書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

かもめ通信
レビュアー:
「正直に答えて欲しいのだけれど、あなた今、とても後悔していることってある?」「たとえば、私と結婚したこととか……?!」この本を読んだら、結婚○十年目にして、思わず口走りそうになってしまった……(滝汗)
実を言うと私は今、激しく後悔している。
なにをって……。

実は先日、Wings to flyさんに声をかけられたのだ。
「ホンノワ掲示板企画復活!課題図書倶楽部・2015の課題図書として、なにかお薦めの本がないか?」と。

その時、私が挙げたのがこの本だ。
誰もが知っているアガサ・クリスティーだが、彼女の書いた非ミステリは意外と読まれていないようだし、この本なら読む年代によって感想も変わってきそうだから再読にも耐えうるだろう。
なによりも去年 『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』を読んで以来、私自身が久々に読み返したいと思っていた本であったのだ。

ところが、ところが…である。
いざ読み返してみるとこの物語、ネタバレなしにレビューを書くのが非常に難しいことがわかったのだ。
いやはやいったいどうしたものか……皆さんのレビューを読むのはとても楽しみだが、自分が書くのは非常に苦しい。

         ******

ジョーン・スカダモアはバクダードからロンドンに戻る途中に立ち寄ったレストハウスで、聖アン女学院時代の友人、ブランチ・ハガードにバッタリ出くわした。
女学院時代のブランチは怖いもの知らずで、一緒にいるとひどく楽しくとてもチャーミング。同級生たちの憧れの的だった。
美貌も家柄も申し分なく、何から何までそろっていたはずの彼女がしかし、なんという変わり果てた姿だろう。
信じられないぐらいに老いこんで、下品なうらぶれた姿をしているではないか!
どう考えても48以上ってことはないはずなのに!
しぶしぶ言葉を交わしたジョーンは、ブランチに憐れみを感じながらも、それにひきかえ私は……と優越感にひたる。
その時交わした短い会話の中でブランチが発したいくつかの言葉が、ジョーンの心に妙にひっかかった。
それは常ならば、やがて記憶の底に沈んでいき、滅多なことでは思いだしもしないような言葉だったかもしれなかったが、何の因果かその時ジョーンの乗るはずだった列車は大雨のために運休してしまい、ジョーンは砂漠の真ん中の小さな駅に、たった一人の客として数日間留め置かれることになってしまうのだった。

TVもラジオも新聞すらない。
手紙を書こうにも便せんを使い果たし、手持ちの本も読み切ってしまった彼女は、時間をもてあまし、あれこれと考えるしかなくなった。
夫のこと、子どもたちのこと、そしてなにより自分自身のことについて……。


非ミステリ小説なので、殺人事件は起きず血の一滴も流れず、盗みもなければ怪もない。
もちろん名探偵の出番もない。
それでもこの物語、ものすごく怖いのだ。

今私の手元にあるこの本は、忘れもしない私が26歳の時に買った本だ。
なぜそんなことを覚えているかと言えば、この本を読んだとき私はちょうど結婚を控えていて、面白いと思いながらも、この本のせいでマリッジブルーになるかも!というぐらい恐ろしい思いをしたからだ。
この本を縛めにこんな生き方はしないようにと踏み出したはずの結婚生活。

あれから○十年……久々に再読したこの物語は、あいかわらずあの人はもちろん、一見理解ある素敵な人にみえるこの人も……と誰のことも好きになれないのに、その一方で私は思わず思ってしまうのだ。
結婚生活などというものは、多かれ少なかれお互いの誤解と思い込みの上になりたっているのかもしれないと。

おお怖い!怖いね!やっぱりこの本は!!
怖いけれどお気に入り。
これからもずっと手元に置いておくだろう1冊だ。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2228 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

読んで楽しい:28票
参考になる:24票
共感した:7票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. かもめ通信2015-01-27 06:56

    みなさーん!もう参加表明はお済みですか?
    ただいま、本が好き!レビュアー企画、Wings to flyさん主催の「復活!課題図書倶楽部・2015 」開催中です!
    http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no217/index.html?latest=20
    みんなで同じ本を読んでレビューを披露し合おうというこの企画、今回の対象は10作品!
    期間も長いのでなかなかに忙しいあなたでも大丈夫♪
    ぜひふるってご参加下さい。

  2. アリーマ2015-01-27 12:09

    ワタシにとっては永遠の大事な一冊です。
    実は先日新版を買いなおして手元に温めてあったり・・・。
    春に向けて久々に読み直すのにいい季節になってきた気がします。
    楽しみだなあ。

  3. Misato2015-01-27 12:59

    積読本になってますが、順番繰り上げて読みたくなります。クリスティの非推理物、良いですよね。昨年末に「ベツレヘム~」を読みました。

  4. かもめ通信2015-01-27 13:14

    おお!なんと!アリーマさんもMisatoさんも既にお手元にあるんですか!
    それはうれしい!お二人のレビュー楽しみにしています♪
    そしてぜひぜひこちら ↓ の課題図書倶楽部にもご参加くださいませ♪
    http://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no217/index.html?latest=20

  5. Misato2015-01-27 14:17

    課題図書倶楽部、参加させていただきます^^  

  6. 星落秋風五丈原2015-01-31 10:43

    私もこの本をはじめクリスティの恋愛小説シリーズを全部持っています。皆心理サスペンスといった様相を持っているようです。

  7. かもめ通信2015-02-02 10:25

    クリスティの恋愛小説シリーズで星落秋風五丈原さんのお薦めはなにかしら?
    私は手元に大事にとってあるクリスティはこの1冊だけなのですが,
    初読,再読問わず,もうちょっとあれこれ読んでみたい気もw

  8. 星落秋風五丈原2015-02-06 23:58

    かもめ通信さん、こんばんは。恋愛というとくくりからはずれるのもありますね。愛といった方がいいのかもしれません。『春に~』『未完の肖像』は夫婦間の愛、『愛の重さ』は姉妹間の愛、『娘は娘』は母娘間の愛、『暗い抱擁』『愛の旋律』は結ばれえなかった男女の愛がテーマです。お勧めがどれかというより、どのようなタイプの愛を読みたいかによって分かれると思います。

  9. かもめ通信2015-02-07 07:36

    星落秋風五丈原さん、なるほど、なるほど。アドバイスありがとうございます。
    未読のものが多いので、少しずつ手を伸ばしてみようと思います。

  10. noel2022-03-10 09:18

    誤解と思い込みの上で自分を見下していると知っているわたしの場合は、それでも別れられないでいるのです。ああ、神よ、この哀れな見捨てられた男を救いたまえ。

  11. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『春にして君を離れ』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