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ゆうちゃん
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親からの愛情を受けずに育ったテディ、母の殺される場に居合わせたフランシーン。ふたりが偶然出会い、更なる偶然でテディが美しい屋敷に出入りしたことで悲劇が始まった。
ノン・シリーズ20作目。そしてルース・レンデル名義の最後の日本語訳作品でもある。

今回の主人公は、親に半ば放棄されながら育った美青年テディ・グレックスと少女期に実の母親が殺された場に居合わせた美少女フランシーン・ヒルである。
テディはジミーとアイリーンとの間の子。彼ら三人とジミーの弟のキースの四人で暮らしている。彼らの生活は荒れ放題で家は汚い。テディは親に無視されながらもそこで育ち、隣人のアルフレッド・チャンスの影響で造形美術に開眼する。当然大学には行けない筈だが、才能を見込まれ試験でAレベルを取り工芸大学に進んだ。そこで4年過ごし、卒業作品は賞を取った。その卒業作品を見に来ていたのが友人と連れ立って来たフランシーンである。テディは育ちから当然、社交性はなく、社会常識も非常に怪しい。背が高く非常にハンサムなので幾人かの女性には声を掛けられるのだが、彼はこれはと自分が思う女性に会うまでは純潔を保ち、また酒も飲まないことにしていた。その彼が理想として惹かれたのがフランシーンだった。
フランシーンは、幼い時に母が殺される場に居合わせた。叱られて2階の自室にいたら、母の悲鳴、銃声が聞こえた。フランシーンは戸棚に隠れた。母を撃った人物は2階にやって来たがフランシーンは見つけられることなく無事だった。犯人が出ていく音がして降りていくと、血まみれの母を見つけた。そこに父リチャードが帰宅した。フランシーンはショックで暫く口が利けなくなり父と娘は引っ越した。フランシーンはジュリアと言う心理療法士にかかり、そのうちリチャードとジュリアは結婚する。ジュリアはフランシーンを心配するあまり彼女に過干渉する。そんなフランシーンも18歳になり、ジュリアの厳しい監視をかいくぐって、友達と出歩くようになった。そして友人ホリーの伝手で工芸大学の卒業作品展に行きテディと出会う。
テディは工芸技術を磨きそれで食べて行こうとする。新聞広告を出して呼ばれた先がハリエットの屋敷オルカディア・コテージだった。彼女は画家サイモン・アルフェトンの絵のモデルとして有名で、フランクリン・マートンと言う金持ちと知り合い、自分がモデルとなった時の背景となったオルカディア・コテージをフランクリンに買ってもらい彼と結婚して住んでいた。呼ばれたテディは、アルフェトンのこの絵のことを知っており、訪ねてみて背景の屋敷だとすぐわかった。内装の美しさに感嘆し、四柱式寝台にフランシーンを寝かせたら絵になると思った。彼は大きなトランクを見てハリエットが長期の旅行に行くと思いこんだ。しかし、夜中に忍び込んだところをハリエットに見つかってしまい殺してその死体を隠した。実は旅行に出たのはフランクリンだけだった。ハリエットの一人住まいだと勘違いしたテディはこの家の持主は死んだと思い、フランシーンも連れ込んだ。フランシーンの方は、テディしかボーイフレンドはおらず、ジュリアの干渉を躱しながら彼と付き合う。そして、オルカディア・コテージは自分に長期リースされているのだと言うテディの言葉を信じてそこに出入りするし、彼のために彼の選んだ服を着てポーズを取ってあげる。しかし、自分の話を聞いてくれない、そして自分好みの服を着せ、ポーズばかり取らせるテディとはうまく行かないだろうと感じていた。

こちらもハヤカワ・ポケミスで約400頁の作品となっている。テディに関してはジミーとアイリーンの交際から描きだし、丁寧と言うかかなり冗長な作品になっている。物語が動き出すのはテディとフランシーンの出会いからだが、そこに到達するまで170頁を費やしている。レンデルの作品ではありがちな傾向だが余りにも長い。実はふたりの出会いまで1件の殺人事件が起きているが、サラっと描かれているせいか、サスペンスはそれほど盛り上がらない。そもそもこれだけ頁を費やしてテディがフランシーンに惹かれる理由がただ美しいから、というのは納得できない。映画ともなれば別なのだろうが。
本書は前4作の傾向と違い、異常性格者系の物語に戻った感じがする。「殺す人形」でも複数の異常性格者が登場しているが、本書もそうで、テディとジュリアがそれに相当する。本書の特徴としてこのふたりが異常性格者になるに至るまでの事情が克明に描かれている点が挙げられ、それが小説を長くしている。
もうひとつの特徴は、オルカディア・コテージの住人ハリエットと彼女をモデルにした画家サイモン・アルフェトン、それにハリエットと同時に描かれたスター歌手マーク・サイルの物語が小さなサイド・ストーリーとして描写されている点である。その他、テディの母アイリーンが偶然手にした本物の宝石、フランシーンの母ジェニファーを殺した犯人像、フランシーンが見つける母へのラヴレター、など様々な逸話・小道具が描かれているが、あまり話としては面白くないし、伏線にもなっていない。完璧な容姿のテディには、子供の頃に隣人アルフレッドと家具を作るときに左手の小指を切り落としてしまうと言う逸話があるのだが、これがちゃんと物語に活かされていない感じもする。

と、最後の作品にしては辛口の評価になってしまった。レンデル名義では最後の訳出作品ではあるが、本書の訳は著者の存命中であり、前作の「街への鍵」の方が後に訳出されている。レンデル名義のノン・シリーズはあと2作の未訳があるそうだが、本書と前作のレベルからするとあまり期待できないのかもしれない。ノン・シリーズは、最初は本格ミステリ、次に異常性格者、そして愛情の物語と主題が変わってきた。年月を経て有名になるにつれて著者は書きたい主題に変えて行ったのだと思う。すると異常性格者と愛情の物語とそれらに絡むサスペンスが著者の関心のあるテーマだと思われる。長きにわたって作品を書いてきた著者だが、人間心理とサスペンスが、著者の大きなライフワークだったのだろう。文学の香りがするサスペンスと言う世間の評価はその通りだと思う。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1688 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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