星落秋風五丈原さん
レビュアー:
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作られた漢字 失われゆく漢字
中国旅行で、飛行機の隣席に座ったのは、中国人だった。
「どこに行くのか?」と英語で訪ねた所、発音から
《九塞江》と聞き取れたので、その漢字を書いて、
これか?と聞いてみた。
でも、通じなかった。結局場所は九塞江で合ってたが、共通の言語である漢字を持ちながら、お互い英語で話しているのは、
何だか変な感じだった。
文化大革命以後、略字が広まって、もともとの漢字が通用しなくなった。そういえば、大学で選択した第二外国語の中国語でも、随分と略字が多かった。
漢字の生みの親であった中国が、どんどん漢字を使わなくなってゆく。親から教わった子供である日本は、どうなるのだろうか。そういえば、コンピュータの普及以来、カタカナ言葉が増えてきた。
帰国後、古代中国で初めて文字を創造した商(殷)の高宗武丁を描く表題作を読み返してみた時、寂寥間に包まれた。
高宗武丁は、生まれつき口がきけなかった故に、君主の役目を果たせないとされ、国を出された。仕方がない。国民にどう命ずる?どう気持ちを伝える?
唯々諾々と従った武丁だが、その心は決して穏やかではなかった。当然だ。言いたい事がないわけじゃないのだから。むしろ言えないものが、どんどんと溜まってゆく。どこかに出さねば、心が窒息する。出口はどこか。この闇を照らす光はどこか。二つを必死に求め、そしてようやく文字という道具を見つけ出す武丁。作業自体は、確かにとても苦しい。一つ一つ文字を作り出す度に、自分の前で堅く門を閉ざしていた「可能性」「出逢い」「未知の世界」の扉が、次々と開いてゆくのを感じ取るのは、どんなに嬉しかった事か。
こんな思いまでして作り出した道具を、今中国人は、手放しつつあるのではないか。漢字はもう二度と手の届かない所へ、去ってしまう。
本当に、それでいいのか。
「話すよりも書く方が自分の思いを伝えられる」と思う私は、文章をものするたび、武丁-彼に感謝し、彼の作り出した言葉を一言たりとも粗末にしてはなるまいと心に思う。
他「ピーターと狼」のオリジナル版ではなかろうかという史実が、滅亡に拍車をかけた周王朝を描く「妖異記」、その続編「豊穰の門」、『夏姫春秋』の後日談ともいえる晋の名臣叔向と夏姫の娘が登場する「鳳凰の冠」、夏王朝初期を描いた「地中の火」収録。
宮城谷昌光作品
呉越春秋 湖底の城 第一巻
管仲 上
長城のかげ
香乱記〈中巻〉
侠骨記
公孫龍 巻四 玄龍篇
「どこに行くのか?」と英語で訪ねた所、発音から
《九塞江》と聞き取れたので、その漢字を書いて、
これか?と聞いてみた。
でも、通じなかった。結局場所は九塞江で合ってたが、共通の言語である漢字を持ちながら、お互い英語で話しているのは、
何だか変な感じだった。
文化大革命以後、略字が広まって、もともとの漢字が通用しなくなった。そういえば、大学で選択した第二外国語の中国語でも、随分と略字が多かった。
漢字の生みの親であった中国が、どんどん漢字を使わなくなってゆく。親から教わった子供である日本は、どうなるのだろうか。そういえば、コンピュータの普及以来、カタカナ言葉が増えてきた。
帰国後、古代中国で初めて文字を創造した商(殷)の高宗武丁を描く表題作を読み返してみた時、寂寥間に包まれた。
高宗武丁は、生まれつき口がきけなかった故に、君主の役目を果たせないとされ、国を出された。仕方がない。国民にどう命ずる?どう気持ちを伝える?
唯々諾々と従った武丁だが、その心は決して穏やかではなかった。当然だ。言いたい事がないわけじゃないのだから。むしろ言えないものが、どんどんと溜まってゆく。どこかに出さねば、心が窒息する。出口はどこか。この闇を照らす光はどこか。二つを必死に求め、そしてようやく文字という道具を見つけ出す武丁。作業自体は、確かにとても苦しい。一つ一つ文字を作り出す度に、自分の前で堅く門を閉ざしていた「可能性」「出逢い」「未知の世界」の扉が、次々と開いてゆくのを感じ取るのは、どんなに嬉しかった事か。
こんな思いまでして作り出した道具を、今中国人は、手放しつつあるのではないか。漢字はもう二度と手の届かない所へ、去ってしまう。
本当に、それでいいのか。
「話すよりも書く方が自分の思いを伝えられる」と思う私は、文章をものするたび、武丁-彼に感謝し、彼の作り出した言葉を一言たりとも粗末にしてはなるまいと心に思う。
他「ピーターと狼」のオリジナル版ではなかろうかという史実が、滅亡に拍車をかけた周王朝を描く「妖異記」、その続編「豊穰の門」、『夏姫春秋』の後日談ともいえる晋の名臣叔向と夏姫の娘が登場する「鳳凰の冠」、夏王朝初期を描いた「地中の火」収録。
宮城谷昌光作品
呉越春秋 湖底の城 第一巻
管仲 上
長城のかげ
香乱記〈中巻〉
侠骨記
公孫龍 巻四 玄龍篇
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2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:317
- ISBN:9784167259068
- 発売日:1995年12月01日
- 価格:570円
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