コレラの時代の愛
17歳の時の初恋を成就するため、51年もの長い年月、女の夫が死ぬのを待ち、そのためだけに生きた孤独で愚かな男の人生。「コレラ感染者乗船」の旗を掲げた船の中だけで成立する愛は、死出の旅でしかありません。
すでに一度人生を終えたと言えるひとりの老人が、年老いてから初恋の人ともう一度結ばれるという物語であ…
本が好き! 1級
書評数:401 件
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国文科出身の介護支援専門員です。
文学を離れて働く今も、読書はライフワークです。
17歳の時の初恋を成就するため、51年もの長い年月、女の夫が死ぬのを待ち、そのためだけに生きた孤独で愚かな男の人生。「コレラ感染者乗船」の旗を掲げた船の中だけで成立する愛は、死出の旅でしかありません。
すでに一度人生を終えたと言えるひとりの老人が、年老いてから初恋の人ともう一度結ばれるという物語であ…
今から一千年もの昔、この日本で、女性によって生まれた物語。多くの人々の手で書き写されながら今日まで、国境を越えて親しまれ、これからもまた読み継がれていくであろう物語。それは何と面白い物語であることか。
『源氏物語』。今から一千年もの昔、この日本で、女性によって書かれた長い物語は、今も多くの人々を魅了…
キリシタン大名高山右近の生涯。キリシタンとしても武士としても力のあった右近の最期は、それが遠きマニラの地であったとしても、恵まれていたと言えるでしょう。名もなき信者たちの、過酷な殉教や棄教に比べれば。
高山右近について私が知っていたことと言えば、キリシタン大名であったこと、マニラに追放されて殉教した…
「51.浮舟」から「54.夢浮橋」を収録。『源氏物語』はここに完結。浮舟をめぐる薫と匂宮による三角関係の悲恋。男たちの身勝手なプライドに翻弄される憐れな女の運命は。答えのないまま物語は終りを告げます。
「51.浮舟」から「54.夢浮橋」までを収録。一千年も前に生まれた壮大なこの物語は、ここでついに完…
仁木悦子の晩年に出版された短編集。動きの少ない中、犯人の言い間違いによる小さなミスで事件が解決されるのが特徴。母や子に向けるやさしさが仁木悦子らしいと思います。かつての学生探偵仁木兄妹にも注目です。
仁木悦子が晩年に発表した短編集です。 『猫は知っていた』 の頃は学生だった仁木兄妹も、兄は植物学者…
守銭奴の父によって、世間のことを何も知らずに育てられた田舎娘のウジェニー。そんな彼女の前に突然現れたのは、パリからきた不幸で美しい従兄弟。読者は結ばれないことを百も承知。それでも愛を貫く姿がりりしい。
ウジェニー・グランデという女性が貫いた愛は、思いを寄せる相手に対してのものではなくて、自分自身の恋…
「47.総角」から「50.東屋」を収録。薫の愛を受け入れないまま大君は世を去り、薫はその形代として浮舟を求めました。物語を動かすのは匂い。薫が生まれながらに持つ香の魅力が、不思議と読者を不安にします。
「47.総角」から「50.東屋」までを収録。宇治で薫が出会った大君と中の君の姉妹。父は源氏の弟にも…
「死んだ恋人の子どもを生む」ため、全てを捨てブラジルに旅立った舞子。謎が明らかになる過程は冗長すぎ、受精の謎も想像の域を超えるほどのものではありません。私は舞子の気持ちに共感できたので読めましたが。
子供を生んでいない私には、「自分の血を引く子がほしい」という欲求はありません。自らの遺伝子を持つ子…
歴史小説の醍醐味は、作者が歴史上の人物にいかに命を吹き込み、生き生きと描き出せるか。この作品では、頼朝が突然旗揚げをした理由がわかりにくく、残念ながら頼朝の人物像が浮かんで来ませんでした。上下2巻。
中学生の時に『源頼朝』という伝記本を読んで以来、源頼朝に引き付けられています。平治の乱で父と兄を亡…
