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かもめ通信
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自分の恥ずかしい体験をぶっちゃけたレビューを書きかけてはみたものの、やっぱりやめて、今回は努めて真面目に手堅くいくことにした。
“絶望名人”でお馴染みの頭木弘樹さんの本を読んだ。

今回はアンソロジーや名言集ではなく、潰瘍性大腸炎を患った著者自身の体験をもとに書かれている本だと聞いていたから、難病への理解を促すような闘病記なのだろうと思っていた。

読んでみると確かにそういう側面はあったのだが、それに止まらず、「食べること」と「出すこと」というとても個人的なことが、他者や社会とどうつながっているかなど、いろいろと考えさせられる本だった。

病人であるにもかかわらず、周囲から明るくふるまうことを求められる。
お見舞いは見舞われる側ではなく、見舞う側のお気持ちに左右されがち。
食べたら大変なことになるから食べられないのに、周囲からは「少しくらいいいでしょ」「ちょっとだけでも食べてみて」などとしつこく勧められる。
「食べることは受け入れること」だという「文化」があって、「食べないこと」「食べられないこと」が、人間関係に大きな影響を及ぼす。

そうした実体験を踏まえて、食物を制限する宗教の教義は、同じものを食べる人たちをまとめ、他と分断するものなのでは…といった考察も興味深い。

要所要所で紹介される古今東西様々な文学作品からの引用文も読み応えがあり、片っ端からメモを取りたくなってくる文学案内の側面もある。

潰瘍性大腸炎という病が著者にもたらした過酷な体験は、読者にこの病気への理解を促すだけでなく、自分の理解が及ばない事情が相手にあるかもしれないのだと、常に心すべきという簡単なようでとても難しい課題をも突きつける。

装丁から受ける印象どおりのユーモアとある種の軽さを備えながらも、真面目で深い洞察力に満ちた読み応えのある1冊だった。


(※余談ですが、外部ブログURL ↓ には、この本を読んでいた時に見た夢の話が。)
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. あられ2020-11-02 08:21

    私も今、この本読んでます!

  2. かもめ通信2020-11-02 09:09

    おおっ!お揃いですね♪あられさんの書評,楽しみにしています。

  3. Kuro32020-12-05 13:56

    あますところなく、かつ明晰に語る!書評のお手本のようだと思いました

  4. かもめ通信2020-12-07 09:03

    Kuro3さん!ありがとうございます。
    私の場合、自分の体験などをおりまぜて
    もうちょっと砕けた感じのレビューを書くことが多いのですが
    今回はそういうおちゃらけたものは書けないな…という気がして
    真面目にかかせていただきました。

  5. ソニア2023-05-20 23:06

    ブログの夢の話も拝読しました。「場面によってどの役もこなしてしまっていそうな気がした」と言う点に激しく同意します。
    本日読了して書評を書いたのですが、本当に色々と考えさせられる本でした。

  6. かもめ通信2023-05-21 05:13

    ソニアさん、ブログまで読んで頂きありがとうございます。
    これは確かに、読み手にいろいろ問いかける、考えさせられる本でしたよね。

  7. No Image

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