かもめ通信さん
レビュアー:
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「絶対に真であることを一つでもあげてみろ、なにもあげられないだろう」などという著者の挑発に乗っていそいそとページをめくるもそのデタラメぶりに悲鳴をあげる。さすがヴォネガット、ぐったり疲れる面白さ?!
Wings to fly さんが主催する読書会: 勝手にコラボ企画2:「ハヤカワ文庫の100冊 2015秋」に参加すべく、まだ書評が挙がっていない対象作品の中からなにか読もうと考えながらリストとにらめっこしていたときに目に留まったのがこちらの作品。
前々から、読みたい本のリストには入れてあったのだけれど、毎日のように新しい本を加えているうちにすっかり埋もれてしまっていた1冊だ。
今回はKindle版で読んでみた。
“わたし”を名乗る語り手はどうやら作家らしく、『世界が終末をむかえた日』という本を書いていた。
“いた”と過去形なのは、本人が「未完に終わった」と打ち明けているからだ。
“わたし”いわくその本は、「事実に基づいた本になるはず」で「日本の広島に最初の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物たちがどんなことをしていたかを記録する本になるはず」だった。
そしてまた「キリスト教の立場に立った本になるはず」だったのだという。
ところが“わたし”は紆余曲折を経て、「ボコノン教」に改宗し、アメリカではなく「カリブ海の小島、サン・ロレンゾ共和国」で、まさに人生の終末を迎えようとしているらしいのだ。
どうしてそんなことになったのか、“わたし”は順を追って語り始めるのだが、その話というのがなんともぶっ飛んでいる。
本を書くにあたって、第二次大戦中、原爆の開発に携わった“原爆の父のひとり”科学者フェリックス・ハニカー(注:架空の人物)について調べようと、ハニカーの3人の子どもたちに接触した“わたし”は、次第に3人の人生に巻き込まれていくのだが……
カリブ海の独裁国家サン・ロレンゾ
教義はウソだと明言しているボコノン教
博愛主義の絶世の美女
戦地に赴く前に民主主義に殉じた百人の戦士
ハニカーが残した人類を滅ぼしかねない危険物質アイス・ナイン
……等々、その巻き込まれ具合はとても数行では説明できず、とにかく読んでみて!としかいいようのない話のオンパレードなのだ。
いかにもヴォネガットらしい、ユーモアと皮肉がたっぷりこめられていて、読みながら思わずにやついてしまう場面もあれば、頭が痛くなる場面も。
書かれた時代のせいもあればヴォネガット特有の皮肉ぶりのせいもあるのだろうが、差別的表現も満載なので、その点は読む前にある程度割り切る覚悟を決めてあまり目くじらを立てずにやり過ごす方がいいようだ。
世の中のありとあらゆるものを痛烈に批判、風刺していることはわかっても、一読しただけではヴォネガットが放つ矢の的を、全部見極めることなど到底出来そうにない。
読み返すたびに新たな発見がありそうではあるけれど、この作品を丸々全部理解することはきっとできないに違いないと思いもする。
でもそれでもきっといいのだ。
この作品の意図するところの1つには「わかったつもりになることの愚かさ」があるようだから。
<カート・ヴォネガット・ジュニアその他の作品レビュー>
● スローターハウス5
● はい、チーズ
前々から、読みたい本のリストには入れてあったのだけれど、毎日のように新しい本を加えているうちにすっかり埋もれてしまっていた1冊だ。
今回はKindle版で読んでみた。
“わたし”を名乗る語り手はどうやら作家らしく、『世界が終末をむかえた日』という本を書いていた。
“いた”と過去形なのは、本人が「未完に終わった」と打ち明けているからだ。
“わたし”いわくその本は、「事実に基づいた本になるはず」で「日本の広島に最初の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物たちがどんなことをしていたかを記録する本になるはず」だった。
そしてまた「キリスト教の立場に立った本になるはず」だったのだという。
ところが“わたし”は紆余曲折を経て、「ボコノン教」に改宗し、アメリカではなく「カリブ海の小島、サン・ロレンゾ共和国」で、まさに人生の終末を迎えようとしているらしいのだ。
どうしてそんなことになったのか、“わたし”は順を追って語り始めるのだが、その話というのがなんともぶっ飛んでいる。
本を書くにあたって、第二次大戦中、原爆の開発に携わった“原爆の父のひとり”科学者フェリックス・ハニカー(注:架空の人物)について調べようと、ハニカーの3人の子どもたちに接触した“わたし”は、次第に3人の人生に巻き込まれていくのだが……
カリブ海の独裁国家サン・ロレンゾ
教義はウソだと明言しているボコノン教
博愛主義の絶世の美女
戦地に赴く前に民主主義に殉じた百人の戦士
ハニカーが残した人類を滅ぼしかねない危険物質アイス・ナイン
……等々、その巻き込まれ具合はとても数行では説明できず、とにかく読んでみて!としかいいようのない話のオンパレードなのだ。
いかにもヴォネガットらしい、ユーモアと皮肉がたっぷりこめられていて、読みながら思わずにやついてしまう場面もあれば、頭が痛くなる場面も。
書かれた時代のせいもあればヴォネガット特有の皮肉ぶりのせいもあるのだろうが、差別的表現も満載なので、その点は読む前にある程度割り切る覚悟を決めてあまり目くじらを立てずにやり過ごす方がいいようだ。
世の中のありとあらゆるものを痛烈に批判、風刺していることはわかっても、一読しただけではヴォネガットが放つ矢の的を、全部見極めることなど到底出来そうにない。
読み返すたびに新たな発見がありそうではあるけれど、この作品を丸々全部理解することはきっとできないに違いないと思いもする。
でもそれでもきっといいのだ。
この作品の意図するところの1つには「わかったつもりになることの愚かさ」があるようだから。
<カート・ヴォネガット・ジュニアその他の作品レビュー>
● スローターハウス5
● はい、チーズ
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
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- 出版社:早川書房
- ページ数:298
- ISBN:9784150103538
- 発売日:1979年07月01日
- 価格:777円
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