武藤吐夢さんの書評





この仮説は、とても説得力があり、僕を古代のロマンにグッと引き寄せた。
これは仮説である、とまず言っておく。だが、作者の仮説は説得力がある。故に、僕は限りなく事実に近いと…
朱という鉱物から考える経済史的な邪馬台国論
【概要】
マルコポーロの「東方見聞録」は黄金の島ジパングの伝説を西欧世界に広め、大航海時代の呼び水になったとも言われています。それより千年ほど前の三世紀に書かれ、日本列島の様相を漢字文化圏にはじめて紹介したのが「魏志倭人伝」。この中国の史書は日本列島を代表する地下資源として、「丹(朱)」をあげているのです。
朱の鉱物としての名称は辰砂。化学組成のうえでは水銀と硫黄の化合物(硫化水銀)なので、硫黄を分離すると水銀になります。水銀の毒性を知っている現代人にとっては不可解なことですが、朱と水銀は不老長寿を標榜する古代中国の神秘医学で最も珍重された鉱物で、金銀に匹敵する経済価値をもっていました。朱と水銀は、古代から室町時代ころまで、日本列島を代表する輸出品だったのです。
朱の鉱床は火山活動によって形成されるので、火山列島の日本には多くの朱産地がありました。そのうち、最大の朱の鉱床があったのが奈良県宇陀市と桜井市、次いで三重県の伊勢地方です。鉱床の規模では劣るものの、火山の多い九州にはほぼ全県に朱の鉱床があり、奈良、伊勢と並ぶ代表的な朱産地とされています。邪馬台国の所在地をめぐっては、江戸時代以来、奈良説と九州説が拮抗していますが、朱の鉱床の分布において、奈良と伊勢と九州は三大産地の様相を呈しているのです。こうしたデータをふまえて、この本で提示しているのは、邪馬台国の最大のミッションは、朱の輸出だったのではないかという仮説です。
筆者である私は以前、読売新聞社の経済部に勤務していたこともあり、縄文時代、旧石器時代からの産業史についての本を書いてみたいと思い、データを集めているところです。火山列島としての日本の産業史を考えるうえで、朱と水銀はとても重要な鉱物資源です。この本は、邪馬台国時代から昭和時代に至る「産業史」の一断面としても読んでいただけると思います。
【目次】
序章 奈良と九州──太古の火山と朱の鉱床群
失われた朱(あか)い風景
朱と邪馬台国
千五百万年まえの巨大噴火
朱の歴史学の先人たち
世界七位の産出国
〝見えない鉱山〟を探して
金山、マンガン鉱山と朱
第一章 邪馬台国──「朱の王国」のはじまり
朱のジパング
ボディペインティングと入れ墨
その山には丹あり
松浦地方の自然水銀鉱山
火山列島の輸出品
丹生地名の証言──波佐見町・嬉野市エリア
倭国の副都の朱い墓
伝説の考古学者
朱の文化の発信地
糸島市は朱の交易都市か
「朱の再発見」というシナリオ
ビジネスチャンスの発生
丹生氏のルーツは伊都国か
移動する人たち
ヤマトと邪馬台国の関係
第二章 神武天皇と神功皇后──古代産業の記憶
鹿児島県から物語がはじまる
姶良カルデラと神武天皇の妻
東征伝説と金山
血原の赤い大地
土蜘蛛との戦い
神武天皇のマジック
水分神社と朱産地の関係
光る井戸の謎
吉野の経済力
朱の女神の支援をうけて
神功皇后の邪馬台国観光?
「神功皇后=卑弥呼」説」
丹生と誕生
宇佐「邪馬台国」説
ちらつく神秘医学の影
戦いではなくビジネス
赤い波にのって
第三章 前方後円墳と朱のバブル
卑弥呼の古墳?
朱の山のふもとのヤマト
前方後円墳の異常な大きさ
巨大古墳の財政的な裏付け
奈良の経済基盤は?
朱の時代のはじまり
古墳時代は「桜井時代」
赤い糸の伝説
「朱の長者」がいた?
奈良と大分を結ぶ伝承
海の民の古墳
朱砂と三輪素麺
秩父帯と朱の鉱床
滋賀にあった二つの王宮
土蜘蛛とは何者か
大地にひろがる赤い糸
ヤマトタケルの悲劇
邪馬台国(株)の本社はどこだ
朱いマネーの恩恵
第四章 奈良時代──「朱の王国」の黄昏
最後の前方後円墳
天智天皇にまつわる謎
天武天皇と始皇帝
朱い皇族、息長氏
邪馬台国近江説
朱の年号
東大寺と太古の火山
大仏と水銀──古代のアマルガム技術
お水取りと朱と水銀
龍穴と京都のマンガン地帯
東大寺と不老不死の秘薬
宇佐八幡神と大仏
鯖街道と鯖の経典
鯖江市「邪馬台国」説
伝説うずまくお水取りの道
宇陀の水取一族
白洲正子が歩んだ朱の道
木津川流域にただよう朱の気配
息長氏の寺
天平勝宝四年春、何が起きたのか
十一面観音と朱産地
第五章 伊勢──なぜ、そこに国家的な神社があるのか
謎だらけの起源
伊勢神宮は朱の鉱脈に鎮座している
朱座──伊勢商人の前史
伊勢・奈良・丹波
政治都市か、経済都市か
卑弥呼はヤマト姫──内藤湖南の邪馬台国論
三輪から伊勢へ
丹波の元伊勢
丹後王国と浦島太郎
女神の系譜
なぜ、天照大神は天皇家の先祖神なのか
朱の道は縄文時代へとつづく
伊勢は最後の朱産地
大地の歴史と人間の歴史
【出版社/編集者/著者からのメッセージ】
なぜ、邪馬台国論争はいつまでたっても結論が出ないのか。
なぜ、天皇家の始祖神を祀る神社が、都から遠い伊勢につくられたのか。
なぜ、神武天皇は九州南部から奈良に旅立ったのか。
奈良の大仏とお水取りの祭祀には、どのような根源的な意味があるのか。
邪馬台国を「朱の王国」とする仮説を手がかりに、古代史をめぐるこれらの謎に新しい解釈を示しています。
【どのような方におすすめか】
ジャンルとしては古代史ですが、筆者がもともと新聞社の経済記者だったこともあり、経済史・産業史の視点をとりいれています。歴史にはあまり関心がなくても、企業や役所で、日々、経済の現場に接している方々にも、ぜひ、読んでいただきたいと思っています。
邪馬台国をタイトルに掲げていますが、扱っている期間は、邪馬台国の時代から奈良時代までです。邪馬台国だけを話題にした内容ではありませんから、古代史好きの人であれば、有益なデータを提供できるかもしれません。



