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Wings to fly
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物語の面白さは180年経っても新鮮。ただ翻訳はちょっと・・・
数十年ぶりに再読。ストーリーを忘れて果てており夢中になってしまった。本書はプーシキンが1836年に書いた小説で、ロシア史上最大の農民反乱「プガチョフの乱」を背景に、若き士官と大尉の娘の恋、エカチェリーナ2世統治下のロシアを描いている。

紹介文には「歴史小説的側面と二つの家族の生活記録的な側面の渾然たる融合体」と記されている。歴史の中に人間ドラマを描くのは、現代では特に変わった手法ではない。わざわざ書いてある理由は、本書がロシア近代文学黎明期の記念碑的作品で、当時はそれが文学の新しい姿だったからだろう。プーシキンはトルストイやツルゲーネフより一時代前の人である。

中流貴族の息子ペトルーシャは、父の言いつけに従い辺境の要塞で軍務につく。お供に連れてゆくのは老僕のサヴェーリチだ。到着した要塞は実にのどかで家庭的、司令官夫妻はペトルーシャを温かく迎え入れ、彼は司令官大尉の娘マーシャと恋に落ちる。ところがやがて、プガチョフ(本書ではプガチョーフ)に率いられたコサックと農民の反乱軍が要塞に襲いかかる。

二転三転するストーリーに、ちょっぴりユーモラスな雰囲気を漂わせるのは、“若旦那”が危機に見舞われるたびに機知を発揮する老僕や、自称皇帝のプガチョフだ。残虐だが義理に厚い反乱軍首魁、ペトルーシャは彼にちょっとした貸しがあるため、何度も命を助けられてしまう。それにプガチョフはペトルーシャの正直な心根が好きなのだ。いずれ捉えられ極刑になる前に反乱をやめて欲しいとひそかに願うペトルーシャに、プガチョフは言う。「腐った物を食べて300年生きるより、たった1日でも生き血を吸って生きたほうがよい。」この台詞で、作者はプガチョフに善悪を超えた“人間性”を持たせた。

「農民は領主の言うことを聞いて生きるのが幸せ。」という時代の話ではあるが、ストーリーと登場人物どちらも魅力的。ただ、2006年に改定版で出版された割には「癈兵」とか「梵妻」とか、もはや意味の掴みづらい単語が使われている。神西清さん翻訳の文章は美しいけれど、そろそろ新訳が出てもいいんじゃないかな?こんなに面白いんだから。

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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2015-01-30 20:42

    2月には光文社古典新訳文庫から『スペードのクイーン/ベールキン物語集』が出るそうですから、これもそのうち新訳が出るのではないかしら?

  2. Wings to fly2015-01-30 21:31

    かもめ通信さん
    そうですか~!新訳が出たらもう一回読んでもいいかなっと思います。
    プーシキン、これを書いた翌年に決闘で受けた傷がもとで亡くなったんですね。老僕から若主人に「決闘で死ぬなんてバカらしい。」って言わせたプーシキンなのに・・・

  3. 星落秋風五丈原2015-01-31 10:41

    こんにちは。先日プーシキン伝を読んだばかりですが、けんかっ早い性格だったため決闘が日常茶飯事だったみたいで、今回も軽く考えていたみたいですね。というより自分が死ぬとは思っていなかった、という節がうかがえました。

  4. Wings to fly2015-01-31 16:18

    星落秋風五丈原さん
    書評をもう一度拝読(^^)→ http://www.honzuki.jp/book/223857/review/132636/
    >美しい女性とみれば、未婚・既婚に関わりなく口説きにかかり、賭博が大好きで借金まみれ。カッとなりやすい彼は、決闘に及んだことも一度や二度ではなかった。
    >生涯軽率さを抑える術を知らなかったということであろうか。
    ・・・芸術家肌の男とでも言うのでしょうか。

    >一介の詩人としても、そしてその若さにしても、死してなお、時の皇帝を恐れさせ、激怒させるような文学者はそうはいまい。
    ・・・長生きしていたら、この後どんな作品が生まれていただろうと思うと残念です。

  5. 星落秋風五丈原2015-01-31 16:54

    Wings to flyさん
    まさにプーシキンは芸術家肌ですね。といいますか、今読んでいるアンリ・トロワイヤの評伝シリーズに登場する作家、はっきりいってみんなヘンです。トロワイヤがそのヘンさ加減を描くのがうますぎるのか、事実が小説より奇なりを地で行く人達が多く現れたのか、不思議な時代でした。

    プーシキンは貴族出身なのですが、その家の力を恐れたというよりは、むしろ作家としての彼の影響力を恐れたというふしがあるので、すごいなぁと思いました。

  6. そのじつ2019-10-20 13:49

    こんにちはWingsさん。
    光文社古典新訳の「大尉の娘」を読みました!
    廃兵→退役軍人となっておりました。しかし退役軍人が軍務についているのは何故か?と思ったり。
    神西訳もはしばし読みましたが、雰囲気たっぷりで好きです。

    訳した坂庭さんにお話をうかがう機会があったのですが、神西清の名訳に挑戦するような気持ちで(この通りの言い方ではなかったです)翻訳したとおっしゃってました。これからオネーギンも翻訳する予定だそうで楽しみです。

  7. Wings to fly2019-10-23 22:20

    そのじつさん
    お久しぶり!ちょっと読書から遠ざからざるを得ない状況でして、返信遅くなってしまい申し訳ありません。
    そっかー、退役軍人かー。わかりやすいー。
    こうやって言葉は時代と共に変化してゆくんだなと、しみじみ感じますね。オネーギン情報ありがとうございます。新訳で帝政ロシアの日常を読むのも楽しみです。

  8. No Image

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