼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  ディオダディ荘の怪奇談義に参加したバイロン卿とポリドリの作品が採られています。バイロン卿のは廃墟のロマンを感じさせます。時代の雰囲気という点では、参考図書としてもよいかもしれません。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  GOOD!2コメントを全件表示1

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    間に合わなくても、読めればレビューは書くつもりでいます。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  • 372
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    かもめ通信 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    いまさらですが、図書館から創元推理文庫の森下弓子訳の『フランケンシュタイン』を借りてきました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    巻末に収録されている新藤純子さんという方の書かれた解説が素晴らしいですね!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    30ページ越えの本格解説ですが、コレ目当てで古書購入してしまおうかと思ってしまいました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    しかし、しかしですね。コレを読んでしまったら、私がこねくり回していたあれこれがいかに浅はかな考えかということを思い知らされたわけでして、ますますレビューが書けないという…ね。(汗)
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    2017年12月24日 21時57分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    GOOD!2コメントを全件表示0

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                    ログイン後、コメントできます。

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      かもめ通信
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      かもめ通信 さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      あれもこれも書きたいことは沢山あるのになかなかまとめられず,結局今年も終ってしまいそうなので,苦し紛れにこちらの掲示板でこんな楽しい企画があったんだよ!という掲示板企画レビューを書いてみました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      http://www.honzuki.jp/book/242...

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      とにもかくにも,こんなに楽しい企画を立ち上げて下さった哀愁亭さんに感謝!
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      また来年も楽しいお誘いを心からお待ちしています!w
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      投稿日:
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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      GOOD!2コメントを全件表示0

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        ぽんきち さん
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        すみません、駆け込みですが、関連書、1冊終わりましたw

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        メアリー・シェリー研究

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        うーん、何か、語りつくせていない気がするのですが(^^;)。この掲示板に参加されていた方には結構おもしろく読めるのではないかと思います。370のコメントで哀愁亭さんが紹介されている論文の執筆者である市川純さんも何章か担当されています。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        投稿日:
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        2017年12月29日 23時18分
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        GOOD!2コメントを全件表示4

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                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • GOOD!212/31 13:18
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          おお、これは、時間ができれば私も見たいです。…年明けに行けるかなあ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        • GOOD!001/01 17:36
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          すみません、ぐずぐずと投稿をしていて、〆の御挨拶がまだでした。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          主催の哀愁亭さん、参加の皆様、ありがとうございました。結局のところ、本作についての感想がうまくまとまらないのですが、いろいろ考える機会をいただき、感謝です。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          細かいところに引っかかりがちだったような気もしますが、お付き合いいただき、ありがとうございましたm(__)m
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        この読書会は終了しました。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        [主催者の終了メッセージ]
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        えー、投稿を宣言していたフランケンシュタインまとめ2がちょっと間に合いそうもないのですが……このままいつまでも続けていてもあれなので、とりあえずこの掲示板は終了いたします!(なんか最後ぐだぐだな感じですみません)

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        やー、しかしフランケンシュタイン、深かった!!そして笑えた!

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        1年もの長期間にわたってご参加いただいた皆様、ありがとうございました!

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        良いお年を~

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        フォローする

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