不思議に興奮しました。「動かしたもの」は何なのか。邪馬台国とヤマト王権、伊勢神宮まで。
「朱」、朱色のもととなる硫化水銀により、古代史を考察する作品。日向から神武天皇東征まで古事記には記さ…




邪馬台国のように、謎があるから歴史は面白いのかも。
日本全国に候補地があるといっても過言ではないだろう邪馬台国。本書は邪馬台国の場所であったり、伊勢神宮…



古代史を見る視点として、「朱」からアプローチするのはよかったです。
これまで、食料や、木材・金属といったものから歴史を辿る考え方にはなじんできていましたが、本書では「朱…





邪馬台国や大和朝廷の時代は農業社会とのイメージがあるが、本書では想像以上に交易が活発であったことになる。古代の歴史を交易中心で考えることはフェニキア人など世界史とも重なる。
蒲池明弘『邪馬台国は「朱の王国」だった』(文藝春秋、2018年)は朱の観点から邪馬台国と大和朝廷に迫…

邪馬台国はどこにあったのか? その謎を解く鍵は、「朱」にあったのだ。
邪馬台国はどこにあったのか? ということについて書かれている本は何冊もあるけれど、本書はこれまで、…




日本の国のシンボルカラーといっていい色は「朱色」であることから、朱の原石である、辰砂(硫化水銀)の主産地のうち、奈良と九州に着目し、日本古代史における「邪馬台国」と「ヤマト王権」の歴史を探っています。
『魏志倭人伝』に朱産地の記載があり、場所は明示されていませんが、複数か所はあったように読めると筆者は…