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ぽんきち
レビュアー:
雨は、誰かが大切な人を思って降らす「恋の涙」
建築家の卵、雨宮誠と、カフェ店員、相澤日奈。
ネガティブで傷つきやすい彼とポジティブでいつも笑っている彼女という、まったく性格の違う2人だが、互いに魅かれ合い、愛し合って暮らしている。

ところが、2人は冒頭で、いきなり交通事故で死んでしまう。行きついた先は、真っ白い部屋。そこは魂の「査定」を行う場所だった。「案内人」と呼ばれる天使にあたる存在が、それぞれの人生を聞き取り、次に何に生まれ変わるかを決めるのだ。だが、2人は特別に「奇跡」の対象となる。奇跡対象者になると、生き返ることができる。但しそれには条件が付く。2人の場合は「ライフシェアリング」が条件だった。2人で20年の余命が与えられる。最初は半々、10年ずつ。しかし、一方が大きな幸せを感じると寿命が1年延び、もう一方の寿命が1年減る。反対に、一方が大きな不幸を感じると寿命が1年減り、もう一方の寿命が1年延びる。寿命が0になると、きっかり1日後に死ぬ。どちらかが権利を放棄すると、その時点で持っている寿命はすべて相手に譲られる。
2人はそれぞれ、ライフウォッチと呼ばれる腕時計をもらい、自分の寿命があと何年なのかを確認することができる。増減があったときには時計が鳴って教えてくれる。
なかなかトリッキーだが、将来の夢もあった2人は、「奇跡」を受け入れる。さて、そして現世に戻るわけだが。

これがなかなかうまくいかないわけである。
日奈は「幸せを感じやすい体質」で、ちょっとしたことで幸せを感じては寿命を延ばしてしまう。そして、誠に申し訳ないとがっくりしてまた寿命を元に戻す。
そのたびライフウォッチがピコン・シャリンと鳴る。
誠は無神経だと苛立つ。日奈はすまなさに泣く。
毎日これが続けばうまくいくわけがない。
「案内人」によれば「ライフシェアリング」は苛酷で、過去には憎み合い、傷害事件に発展した例もあるという。
さぁ、2人はどうするのか。

タイトルにもあるように、「雨」が物語の重要なカギになる。
日奈が働くカフェの名は「レインドロップス」。2人がつき合うきっかけになったのも雨。
和泉式部の和歌
おほかたに さみだるるとや 思ふらむ 君恋ひわたる 今日のながめを(あなたはこの雨を普通の雨と変わらない五月雨と思っているのでしょうか。あなたを想う、私の”恋の涙”であるこの長雨を)
が物語を優しく彩る。

誠の夢は、小さなコミュニティのような「夢の家」を作り、そこに日奈と一緒に住むこと。そこで彼女の幸せを見守ること。
日奈の夢は、誠が作った家で、家族として暮らすこと。
2人の夢の行方は。

人は死ぬと、一度だけ、現世に雨を降らすことができるという。晴れた日に急に降る「天泣」は、亡くなった人が流す「恋の涙」であるのかもしれない。
雨の降る日に読みたい優しい物語。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1829 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. ぽんきち2021-09-14 09:33

    2021年夏文庫フェアに挑戦!(2) ナツイチ https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no402/index.html?latest=20 実施中。9月30日までです♪

  2. No Image

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