星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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決められない政治に喝!を入れるために 皇帝になった男
ヘーゲルはどこかでのべている、すべての世界史的な大事件や大人物はいわば二度あらわれるものだ、と。一度目は悲劇として、二度目は茶番として、と。かれは、つけくわえるのをわすれたのだ。ダントンのかわりにコーシディエール、ロベスピエールのかわりにルイ・ブラン(中略)叔父のかわりに甥。
カール・マルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』
茶番と評されているのがナポレオン三世、叔父とはナポレオン・ボナパルト。ナポレオンの初婚相手ジョゼフィーヌの連れ子、オルタンスが彼の母、ナポレオンの弟が父なので、彼はナポレオンの甥であり血の繋がらない孫でもある。母オルタンスは、池田理代子さんの漫画『エロイカ』では可愛らしい娘として描かれていたが、実は結構奔放だったらしい。
英雄と評されがちな叔父に比べてマイナス評価されがちな甥だが、実は結構したたかで、本心をなかなか見せず、ぼんくらと思われている間に無血クーデタなんていうものをしらっとやってしまっている。また、彼が信じていたのはインテリ層ではなく民だった。
民衆はあらゆる党派の中で最も強く、最も正しい。民衆は隷属と同じように行き過ぎを嫌悪する。民衆を篭絡することはできない。民衆はおのれにふさわしいものをつねに感じとる
皇帝になろうとしたのは、自分が推し進めようとしていた民のための政策をスムーズに進めるためだ。ブローニュの森の整備、パリ大改造、社会福祉制度の充実など、国民に手厚い政策を次々と打ち出している。但し、もともとの生まれが生まれなので、額に汗して働いた自分の金でそれらを行おうなんて考えはみじんもないし、私生活における華やかな女性関係もまた、庶民とは縁遠い。ドイツ統一を狙う老獪なビスマルク、伝統的に対外戦争の準備が下手だったフランス軍隊など、戦争が彼を躓かせ、廃位に追い込まれてしまう。戦上手は叔父の才能を受け継がなかったようだ。
タイトルに「怪」がつくといかにも胡散臭げな人物のような印象を与えるが、怪しげな趣味を持っていたわけではなく、スフィンクスと呼ばれた得体の知れなさを表現した語句である。鹿島氏の「いろいろ欠点はあるものの、彼はもっと評価されていい!」というナポレオン三世愛に溢れた評伝。
鹿島茂さん著書
パリの王様たち―ユゴー・デュマ・バルザック三大文豪大物くらべ
太陽王ルイ14世 ヴェルサイユの発明者
カサノヴァ 人類史上最高にモテた男の物語
明日は舞踏会 (叢書メラヴィリア)
蕩尽王、パリをゆく―薩摩治郎八伝 (新潮選書)
情念戦争
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:講談社
- ページ数:608
- ISBN:9784062920179
- 発売日:2010年10月13日
- 価格:1733円
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