darklyさん
レビュアー:
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バグダードのフランケンシュタインを生み出したのは確かに悲惨なイラクの状況であるが、またフランケンシュタインは混沌としたイラクそのものでもある。
舞台はバクダードのバターウィイーン地区。古物商のハーディーは盟友のナーヒムを自爆テロで失った。人の死は尊厳を持って扱われるべきだが肉片となった者は単に片づけられる存在であることに憤りを覚えた彼は、犠牲者たちの体のパーツを集め一人分の遺体を作り、それを行政当局へ引き渡そうと目論む。
ハスィーブは二十一歳、ホテルの警備員の仕事に就き、妻と生まれたばかりの娘と幸せに暮らしていたが、ホテルを自爆攻撃しようとした車に抗った結果、ホテルは救ったが自らは爆発により木端微塵となった。魂となったハスィーブは自分の体を探して彷徨う。なぜなら最後の審判までとどまるべき世界の住民になるには、自らの体に戻らなければならないからだ。
ハスィーブは彷徨った挙句、バターウィイーン地区のある家で遺体を発見する。もう自分の体を探す気力も力も残っていないハスィーブはその遺体に触れた。するとその体に吸い込まれた。その遺体はハーディが寄せ集めで作ったものであった。
この物語の奇妙なところは明確な主人公がいないところです。様々な登場人物が入れ替わり立ち替わり出てきますが全体として誰の物語と言うわけではありません。そして悲惨な地域の物語においてありがちな、お涙頂戴物でもなければ勧善懲悪の物語でもありません。それどころかそれぞれのキャラクターの人物像もはっきりせず、その人生の行く末も語られないものも多い。
しかし個別のエピソードは消化不良に思えても小説全体から立ち昇ってくるのは何が正義で悪か分からず、誰もが善人と悪人の部分を併せ持ち、その中で希望や欲望を持ちながらも、常に命の危険の中で、焦燥、不安、諦念を抱えながら生きるイラクの人々やイラクと言う国の混沌のイメージです。その混沌を体現した存在がフランケンシュタインなのです。
もちろんフランケンシュタインは現実の存在ではないですが、体のパーツの持ち主の怨嗟を動機に当初は悪人を処刑するという明確な使命とターゲットを持っていた彼が次第にその考え方を変えていき、迷う様はイラクの混沌そのものだと言えます。
悪のフセインを倒し虐げられたイラクの民衆救うという単純なプロパガンダを、たとえ大量破壊兵器が見つからなかったことがなかったとしても、信じる人は今やほとんどいないでしょう。フセインが善だとは言いませんが、しかし何が善で悪かなど他国が簡単に論じることはできません。そのことはフセイン後の混乱と反米が如実に物語っています。
物語を読んでいる間、行ったこともなく全く文化の違うイラクの町に自分も一緒にいるかのような錯覚を覚えるほど没入感がありましたが、マルケス「百年の孤独」を読んだ時と同じように思えました。
ハスィーブは二十一歳、ホテルの警備員の仕事に就き、妻と生まれたばかりの娘と幸せに暮らしていたが、ホテルを自爆攻撃しようとした車に抗った結果、ホテルは救ったが自らは爆発により木端微塵となった。魂となったハスィーブは自分の体を探して彷徨う。なぜなら最後の審判までとどまるべき世界の住民になるには、自らの体に戻らなければならないからだ。
ハスィーブは彷徨った挙句、バターウィイーン地区のある家で遺体を発見する。もう自分の体を探す気力も力も残っていないハスィーブはその遺体に触れた。するとその体に吸い込まれた。その遺体はハーディが寄せ集めで作ったものであった。
この物語の奇妙なところは明確な主人公がいないところです。様々な登場人物が入れ替わり立ち替わり出てきますが全体として誰の物語と言うわけではありません。そして悲惨な地域の物語においてありがちな、お涙頂戴物でもなければ勧善懲悪の物語でもありません。それどころかそれぞれのキャラクターの人物像もはっきりせず、その人生の行く末も語られないものも多い。
しかし個別のエピソードは消化不良に思えても小説全体から立ち昇ってくるのは何が正義で悪か分からず、誰もが善人と悪人の部分を併せ持ち、その中で希望や欲望を持ちながらも、常に命の危険の中で、焦燥、不安、諦念を抱えながら生きるイラクの人々やイラクと言う国の混沌のイメージです。その混沌を体現した存在がフランケンシュタインなのです。
もちろんフランケンシュタインは現実の存在ではないですが、体のパーツの持ち主の怨嗟を動機に当初は悪人を処刑するという明確な使命とターゲットを持っていた彼が次第にその考え方を変えていき、迷う様はイラクの混沌そのものだと言えます。
悪のフセインを倒し虐げられたイラクの民衆救うという単純なプロパガンダを、たとえ大量破壊兵器が見つからなかったことがなかったとしても、信じる人は今やほとんどいないでしょう。フセインが善だとは言いませんが、しかし何が善で悪かなど他国が簡単に論じることはできません。そのことはフセイン後の混乱と反米が如実に物語っています。
物語を読んでいる間、行ったこともなく全く文化の違うイラクの町に自分も一緒にいるかのような錯覚を覚えるほど没入感がありましたが、マルケス「百年の孤独」を読んだ時と同じように思えました。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:集英社
- ページ数:0
- ISBN:9784087735048
- 発売日:2020年10月26日
- 価格:2640円
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