拾得さん
レビュアー:
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『ローマ人の物語』に挫折したすべての人のために
本シリーズを手にしはじめてから、周囲の人に聞いてみると面白い現象が見られた。はまってずっと読み続ける人と、最初の数冊で挫折する人とに分かれることである。
後者の人に聞いてみると、その多くが「説教臭さ」がはなについたという。たしかに、最初の巻の方は、帝国を築き上げたローマ人と現代日本とを比較する記述が少なくない(個人的には、同じく多民族帝国であった戦前日本と比較すべきでは、と感じるのだが)。
また、カエサルへの偏愛も大きい(単行本にして2冊分もこれに宛てている! ほぼラブレター)。このあたりも好き嫌いが分かれてしまうような。こうした点をこえれば、高校や中学の「世界史」の講義では数ページで終ってしまう古代ローマ史を概観できる魅力は大きい。何より、キリスト教と啓蒙思想が西欧を覆う前のヨーロッパを知るにはちょうどよい(著者のねらいもここにあったのではないか)。ハリウッド製のローマ映画とは異なる。
さて、そんな「挫折組」にあえて推薦したいのが、この「すべての道はローマに通ず」の巻である。本筋の政治・政治家史からはなれ、表題のローマの街道をはじめ、橋、水道、医療、教育といった社会基盤についてまとめて解説している。くわえて、上下巻共に著名な遺跡の豊富なカラー図版がついており、ちょっとしたローマ遺跡案内にもなっている。本巻だけでも単独で楽しむことができる。イタリア旅行前に読むのにも手頃ではないだろうか(行ったことないのですが)。
著者によると、「道」に象徴されるローマのこうした社会基盤についてまとめて解説したものはほとんどないという。その「道」にしても、どれだけあったのかも正確にはわかっていないほどだとか。ローマの遺跡といっても、現在のローマ市に限られているわけではないのだから、その調査もだいぶやっかいなとうだ。
地中海周辺の国々に観光旅行に行くと、必ずローマ遺跡について自慢されることがあるが、どこも似ていて違いがわからない、という笑い話(?)を聞かされたことがある。「帝国」だけに広い地域に都市施設が散在し、またそこに「同じようなもの」をシスティマティックに作っていったのがローマなのだから、「違いがわからない」のは正しい感想ということになる。このシステムを解説することで、本書は「モノとしてのローマ」を上手にまとめてみせている。
個人的にもっとも興味深かったのは「旅行用のコップ」である(上巻)。その表面には都市・街間の距離も刻まれ、ガイドマップにもなっている。現代日本でも高速のサービスエリアで購入できそうなお土産品にもみえるが、このコップの前提には、整備された道や橋、駅、都市、旅行者の安全の保証がある。それらがすべて確保されていたわけである。前近代の日本で同じようなものをさがそうとすれば、江戸時代の街道地図ではないだろうか。恐るべし古代ローマ帝国。そのローマのすべてをつかみとろうかという著者・塩野七生氏の貪欲さもあなどるなかれ。
*初出:bk1 2009年2月6日
・再掲載にあたり、いくつか文言の修正や改行などを行いました。
後者の人に聞いてみると、その多くが「説教臭さ」がはなについたという。たしかに、最初の巻の方は、帝国を築き上げたローマ人と現代日本とを比較する記述が少なくない(個人的には、同じく多民族帝国であった戦前日本と比較すべきでは、と感じるのだが)。
また、カエサルへの偏愛も大きい(単行本にして2冊分もこれに宛てている! ほぼラブレター)。このあたりも好き嫌いが分かれてしまうような。こうした点をこえれば、高校や中学の「世界史」の講義では数ページで終ってしまう古代ローマ史を概観できる魅力は大きい。何より、キリスト教と啓蒙思想が西欧を覆う前のヨーロッパを知るにはちょうどよい(著者のねらいもここにあったのではないか)。ハリウッド製のローマ映画とは異なる。
さて、そんな「挫折組」にあえて推薦したいのが、この「すべての道はローマに通ず」の巻である。本筋の政治・政治家史からはなれ、表題のローマの街道をはじめ、橋、水道、医療、教育といった社会基盤についてまとめて解説している。くわえて、上下巻共に著名な遺跡の豊富なカラー図版がついており、ちょっとしたローマ遺跡案内にもなっている。本巻だけでも単独で楽しむことができる。イタリア旅行前に読むのにも手頃ではないだろうか(行ったことないのですが)。
著者によると、「道」に象徴されるローマのこうした社会基盤についてまとめて解説したものはほとんどないという。その「道」にしても、どれだけあったのかも正確にはわかっていないほどだとか。ローマの遺跡といっても、現在のローマ市に限られているわけではないのだから、その調査もだいぶやっかいなとうだ。
地中海周辺の国々に観光旅行に行くと、必ずローマ遺跡について自慢されることがあるが、どこも似ていて違いがわからない、という笑い話(?)を聞かされたことがある。「帝国」だけに広い地域に都市施設が散在し、またそこに「同じようなもの」をシスティマティックに作っていったのがローマなのだから、「違いがわからない」のは正しい感想ということになる。このシステムを解説することで、本書は「モノとしてのローマ」を上手にまとめてみせている。
個人的にもっとも興味深かったのは「旅行用のコップ」である(上巻)。その表面には都市・街間の距離も刻まれ、ガイドマップにもなっている。現代日本でも高速のサービスエリアで購入できそうなお土産品にもみえるが、このコップの前提には、整備された道や橋、駅、都市、旅行者の安全の保証がある。それらがすべて確保されていたわけである。前近代の日本で同じようなものをさがそうとすれば、江戸時代の街道地図ではないだろうか。恐るべし古代ローマ帝国。そのローマのすべてをつかみとろうかという著者・塩野七生氏の貪欲さもあなどるなかれ。
*初出:bk1 2009年2月6日
・再掲載にあたり、いくつか文言の修正や改行などを行いました。
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学生時代は書評誌に関わってました。今世紀に入り、当初はBK1(現在honto)、その後、TRCブックポータルでレビューを掲載してました。同サイト閉鎖から、こちらに投稿するようになりました。
ニックネームは書評用のものでずっと使ってます。
サイトの高・多機能ぶりに対応できておらず、書き・読み程度ですが、私の文章がきっかけとなって、本そのものを手にとってもらえれば、うれしいという気持ちは変わりません。 特定分野に偏らないよう、できるだけ多様な書を少しずつでも紹介していければと考えています。
プロフィール画像は大昔にバイト先で書いてもらったものです。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:238
- ISBN:9784101181776
- 発売日:2006年09月01日
- 価格:500円
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