拾得さん
レビュアー:
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「ことばは世界への窓である。私たちは日々の生活の中で、特に注意することなく、ことばを通して世界を見たり、ものごとを考えたりしている。」(本書冒頭、2頁)
サピア・ウォーフの仮説を紹介した文章が国語の教科書にあったことをおぼえている人はおられないだろうか? 雪との付き合いの深いエスキモー(イヌイットとはまだ書かれていなかった)には雪についての語彙が多種多様にある、などといった一節があったと記憶する。
そのときは「へー、そうなんだ」くらいの感想でしかなかったが、ずいぶんと後になって、サピア・ウォーフの仮説はアカデミズムではウォーフの仮説と呼ばれることが多いこと、言語と世界の見方についての議論は多々重ねられてきていることを知ることになった。そんな「言語」の役割についての認知心理学上の議論と研究の蓄積を、明快に整理してみせたのが本書である。
ウォーフの仮説を雑にまとめると、ことばのありようが認識のあり方を決めているといった説、となろうか。異なる言語どうしで語彙のあり方が異なるのであれば、なるほど確かに世界の見え方が変わりそうである。先の「雪」の例で言えば、雪についての語彙が豊かな言語をもつ話者のほうが、より雪を多様にとらえていることになる。
このあたり個人的には実感してきたおぼえがある。ある時期に「うまく話せない」ことを強く感じるようになった。当意即妙な受け応えなんて夢のまた夢だった。より多くのことばを知り、また(書く練習を含め)実際にことばを多く知り、使う経験を重ねるようになって、「多少は話せるようになった」という思いを得た。
ウォーフの仮説への支持は、こうした個々の実感によっても支えられてきたのではないかと感じる。こうした「実感」とは別に、研究の世界、特に著者の属する認知心理学において「異なる言語の話者は、世界を異なる仕方で見ているか」という議論や実験が重ねられてきたことを本書では紹介していく。それ以前は、人類学などでのフィールドワーク上での発見が主流であったのに対し、認知心理学が加わることで、著者が以下に記すように、認識や思考といった側面へも研究が進んでいく。
「単にウォーフの仮説が正しいか正しくないかということではなく、言語の影響が、認知プロセスの、あるいは脳の情報処理の、どの時点でどのような形で現れるのかということを明らかにしようとしてきた。」(63p)
本書は、そうした言語の認識・思考との関係をさぐってきた研究のレビューをしていく。特に興味深かったのは、認知心理学の視点からの実験というものはどのように行うのか、というのがよくわかるように丁寧に解説されている点にもある。異なる言語話者を対象に実験を行うには、どのようなモノを使えばよいかから始まり、「認識」を明らかにするにはどのような手順を踏まなければならないのか、などなど。
たとえば、冒頭に付されている口絵には、異なる言語話者を対象に使われた「マンセルカラーシステム」の事例が付されている。それぞれのことばの「色の名」は具体的にどの程度の幅であったのかが明快にわかる。単にそれぞれの話者のことばの語彙を聞き取るだけではなく、このように明快に比較可能なモノを使ってきているのである。
これが思考だ、これが認識だ、といった決定的なモノはないわけだし、一度きりの実験(の成功)で仮説が検証ができたとはいかない。複数の素材や実験を重ねていって検討を進めていく。そんな、一歩一歩詰めていく研究のあり様がよくわかるようになっている。何事にも近道はない、そんなこんなを教えてくれる。
そのときは「へー、そうなんだ」くらいの感想でしかなかったが、ずいぶんと後になって、サピア・ウォーフの仮説はアカデミズムではウォーフの仮説と呼ばれることが多いこと、言語と世界の見方についての議論は多々重ねられてきていることを知ることになった。そんな「言語」の役割についての認知心理学上の議論と研究の蓄積を、明快に整理してみせたのが本書である。
ウォーフの仮説を雑にまとめると、ことばのありようが認識のあり方を決めているといった説、となろうか。異なる言語どうしで語彙のあり方が異なるのであれば、なるほど確かに世界の見え方が変わりそうである。先の「雪」の例で言えば、雪についての語彙が豊かな言語をもつ話者のほうが、より雪を多様にとらえていることになる。
このあたり個人的には実感してきたおぼえがある。ある時期に「うまく話せない」ことを強く感じるようになった。当意即妙な受け応えなんて夢のまた夢だった。より多くのことばを知り、また(書く練習を含め)実際にことばを多く知り、使う経験を重ねるようになって、「多少は話せるようになった」という思いを得た。
ウォーフの仮説への支持は、こうした個々の実感によっても支えられてきたのではないかと感じる。こうした「実感」とは別に、研究の世界、特に著者の属する認知心理学において「異なる言語の話者は、世界を異なる仕方で見ているか」という議論や実験が重ねられてきたことを本書では紹介していく。それ以前は、人類学などでのフィールドワーク上での発見が主流であったのに対し、認知心理学が加わることで、著者が以下に記すように、認識や思考といった側面へも研究が進んでいく。
「単にウォーフの仮説が正しいか正しくないかということではなく、言語の影響が、認知プロセスの、あるいは脳の情報処理の、どの時点でどのような形で現れるのかということを明らかにしようとしてきた。」(63p)
本書は、そうした言語の認識・思考との関係をさぐってきた研究のレビューをしていく。特に興味深かったのは、認知心理学の視点からの実験というものはどのように行うのか、というのがよくわかるように丁寧に解説されている点にもある。異なる言語話者を対象に実験を行うには、どのようなモノを使えばよいかから始まり、「認識」を明らかにするにはどのような手順を踏まなければならないのか、などなど。
たとえば、冒頭に付されている口絵には、異なる言語話者を対象に使われた「マンセルカラーシステム」の事例が付されている。それぞれのことばの「色の名」は具体的にどの程度の幅であったのかが明快にわかる。単にそれぞれの話者のことばの語彙を聞き取るだけではなく、このように明快に比較可能なモノを使ってきているのである。
これが思考だ、これが認識だ、といった決定的なモノはないわけだし、一度きりの実験(の成功)で仮説が検証ができたとはいかない。複数の素材や実験を重ねていって検討を進めていく。そんな、一歩一歩詰めていく研究のあり様がよくわかるようになっている。何事にも近道はない、そんなこんなを教えてくれる。
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学生時代は書評誌に関わってました。今世紀に入り、当初はBK1(現在honto)、その後、TRCブックポータルでレビューを掲載してました。同サイト閉鎖から、こちらに投稿するようになりました。
ニックネームは書評用のものでずっと使ってます。
サイトの高・多機能ぶりに対応できておらず、書き・読み程度ですが、私の文章がきっかけとなって、本そのものを手にとってもらえれば、うれしいという気持ちは変わりません。 特定分野に偏らないよう、できるだけ多様な書を少しずつでも紹介していければと考えています。
プロフィール画像は大昔にバイト先で書いてもらったものです。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:240
- ISBN:9784004312789
- 発売日:2010年10月21日
- 価格:840円
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