篠田くらげさん
レビュアー:
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難しいよね、で終わらせないために
パレスチナ問題は理解するのが難しい。イスラエルが悪いとかハマスが悪いとかそんなに簡単に言えるものではない。
と、もうずっと言われている。しかし「いやー難しいですよね。そのうち解決に向かうといいですね」と言っている間もすさまじい虐殺が続いている。なんなんだ。少しでも理解することはできないのか。
本書は現代アラブ文学・パレスチナ問題を専門とする岡、西洋史(特にポーランド史)を専門とする小山、現代史(特に食と農の歴史)を専門とする藤原の各氏によるパレスチナ問題の本である。
2024年に行われた講座と鼎談を収録し、主としてパレスチナ問題の背景を解説する。タイトルに「中学生」と入っているが、中学生向けに易しく解説してあるわけではないので、実際の中学生が読むと世界史の予備知識が足りなくて難しいかもしれない。
本書はイスラエルの行動をジェノサイドと位置づけ、ハマスの攻撃は脱植民地化を求める抵抗であるとする。じゃあイスラエルが一方的に悪くて、ハマスは無辜の被害者なのか。そうではなく、本書が告発するのは、イスラエルのジェノサイドがいかにして可能になっているかということである。
ヨーロッパにとって、ホロコーストを生き延びたユダヤ人が「パレスチナに国を作ります」と言って出ていってくれることは好都合だった。しかもイスラエルを支援することを反ユダヤ主義やホロコーストへの贖罪と考えることができた。ヨーロッパにしてみれば、好都合なことが起きて、しかも「我々はユダヤ人に償いをした。いいことをした」と思えるのだから一石二鳥である。
しかしその代償はヨーロッパ人ではなく、パレスチナに住んでいた人々に押し付けられている。もちろんホロコーストは決して消えない罪であるが、イスラエルはホロコーストさえも利用して自分たちの正当性をアピールしてきた……
ここまで同意する人でも、パレスチナ問題は他人事だと思っている人が多いのではないか。私もそうだった。イスラエルはひどい。しかしそれは自分と無関係な人間がやっている犯罪である。他人が起こした強盗事件は私に責任がない。それと同じようにイスラエルのジェノサイドに私は責任がない。
本書が問うのは、本当にそうなのかということだ。現地の住民を追い出して植民地化することは、ヨーロッパだけではなく日本も行なったことである。植民地化に抵抗する行動が起これば「鎮圧」と称して殺害・殲滅してきた。現代でもパレスチナで今日の食べ物が手に入らず飢えて死ぬ人がいる一方で、穀物を扱う企業が莫大な利益をあげている。日本人の生活は世界が「このように」存在していることに支えられている。とすれば、我々はパレスチナに対し当事者として責任があるのではないか。
どうだろう。このような構造的な暴力性を指摘することは人文学の本領というべきものである。一方で、私とネタニヤフ首相、私と穀物企業の経営者、私と満洲国の官僚は同じ責任なのかと言われたら、そうではないように思える(本書は「読者はネタニヤフ首相と同じ責任を負う」と主張しているわけではない)。「満洲国とパレスチナには共通点がある」と言うことで、それぞれの固有の背景や問題点を覆い隠す恐れもないとは言えない。
ただ、日本では(私も含め)当事者性の意識が乏しい。日本人の多くはユダヤ人でもキリスト教福音派でもムスリムでもなく、イスラエルやアメリカで行われる選挙の投票権を持っているわけでもない。それでも決してこれは他人事ではないのだ、と言うことに本書の意義があるように思われる。
引き続き他の本も読みたいし、自身の責任について考えつつもジェノサイドを非難していきたい。「引き続き注視していきたいですね」とのコメントで書評を終えて意味があるのか……と思うけれども。
と、もうずっと言われている。しかし「いやー難しいですよね。そのうち解決に向かうといいですね」と言っている間もすさまじい虐殺が続いている。なんなんだ。少しでも理解することはできないのか。
本書は現代アラブ文学・パレスチナ問題を専門とする岡、西洋史(特にポーランド史)を専門とする小山、現代史(特に食と農の歴史)を専門とする藤原の各氏によるパレスチナ問題の本である。
2024年に行われた講座と鼎談を収録し、主としてパレスチナ問題の背景を解説する。タイトルに「中学生」と入っているが、中学生向けに易しく解説してあるわけではないので、実際の中学生が読むと世界史の予備知識が足りなくて難しいかもしれない。
本書はイスラエルの行動をジェノサイドと位置づけ、ハマスの攻撃は脱植民地化を求める抵抗であるとする。じゃあイスラエルが一方的に悪くて、ハマスは無辜の被害者なのか。そうではなく、本書が告発するのは、イスラエルのジェノサイドがいかにして可能になっているかということである。
ヨーロッパにとって、ホロコーストを生き延びたユダヤ人が「パレスチナに国を作ります」と言って出ていってくれることは好都合だった。しかもイスラエルを支援することを反ユダヤ主義やホロコーストへの贖罪と考えることができた。ヨーロッパにしてみれば、好都合なことが起きて、しかも「我々はユダヤ人に償いをした。いいことをした」と思えるのだから一石二鳥である。
しかしその代償はヨーロッパ人ではなく、パレスチナに住んでいた人々に押し付けられている。もちろんホロコーストは決して消えない罪であるが、イスラエルはホロコーストさえも利用して自分たちの正当性をアピールしてきた……
ここまで同意する人でも、パレスチナ問題は他人事だと思っている人が多いのではないか。私もそうだった。イスラエルはひどい。しかしそれは自分と無関係な人間がやっている犯罪である。他人が起こした強盗事件は私に責任がない。それと同じようにイスラエルのジェノサイドに私は責任がない。
本書が問うのは、本当にそうなのかということだ。現地の住民を追い出して植民地化することは、ヨーロッパだけではなく日本も行なったことである。植民地化に抵抗する行動が起これば「鎮圧」と称して殺害・殲滅してきた。現代でもパレスチナで今日の食べ物が手に入らず飢えて死ぬ人がいる一方で、穀物を扱う企業が莫大な利益をあげている。日本人の生活は世界が「このように」存在していることに支えられている。とすれば、我々はパレスチナに対し当事者として責任があるのではないか。
どうだろう。このような構造的な暴力性を指摘することは人文学の本領というべきものである。一方で、私とネタニヤフ首相、私と穀物企業の経営者、私と満洲国の官僚は同じ責任なのかと言われたら、そうではないように思える(本書は「読者はネタニヤフ首相と同じ責任を負う」と主張しているわけではない)。「満洲国とパレスチナには共通点がある」と言うことで、それぞれの固有の背景や問題点を覆い隠す恐れもないとは言えない。
ただ、日本では(私も含め)当事者性の意識が乏しい。日本人の多くはユダヤ人でもキリスト教福音派でもムスリムでもなく、イスラエルやアメリカで行われる選挙の投票権を持っているわけでもない。それでも決してこれは他人事ではないのだ、と言うことに本書の意義があるように思われる。
引き続き他の本も読みたいし、自身の責任について考えつつもジェノサイドを非難していきたい。「引き続き注視していきたいですね」とのコメントで書評を終えて意味があるのか……と思うけれども。
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小説、歴史、哲学、短歌。
それらを読んだり居眠りしたりしながらふらふら生きています。最近はノンフィクションが多め。
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- 出版社:ミシマ社
- ページ数:0
- ISBN:9784911226063
- 発売日:2024年07月26日
- 価格:1980円
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