悪人(上)





この作家の作品を読むのはこれが3作目だが、つくづく人物描写が巧いというか、独特だと思う。無意識のさらに奥に潜む「心の欠片」のようなものにスポットがあてられる居心地の悪さ。この作家にしか描けない精神描写が、今回もとても怖い。
親代わりの祖父母と暮らす土木作業員の清水祐一が、出会い系サイトで知り合った女性を殺害し、別の女性と逃…

本が好き! 2級
書評数:46 件
得票数:152 票
ここ数年急に増えてきた読書量。それでもなかなか冊数は伸びないものの、確実に増す「本」への愛情。手にとって響くもの、読んで沁み入るもの。ひとつひとつを大事にとりこみたいと願いながら読んでいます。





この作家の作品を読むのはこれが3作目だが、つくづく人物描写が巧いというか、独特だと思う。無意識のさらに奥に潜む「心の欠片」のようなものにスポットがあてられる居心地の悪さ。この作家にしか描けない精神描写が、今回もとても怖い。
親代わりの祖父母と暮らす土木作業員の清水祐一が、出会い系サイトで知り合った女性を殺害し、別の女性と逃…





物語というのはもうすでにあって、それを見つける作業が作家なのだ――言葉は違うがこういうことを別の著書に作家は記している。この作品こそその姿勢からしか産まれない物語だと思う。こっそり隠れていたブラフマンを、きっと小川洋子は肌で感じたんだろう。





どこからともなく現れてどこへともなく消えて行く村内先生がさえない外見まるごとどんどんカッコよく思えてくる。「間に合って良かった」の言葉が、いつからだって間に合うんだと教えてくれる作品。



悼むという行為がどれほどなされていないか、またそれがどんなに難しいことなのかということを骨身に知らされる思いでした。この重み、しばらく身体に残りそうです。




気の合う仲間同士しゃべってるうちにとめどもなく盛り上がっていっちゃったんです感が面白い。ありがちなシチュエーションそのものはインプット済みだけど、派生語、類語、反対語まで極めているところに膝を打って笑えます。
「世の中を『面白おかしい』ことで埋め尽くしたい」という妄想にかられた人たちが集まって結成された企画集…



短い話のひとつひとつが濃厚でいくらでも長いストーリーになりえそう。架空のディズニーアニメになって頭に思い浮かんでくる作品も多くて楽しくなる。
(まずは献本頂いてから書評あげるまでの期間が異様に長くなりました。すっかり今頃で、すみません) …




「ウルトラマンは、僕なんだ」――地獄のような撮影の日々、古谷氏の心が定まった瞬間に感動。なんでこのタイトル?と感じた感も完全に払拭されます。
アルバイト代の全てを映画代につぎ込んでいた少年・古谷敏。憧れの東宝ニューフェイスに成長した彼に舞い…





「完走しような」という励ましの声が、力強く温かく響きます。
10代の悩みは切実だ。成熟しない心は未熟な言葉に翻弄されて、思い詰めたまま打開策をどこに求めていい…




心の泣き声が聞こえてくる。
「伊達ちゃん」という通称でホームレス生活を送る、名前も過去も捨てた「男」は、かつて大学病院の脳外科医…




会社という組織の中に確固たる居場所を持つ40代男性達の物語。必死になるほど滑稽な姿をさらすことになってしまう彼らの物語を安心して楽しめた。立場や感情の行き違いに翻弄されることはあっても、人間っていいな、お父さん達って大変だなと実感。





一生かけても癒えないだろう大きく深い心の傷をただじっと見つめているような不可思議でどこか不条理な世界。それが吉田修一の世界なのかも。どうにも感想が難しい作家さん。ゆっくりはまっていく感触を楽しんでます。





読み終えて即激しく最初から読み直したくなった。とにかく何の予備知識もなく読んでほしい。自分がそうだったことに感謝しきりです。




家事ノウハウというよりよほど、著者の生き方そのものに憧れます
「シンプルに暮らしたい」。そんな思いを持って、生活スタイルに合わせて幾度も暮らしを見直し「シンプルラ…

『「小説の物語」でしか可能ではない「真理」』を露わにしている、という解説通りの感想を持った。極限状態にいる登場人物たちの存在感がリアルに感じられ、人の本能とはこうしたものという諦観に帰着するしかない。ギリギリの不快感に価値を持つ作品。




たった一言「面白かった!」といいたい。周囲の誰彼に積極的にすすめたいし、子供にも気軽にすすめられるお話。映画化されるようだけど、テレビドラマとして楽しみたいかも。童話にもなりえそう。
180年前の江戸時代から現代へタイムスリップしてしまった木島安兵衛が、SEを職とするシングルマザー…





噂にたがわぬ面白さに一気読み。容赦がないとはこういうことを言うのかとか断罪の具現化だとか、そんな言葉が頭をよぎってならなかった。正義や愛が通用しない世の中では極端な解決法を見つけ出すしかないのか。感心しながらも息苦しくなるラストだった。
――娘は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです―― この引用部分をこれ…





自分で不思議に思えるくらい、読み終えた後で何度も繰り返しさかのぼって読みなおしています。三人の事がとても好きになって、離れがたくなってしまったのかもしれません。
『(学校という)閉鎖空間に押しこめられて少しずつ狂っていく』。そんな空気の中で、自分の持つ「狂気」を…



緻密な構成と微細に渡る描写が、何層にも塗りこまれた重厚な絵画を思わせる。キャンバスにはりついた一筋の画筆の毛と思われたものが、おぞましい生き物として蠢き観るものを脅かすさまが、詩的な背景を持って迫る。
怪奇小説のしかも専門誌に発表されていた作品群だけあって、素材はキワモノめいているものの、ラヴクラフ…





「ふたりが知っている、いちばんいいやりかたで」さよならの日を迎える、ぶたばあちゃんと孫むすめ。優しく荘厳な気持ちになれました。
「ずっとながいあいだ」助け合って暮らしてきたぶたばあちゃんと孫むすめに近づく別れの日。別れの予感に怯…





閉塞感と緊張感にのまれるようにして読みました。自分も、近しい誰かも、いつ足を踏み入れるかわからない深い森の存在が脅威です。