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Jun Shinoさん
Jun  Shino
レビュアー:
与謝野晶子には完敗。シロートながら感嘆した。出版当時と同じ表紙絵も素晴らしい。
輝いている。そしてみずみずしくエキサイティング。与謝野晶子には、完敗だ。

大阪・堺の与謝野晶子文芸館に行きたくて著作ないかなと心に掛けてたら本屋で目に入った。この作品は399首の和歌が掲載されていてうち70首に訳と鑑賞解説がついている。章は「臙脂紫」「蓮の花船」「白百合」「はたち妻」「舞姫」「春思」の6章。

・髪五尺ときなば水にやはらかき
少女(おとめ)心は秘めて放たじ

・その子二十(はたち)櫛にながるる黒髪の
おごりの春のうつくしきかな

・ゆあみする泉の底の小百合花
二十(はたち)の夏をうつくしと見ぬ

◆私がゆあみをする温泉の底には小百合の花にも似たからだが沈んでいて、二十歳のこの夏を美しいなとの思いで見ているのです。

若さいっぱい、心と身体の表現。若さゆえのおごりも分かった上での礼賛。繊細で、映像的。

・乱れ髪を京の島田にかへし朝
ふしていませの君ゆりおこす

◆寝乱れた髪を島田に結い直した京都の朝、まだ寝ていらっしゃいと言ったあなたを(きれいに結えた髪を見せたいと思って)そっと揺すって起こすのです。

・病みませるうなじに繊(ほそ)きかひな捲きて
熱にかわける御口を吸わむ

・やは肌のあつき血汐にふれも見で
さびしからずや道を説く君

与謝野晶子は「明星」を主催していた与謝野鉄幹に強い思慕を抱いていた。それは誰もが認める才能と名声を持ち、晶子の同志でライバル、山川登美子も同じだった。3人は京都・粟田山の旅館で泊まった。その時登美子はすでに親が嫁ぎ先を決めていて、与謝野鉄幹は内縁の妻の実家ともめ離婚を切り出されていた。やがて晶子は恋の勝利者として鉄幹と結婚する。乱れ髪を、の歌はかつて3人で泊まった粟田山の宿で、後に鉄幹と結ばれた際に詠んだものらしい。

男女の大人の関係に踏み出し恋愛を味わう中で、率直に、時に可愛らしく、時になまめかしく、そして挑発的に歌に込める。なにせ刊行が明治34年、1901年のこと。道徳的でないとの批判が出るのは必定だった。

・清水へ祇園をよぎる桜月夜
こよひ逢ふ人みなうつくしき

・ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里
水の清瀧夜の明けやすき

・うすものの二尺のたもとすべりおちて
蛍ながるる風の青き

・小傘とりて朝の水くむ我とこそ
穂麦あをあを小雨ふる里

・夕ぐれを花にかくるる小狐の
にこ毛にひびく北嵯峨の鐘

・湯あがりを御風めすなのわが上衣
えんじむらさき人うつくしき

この辺は、まさにみずみずしさ、視覚、聴覚、マッチング感とも言えばいいのか、雰囲気、風情といったものを素晴らしい感性と言語感覚で立体的に短歌に成している、と思う。

いや正直技巧は分からないが、こうしてシロートが見ても、どう見ても活き活きして素晴らしいと感じる。「風の青き」のクールさ、「穂麦あをあを」のリズムとストレートさにどこかかわいい感じ、夕ぐれ、花、隠れた小狐の柔らかい毛と鐘の音の組合わせ。また一つの特徴の後半の畳み掛け。

当時の青年たちがハマったというが、そりゃそうだという気がする。批判もあったと思う。でもその人たち、賞賛した人々も批判者たちも、全員私と同じように完敗だったと断言してもいいのでは?

通常の風景を詠むだけでも卓越しているのに、恋を率直に、より女性らしく描いたのは革命的。「天の夕顔」の書評でも触れたが、中島みゆき氏は一度の失恋で50曲は書けるとか。女性が恋した時、恋を失った時本当に様々な事を想うんだな、とは私もちょっと触れたことがあるが、巧みに言葉を紡いでいる。

やがて鉄幹の著作は売れなくなり、売れるのは晶子の本ばかり。晶子は12人の子どもを産み、古典の現代語訳に着手する。与謝野晶子訳の「源氏物語」がいま猛烈に読みたくなっている。

後年夫を亡くした山川登美子は歌壇に復帰、結核で世を去るが、鉄幹はその登美子にも気持ちを割いたようである。「月に吠えらんねえ」のアッコさんのことが、少し分かった。すごい人だったんだなあ。それにしても、最近苦手なはずの恋愛関連が多いな。
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Jun  Shino
Jun Shino さん本が好き!1級(書評数:1376 件)

読む本の傾向は、女子系だと言われたことがあります。シャーロッキアン、アヤツジスト、北村カオリスタ。シェイクスピア、川端康成、宮沢賢治に最近ちょっと泉鏡花。アート、クラシック、ミステリ、宇宙もの、神代・飛鳥奈良万葉・平安ときて源氏物語、スポーツもの、ちょいホラーを読みます。海外の名作をもう少し読むこと。いまの密かな目標です。

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