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かもめ通信
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幼い頃を過ごした思い出の町。懐かしい人々。時の移り変わりとともに失ったものと新たに手にしたもの。喜劇と郷愁、おかしみとせつなさ。かつての場所に今もあるが、二度と訪れることができないあの頃と同じあの町。
人文系専門書を中心に出版活動を続けているという京都の出版社松籟社さんの「フラバル・コレクション」第3弾は、前作『剃髪式』の後日譚。
続編ではあるが、『剃髪式』で読み手をアッと驚かせるほど、はつらつと飛び回っていた著者の母をモデルにしたという若妻マリシュカはほとんど出てこない。
代わって物語を語るのは、マリシュカの一人息子、つまりフラバル自身だ。

水兵にあこがれた少年が、胸に帆船の刺青を彫って貰おうとしたところ、代わりに裸の人魚の刺青を彫らてしまったというトンデモ話から始まる物語は、あいかわらずビール醸造所がある小さな町を舞台だが、今回は語り手の父親でビール醸造所の支配人である堅物で真面目なフランツィンと、彼の兄である陽気ではちゃめちゃな人物ペピンおじさんを中心に進んでいく。

騒々しいほどにぎやかで、息継ぎなど必要ないかの様に饒舌に、次々と語られていくエピソードは、ユニークで破廉恥で時に顔を赤くして目を覆いたくなるほどなのに、指の隙間からついついのぞき見ずにははいられない喜劇ぶり。
そのくせどこか懐かしくて切なくてやるせない気分が漂う。

戦争が始まってやがて終わり、新しいかたちの国ができ、小さな町にも新しい時代が訪れて、人々の役割もその関係も変わっていく。
だかしかしそこには、新しい時代に適応することができない人々もいた。


『剃髪式』が“技術の進歩”によって移り変わっていく時代を描いているとしたならば、この物語は“社会の変革”によって変わっていく日常と、永遠に変わらないと思っていたあれこれが終焉を迎えるせつなさが描かれている。

喜劇を読んでいたはずなのに、思わず目が潤んでしまったのは、笑いすぎたからではなかった。


<これまでのフラバル作品レビュー>
わたしは英国王に給仕した
あまりにも騒がしい孤独
厳重に監視された列車
剃髪式
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2238 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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