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Wings to fly
レビュアー:
人間の欲とか傲慢さも孤独や貧困の問題だって、今も全然変わってないよ、ゴーゴリさん。
ゴーゴリという作家の名前だけは知っていた。「なんか話が暗くて難解そうだな。」と思っていた。「でも、落語みたいな調子で訳してあるなら読み易いかも。」と新訳を手に取った私である。
どこにでもいそうなショボイ人とかズルイ人が出てくるんだけど、なんだか可笑しくて哀しいところが妙に心の琴線に触れる。

いつの間にか顔から鼻がなくなり、勝手に出歩いている。それも役人の服を着て。よく見たら自分より階級が上、話しかけたら知らん顔で馬車に乗って去り、教会で祈ったりしている。なんじゃ?!このすっとぼけた話は!
『鼻』は、これでもかと積み重なってゆく妄想めいた展開が笑いを呼ぶ。音韻に注意を払い、文章の軽快さを重視した訳は、この作品にぴったり合っているように思う。

『外套』は、貧しい孤独な役人がボロボロになった外套を、爪に火をともして貯めた金で新調する話だ。
「そっとしておいてください。何だってみなさんはぼくをからかうんです」
そうだよみんな、何で新しい外套をひやかしたり、からかい半分に宴会に呼んだりしたんだよ。ああ、人間って残酷。

彼が外套を新調したというニュースが職場にセンセーションを巻き起こす場面、軽薄なセリフがポンポン飛び交うところで笑ってしまう。だけど、気前の良さを見せつけてやろうとか、タダで飲むチャンス到来というエゴがむき出しだから、笑った自分が後ろめたくなる。(この場面も文章のリズムにとても注意を払って訳されている。)

彼が外套を奪う幽霊になると、「幽霊!頑張れ!」なんて思うのに、弱者を横柄に扱ったことを後悔している男のことを考えると、そっちにもなんだか胸が痛んだりして。どう思うのが正解なのかわからない、不思議な読後感だ。

『査察官』は戯曲である。市の行政を監査する査察官がやってくる。日頃のいい加減な仕事ぶりがバレては困る人々は、査察官だと思い込んだ若者に賄賂を渡すわ接待するわ、もうやりたい放題。だが、その若者は実は・・・。
オリンピック汚職事件だって、ゴーゴリならバレないと勘違いした人たちの喜劇に仕立てることが出来ちゃうかも。

ゴーゴリさん、人間の欲とか傲慢さ、ひとり暮らしの孤独や貧困問題、あなたの時代から180年経ってもそのままですよ。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

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この書評へのコメント

  1. 星落秋風五丈原2022-09-16 06:48

    Wing to Flyさんみなさんこんにちは。
    私は“アカーキー・アカーキエヴィチは「ぼのぼの」の復讐心を持たないしまりすくん”とレビューに書きました。

  2. Wings to fly2022-09-16 12:43

    星落秋風五丈原さん
    書評さっき拝見しました!シマリスくんの「いぢめる?」、ああホントにぴったり過ぎて笑っちゃいました。シマリス君と同じく復讐心なんか無さそうな彼のリベンジが幽霊騒ぎだとしたら、しっかりと執着心や悲しみや悔しさがあったのだねえ、とも感じます。

  3. No Image

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