かもめ通信さん
レビュアー:
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結局のところ、あれこれ分かったつもりになっていても、あの人のこともこの人のことも、そして自分自身のこともなんにもわかっていないのかもしれないな。私もあなたも。
しばらく前に読んだ『自分ひとりの部屋』がとても良かったので
今度はウルフの書いた小説が読みたいと思っていた。
彼女の代表作でもあるこの『ダロウェイ夫人』も
候補の一つではあったのだが
なにせ翻訳の種類も沢山あって
どの訳で読んだらいいのかしら…などと迷っているうちに月日が過ぎていた。
丁度光文社古典新訳文庫が創刊10周年だときいて
本が好き!の掲示板でも光文社古典新訳文庫祭を企画したこともあって
これを機に新訳で読んでみたのだが……
訳のせいではないと思うがまどろっこしい節回しに冒頭から振り回され
なかなかスピードが上がらなかった。
問題のその日、クラリッサ・ダロウェイは自宅でパーティーを開くことになっていた。
使用人達は忙しいだろうからと自ら花を買いに行くことにしたクラリッサは
歩きながらあれこれ考える。
目に映るもの、すれ違う人、パーティーのこと、昔の思い出……
頭に浮かぶあれこれや、心の内のあれこれが、つらつらと止めどなく綴られていく。
ダダ漏れ、垂れ流し状態なのだ。
もちろんそういう話ならば他にもある。
たとえばアガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』。
あれだって旅の途中で足止めを食らった主人公の
退屈きわまりない頭の中をのぞきこんでいくうちに
ただ読んでいるだけの筈の読者がどんどん深みにはまってしまう話だ。
これもそんな展開なのかも知れない。
もう少し我慢すれば……と自分で自分に言い聞かせて読み進めると
次々にクラリッサ以外の人物の
たとえば道ですれちがった若い夫婦の
あるいはインドから帰国しその朝数年ぶりに顔を見せた昔の恋人ピーターの
またあるいはクラリッサの娘エリザベスの
はたまたエリザベスの家庭教師ミス・キルマンの
頭の中、心のうちをこれでもか!と覗き込むことになる。
350ページ近い物語で語られるのはたった一日の出来事で
なにか特別なことが起きるわけでもなく
その大半は誰かと誰かの会話によって成り立つのでさえない。
各々の頭の中のもので構成されているのだ。
そういえば昔
「あれこれ浮かんだ言葉を口にする前に
よく考えてから口を開くべき」と忠告されていた自分を
どこか恥ずかしく思いかえしながら
あの人この人の心のうちを
知りたいような知りたくないような
知らない方が幸せかもしれないなどと思いながら
あるいはもしも
昔の恋人と再会したならば
などと愚にもつかないことを考えながら
覗き込む人々の頭の中。
あの人の思考は独りよがりで
この人の考えも偽善的だわと
ムキになって自らの尺度で判断を下したがる自分と
ああこれがいわゆる“意識の流れ”を用いた手法、
3人称の地の文の中に1人称的な心理を描き
人間の移りゆく意識を文章に組み込んでいく技法なのかと
どこか冷静に分析する自分。
強烈に“己”を自覚しながら読み終えた物語は
未だ消化不良の感は否めないが
おそらくこの先幾度か再読するだろうと思わせる手応えがあった。
今度はウルフの書いた小説が読みたいと思っていた。
彼女の代表作でもあるこの『ダロウェイ夫人』も
候補の一つではあったのだが
なにせ翻訳の種類も沢山あって
どの訳で読んだらいいのかしら…などと迷っているうちに月日が過ぎていた。
丁度光文社古典新訳文庫が創刊10周年だときいて
本が好き!の掲示板でも光文社古典新訳文庫祭を企画したこともあって
これを機に新訳で読んでみたのだが……
訳のせいではないと思うがまどろっこしい節回しに冒頭から振り回され
なかなかスピードが上がらなかった。
問題のその日、クラリッサ・ダロウェイは自宅でパーティーを開くことになっていた。
使用人達は忙しいだろうからと自ら花を買いに行くことにしたクラリッサは
歩きながらあれこれ考える。
目に映るもの、すれ違う人、パーティーのこと、昔の思い出……
頭に浮かぶあれこれや、心の内のあれこれが、つらつらと止めどなく綴られていく。
ダダ漏れ、垂れ流し状態なのだ。
もちろんそういう話ならば他にもある。
たとえばアガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』。
あれだって旅の途中で足止めを食らった主人公の
退屈きわまりない頭の中をのぞきこんでいくうちに
ただ読んでいるだけの筈の読者がどんどん深みにはまってしまう話だ。
これもそんな展開なのかも知れない。
もう少し我慢すれば……と自分で自分に言い聞かせて読み進めると
次々にクラリッサ以外の人物の
たとえば道ですれちがった若い夫婦の
あるいはインドから帰国しその朝数年ぶりに顔を見せた昔の恋人ピーターの
またあるいはクラリッサの娘エリザベスの
はたまたエリザベスの家庭教師ミス・キルマンの
頭の中、心のうちをこれでもか!と覗き込むことになる。
350ページ近い物語で語られるのはたった一日の出来事で
なにか特別なことが起きるわけでもなく
その大半は誰かと誰かの会話によって成り立つのでさえない。
各々の頭の中のもので構成されているのだ。
そういえば昔
「あれこれ浮かんだ言葉を口にする前に
よく考えてから口を開くべき」と忠告されていた自分を
どこか恥ずかしく思いかえしながら
あの人この人の心のうちを
知りたいような知りたくないような
知らない方が幸せかもしれないなどと思いながら
あるいはもしも
昔の恋人と再会したならば
などと愚にもつかないことを考えながら
覗き込む人々の頭の中。
あの人の思考は独りよがりで
この人の考えも偽善的だわと
ムキになって自らの尺度で判断を下したがる自分と
ああこれがいわゆる“意識の流れ”を用いた手法、
3人称の地の文の中に1人称的な心理を描き
人間の移りゆく意識を文章に組み込んでいく技法なのかと
どこか冷静に分析する自分。
強烈に“己”を自覚しながら読み終えた物語は
未だ消化不良の感は否めないが
おそらくこの先幾度か再読するだろうと思わせる手応えがあった。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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この書評へのコメント
- かもめ通信2016-09-28 06:11
祝☆創刊10周年!本が好き!光文社古典新訳文庫祭!!
http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no251/index.html?latest=20
今月末まで開催中!過去レビュー紹介も大歓迎!
皆様ぜひご参加ください!クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 
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- 出版社:光文社
- ページ数:377
- ISBN:9784334752057
- 発売日:2010年05月20日
- 価格:760円
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