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ソネアキラ
レビュアー:
戦前・戦中・戦後を生きた女性たちの轍

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

『キャラメル工場から -佐多稲子傑作短篇集-』 佐多稲子著 佐久間文子編を読む。


デビュー作の『キャラメル工場から』をはじめに、晩年作の『こころ』まで「短篇小説の名手」といわれた作者のアンソロジー。「労働、地下活動、戦争、東京や故郷・長崎、そこで出会った人々」をテーマに、人生の重みや苦みなどがリアルに記されている。


何篇かのあらすじや感想を。


『キャラメル工場から』
妻に先立たれた夫は子どもと母親を引き連れて長崎から東京へ。とはいっても仕事は決まっていなかった。仕事に就けないダメ夫(父)という朝ドラパターン。母親は内職、ひろ子(娘)は小学校を辞めさせられてキャラメル工場で働く。同じ境遇の女工たちは、甘い香りに包まれているが、薄給でこき使われている。ひろ子は電車賃までも家に入れているので往復延々と歩く。キャラメル工場からラーメン店の住み込みに転職。先生からせめて小学校は卒業しなさいという手紙をもらう。一人、泣く。著者の経験から描かれた作品。プロレタリア文学の代表的な作品といわれているが、かつて問題となったナイキなどの東南アジアでの過酷な児童労働とかヤングケアラーといったほうが、いまならピンとくる。


『プロレタリア女優』
女優・原泉をモデルにした作品。原泉といっても若い人は知らないかも。怖い老婆や姑役でドラマで活躍していた。著者と原、夫である詩人・中野重治とは、いわば日本共産党の同志。久保啓子(原)は「29日の拘留を終えて帰ってきた」。拘留中の夫は、拷問を受けたことを知る。舞台に立ちながら、夫を案じる。しかし、プロレタリア女優であり続けることを固く誓う。ドキュメント風に描かれている。

『虚偽』
戦争中、著者は大佛次郎・林芙美子らと戦地慰問に携わった。マレー、ジャワ、スマトラそしてシンガポール。その模様が述べられている。それまでプロレタリア作家とみられていたのに。それは単なる「南方見物」ではなく、戦争を賛辞でも批判でもなく、ありのままに、ジャーナリスティックにとらえようとしているものだった。後年、このことが問題となって日本共産党と袂を分かつことになる。


『乾いた風』
隣組長の賢吉老人の息子にも赤紙が来た。先だって戦地に赴いた若者が戦死した。日ごとに生活物資は不足していく。しかし、はりきる老人。隣組で法令を破る者がいないか眼を光らせる。やがて金持ちの家から物資調達の仕事を得る。当然、闇物資なのだが。経済的にも潤う老人。病気の子ともに食べさせようと卵の融通を願う女性。彼女は老人に反抗的な態度を取っていたため、すげなく断る。敗戦後、老人の行方は。

『疵あと』
戦時下、同じ組織にいた「わたし」と「伊原とし江」。大阪の講演会で再会する。とし江は共産党のオルグをしていた。「警察で焼け火箸でつけられた疵」。女性への陰湿な拷問。なぜ、とし江が組織の恋人から姿をくらましたのか。その後の半生が語られる。見える肉体的な疵よりも、見えない心の疵のほうが、思い出したとき、より痛みが強いのではないだろうか。


幸田文や向田邦子の文体や世界を思わせる。

挿画の藤牧義雄の「鐵」という木版画が素敵だ。

『私の東京地図』佐多稲子著

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ソネアキラ
ソネアキラ さん本が好き!1級(書評数:2304 件)

女子柔道選手ではありません。開店休業状態のフリーランスコピーライター。暴飲、暴食、暴読の非暴力主義者。東京ヤクルトスワローズファン。こちらでもささやかに囁いています。

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詩や小説らしきものはこちら。

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