かもめ通信さん
レビュアー:
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「間違ってもいいからこの道を選ぶ」というとき人は、「もしかしたら間違っていないかもしれない」という一縷の望みをもつものだ。「その道はやめた方がいいよ」という他人の声には耳を貸さずに。
何年も前のことで、いつどんなきっかけだったかはすっかり忘れてしまったのだが、私のポルトガル好きを知った読友さんが紹介してくれた本。
以来、読みたい本のリストに入れてあって、なにかの拍子に思い出すたびに(7月になったら読もう!)と思いはしたのだが、その時期になるとうっかり忘れてしまって……ということを繰り返してきた本だったりする。
この夏は、久々に刊行されたペソアの本とともに、本で旅するポルトガル旅行を予定している上、ちょうどぽんきちさん主催の掲示板企画 夏だ!「新潮文庫の100冊2019」にチャレンジ!の1冊でもあるということでもあるということで、数年来の懸案だったこの本を手に取ってみることにした。
主人公の本田小百合は、父親と二人暮らしの“ごく普通”のOLで恋人はいない。
彼女は自分の生まれ育った街を、ポルトガルのリスボンに見立てて過ごしている。
もちろんそれは自分の頭の中のことだけで、笑われてあきれられるのがオチだから、人に話したりはしない。
そういわれても、ピンとこないのは当然だろうと思うので、少し長くなるが彼女の説明を引用しよう。
ドン・ペドロ4世広場にある居酒屋で開かれた陸上部の同窓会で、高校時代からずっと想いをよせていた先輩と再会したり、ポンバル侯爵広場にある大きな書店でエーゲ海を思わせるような、エメラルドグリーンというか、薄い青というか、とても微妙な色合いの『ポルトガルの海』という本をもった男性に出会ったり、生真面目で地味なOLは、遅まきながらいろいろ青春しているのだ。
人は皆、多かれ少なかれ、過去の自分をひきずって生きている。
“あのころの自分は輝いていた”と後ろを振り向いてばかりいる者は、“あの頃”を思い出させてくれるものしがみつく。
彼が無条件に自分を慕ってくれる彼女の瞳を欲したように、彼女もまた無条件に人を想うことのできる自分を欲していたのかもしれない。
「間違ってもいいからこの道を選ぶ」というとき人は、「もしかしたら間違っていないかもしれない」という一縷の望みをもつものだ。
「その道はやめた方がいいよ」という他人の声には耳を貸さずに。
でもまあ、その道を行けば間違いなく傷つくことが分かっていても、そこを通らなければ先には進めないと思い詰めているのなら進まずにはいられない時もあるのだろう。
私なら“○町何丁目”改め“インペリオ広場前”のバス停で降りて、海に向かって思いっきり走るぐらいの青春にとどめておくとはおもうけれど……ね。
以来、読みたい本のリストに入れてあって、なにかの拍子に思い出すたびに(7月になったら読もう!)と思いはしたのだが、その時期になるとうっかり忘れてしまって……ということを繰り返してきた本だったりする。
この夏は、久々に刊行されたペソアの本とともに、本で旅するポルトガル旅行を予定している上、ちょうどぽんきちさん主催の掲示板企画 夏だ!「新潮文庫の100冊2019」にチャレンジ!の1冊でもあるということでもあるということで、数年来の懸案だったこの本を手に取ってみることにした。
主人公の本田小百合は、父親と二人暮らしの“ごく普通”のOLで恋人はいない。
彼女は自分の生まれ育った街を、ポルトガルのリスボンに見立てて過ごしている。
もちろんそれは自分の頭の中のことだけで、笑われてあきれられるのがオチだから、人に話したりはしない。
そういわれても、ピンとこないのは当然だろうと思うので、少し長くなるが彼女の説明を引用しよう。
以前は退屈で仕方がなかったこの朝のバス通勤を、最近なんとなく楽しめるようになったのは、まだいったこともないポルトガルのリスボンという街の地形が、私の暮らす街とどこか似ていることを発見してからだ。
たとえばいつもバスに乗る「丸山神社前」という停留所の名前を、「ジェロニモス修道院前」と言い換えてみれば、右手に海を見ながら丘を越えて市街地へ入っていく経路は、リスボンの地形とそっくりで、だったらこの「岸壁沿いの県道」が「7月24日通り」で、再開発で港に完成した「水辺の公園」は「コメルシオ広場」だ、などと言い換えているうちに、県庁所在地でもない、どちらかといえば地味な日本の地方都市に、リスボンの市街地図がすっかり重なってしまった。
ドン・ペドロ4世広場にある居酒屋で開かれた陸上部の同窓会で、高校時代からずっと想いをよせていた先輩と再会したり、ポンバル侯爵広場にある大きな書店でエーゲ海を思わせるような、エメラルドグリーンというか、薄い青というか、とても微妙な色合いの『ポルトガルの海』という本をもった男性に出会ったり、生真面目で地味なOLは、遅まきながらいろいろ青春しているのだ。
人は皆、多かれ少なかれ、過去の自分をひきずって生きている。
“あのころの自分は輝いていた”と後ろを振り向いてばかりいる者は、“あの頃”を思い出させてくれるものしがみつく。
彼が無条件に自分を慕ってくれる彼女の瞳を欲したように、彼女もまた無条件に人を想うことのできる自分を欲していたのかもしれない。
「間違ってもいいからこの道を選ぶ」というとき人は、「もしかしたら間違っていないかもしれない」という一縷の望みをもつものだ。
「その道はやめた方がいいよ」という他人の声には耳を貸さずに。
でもまあ、その道を行けば間違いなく傷つくことが分かっていても、そこを通らなければ先には進めないと思い詰めているのなら進まずにはいられない時もあるのだろう。
私なら“○町何丁目”改め“インペリオ広場前”のバス停で降りて、海に向かって思いっきり走るぐらいの青春にとどめておくとはおもうけれど……ね。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2019-07-24 07:45
短期間に効率よくあちこち廻る旅もいいけれど、たまにはゆっくり出かけませんか?
ということで新しい掲示板企画始めました。
ゆったり旅するポルトガル #本で旅する世界旅行
https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no364/index.html?latest=20
お気軽にお出かけください。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:215
- ISBN:9784101287539
- 発売日:2007年05月01日
- 価格:420円
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