一方が絶縁状を突き付けても、20年以上会わなくても、会って話せば昔に戻れるのが本当の親友。だから将監は源五に賭けたのです。自らの命と藩の未来を。立場はそれぞれ異なっても、生き方は同じであるからこそ。
領内の新田の様子を視察する月ヶ瀬藩家老松浦将監と、その案内役を務める郡方の日下部源五。すでに齢50…
「38.夕霧」から「46.椎本」を収録。巻名だけを置いた「41.雲隠」で源氏の死と物語の終りを暗示し、物語はついに宇治十帖に突入。紫の上の死は作者が源氏に与えた最大の罰。女ばかりあはれなるものはなし。
「38.夕霧」から「46.椎本」を収録。巻名だけを置いた「41.雲隠」で主人公光源氏の死と物語の終…
聖書に登場する女性たちについて、著者が自由に考察したもので、意外に肩の力を抜いて読むことができます。基督教美術に触れたとき、また遠藤周作の小説やヨーロッパ文学を読むときの、一助となることでしょう。
聖書に登場する女たちについて、遠藤周作が自由に書いた本で、タイトルからイメージするよりもずっと、肩…
ディケンズ2作目の長編。往年の作品に比べストーリーは単純で、それ故のわかりやすさが人気の理由でしょうか。純粋な孤児の少年オリヴァーと、フェイギン率いるスリ集団。私が心惹かれたのは、悪人たちの方でした。
ディケンズの2作目の長編ということで、晩年の傑作 『大いなる遺産』 と比べると、ストーリーは単純で…
豊臣秀吉の正妻おねねの生涯を描いた作品です。戦国の世を、下層階級から天下人にまで上り詰めた秀吉。おねねの生涯もさぞ波乱万丈であったことでしょうが、常に冷静さを失わない、庶民的なその姿が印象的です。
豊臣秀吉の正妻おねねの生涯を描いた作品です。刊行は1971年。この時代に、歴史の表舞台に立っている…
「真珠郎」とは美少年の名前。耽美的な雰囲気作りに徹した作風で、事件の謎解きとしては物足りなさを感じます。もう一編は「孔雀屏風」。美しい屏風の謎を巡る時空を超えた恋。これも非常に雰囲気のある作品です。
「真珠郎」とは何かと思ったら、美少年の名前でした。要は、太郎とか助三郎とかの「郎」で、真珠郎。 …
江戸の貧しい市井の人々の強さとぬくもりが染み渡る中編2作。「人間はそれぞれ弱いところや痛いところをもっている、お互いに庇いあい助け合ってゆくのが本当だ」。だからおせんも直吉も、きっと幸せになれる。
収録されているのはふたつの中編。どちらも、江戸の貧しい市井の人々の強さとぬくもりが染み渡る佳作です…
「34.若菜上」から「37.鈴虫」を収録。柏木と女三の宮の密通を描き、物語は最大のクライマックスを迎えます。父がすべてを知っていたであろうことにようやく気付いた源氏。物語は一気に悲劇へと突き進みます。
「34.若菜上」から「37.鈴虫」までを収録。源氏は40歳から50歳。因果応報、罪と罰。柏木と女三…
徳川慶喜とはどういう人物だったのか、司馬遼太郎がそれを語ります。先を見通す目を持つ彼は、早くから攘夷の成らざるを予見し幕府の終焉を見ていました。卑怯で独善的。いえ私には、孤独で悲しい人物と映りました。
幕末を舞台にしたテレビドラマを見たり小説を読んだりすると、徳川慶喜は必ず登場します。しかしその人物…
ペーターが抱えているものは、パニック発作という病と多額の負債。不運な生い立ちが、見知らぬ女性から渡された小箱を機に動き出す。そして知る真実。自ら鬱病を患う作者が描く、それぞれのつらくも懸命な人生。
スウェーデンの作家アルヴテーゲンのデビュー作。先に読んだ 『喪失』 同様、自らも鬱病に苦しめられた…
『夏の砦』同様、ある女性芸術家の生涯を、その死後に友人が辿ります。ロシアからの亡命者であり、生涯故郷にも母国語にも触れることのなかったマーシャ。その孤独な人生は、カタカナの手記で象徴的に表現されます。
読み始めてすぐに、先に読んだ同氏の作品 『夏の砦』 とそっくりだと思いました。どちらも1人の女性芸…