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hackerさん
hacker
レビュアー:
魔女だの妖精だの魔法使いだの特定のジャンル(?)に分類できない点、そしてできないことがなさそうなその能力において、メアリー・ポピンズはファンタジーの世界でもユニークな存在です。
P.L.トラヴァース(1899ー1996)はオーストラリアに生まれ、1924年にイギリスに移住し、メアリー・ポピンズという存在を創造したことによって、後世にも知られる人物となりました。このシリーズは物語としては最初の4作は第一期とも言うべきもので、『風にのってきたメアリー・ポピンズ』(1934年)、『帰ってきたメアリー・ポピンズ』(1935年)そしてこの『とびらをひらくメアリー・ポピンズ』(1943年)、最後が『公園のメアリー・ポピンズ』(1952年)になります。

メアリー・ポピンズは、ロンドンに暮らす中流家庭バンクス家に、現れたナニーです。ナニーというのは、子守をするだけでなく、しつけやマナー等の幼乳児教育も行う点において、日本にはあまりなじみのない職業ですが、日本ナニー協会というのもあるそうですから、子育てが難しい日本の状況を見ると、今後知られるようになるかもしれません。ただ、相応の収入がある家庭でないと、雇うのは難しそうです。ですから、映画『メリー・ポピンズ』でジュリー・アンドリュースが演じたイメージと違い、メアリー・ポピンズがバンクス家の子どもたちに対して「おっかない」のは無理からぬことなのでしょう。子どもたちも、メアリー・ポピンズのことを大好きですが、彼女がこうだと言えば、不満があっても黙っていた方が良いことをよく心得ています。その能力を見ている彼らとすれば、逆らうと、何をされるか分からないからです。

さて、このシリーズの面白さは、何と言っても、メアリー・ポピンズという、魔女でも妖精や魔法使いでもない不思議な存在にあります。さほど年寄りでもなさそうですが、お話を読んでいると、いったい何年生きてきたのだろうと思いますし、なによりも、自分は内面も外見も完璧だと思っているナルシストにして大変な自信家だという点が、こういうファンタジーの主人公としては、とても変わっています。彼女の親戚も、人間でない場合も珍しくないのですが、とても変わった能力の持ち主ばかりですし、バンクス家がある桜町通りの近くに住んでいるのもかかわらず、二度とたどり着けないところに住んでいたりするのです。現実と非現実が隣り合わせになっている世界で、その垣根がないもののように、あっちへ行ったり、こっちへ来たりしているのが、メアリー・ポピンズなのです。現実の広がりは有限ですが、非現実の方は無限ですから、読みながら次の章では何が起こるのかという期待感が絶えることがないのです。

ただ、第二作が第一作の翌年に出版されたにもかかわらず、第三作である本書がそれから9年後となっていることからして、当初は作者の構想の中にはなかったのではないかと思います。本書を出したのは、出版社からの商業的理由による要請もあったでしょうが、第二次大戦中に刊行されたということを思うと、暗い戦争の時代に子どもたちにファンタジーを届けたいという意向があったのかもしれません。ただし、本書のラストで、バンクス家の子どもたちが、空中に消えていくメアリー・ポピンズに向かって「けっして忘れない!」と叫ぶことからも、「これで最後だぁ~」(若い人には分からないかも)のつもりだったのでしょう。しかし、本書からさらに9年経って、最後の作品が出版されました。どういう理由だったのでしょうか。興味があります。


最後に、メアリー・ポピンズのお得意の台詞を一つ紹介します。

「なんでもかんでもわたしに聞かないでください。わたしは百科事典じゃありません!」

この台詞は、若い人には理解できないかもしれません。「百科事典って何ですか?」という質問が飛んできそうです。光陰矢の如し。
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hacker
hacker さん本が好き!1級(書評数:2281 件)

「本職」は、本というより映画です。

本を読んでいても、映画好きの視点から、内容を見ていることが多いようです。

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