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ビシャカナ
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「そういうもの」から子どものサスペンスまで――星新一の、凡百とは違う地力
ここ最近、さまざまな作家のショートショートを読んできたが、改めて星新一の作品を読むと、地力が違うなと思わされる。

『背中のやつ』
上京したものの、うだつが上がらない青年のもとに、郷里に残した恋人が現れる。彼女は家族の死や借金に苦しんできたが、「背中のやつ」によって救われたという。

赤ん坊ほどの大きさで、老人のような顔をした異様な存在。それを背負っていると、不思議と問題解決へ向かう行動をとるようになり、状況が好転していく。

半信半疑だった青年も、その効力を実感する。人間関係や金の問題、さらには抜け出せないはずの組織からの離脱までも、あっさりと片付いていく。

貧乏神や福の神のように見えるが、理屈の説明はほとんどない。「そういうもの」としか言えない。それでも成立してしまうところに、星新一の思い切りのよさがある。しかも、あくまで小市民的な幸福のために使われる。この“非現実と生活感の距離感”こそが、星新一らしさだろう。帰郷へ向かうために「肩の荷を下ろす」ラストも、妙に爽やかな余韻を残す。

『頭のいい子』
小学3年生のレンちゃんは、マンションの自宅で母親と仲睦まじく過ごしているように見える。しかし実は両親は離婚済みで、そこにいるのは父親の再婚相手である義母だ。それでも素直で優しいレンちゃんを、義母は実の子同然に愛している。一見すると、理想的な再婚家庭の風景である。だが実の母親も再婚しており、レンちゃんは週に3日ずつ、交互に二つの家を行き来していた。どちらの母親に対しても愛情たっぷりに振る舞い、時には相手方の悪口を言ってまで自分への愛情を引き出していた。
そしてやがて、この二重生活がレンちゃん自身の画策によるものだったことが明らかになる。
「もう一人ずつ、パパとママをふやしてみようかなって。こんどは、ねえさんのくっついたのも、いいかもしれないな。ぼく、弟して愛されるって気分、まだ味わったことないんだもん……」

一読してゾッとした。人畜無害の存在である子どもを、サスペンスの中心に据えること。しかもそれを、児童が読んでも問題ない程度に落とし込むこと。作家としての星新一の力量にも、戦慄を覚える。

このほかにも、星新一作品では珍しく女性の裸が主題となる『海岸のさわぎ』、定番の「秘密捜査員」ものをあえて一切の説明を放棄して終わらせることで定番を覆す『カード』など、実に多彩な作品が収められている。

これだけ多種多様なショートショートを、一人の作家がこれほど高い水準で生み出し続けられることに、ただただ感嘆するほかない。やはり星新一は、凡百の作家とは地力が違う。
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ビシャカナ
ビシャカナ さん本が好き!1級(書評数:632 件)

月に二十冊読むこと、週に一つは長文書評を投稿することが目標。

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